90 / 154
二章
逃げ場は無い
しおりを挟む
先手必勝。
僕に相手の出方を見ている暇はない。力量を測る必要も無い。
実力なら分かりきっている。戦力差は絶望的だ。
だから、少しでも早く!
「くらえっ!」
全身の力を使い、剣を振り下ろす。
刀身が魔力で創られたセクシーソードは、あらゆるモノを切り捨てる。
あわよくば――と思っていたが、流石神器。
その大弓は、僕の剣撃を易々と受け止めた。
「ふん。たかが魔装具。やはりそんなものか」
ミルネルドトーリが落胆の色を見せる。
その言葉に苛立ちを感じた。
「くそっ! まだまだだっ!」
魔界の王、パララ・アミルが作った装備。
それを『たかが魔装具』なんて貶《けな》されるのは許せない。
上下左右。がむしゃらに剣を振る。
だが、その全てを片手で、大弓で防がれる。
「……興ざめだ」
僕の剣を受け止めながら、彼女が呟く。
「真実の神の従者なら、多少腕が立つものかと思ってみたら、まるで子供の遊戯。これでは余興にもなりはしない――」
剣を受け止めた大弓を傾け受け流す。自然と体勢が崩れた。
「左腕を落とそうか」
高々と上げられた大弓は、まるで巨大な斧。僕の左腕に、ソレが振り下ろされる。
バランスを崩している今、回避は不可能だ。
「なにっ!?」
左腕に走る衝撃。だが、斬撃によるものではない。
彼女が振り下ろした大弓は、僕の左腕を切り落とす事はできなかった。
セクシーアーマーを貫通する事は出来なかった。
あまりにも予想外だったのか、その表情からは驚きを隠せない。
そして、その瞬間こそが好機。
左腕に受けた衝撃の勢いを利用するように、身体をよじる。
僕の身体能力だけじゃない。彼女の力を利用した反撃《カウンター》。
振り上げた右手のセクシーソードが、彼女を捕捉する。
「くっ!」
決まったと思った太刀筋は、僅かに剣先が彼女の頬をかすった程度。
あの体勢からかわせるほど生易しいモノではなかったはず。
彼女の頬から血が流れる。
僕の頬には、冷たい汗が流れていた。
「ハハ。神器を通さぬとは、これは驚きだ。ただの魔装具ではないらしい。前言を訂正させてもらおう」
「ありがたいお言葉どうも。素直に嬉しいですよ」
精一杯の虚勢を張ってみても、この戦力差は縮まらない。
セクシーアーマーの防御力がいかに優れていても、攻撃が当たらない事には勝てないのだ。
「だが残念だ。魔装具が優秀でも、持ち主がそれでは――ただのガラクタだ」
「そんなガラクタでも、神に傷をつける事は出来ます」
彼女の表情が僅かに歪む。
だが、相手は神。怒りに身を任せるような愚行は起こさない。
「フッ。では見せてやろう。特別な武器を、優れた者が扱うとどうなるかを――」
そう言って、彼女が弓を構える。
その構えは、矢を放つための、弓本来の型。
だが、彼女の手に矢は持たれていない。
弦が限界まで引き絞られても、矢は見えなかった。
「必中の矢――」
彼女の口、そして手が動くと同時に、左肘に激痛が走った。
セクシーアーマー唯一の弱点、関節部分の僅かな隙間。
左腕の肘に、矢が深く突き刺さっている。
見えなかった。反応出来なかった。
それもそのはず。
背後から射抜かれたように、矢じりは前方を向いていたから。
「信じられないといった顔だな。神器トリステンエルヴンボウ、その矢は外れる事がない。どこであろうが、狙った場所に必ず当たる」
狙った場所に――必ず。
なんだよソレ。そんな武器めちゃくちゃじゃないか。
しかも、それなら一撃で僕の頭を射抜けたはず。
いつでも殺せるのに――殺さない。
「いいなぁ。その顔。その瞳! 絶望に染まっていく顔が。濁りくすんでいく瞳が、たまらなく好きなんだ! 最後の瞬間、お前はどんな顔をするんだろうなぁ」
自らの乳房を鷲掴みながら、狂気に満ちた笑みを浮かべる彼女。
どうせなら出しちゃえよ、勢いにまかせてその邪魔な布を下げちゃえよ――なんて、いくら僕でもそんな事考えるわけも無く。
神という異次元の存在に湧き上がる恐怖を必死に抑えていた。
いずれ来る――チャンスを逃さぬために。
「どうした。もう終わりか?」
「まさか。たかが腕一本で神様のサービスシーンが見れるなら――! 安いものですよ!」
剣を握る手に力を混め、彼女に向かって走る。
普通の剣なら、余程の怪力の持ち主でもなければ、片手を潰された時点で終わりだ。
斬る事はおろか、満足に振る事だって出来やしない。
しかし、セクシーソードなら。刀身の無い剣だからこそ。
片手が無事なら戦える!
「愚かだな――」
彼女が弓を引き絞る。その手が弓から離れた瞬間。
僕はセクシーソードを地面に突き刺し、跳躍する。
後ろに目なんかついてない。背後は完全な死角だ。
だけど、僕の後ろなら――彼女からも死角!
「そして浅はかだ――」
骨が砕ける音と共に、右膝に激痛が走る。
僅かに空いた膝の裏、膕《ひかがみ》と呼ばれるその部分に射ち込まれた矢が、縫い付けるように僕を地面に落とした。
「ぐあああああああああああああっ!」
痛い! 痛い! 痛い!
僅かに身をよじるだけで、激痛が雷《いかずち》のように駆け回る。
いっその事、足が千切れてしまったほうが楽――そう思わせる程に。
「言ったはずだ、必中だと。神の目から逃げられる事は出来ない」
涙で視界が歪む中、ゆっくりと彼女が近づいてくる。彼女は目の前で立ち止まると、僕の髪を掴み。おもむろに引き上げる。
「まるで手ごたえは無かったが、余興程度には愉しませてもらったよ。褒美として、楽に殺してやる」
彼女の表情は、美しい狂気に歪んでいた。
僕に相手の出方を見ている暇はない。力量を測る必要も無い。
実力なら分かりきっている。戦力差は絶望的だ。
だから、少しでも早く!
「くらえっ!」
全身の力を使い、剣を振り下ろす。
刀身が魔力で創られたセクシーソードは、あらゆるモノを切り捨てる。
あわよくば――と思っていたが、流石神器。
その大弓は、僕の剣撃を易々と受け止めた。
「ふん。たかが魔装具。やはりそんなものか」
ミルネルドトーリが落胆の色を見せる。
その言葉に苛立ちを感じた。
「くそっ! まだまだだっ!」
魔界の王、パララ・アミルが作った装備。
それを『たかが魔装具』なんて貶《けな》されるのは許せない。
上下左右。がむしゃらに剣を振る。
だが、その全てを片手で、大弓で防がれる。
「……興ざめだ」
僕の剣を受け止めながら、彼女が呟く。
「真実の神の従者なら、多少腕が立つものかと思ってみたら、まるで子供の遊戯。これでは余興にもなりはしない――」
剣を受け止めた大弓を傾け受け流す。自然と体勢が崩れた。
「左腕を落とそうか」
高々と上げられた大弓は、まるで巨大な斧。僕の左腕に、ソレが振り下ろされる。
バランスを崩している今、回避は不可能だ。
「なにっ!?」
左腕に走る衝撃。だが、斬撃によるものではない。
彼女が振り下ろした大弓は、僕の左腕を切り落とす事はできなかった。
セクシーアーマーを貫通する事は出来なかった。
あまりにも予想外だったのか、その表情からは驚きを隠せない。
そして、その瞬間こそが好機。
左腕に受けた衝撃の勢いを利用するように、身体をよじる。
僕の身体能力だけじゃない。彼女の力を利用した反撃《カウンター》。
振り上げた右手のセクシーソードが、彼女を捕捉する。
「くっ!」
決まったと思った太刀筋は、僅かに剣先が彼女の頬をかすった程度。
あの体勢からかわせるほど生易しいモノではなかったはず。
彼女の頬から血が流れる。
僕の頬には、冷たい汗が流れていた。
「ハハ。神器を通さぬとは、これは驚きだ。ただの魔装具ではないらしい。前言を訂正させてもらおう」
「ありがたいお言葉どうも。素直に嬉しいですよ」
精一杯の虚勢を張ってみても、この戦力差は縮まらない。
セクシーアーマーの防御力がいかに優れていても、攻撃が当たらない事には勝てないのだ。
「だが残念だ。魔装具が優秀でも、持ち主がそれでは――ただのガラクタだ」
「そんなガラクタでも、神に傷をつける事は出来ます」
彼女の表情が僅かに歪む。
だが、相手は神。怒りに身を任せるような愚行は起こさない。
「フッ。では見せてやろう。特別な武器を、優れた者が扱うとどうなるかを――」
そう言って、彼女が弓を構える。
その構えは、矢を放つための、弓本来の型。
だが、彼女の手に矢は持たれていない。
弦が限界まで引き絞られても、矢は見えなかった。
「必中の矢――」
彼女の口、そして手が動くと同時に、左肘に激痛が走った。
セクシーアーマー唯一の弱点、関節部分の僅かな隙間。
左腕の肘に、矢が深く突き刺さっている。
見えなかった。反応出来なかった。
それもそのはず。
背後から射抜かれたように、矢じりは前方を向いていたから。
「信じられないといった顔だな。神器トリステンエルヴンボウ、その矢は外れる事がない。どこであろうが、狙った場所に必ず当たる」
狙った場所に――必ず。
なんだよソレ。そんな武器めちゃくちゃじゃないか。
しかも、それなら一撃で僕の頭を射抜けたはず。
いつでも殺せるのに――殺さない。
「いいなぁ。その顔。その瞳! 絶望に染まっていく顔が。濁りくすんでいく瞳が、たまらなく好きなんだ! 最後の瞬間、お前はどんな顔をするんだろうなぁ」
自らの乳房を鷲掴みながら、狂気に満ちた笑みを浮かべる彼女。
どうせなら出しちゃえよ、勢いにまかせてその邪魔な布を下げちゃえよ――なんて、いくら僕でもそんな事考えるわけも無く。
神という異次元の存在に湧き上がる恐怖を必死に抑えていた。
いずれ来る――チャンスを逃さぬために。
「どうした。もう終わりか?」
「まさか。たかが腕一本で神様のサービスシーンが見れるなら――! 安いものですよ!」
剣を握る手に力を混め、彼女に向かって走る。
普通の剣なら、余程の怪力の持ち主でもなければ、片手を潰された時点で終わりだ。
斬る事はおろか、満足に振る事だって出来やしない。
しかし、セクシーソードなら。刀身の無い剣だからこそ。
片手が無事なら戦える!
「愚かだな――」
彼女が弓を引き絞る。その手が弓から離れた瞬間。
僕はセクシーソードを地面に突き刺し、跳躍する。
後ろに目なんかついてない。背後は完全な死角だ。
だけど、僕の後ろなら――彼女からも死角!
「そして浅はかだ――」
骨が砕ける音と共に、右膝に激痛が走る。
僅かに空いた膝の裏、膕《ひかがみ》と呼ばれるその部分に射ち込まれた矢が、縫い付けるように僕を地面に落とした。
「ぐあああああああああああああっ!」
痛い! 痛い! 痛い!
僅かに身をよじるだけで、激痛が雷《いかずち》のように駆け回る。
いっその事、足が千切れてしまったほうが楽――そう思わせる程に。
「言ったはずだ、必中だと。神の目から逃げられる事は出来ない」
涙で視界が歪む中、ゆっくりと彼女が近づいてくる。彼女は目の前で立ち止まると、僕の髪を掴み。おもむろに引き上げる。
「まるで手ごたえは無かったが、余興程度には愉しませてもらったよ。褒美として、楽に殺してやる」
彼女の表情は、美しい狂気に歪んでいた。
0
お気に入りに追加
189
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
断罪茶番で命拾いした王子
章槻雅希
ファンタジー
アルファーロ公爵嫡女エルネスタは卒業記念パーティで婚約者の第三王子パスクワルから婚約破棄された。そのことにエルネスタは安堵する。これでパスクワルの命は守られたと。
5年前、有り得ないほどの非常識さと無礼さで王命による婚約が決まった。それに両親祖父母をはじめとした一族は怒り狂った。父公爵は王命を受けるにあたってとんでもない条件を突きつけていた。『第三王子は婚姻後すぐに病に倒れ、数年後に病死するかもしれないが、それでも良いのなら』と。
『小説家になろう』(以下、敬称略)・『アルファポリス』・『Pixiv』・自サイトに重複投稿。
冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる