性剣セクシーソード

cure456

文字の大きさ
上 下
47 / 154
二章

優しき承諾

しおりを挟む
「そう言えば、お客さん――じゃないんでしたっけ。見たところ旅の方ですよね? どうしてウチにいらしたんですか?」
「ああ、アタシらはコレを見てね」
 そう言ってニーヤがひらひらとかざしたのは、あの怪しい求人広告だ。
「えっ!? 本当ですか!? いやー人手が足りなくて困ってたんですよぉ」
 一気にテンションが上がった女性が、ニーヤの手を取ってブンブンと揺らす。
「ちょ、ちょっと待ってよ。まだやるって決めたわけじゃないし。とりあえず仕事内容聞かせてもらわないと」
 おっ。意外に冷静だ。
 まぁそのまんま流される性格でもないだろう。どちらかと言えば、ニーヤは流れに逆らって進む方だと思う。
 まぁ、仕事内容を聞いて絶句→激怒のコンボは目に見えている。
「ななな! 何言ってんの!? バッカじゃない!?」と言う台詞も、安易に想像できる。
 僕はため息混じりに、その展開に備えた。
「えっと、そんなめんどくさい仕事じゃないよ? 今夜社交界があるんだけど、そこでお酒を注いだりするだけ」

「えっ!?」
 意外な返答に、思わず声が漏れた僕に視線が集まる。
「そ、それだけって本当にそれだけ!? 役に立たせちゃったりしないの!? ただのコンパニオン的な? ピンクじゃなくて?」
「コンパニオン? ピンク? うーん良くわかんないけど、多分それだけ――かな? あ、ちょっと特殊な衣装を着てもらっちゃうけどねぇ」
 そう言って彼女が取り出したのは、
 防御力の低そうな布切れと、
 天高く伸びた、二本のふさふさの耳だった。
 
 女性と言うのは、それだけですばらしいものだ。
 芳《かぐわ》しく。柔らかく。例えるなら――そう、特上のお肉。 
 そのままでも十分美味しいが、手間を加えることによってその素晴らしさは飛躍的に向上する。
 スパイスやソースを加える事によって、また新しい魅力が生まれる。
 僕は僅かな驚きとともに、感嘆する。
 人類の英知に、心からの賞賛を送ろう。
 まさかこの世界にも、バニーガールと言う概念が存在するとは。

「は? やるわけないじゃん。バッカじゃないの」
「ええっ!?」
 またしても意外な返答に、先程より声が大きく漏れた。
 いや、意外じゃないのかもしれない。当然の返答だろう。
 それでも僕は、落胆交じりの声を抑えきれずにはいられなかったのだ。

「何アンタ。さっきまではすごい勢いで止めてたじゃない」
「う……。それは内容に齟齬《そご》がありまして……」
「ってかありえないでしょ。酔っ払いの相手でも嫌だって言うのに、こんなわけわかんない服まで着せられて」
 憤慨するニーヤを見て、女性が五本の指を広げた。
「報酬はコレで――」
 その瞬間、ニーヤの表情が変わったのを僕は見逃さない。

「まさか、銅貨って事はないわよね」 
「まさか。金貨に決っているじゃない。本当は五人集めなきゃいけないんだけど、まぁ量より質って事で先方も納得してくれるかな。そっちの小さい子に頼むのは良心が痛むし、彼はそもそも男だから、まぁ護衛って事で適当にねじこむからさ。
 ね。どうかな? やってもらえないかな? 金貨五枚!」
 金額を強調するようにそう言って、手を合わせる。
 ニーヤが困った様子で僕達に視線を向けるが、実質ニーヤとモミさんだけが働くようなモノだろう。僕はペロ様の手を取って「お任せします」とばかりに一歩後ずさった。

「……どうするモミ?」
「私は……それしか道がないのなら別に構いませんが……」
「一晩で金貨五枚は破格だもんねぇ……。ところで、何処でやるわけ? 社交界って言うくらいだから、どっか貴族の家なんでしょ?」
 ニーヤの質問に、彼女が少しだけバツが悪そうに答える。 
「ヴィクトラード様の屋敷なんだよねぇ……」
 それは、今現在トートさんを苦しめている貴族の名前だった。 
 再び、重い沈黙が訪れる。

「やるわ」
 ニーヤがはっきりとそう言った。
「酔っ払いの相手をするのは癪だけど、背に腹は変えられないって言うし。お金は必要だしね。ついでに、そのビク何とかから聞いてきてあげるわよ。どうして娘を連れて行ったのかをさ」
 いや、違う。
 ついでなんかじゃない。
 確かに僕達は無一文だし、提示された報酬は破格だったけど。
 ヴィクトラードの名前が出たから、ニーヤは引き受けることを決めたんだ。
 彼女はそういう子だ。

「あ、ありがとうございます……」
「別にお礼を言われる事じゃないわ。それに、アタシ達が娘さんを連れ戻すとかそういう事じゃないから。ただ話を聞くだけ。行くついでにね。だから変な期待はしないで」
 そう冷たく言い放つと、彼女は僕を睨みつける。 
 多分、僕は嬉しさに微笑んでいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

ヒューストン家の惨劇とその後の顛末

よもぎ
恋愛
照れ隠しで婚約者を罵倒しまくるクソ野郎が実際結婚までいった、その後のお話。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

処理中です...