性剣セクシーソード

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二章

異変

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 腰にかかる、集めた光を放つような白銀の髪。
 手に余る豊満な胸と、引き締まったウエスト、丸みを帯びたお尻。
 どれ一つとっても非の打ち所のない身体を包む、漆黒のドレス。
 彼女は、そこにいた。

「ケンセイ。久しぶりだな」
「あ、アミル……。うん、久しぶり」
 すらりと伸びた両の手がゆっくりと伸ばされ、僕の頬を優しく指先でなぞる。
「会いたかったぞ。我が夫よ」
「ま、またそんな事言って……。でも――僕も会いたかった」
 頬を包む、彼女の滑らかな手に触れる。
 シチュエーションが逆が気もするがしょうがない。
 何せ――彼女は王なのだから。

「では――早速子を成そうぞ」
「えっ!?」
 僕の頬を掴んだまま、後ろへ倒れる。
 その下には、皺一つないシルクの海。
 上質な真綿に沈んだ彼女の上に、僕が覆いかぶさる体勢に。
「夫婦《めおと》ならば当然ではないか」
「で、でも心の準備――むぐっ!?」
 顔を引き寄せられ、口唇を奪われる。
 初めは優しく吸い付くように、ついては離れ、ついては離れ、探るように。
 そして、求め合う。
 舌先を絡ませ、歯型にそってなぞるように、艶かしく唾液を貪る。
 息を吸うのも忘れ、吐息が一層激しさを増す。
 どちらからともなく顔を離せば、彼女の頬が桜色に蒸気していた。
「ああ――。我が夫ケンセイよ――」
 紫水晶アメジスト色の潤んだ瞳の中に、大階段が見えた気がした。
 大人へと続く、大階段。

――早く、来てくれぬか?


「あれ……くそっ……」
 ベルトが外れないのは、緊張で手が震えているからか。
 逸《はや》る気持ちが、虚しく金属音を響かせる。そんな僕の手に、彼女が優しく触れた。
「もうよい」
「え……?」
 その顔に浮かんでいるのは、落胆の色。

「興醒めじゃ。貴様は女一人満足させる事は出来ぬのか?」
 軽蔑、というより嫌悪。顔をしかめ、まるで醜いモノを見るかのような冷たい瞳。
「ご、ごめんなさい! ちょ、ちょっと待って――」
 急いでベルトを外す。色あせたジーンズを下ろした時。
「アミ……ル……?」
 彼女の姿は無かった。
 あるのは、ただの闇。一筋の光も無い――暗闇。

「アミル!? アミ――ぐうっ!」  
 突然、心臓に衝撃が走る。
 鼓動にあわせて襲い掛かる、今まで経験した事の無い激痛は死を予感させる。
 それは、まるで時限爆弾のタイマーのように感じた。

「ま、まさか……これが……テクノブレイク……?」
 都市伝説として語り継がれる『テクノブレイク』
 自家発電のしすぎで発症するとまことしやかに囁かれているが、それは間違いだ。
 都市伝説は、あくまで都市伝説。
 だからと言って、その存在そのものを否定してはいけない。
 火の無いところに煙は立たぬ。
 そう、テクノブレイクはある。
 ただ原因が違うだけ。

『射精を限界まで我慢した者に起こる突然死』

 それが『テクノブレイク』の正体だ。

 もう五ヶ月近く出してないんだ、いくらなんでも異常。
 急いで出さないと――死ぬ!
「な、ない……?」 
 まさぐった股間に、在るべきブツがある場所に。
 ソレはなかった。
 生まれてから片時も離れず、共に歩んだ親友とも
 彼の姿は無かった。
 もしかして僕は女の子だったのかと脳がパニックを起こしたが、そんな事もない。
 かのじょもいなかった。
 あるのは、平坦な股。一本の毛もない――股間。
「いや……だ……。死にたくない……!」
 絶望が、心まで闇に染めた――。

「ちょっと!」
「嫌だあああああああああああああああああああ!」
 突然、世界に光が差した。
「ここは――? そうだ! 僕の竿は!?」
 慌てて股間に手を当てる。心落ち着く、柔らかい感触。
 彼はそこにいた。変わらずに、僕を待っていた。
 泣きそうになりながらも、愛でるようにその感触を味わう。

「アンタ――竿……何で捨ててんのよ……?」
「竿? ああっ!?」
 ニーヤの言葉に前を見ると、無残にも波間に竿が浮かんでいた。
 いつの間にか離してしまったらしい。
――ああ、夢を見てたのか。

 テヘペロ村に戻って早一ヶ月。
 村から少しだけ離れた裏の海辺で、僕達は釣りをしていた。
 口調がたどたどしくなるくらい慌てていたニーヤだけれど、竿はまた作ればいいさ。
 僕の竿が無事なら――それでいい。
 そのまま後ろに寝転がり、しみじみと再開を分かち合う。
 
「け、ケンセイさん? あ、あの――」
 頬を赤らめたモミさんが何かを言おうとしたが、すぐに顔を逸らしてしまった。
 ペロ様は、どこか一点を一心に見つめている。
 一体皆何したって言うん――だ?  
 おかしい。何かがおかしい。明らかにおかしい。

 どうして――彼がいる?
 いや、いるんだ。いて当たりまえだ。いなければ困る。
 そうじゃない。
 どうして触れる? 何故触れ合える?
 そりゃあ親友だもの、スキンシップは大事だ。
 だけど、それは今じゃない。
 鎧の上から――触れるはずもない。
 ペロ様の視線の先と、僕の視線の先が交差する。
 彼は――いた。
 僕の手でひょこひょこと動きながら。
 彼は――いた。

「あああああああああああああああああああああ!?」
 慌てて飛び起き、彼を両手で保護する。
 全裸だ!? 何で!?
「に、ニーヤだな!?」

 セクシーアーマーが解除された。
 それは魔力を持つ者が意図的に行わなきゃ出来ない。
 僕が寝てるのを良いことに、悪戯とばかりにしたんだろう。
 そして、この中でそんな事をしそうなのはニーヤだ。 

「はぁ!? な、何アタシのせいにしてんのよ! 何もしてないっての!」
 彼女の髪や瞳と同じように、顔を真っ赤にして否定するニーヤ。
 シラを切るのはいつもの事だが、どうやら今回は違うらしい。
「ペロ――様?」
 純粋な彼女だ。ニーヤにそそのかされてやったのかもしれない。
 だが、彼女はゆっくりと首を振った。ペロ様は嘘をつかない。
「も、もしかしてモミさん……?」 
 ダークホースではあるが、彼女も結構お茶目な部分があったりする。
「ち、違いますよ!?」
 両手を振って否定する。怪しいが、流石に本当だろう。

「じゃ、じゃあどうし――っ!?」
『キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
 突然、女性の悲鳴が聞こえた。
「あれは――村の方!」
 ニーヤが竿を放り投げ走り出す。それに続き、モミさんとペロ様も。
 彼女達の後を追いながら、セクシーアーマーを展開しようと腕輪のくぼみを押す。
 だが、鎧は現れなかった。何度押そうが、腕輪のまま。
「一体どうなってんだよ!?」
 強制ストリーキングのまま、村へと急いだ。
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