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【第2章】彼女がいた世界、そして笑う
第13話
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ご飯を食べてお風呂に入り、自室にこもる。
楽しい楽しい勉強の時間だ。
まだ少し濡れた髪をそのままにして机に座る。
そして英語の教科書と授業ノートと向き合う。
さぁ、始めよう!
「あなたって本当に真面目ね」
いつもは一人で教科書と対話しながら勉強に励むところだが、今日は違う。
「まぁ俺の取柄といったら勉強だからな。ひとまずこれだけは他のリア充どもに負けないようにしないと」
「あなたって学年1位なんでしょ?」
「そうだけど、なんで知ってるんだ?」
そう、俺は確かに学年1位だ。
しかし、このことを知っているのは友助しかいないはずだ。
賢明高校では、ひと昔前までは成績上位10位までは掲示板に張り出され、そこで賞賛を浴びる。
しかし一方で、個人情報に対して敏感になった今となっては、たとえ上位の誇れる成績であっても、個人情報保護に値するものと判断し規制が入った。
おかげで掲示板制度はなしになり、自分のみの結果が記載された成績表が各人に配られるだけとなった。
なので、自分の成績を友達に教えなければ成績は知られないはずなのだ。
なのにどうして……?
もしかして、俺のことが気になっ————
「あなたといつもつるんでる人が、直行はすげぇんだぞって言いふらしてたわ。最初にやった実力テストが1位だったって」
「やっぱりか。あの野郎。あまり注目されるのは好きじゃないし、見せろ見せろうるさいから友助にだけ、しかたなく見せてあげただけなのに。今度会ったら自転車のタイヤの空気を抜いてやる」
「仕返しが地味ね」
前橋さんですら知っているってことは、他のクラスメイトも当然知ってるよな。
まぁ、だとしても男以外から話しかけられることはなかったし、気にするだけ損だったってことか。
でもさでもさ。
もう少し「太田君勉強できてすごいね!」的な感じでもてはやしてくれてもいいんじゃないかな? かな?
あんま注目されたくないとはいえ、少しは憧れられることに憧れはするよ? こんな俺でも。
「あー、むしゃくしゃしたから、今日は問題集たくさん解いちゃうもんね!」
「変わってるわね、普通は勉強やめるところじゃない?」
「だって、解いた問題を答え合わせして、丸だけになっていくのって気持ち良いだろ?」
「確かに間違うよりは、すっきりするかもしれないけど。やっぱりあなたは変わってるわ。そんなに勉強して将来やりたいことでもあるの?」
「えっ?」
ふと我に返る。
今まで勉強だけは真面目にやってきた。
部活はやめてしまったけど、せめて勉強だけは。
それは将来の可能性を少しでも広げるためだ。成績が下がることにより、行ける大学も限られてくる。
だけどこれといった将来の夢は……まだ、ない。
「何も考えてない」
「頭がいいのだから何にだってなれるじゃない」
「俺は勉強しかできないんだ。足もちょっと速いかもしれないけど、今は部活もやっていないし、中学の頃にライバルだった奴とはすでに差が開いちゃってると思う。だから今は本当に勉強だけなんだ」
少しムッとして、語気が強まってしまった。
「勉強ができれば十分じゃない」
前橋さんも少し語気を強くして応戦してくる。
「たとえ勉強ができたとしても、それは教科書の内容を暗記して、先生の言ったことをただ真面目に覚えているだけ。そんな奴、社会で役に立つはずがない」
カッとなってなんとなく出てしまった言葉だけど、これは常々思ってきたことだ。
俺は勉強しかできない。ただ真面目に目の前のことに取り組むだけ。
自頭がいい奴なんて、勉強ができなくても友達とうまくやってるし、社会の適応能力も高いからどんどん馴染んでいく。
きっとそういう奴が出世してみんなから重宝されるんだろう。
「そこまで卑下しなくてもいいじゃない。ごめんなさいね、勉強中に茶々入れちゃって。私はリビングに行ってそのままソファーで寝るわ。おやすみ」
こちらがおやすみという前にドアをすり抜け去っていく前橋さん。
途中でヒートアップしたことに気づいて、少し優しめの声のトーンになっていた気がする。
なんか気を遣わせちゃったかな。申し訳ない。
自分が見て見ぬふりをしていたことを見抜かれた気がして、カッとなって少し語気が強くなってしまったのかもしれない。
でも、俺には心に決めていることがある。
職業には関係ないことかもしれないけど、それも大切で最重要な夢だ。
朝起きたらちゃんと謝って、このことを話してもいいかもしれない。
そして、ちゃんと前橋さんの心残りを探すことにしよう。
そう決意を新たにして勉強を終え、明日に備えて寝ることにした。
今日は本当に色々あって疲れてしまった。
だって、死んだはずの前橋さんが目の前に現れて、幸か不幸かずっと一緒にいるわけだから。
前橋さんが生きていた頃では想像もできないような出来事だ。
いつまで今の状態が続くんだろう?
久しぶりに話せて正直嬉しかった気持ちもある。
本人はどう思っているのかは知らいないが。
あの無表情な顔からは身動きで察するしかできない。
もっと感情表現を豊かにしてもいいと思うのに……
せっかく……可愛いのだから……
今日の振り返りもそこそこに、いつの間にか眠気に襲われ、そのまま眠りの世界に誘われてしまった。
楽しい楽しい勉強の時間だ。
まだ少し濡れた髪をそのままにして机に座る。
そして英語の教科書と授業ノートと向き合う。
さぁ、始めよう!
「あなたって本当に真面目ね」
いつもは一人で教科書と対話しながら勉強に励むところだが、今日は違う。
「まぁ俺の取柄といったら勉強だからな。ひとまずこれだけは他のリア充どもに負けないようにしないと」
「あなたって学年1位なんでしょ?」
「そうだけど、なんで知ってるんだ?」
そう、俺は確かに学年1位だ。
しかし、このことを知っているのは友助しかいないはずだ。
賢明高校では、ひと昔前までは成績上位10位までは掲示板に張り出され、そこで賞賛を浴びる。
しかし一方で、個人情報に対して敏感になった今となっては、たとえ上位の誇れる成績であっても、個人情報保護に値するものと判断し規制が入った。
おかげで掲示板制度はなしになり、自分のみの結果が記載された成績表が各人に配られるだけとなった。
なので、自分の成績を友達に教えなければ成績は知られないはずなのだ。
なのにどうして……?
もしかして、俺のことが気になっ————
「あなたといつもつるんでる人が、直行はすげぇんだぞって言いふらしてたわ。最初にやった実力テストが1位だったって」
「やっぱりか。あの野郎。あまり注目されるのは好きじゃないし、見せろ見せろうるさいから友助にだけ、しかたなく見せてあげただけなのに。今度会ったら自転車のタイヤの空気を抜いてやる」
「仕返しが地味ね」
前橋さんですら知っているってことは、他のクラスメイトも当然知ってるよな。
まぁ、だとしても男以外から話しかけられることはなかったし、気にするだけ損だったってことか。
でもさでもさ。
もう少し「太田君勉強できてすごいね!」的な感じでもてはやしてくれてもいいんじゃないかな? かな?
あんま注目されたくないとはいえ、少しは憧れられることに憧れはするよ? こんな俺でも。
「あー、むしゃくしゃしたから、今日は問題集たくさん解いちゃうもんね!」
「変わってるわね、普通は勉強やめるところじゃない?」
「だって、解いた問題を答え合わせして、丸だけになっていくのって気持ち良いだろ?」
「確かに間違うよりは、すっきりするかもしれないけど。やっぱりあなたは変わってるわ。そんなに勉強して将来やりたいことでもあるの?」
「えっ?」
ふと我に返る。
今まで勉強だけは真面目にやってきた。
部活はやめてしまったけど、せめて勉強だけは。
それは将来の可能性を少しでも広げるためだ。成績が下がることにより、行ける大学も限られてくる。
だけどこれといった将来の夢は……まだ、ない。
「何も考えてない」
「頭がいいのだから何にだってなれるじゃない」
「俺は勉強しかできないんだ。足もちょっと速いかもしれないけど、今は部活もやっていないし、中学の頃にライバルだった奴とはすでに差が開いちゃってると思う。だから今は本当に勉強だけなんだ」
少しムッとして、語気が強まってしまった。
「勉強ができれば十分じゃない」
前橋さんも少し語気を強くして応戦してくる。
「たとえ勉強ができたとしても、それは教科書の内容を暗記して、先生の言ったことをただ真面目に覚えているだけ。そんな奴、社会で役に立つはずがない」
カッとなってなんとなく出てしまった言葉だけど、これは常々思ってきたことだ。
俺は勉強しかできない。ただ真面目に目の前のことに取り組むだけ。
自頭がいい奴なんて、勉強ができなくても友達とうまくやってるし、社会の適応能力も高いからどんどん馴染んでいく。
きっとそういう奴が出世してみんなから重宝されるんだろう。
「そこまで卑下しなくてもいいじゃない。ごめんなさいね、勉強中に茶々入れちゃって。私はリビングに行ってそのままソファーで寝るわ。おやすみ」
こちらがおやすみという前にドアをすり抜け去っていく前橋さん。
途中でヒートアップしたことに気づいて、少し優しめの声のトーンになっていた気がする。
なんか気を遣わせちゃったかな。申し訳ない。
自分が見て見ぬふりをしていたことを見抜かれた気がして、カッとなって少し語気が強くなってしまったのかもしれない。
でも、俺には心に決めていることがある。
職業には関係ないことかもしれないけど、それも大切で最重要な夢だ。
朝起きたらちゃんと謝って、このことを話してもいいかもしれない。
そして、ちゃんと前橋さんの心残りを探すことにしよう。
そう決意を新たにして勉強を終え、明日に備えて寝ることにした。
今日は本当に色々あって疲れてしまった。
だって、死んだはずの前橋さんが目の前に現れて、幸か不幸かずっと一緒にいるわけだから。
前橋さんが生きていた頃では想像もできないような出来事だ。
いつまで今の状態が続くんだろう?
久しぶりに話せて正直嬉しかった気持ちもある。
本人はどう思っているのかは知らいないが。
あの無表情な顔からは身動きで察するしかできない。
もっと感情表現を豊かにしてもいいと思うのに……
せっかく……可愛いのだから……
今日の振り返りもそこそこに、いつの間にか眠気に襲われ、そのまま眠りの世界に誘われてしまった。
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