5 / 9
彼女の森
5
しおりを挟む
アミルは二階の庭園から、空に浮かぶ球体を眺めていた。
燃えるような赤に輝くソレは、人間界のモノと違って沈むことは無い。
ガジガラの月であり、太陽でもあった。
「次の赤が輝く日……」
手すりに掴まり、そっと呟く。
それは、あまりにも突然な話だった。
赤が最も輝くのは、月が満ちた今日のような日だ。
したがって、次に赤が輝くのは一月後。一月後には、アミルはザフズの妻になる。
自分の意思とは無関係に。子を成すために。
「どうしたの? こんなところで」
声のする方を振り向くと、その手に、青いガラスの瓶とグラスを持ったユーリアが立っていた。
目を伏せたアミルにグラスを渡し、赤いワインを満たしていく。
重ねたグラスの音が、魔界の空に散った。
「嫌――なの?」
「嫌――ってわけじゃない。でも、嬉しくはない」
周囲には誰もおらず、自然と二人の口調も変わる。
「いつからなのかは分からないけど、本当にこれでいいのかなって、ずっと考えてる。この先、自分が幸せになれるのかが分からないの」
「う~ん。そんなに、深く考える事はないと思うんだけど」
「ユーリアはいいよ。ずっと想い続けた相手と一緒になれるんだもん。でも、私は違う。ユーリアみたいな顔は――出来ないよ」
すねたように呟いて、グラスの中身をあおる。
――お母様が生きていたら、何と言うのだろう。
いつも優しく、傍に居てくれた母。
慈愛をふんだんにたたえた笑みを浮かべながら、陽の当たる森で、色んな事を教えてくれた母。
『いつか、アミルも大切な人に巡り会って、幸せになるのよ』
『アミル、今幸せだよ』
『今より、もっともっと幸せになれるわ。誰かを心の底から愛した時、貴女は世界で一番幸せになるの』
『愛?』
『そうよ。貴女の名前、アミルには、愛と言う意味があるのよ』
『愛――。うん、なる。アミル、いつか世界で一番幸せになる』
『ええ。そうなったら、私は世界で二番目に幸せよ――』
「心配ないって。きっと大丈夫だから」
ユーリアが空になったアミルのグラスをそっとつまんで横に置く。
そのまま、アミルの背中を抱いた。
「今はまだ、気持ちの整理がつかないだけだよ。ザフズ様より素敵な男はいないって。きっと、アミルを幸せにしてくれる」
「そう……かな……?」
「そうだよ。それに、淫魔の王でしょ? 多分こっちの方も――」
ユーリアが腰に回した手をアミルの胸に当て、ゆっくりと動かしていく。
「えっ!? なっ、ユーリアっ!?」
「『ああアミル。君は何て素敵なんだ。この胸の柔らかさ、たまらないよ』」
ザフズを意識した芝居ががった台詞と共に、官能的に胸をまさぐる。
女だからわかる的確な指使いは、ワインで火照ったアミルの身体を通して、脳に快感を植えつける。
「ユ、ユーリアっ! そ、それ……以上……っ!」
その指は、胸元をすり抜けてドレスの中へ。
未だ、誰にも触れられた事のない蕾を摘まれた快感に吐息が漏れる。
ユーリアの左手はそのまま、アミルの身体を滑らせるように、右手を下降させていく。
「『いいだろう? もう、我慢出来ないんだ』」
「よ、よくないっ!」
下腹部に到達したユーリアの指を、アミルがぐっと理性で押し止める。
「もう。ふざけすぎよ」
僅かに覚えた快感をかき消さんとばかりに、アミルはプイと横を向く。
それと同時に、ある疑問が浮かんだ。
「ふふ。ゴメンゴメン。ワインのせいね」
「もしかして……ユーリアはその……。もうしちゃったの?」
遠慮がちに、それでも興味を隠せない子猫の様なアミルの質問に、ユーリアは一瞬驚き、すぐにクスリと笑った。
「口付けだけ。その先はまだしてない。大切なモノだし、初めてはやっぱり婚姻の日に、ね」
「そ、そっか。そうだよね」
安堵したのか、落胆か。アミルが抱いた感情は、自分でも曖昧で分からなかった。
変わらず純潔であれば何より。
だが、もしも済ませていたならば、どのようなモノなのか訊ねてみたい気持ちもあったから。
「そろそろ戻ろうかな。アミルはどうする?」
「私は、少し部屋で休もうかな」
「そっか。じゃあ、後で遊びにいくわ」
「ええ。では、また後で」
ユーリアを見送ってから、アミルは再び空を見上げる。
赤い月が、強く輝いていた。
燃えるような赤に輝くソレは、人間界のモノと違って沈むことは無い。
ガジガラの月であり、太陽でもあった。
「次の赤が輝く日……」
手すりに掴まり、そっと呟く。
それは、あまりにも突然な話だった。
赤が最も輝くのは、月が満ちた今日のような日だ。
したがって、次に赤が輝くのは一月後。一月後には、アミルはザフズの妻になる。
自分の意思とは無関係に。子を成すために。
「どうしたの? こんなところで」
声のする方を振り向くと、その手に、青いガラスの瓶とグラスを持ったユーリアが立っていた。
目を伏せたアミルにグラスを渡し、赤いワインを満たしていく。
重ねたグラスの音が、魔界の空に散った。
「嫌――なの?」
「嫌――ってわけじゃない。でも、嬉しくはない」
周囲には誰もおらず、自然と二人の口調も変わる。
「いつからなのかは分からないけど、本当にこれでいいのかなって、ずっと考えてる。この先、自分が幸せになれるのかが分からないの」
「う~ん。そんなに、深く考える事はないと思うんだけど」
「ユーリアはいいよ。ずっと想い続けた相手と一緒になれるんだもん。でも、私は違う。ユーリアみたいな顔は――出来ないよ」
すねたように呟いて、グラスの中身をあおる。
――お母様が生きていたら、何と言うのだろう。
いつも優しく、傍に居てくれた母。
慈愛をふんだんにたたえた笑みを浮かべながら、陽の当たる森で、色んな事を教えてくれた母。
『いつか、アミルも大切な人に巡り会って、幸せになるのよ』
『アミル、今幸せだよ』
『今より、もっともっと幸せになれるわ。誰かを心の底から愛した時、貴女は世界で一番幸せになるの』
『愛?』
『そうよ。貴女の名前、アミルには、愛と言う意味があるのよ』
『愛――。うん、なる。アミル、いつか世界で一番幸せになる』
『ええ。そうなったら、私は世界で二番目に幸せよ――』
「心配ないって。きっと大丈夫だから」
ユーリアが空になったアミルのグラスをそっとつまんで横に置く。
そのまま、アミルの背中を抱いた。
「今はまだ、気持ちの整理がつかないだけだよ。ザフズ様より素敵な男はいないって。きっと、アミルを幸せにしてくれる」
「そう……かな……?」
「そうだよ。それに、淫魔の王でしょ? 多分こっちの方も――」
ユーリアが腰に回した手をアミルの胸に当て、ゆっくりと動かしていく。
「えっ!? なっ、ユーリアっ!?」
「『ああアミル。君は何て素敵なんだ。この胸の柔らかさ、たまらないよ』」
ザフズを意識した芝居ががった台詞と共に、官能的に胸をまさぐる。
女だからわかる的確な指使いは、ワインで火照ったアミルの身体を通して、脳に快感を植えつける。
「ユ、ユーリアっ! そ、それ……以上……っ!」
その指は、胸元をすり抜けてドレスの中へ。
未だ、誰にも触れられた事のない蕾を摘まれた快感に吐息が漏れる。
ユーリアの左手はそのまま、アミルの身体を滑らせるように、右手を下降させていく。
「『いいだろう? もう、我慢出来ないんだ』」
「よ、よくないっ!」
下腹部に到達したユーリアの指を、アミルがぐっと理性で押し止める。
「もう。ふざけすぎよ」
僅かに覚えた快感をかき消さんとばかりに、アミルはプイと横を向く。
それと同時に、ある疑問が浮かんだ。
「ふふ。ゴメンゴメン。ワインのせいね」
「もしかして……ユーリアはその……。もうしちゃったの?」
遠慮がちに、それでも興味を隠せない子猫の様なアミルの質問に、ユーリアは一瞬驚き、すぐにクスリと笑った。
「口付けだけ。その先はまだしてない。大切なモノだし、初めてはやっぱり婚姻の日に、ね」
「そ、そっか。そうだよね」
安堵したのか、落胆か。アミルが抱いた感情は、自分でも曖昧で分からなかった。
変わらず純潔であれば何より。
だが、もしも済ませていたならば、どのようなモノなのか訊ねてみたい気持ちもあったから。
「そろそろ戻ろうかな。アミルはどうする?」
「私は、少し部屋で休もうかな」
「そっか。じゃあ、後で遊びにいくわ」
「ええ。では、また後で」
ユーリアを見送ってから、アミルは再び空を見上げる。
赤い月が、強く輝いていた。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
完結【R―18】様々な情事 短編集
秋刀魚妹子
恋愛
本作品は、過度な性的描写が有ります。 というか、性的描写しか有りません。
タイトルのお品書きにて、シチュエーションとジャンルが分かります。
好みで無いシチュエーションやジャンルを踏まないようご注意下さい。
基本的に、短編集なので登場人物やストーリーは繋がっておりません。
同じ名前、同じ容姿でも関係無い場合があります。
※ このキャラの情事が読みたいと要望の感想を頂いた場合は、同じキャラが登場する可能性があります。
※ 更新は不定期です。
それでは、楽しんで頂けたら幸いです。
【完結】【R18百合】女子寮ルームメイトに夜な夜なおっぱいを吸われています。
千鶴田ルト
恋愛
本編完結済み。細々と特別編を書いていくかもしれません。
風月学園女子寮。
私――舞鶴ミサが夜中に目を覚ますと、ルームメイトの藤咲ひなたが私の胸を…!
R-18ですが、いわゆる本番行為はなく、ひたすらおっぱいばかり攻めるガールズラブ小説です。
おすすめする人
・百合/GL/ガールズラブが好きな人
・ひたすらおっぱいを攻める描写が好きな人
・起きないように寝込みを襲うドキドキが好きな人
※タイトル画像はAI生成ですが、キャラクターデザインのイメージは合っています。
※私の小説に関しては誤字等あったら指摘してもらえると嬉しいです。(他の方の場合はわからないですが)
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる