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三章~魔界冒険譚~
空の宝箱
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「お前の嗜好をとやかく問い詰めるつもりはないが――流石にこの状況は理解に苦しむぞ」
どこか呆れた、一歩下がった様な瞳でアミルが言った。
武器を手にした全裸のドワーフに囲まれ乗っかられ。
なるほど。見ようによってはハードなプレイの一環にも見える。
「えっと、その、色々ありまして……。決して個人的な趣味ではありません……」
そんな僕の言い訳は「まぁ良い」と一蹴され、アミルは再びドワーフ達に向かって声をあげる。
「余は勝負に勝ったぞ。約束通り、宝物庫に案内してもらおうか」
「なんのはなしだ」
「はつみみなのです」
「ほうもつこはぶがいしゃ立ち入りきんしのおきて」
「おきてはまもるもの」
ドワーフ達が騒ぎ出す。
それはシラを切っている様子ではなく、本当に知らないかのようだ。
「余が勝負に勝ったら、宝物庫から一つだけ褒美を出すとこの者が約束したぞ」
アミルが片手でヒョイと掲げた一匹のドワーフは真っ赤な顔で。
意識は殆どないのだろう。完全に酔い潰れている。
「一度交わした約束は必ず守る。ドワーフは誇り高い種族だと聞いているんだがな。噂は所詮噂に過ぎぬか?」
落胆の色を浮かべたアミルの挑発に、ざわついていたドワーフ達の態度が一転する。
「どわーふうそつかない」
「われらほこりたかいしゅぞくなり」
「しんじつはばんりをこえて」
「やくそくはまもるもの」
目が合ったアミルは、意味ありげに微笑んだ。
きっと約束なんてしていないのだろう。
ドワーフの純粋さを逆手にとった、見事な策だった。
ひんやりと冷たい空気が流れる洞窟の中は、まるで迷路の様に入り組んでいて、とても一人で探索など出来る場所ではなかった。
盗まれたモノが分かっていたとしても、結局手にいれる事は出来なかっただろう。
僕の作戦は最初から破綻していたのだ。作戦と呼ぶのもおこがましい程に。
しかし終わりよければ全て良し。
何はともあれ、これでミッションコンプリートだろう。
だが、アミルの表情はそんな晴れやかなモノではなく、何かを考えてるようだった。
そして、僕達は宝物庫に着いた。
そこには宝石も、金塊も。
貴重な道具も、珍しい素材も。
物らしい物は、何一つ存在しなかった。
「がらんどう」
「おたからがないのです」
「かみかくし?」
「これはゆゆしきじたいにございます」
ドワーフ達が騒ぎ出す。
彼女達にも想定外なのだろう。パニックを起こしたその騒がしさは、宴会時の比ではない。
「やはり――か」
だがそんな中、アミルは冷静に、まるで知っていたと言わんばかりに呟いた。
「クリータで聞いた、ドロスの言葉が気になっておった。ドワーフが『各地』で悪さをしている。そう言っていただろう?」
そんな事を言ってたような気がする。
「基本的にこいつらは比較的大人しい種族でな。村から離れるのも珍しいと言われている。そんなドワーフが各地で目撃されているとなると、何か別の意図が働いておる可能性もある。そんな気がしておったのだ」
「別の意図?」
「裏で手を引いている者がいると言う事だ」
アミルはそう言って、気だるげに小さく溜息を一つ。
「――で、この場を巧く切り抜ける案はあるか?」
尋ねられた僕が見た光景は、突き刺さるような大量の視線。
敵意にも満ちた疑惑を僕達に向ける、ドワーフの大群だった。
どこか呆れた、一歩下がった様な瞳でアミルが言った。
武器を手にした全裸のドワーフに囲まれ乗っかられ。
なるほど。見ようによってはハードなプレイの一環にも見える。
「えっと、その、色々ありまして……。決して個人的な趣味ではありません……」
そんな僕の言い訳は「まぁ良い」と一蹴され、アミルは再びドワーフ達に向かって声をあげる。
「余は勝負に勝ったぞ。約束通り、宝物庫に案内してもらおうか」
「なんのはなしだ」
「はつみみなのです」
「ほうもつこはぶがいしゃ立ち入りきんしのおきて」
「おきてはまもるもの」
ドワーフ達が騒ぎ出す。
それはシラを切っている様子ではなく、本当に知らないかのようだ。
「余が勝負に勝ったら、宝物庫から一つだけ褒美を出すとこの者が約束したぞ」
アミルが片手でヒョイと掲げた一匹のドワーフは真っ赤な顔で。
意識は殆どないのだろう。完全に酔い潰れている。
「一度交わした約束は必ず守る。ドワーフは誇り高い種族だと聞いているんだがな。噂は所詮噂に過ぎぬか?」
落胆の色を浮かべたアミルの挑発に、ざわついていたドワーフ達の態度が一転する。
「どわーふうそつかない」
「われらほこりたかいしゅぞくなり」
「しんじつはばんりをこえて」
「やくそくはまもるもの」
目が合ったアミルは、意味ありげに微笑んだ。
きっと約束なんてしていないのだろう。
ドワーフの純粋さを逆手にとった、見事な策だった。
ひんやりと冷たい空気が流れる洞窟の中は、まるで迷路の様に入り組んでいて、とても一人で探索など出来る場所ではなかった。
盗まれたモノが分かっていたとしても、結局手にいれる事は出来なかっただろう。
僕の作戦は最初から破綻していたのだ。作戦と呼ぶのもおこがましい程に。
しかし終わりよければ全て良し。
何はともあれ、これでミッションコンプリートだろう。
だが、アミルの表情はそんな晴れやかなモノではなく、何かを考えてるようだった。
そして、僕達は宝物庫に着いた。
そこには宝石も、金塊も。
貴重な道具も、珍しい素材も。
物らしい物は、何一つ存在しなかった。
「がらんどう」
「おたからがないのです」
「かみかくし?」
「これはゆゆしきじたいにございます」
ドワーフ達が騒ぎ出す。
彼女達にも想定外なのだろう。パニックを起こしたその騒がしさは、宴会時の比ではない。
「やはり――か」
だがそんな中、アミルは冷静に、まるで知っていたと言わんばかりに呟いた。
「クリータで聞いた、ドロスの言葉が気になっておった。ドワーフが『各地』で悪さをしている。そう言っていただろう?」
そんな事を言ってたような気がする。
「基本的にこいつらは比較的大人しい種族でな。村から離れるのも珍しいと言われている。そんなドワーフが各地で目撃されているとなると、何か別の意図が働いておる可能性もある。そんな気がしておったのだ」
「別の意図?」
「裏で手を引いている者がいると言う事だ」
アミルはそう言って、気だるげに小さく溜息を一つ。
「――で、この場を巧く切り抜ける案はあるか?」
尋ねられた僕が見た光景は、突き刺さるような大量の視線。
敵意にも満ちた疑惑を僕達に向ける、ドワーフの大群だった。
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