性剣セクシーソード

cure456

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二章

逃げ場は無い

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 先手必勝。
 僕に相手の出方を見ている暇はない。力量を測る必要も無い。
 実力なら分かりきっている。戦力差は絶望的だ。
 だから、少しでも早く!

「くらえっ!」
 全身の力を使い、剣を振り下ろす。
 刀身が魔力で創られたセクシーソードは、あらゆるモノを切り捨てる。
 あわよくば――と思っていたが、流石神器。
 その大弓は、僕の剣撃を易々と受け止めた。

「ふん。たかが魔装具。やはりそんなものか」
 ミルネルドトーリが落胆の色を見せる。
 その言葉に苛立ちを感じた。

「くそっ! まだまだだっ!」
 魔界の王、パララ・アミルが作った装備。
 それを『たかが魔装具』なんて貶《けな》されるのは許せない。 
 上下左右。がむしゃらに剣を振る。
 だが、その全てを片手で、大弓で防がれる。

「……興ざめだ」
 僕の剣を受け止めながら、彼女が呟く。
「真実の神の従者なら、多少腕が立つものかと思ってみたら、まるで子供の遊戯。これでは余興にもなりはしない――」
 剣を受け止めた大弓を傾け受け流す。自然と体勢が崩れた。
「左腕を落とそうか」   
 高々と上げられた大弓は、まるで巨大な斧。僕の左腕に、ソレが振り下ろされる。
 バランスを崩している今、回避は不可能だ。

「なにっ!?」
 左腕に走る衝撃。だが、斬撃によるものではない。
 彼女が振り下ろした大弓は、僕の左腕を切り落とす事はできなかった。
 セクシーアーマーを貫通する事は出来なかった。
 あまりにも予想外だったのか、その表情からは驚きを隠せない。
 そして、その瞬間こそが好機。
 左腕に受けた衝撃の勢いを利用するように、身体をよじる。
 僕の身体能力だけじゃない。彼女の力を利用した反撃《カウンター》。
 振り上げた右手のセクシーソードが、彼女を捕捉する。

「くっ!」
 決まったと思った太刀筋は、僅かに剣先が彼女の頬をかすった程度。
 あの体勢からかわせるほど生易しいモノではなかったはず。
 彼女の頬から血が流れる。
 僕の頬には、冷たい汗が流れていた。

「ハハ。神器を通さぬとは、これは驚きだ。ただの魔装具ではないらしい。前言を訂正させてもらおう」
「ありがたいお言葉どうも。素直に嬉しいですよ」
 精一杯の虚勢を張ってみても、この戦力差は縮まらない。
 セクシーアーマーの防御力がいかに優れていても、攻撃が当たらない事には勝てないのだ。

「だが残念だ。魔装具が優秀でも、持ち主がそれでは――ただのガラクタだ」
「そんなガラクタでも、神に傷をつける事は出来ます」
 彼女の表情が僅かに歪む。
 だが、相手は神。怒りに身を任せるような愚行は起こさない。

「フッ。では見せてやろう。特別な武器を、優れた者が扱うとどうなるかを――」
 そう言って、彼女が弓を構える。
 その構えは、矢を放つための、弓本来の型。
 だが、彼女の手に矢は持たれていない。
 弦が限界まで引き絞られても、矢は見えなかった。

必中の矢天界の瞳――」
 彼女の口、そして手が動くと同時に、左肘に激痛が走った。 
 セクシーアーマー唯一の弱点、関節部分の僅かな隙間。
 左腕の肘に、矢が深く突き刺さっている。
 見えなかった。反応出来なかった。
 それもそのはず。
 背後から射抜かれたように、矢じりは前方を向いていたから。

「信じられないといった顔だな。神器トリステンエルヴンボウ、その矢は外れる事がない。どこであろうが、狙った場所に必ず当たる」
 狙った場所に――必ず。
 なんだよソレ。そんな武器めちゃくちゃじゃないか。
 しかも、それなら一撃で僕の頭を射抜けたはず。
 いつでも殺せるのに――殺さない。

「いいなぁ。その顔。その瞳! 絶望に染まっていく顔が。濁りくすんでいく瞳が、たまらなく好きなんだ! 最後の瞬間、お前はどんな顔をするんだろうなぁ」
 自らの乳房を鷲掴みながら、狂気に満ちた笑みを浮かべる彼女。
 どうせなら出しちゃえよ、勢いにまかせてその邪魔な布を下げちゃえよ――なんて、いくら僕でもそんな事考えるわけも無く。
 神という異次元の存在に湧き上がる恐怖を必死に抑えていた。
 いずれ来る――チャンスを逃さぬために。

「どうした。もう終わりか?」
「まさか。たかが腕一本で神様のサービスシーンが見れるなら――! 安いものですよ!」
 剣を握る手に力を混め、彼女に向かって走る。
 普通の剣なら、余程の怪力の持ち主でもなければ、片手を潰された時点で終わりだ。
 斬る事はおろか、満足に振る事だって出来やしない。
 しかし、セクシーソードなら。刀身の無い剣だからこそ。
 片手が無事なら戦える!

「愚かだな――」
 彼女が弓を引き絞る。その手が弓から離れた瞬間。
 僕はセクシーソードを地面に突き刺し、跳躍する。
 後ろに目なんかついてない。背後は完全な死角だ。
 だけど、僕の後ろなら――彼女からも死角!

「そして浅はかだ――」
 骨が砕ける音と共に、右膝に激痛が走る。
 僅かに空いた膝の裏、膕《ひかがみ》と呼ばれるその部分に射ち込まれた矢が、縫い付けるように僕を地面に落とした。

「ぐあああああああああああああっ!」
 痛い! 痛い! 痛い! 
 僅かに身をよじるだけで、激痛が雷《いかずち》のように駆け回る。
 いっその事、足が千切れてしまったほうが楽――そう思わせる程に。

「言ったはずだ、必中だと。神の目から逃げられる事は出来ない」
 涙で視界が歪む中、ゆっくりと彼女が近づいてくる。彼女は目の前で立ち止まると、僕の髪を掴み。おもむろに引き上げる。
「まるで手ごたえは無かったが、余興程度には愉しませてもらったよ。褒美として、楽に殺してやる」
 彼女の表情は、美しい狂気に歪んでいた。
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