性剣セクシーソード

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二章

ダンシング・ショートナイト

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「じゃ、じゃあいくわよ……」
 ニーヤの手がプレートに触れる。
 繰り返し短剣を握り締めたその手は、少しだけ硬いけれど、やはり女の子の手で。
 優しく撫でられるたびに、身体が僅かに揺れる。
 鎧が消えたのは、一瞬だった。

「や、やっぱ待って! ちょ、ちょっと……恥ずかしい……」
 ニーヤが逃げるように背中を向ける。
 暗闇に慣れた僕の瞳が、彼女の汗ばんだうなじを認識する。
――モクヒョウカクニン。シンゲキカイシ。

「ふえっ!?」 
 右手を彼女の首元に滑らせ、左手を彼女の脇腹から前方へ。
 ニーヤの肢体を完全にロックした。
「ご、ごめん! 身体が勝手に!」

 この言葉で全てが許されると思ってはいないが、実際そうなのだ。
 こればかりはどうしようもないのだ。
「は、外してくれるかな……? 僕の意思じゃ……無理っぽい……」
 最後の理性を振り絞る。前方に控えた両手が、いつ彼女に襲い掛かるか分からない。
 ニーヤならこんなロックは易々と外せるはずだ。

「……いいよ」
 だが、彼女の返事は想定外で。
 その強張った身体から力が抜けた時。
 易々と。
「イヤじゃ……ないから……」
 最後の理性を吹き飛ばす。

「んっ!」
 首元にかじりつくように、彼女の汗ばんだうなじに鼻を押し付ける。
 立ちこめる芳香をかき集め、鼻腔を満たす。
 僅かにめくれ上がった服の隙間に手を差し込み、浮き出た第十肋骨の丘をなぞる。
 彼女が押し殺した声の隙間から漏れる吐息エナジーが、僕の欲望を加速ブーストさせる。

「えっ!? ちょ、ちょっと! ソコはダメだって!」
 目標を切り替え、進軍を開始した僕のノウズが足止めをくらう。
 ゲートが閉じられているのだ。
 でも、進軍は止まらない。
 閉じられたゲートを強行突破しようと、地中に埋まったトリュフを探す豚のような行為をやめられない。
 止められない止まらない。進撃の鼻ドントストップ・ノウズ
 その先に何があるのか、それは誰も知らないノーバディー・ノーズ

「ちょっ! ダメっ……だっ……てばっ!」
 彼女の防衛本能が、容赦のない肘鉄を放たせる。
 至近距離から、後方に向けた的確な一撃。
 だが、ソレは当たらない。

「!?」
 本能を上回る欲望。
 僅かな体重移動だけでソレをかわす。
 そして、その勢いを利用して体勢を変える。
 ポジションを移動する。
 仰向けになった彼女の上に。

 視野が広がる。眼下に望む二つの膨らみ。
 重力に逆らうように突き上げた、まるで彼女自身を象徴するようなソレは、扇情的にめくれあがった布によって、その姿を僅かに晒している。
 この手で、いや、この鼻で。布を軽く押し上げてやるだけで。
 それだけで――中心部コアまで辿り着ける。

――時間が止まった気がした。
 隠された中心部コアから視点を移動し、僕を見つめる彼女の瞳を見た瞬間。
 その赤い瞳はまるで、ギリシャ神話のメデューサ。
 僕の身体は硬直し、吹き飛んで四散した僕の理性が再び構築される。

「あ……僕……」
 見られた。
 彼女の胸部を凝視する僕を、彼女は見ていた。
 どうすればいい。こんな時どうすればいい。僕は知らないアイ・ドント・ノウ
 だが、知らないという事は――知る事が出来るという事だ。
 知っている事は知れない。知らない事は知れる。
 それが――経験だ。

 彼女の目が逸れる。
 彼女が目を逸らした。
 僕は、それで知った。悟った。
 こんな時どうすればいいのか。どういう行動を取ればいいのか。
 目を逸らすという後ろ向きな行為が、決して拒絶の意思の表れじゃ無い事を僕は知った。
 彼女が――教えてくれた。

 身をゆだねるように、目をそらした彼女。
 メデューサの呪いも解けた。
 そして、僕も身をゆだねた。

「なっ!? ええっ!? な、なんでそっちなのよ!」
 エンジョイ! 僕は嗅ぎ続ける!
「ちょっ! ダメだって! その……してないから!」
 心躍る! おかわりアンコール! ダンス! ダンス! ダンス!
「あっ、アンタ! こっ、腰っ!? なっ、なんか当たってる!」
 ゴーイング! 強引! 卒業ゴールインより――僕は嗅ぎ続ける!
「ちょっ! ホントっ……いい加減にっ」
 エンジョイ! エンジョイ! もうちょっと! もうちょ――。
「いい加減にしろおおおおおおお!」

 射出。
 限界まで溜めたそのパワーは、僕の身体を射出させた――馬車から。
「え……?」
 何が起きた。馬車が遠ざかっていく。いや、僕が遠ざかっているのか?
 空を飛んでいる。宙に浮くような快感? 
 いや、快感はない。あるのは腹部に感じる激痛だけ。
 何が起きた? 何が起こっている?
 それは誰も知らないノーバディ・ノーズ
 僕の意識は、そこで途切れた。
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