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二章
彼女の気持ち
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どれくらい進んだだろうか。一時間くらいは馬車に揺られた気がする。
幌馬車の中では、いまだブツブツ文句を垂れるニーヤの説得にあたった。
『手を出さない』『大声で怒鳴らない』
この二つを約束させたのは大勝利だと言えよう。
時間の大半を費やした甲斐はあるというものだ。
「着きましたぞ」
そんな声で外に出てみると、目の前に現れたのは『THE・お屋敷』と言った、いかにも貴族が住んでいそうな豪邸だった。
建築物についての知識は全く無いが、まるで一つの芸術作品だ。
「では準備がありますからお二人は中へ。招待客以外を入れるのは主人に禁じられておりますので、剣士様は申し訳ありませんがこちらでお待ち下さい。主人のお許しがでたら、改めてお呼びしますゆえ」
一礼し、ニーヤとモミさんを連れて老人が中に入っていく。
心配そうな顔で振り返るモミさんに、とりあえず頷いて。そのうち呼びに来るだろうと、ペロ様と手を繋いで待つことにした。
「遅すぎやしないか……?」
招待客と思われる、身分の高そうな男女が続々と屋敷に入り。
中から賑やかな声が聞こえ始め。
月明かりがが僕達を照らしても。
老人が僕達を呼びに来る気配はこれっぽっちもなかった。
「まぁ、僕達が招待客に紛れるのもおかしな話だし、それにニーヤとモミさんは働いてるんだ。何もしないだけ良し――かな?」
同意を求めるようにペロ様を見ると、うつむいたまま靴先で地面の土を掘り返していた。
表情にも口にも出さないけど、やっぱり怒っているんだろうか。
「ペロ様だけでも入れるように聞いてこようか?」
すると、彼女は首を横に降った。
「一緒だから、いい」
その言葉に少し嬉しくなったものの、やはり何処か不機嫌そうな気もする。
そんな時だった。
「見てた」
顔を上げ、僕の目をじっと見つめながら呟く。
「な、何を……?」
相変わらず表情はない。だが、どこか責められている気がする。
「ニーヤとモミのうさぎ」
うさぎ? バニーガールの事か?
「嬉しそうに見てた」
そう言うと、また視線を落とし、土をいじり始める。
「いや! 違うんだよ! あれは――そう! 見ちゃうんだよ! 勝手に見ちゃうんだ! お腹が空いたり眠くなったりするのと同じで、男は見ちゃうんだよ! 自然現象なんだよ! うんうん!」
一体僕は何の言い訳をしているんだ?
何で言い訳をしているんだ?
そもそも言い訳になっているのか?
「着たかった」
「え。ペロ様バニーガール好きなの?」
何てことだ、ペロ様にコスプレ趣味があったとは!
と思ったのは僕の早とちりで。
「着れば、見てもらえた」
その言葉は、どことなく寂しそうで、
「見てもらえれば――嬉しい」
でも、何だかホッとした。
「おいで」
ペロ様の後ろに腰を下ろし、彼女の背中を預かるように座らせる。
「大丈夫。ペロ様はうさぎなんか無くたって可愛いよ」
彼女は「ん」と小さくうなずくと、小さな手が僕の手に重ねられた。
すっかり日の落ちた空には、小さな星が沢山。
月にも負けないほど輝いていた。
幌馬車の中では、いまだブツブツ文句を垂れるニーヤの説得にあたった。
『手を出さない』『大声で怒鳴らない』
この二つを約束させたのは大勝利だと言えよう。
時間の大半を費やした甲斐はあるというものだ。
「着きましたぞ」
そんな声で外に出てみると、目の前に現れたのは『THE・お屋敷』と言った、いかにも貴族が住んでいそうな豪邸だった。
建築物についての知識は全く無いが、まるで一つの芸術作品だ。
「では準備がありますからお二人は中へ。招待客以外を入れるのは主人に禁じられておりますので、剣士様は申し訳ありませんがこちらでお待ち下さい。主人のお許しがでたら、改めてお呼びしますゆえ」
一礼し、ニーヤとモミさんを連れて老人が中に入っていく。
心配そうな顔で振り返るモミさんに、とりあえず頷いて。そのうち呼びに来るだろうと、ペロ様と手を繋いで待つことにした。
「遅すぎやしないか……?」
招待客と思われる、身分の高そうな男女が続々と屋敷に入り。
中から賑やかな声が聞こえ始め。
月明かりがが僕達を照らしても。
老人が僕達を呼びに来る気配はこれっぽっちもなかった。
「まぁ、僕達が招待客に紛れるのもおかしな話だし、それにニーヤとモミさんは働いてるんだ。何もしないだけ良し――かな?」
同意を求めるようにペロ様を見ると、うつむいたまま靴先で地面の土を掘り返していた。
表情にも口にも出さないけど、やっぱり怒っているんだろうか。
「ペロ様だけでも入れるように聞いてこようか?」
すると、彼女は首を横に降った。
「一緒だから、いい」
その言葉に少し嬉しくなったものの、やはり何処か不機嫌そうな気もする。
そんな時だった。
「見てた」
顔を上げ、僕の目をじっと見つめながら呟く。
「な、何を……?」
相変わらず表情はない。だが、どこか責められている気がする。
「ニーヤとモミのうさぎ」
うさぎ? バニーガールの事か?
「嬉しそうに見てた」
そう言うと、また視線を落とし、土をいじり始める。
「いや! 違うんだよ! あれは――そう! 見ちゃうんだよ! 勝手に見ちゃうんだ! お腹が空いたり眠くなったりするのと同じで、男は見ちゃうんだよ! 自然現象なんだよ! うんうん!」
一体僕は何の言い訳をしているんだ?
何で言い訳をしているんだ?
そもそも言い訳になっているのか?
「着たかった」
「え。ペロ様バニーガール好きなの?」
何てことだ、ペロ様にコスプレ趣味があったとは!
と思ったのは僕の早とちりで。
「着れば、見てもらえた」
その言葉は、どことなく寂しそうで、
「見てもらえれば――嬉しい」
でも、何だかホッとした。
「おいで」
ペロ様の後ろに腰を下ろし、彼女の背中を預かるように座らせる。
「大丈夫。ペロ様はうさぎなんか無くたって可愛いよ」
彼女は「ん」と小さくうなずくと、小さな手が僕の手に重ねられた。
すっかり日の落ちた空には、小さな星が沢山。
月にも負けないほど輝いていた。
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