13 / 52
【第2章】彼女がいた世界、そして笑う
第6話
しおりを挟む
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
身支度を整え、前橋さんと家を出てエレベーター内にて。
俺は、周りが田んぼだらけの田舎にはちょっと異物感のある14階建てのマンションの12階に住んでいる。
12階から階段で1階まで行けなくもないが、さすがにエレベーターを活用する。
「前橋さんはこれからどうするんだ?」
「うーん、どうしようかしら。目覚めたのはあなたの部屋の中だけど、ずっとこのままってわけにもいかないだろうし、なんで私がこの世に幽霊として現れたのか分からないまま。いつ消えるかも分からないけど、とりあえず今まで行ったこともなかったところを旅してみるのもいいかなって思うの」
相変わらず無表情だが、こんな訳も分からい状況にも関わらず、なんだかワクワクしているような感じがする。
この状況を楽しんでいるのか?
ちなみに、幽霊だから足がなくて空中をフワフワ漂っているような姿を想像する人もいるかもしれないが、ちゃんと足があるし、薄っすらともしていない。
しっかりと足を地面につけ、生きている人と見分けがつかないほど、はっきりとここに存在している。
「いいんじゃないかな。生きているときにできなかったことをやってみても。空は飛べるの?」
本当に幽霊かと疑いたくなるような佇まいでいるので、興味本位で気になっていた質問をぶつけてみた。
「飛べるわ。ほら」
飛べるんかいっ!
さっきまで俺の頭一個分下の方にあった目線が、俺と同じ高さになった。本当に浮いている。
普通に生きている人と遜色ないほど当たり前に存在しているから幽霊なのかと疑いたくなることもあるけど、これは確実に人間ができることじゃない。
「すごいな。だったら空を自由に飛んで、色んなところに行けそうだな」
「でも、これくらいの高さだとしてもすぐ疲れちゃうの」
スッと、また先ほどと同じ高さまで目線が下がる。同時にエレベーターも1階に到着し、エントランスホールを抜け、外に出る。
「俺の中の幽霊のイメージだと、フワフワ自由に空に浮かんで、あちこち飛び回れるもんだと思っていた」
「現実ってこんなものなのかもね。でも自分の知らないことを身体で感じて、自分の狭かった世界がどんどん広がっていく感じはすごく素敵なことだと思うの」
この子は周りや自分が言うほど外の世界と関わっていくのが嫌いじゃないのかもしれない。ただ溶け込みにくいだけで。
「確かにな。じゃあこの辺でお別れかな。朝起きたときはびっくりしたけど、元気でな。幽霊に元気でなっていうのも変な話か」
へへっと自然に笑いが込み上げてきた。
女の子に面と向かって笑えたのはいつ以来だろうか。
「そうね。あなたも私とこんな風におしゃべりできるってことは、他の子とも仲良くできるんじゃないかしら。あなたこそお元気で」
そう言って俺はいつもの通学路へ、前橋さんは俺とは反対方向へ歩いていく。
こうして、不思議だけど、なんだか懐かしくて、楽しくて、もしかしたらもう少しだけこのままでいたいと思えるような時間が終わりを告げる。
そんな朝の出来事をしみじみと思い返していたとき、
「ぐへっ」
そう遠くない距離で、苦しげな短い叫び声。
何事かと振り返ってみると、
————仰向けに倒れている前橋さんの姿があった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
身支度を整え、前橋さんと家を出てエレベーター内にて。
俺は、周りが田んぼだらけの田舎にはちょっと異物感のある14階建てのマンションの12階に住んでいる。
12階から階段で1階まで行けなくもないが、さすがにエレベーターを活用する。
「前橋さんはこれからどうするんだ?」
「うーん、どうしようかしら。目覚めたのはあなたの部屋の中だけど、ずっとこのままってわけにもいかないだろうし、なんで私がこの世に幽霊として現れたのか分からないまま。いつ消えるかも分からないけど、とりあえず今まで行ったこともなかったところを旅してみるのもいいかなって思うの」
相変わらず無表情だが、こんな訳も分からい状況にも関わらず、なんだかワクワクしているような感じがする。
この状況を楽しんでいるのか?
ちなみに、幽霊だから足がなくて空中をフワフワ漂っているような姿を想像する人もいるかもしれないが、ちゃんと足があるし、薄っすらともしていない。
しっかりと足を地面につけ、生きている人と見分けがつかないほど、はっきりとここに存在している。
「いいんじゃないかな。生きているときにできなかったことをやってみても。空は飛べるの?」
本当に幽霊かと疑いたくなるような佇まいでいるので、興味本位で気になっていた質問をぶつけてみた。
「飛べるわ。ほら」
飛べるんかいっ!
さっきまで俺の頭一個分下の方にあった目線が、俺と同じ高さになった。本当に浮いている。
普通に生きている人と遜色ないほど当たり前に存在しているから幽霊なのかと疑いたくなることもあるけど、これは確実に人間ができることじゃない。
「すごいな。だったら空を自由に飛んで、色んなところに行けそうだな」
「でも、これくらいの高さだとしてもすぐ疲れちゃうの」
スッと、また先ほどと同じ高さまで目線が下がる。同時にエレベーターも1階に到着し、エントランスホールを抜け、外に出る。
「俺の中の幽霊のイメージだと、フワフワ自由に空に浮かんで、あちこち飛び回れるもんだと思っていた」
「現実ってこんなものなのかもね。でも自分の知らないことを身体で感じて、自分の狭かった世界がどんどん広がっていく感じはすごく素敵なことだと思うの」
この子は周りや自分が言うほど外の世界と関わっていくのが嫌いじゃないのかもしれない。ただ溶け込みにくいだけで。
「確かにな。じゃあこの辺でお別れかな。朝起きたときはびっくりしたけど、元気でな。幽霊に元気でなっていうのも変な話か」
へへっと自然に笑いが込み上げてきた。
女の子に面と向かって笑えたのはいつ以来だろうか。
「そうね。あなたも私とこんな風におしゃべりできるってことは、他の子とも仲良くできるんじゃないかしら。あなたこそお元気で」
そう言って俺はいつもの通学路へ、前橋さんは俺とは反対方向へ歩いていく。
こうして、不思議だけど、なんだか懐かしくて、楽しくて、もしかしたらもう少しだけこのままでいたいと思えるような時間が終わりを告げる。
そんな朝の出来事をしみじみと思い返していたとき、
「ぐへっ」
そう遠くない距離で、苦しげな短い叫び声。
何事かと振り返ってみると、
————仰向けに倒れている前橋さんの姿があった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

コミュ障な幼馴染が俺にだけ饒舌な件〜クラスでは孤立している彼女が、二人きりの時だけ俺を愛称で呼んでくる〜
青野そら
青春
友達はいるが、パッとしないモブのような主人公、幸田 多久(こうだ たく)。
彼には美少女の幼馴染がいる。
それはクラスで常にぼっちな橘 理代(たちばな りよ)だ。
学校で話しかけられるとまともに返せない理代だが、多久と二人きりの時だけは素の姿を見せてくれて──。
これは、コミュ障な幼馴染を救う物語。
毎日更新します。

俺たちの共同学園生活
雪風 セツナ
青春
初めて執筆した作品ですので至らない点が多々あると思いますがよろしくお願いします。
2XXX年、日本では婚姻率の低下による出生率の低下が問題視されていた。そこで政府は、大人による婚姻をしなくなっていく風潮から若者の意識を改革しようとした。そこて、日本本島から離れたところに東京都所有の人工島を作り上げ高校生たちに対して特別な制度を用いた高校生活をおくらせることにした。
しかしその高校は一般的な高校のルールに当てはまることなく数々の難題を生徒たちに仕向けてくる。時には友人と協力し、時には敵対して競い合う。
そんな高校に入学することにした新庄 蒼雪。
蒼雪、相棒・友人は待ち受ける多くの試験を乗り越え、無事に学園生活を送ることができるのか!?
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~
kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。
何故か超絶美少女に嫌われる日常
やまたけ
青春
K市内一と言われる超絶美少女の高校三年生柊美久。そして同じ高校三年生の武智悠斗は、何故か彼女に絡まれ疎まれる。何をしたのか覚えがないが、とにかく何かと文句を言われる毎日。だが、それでも彼女に歯向かえない事情があるようで……。疋田美里という、主人公がバイト先で知り合った可愛い女子高生。彼女の存在がより一層、この物語を複雑化させていくようで。
しょっぱなヒロインから嫌われるという、ちょっとひねくれた恋愛小説。

小学生の時にかけた恋のおまじないが、さっき発動しました。
サイトウ純蒼
青春
「恋のおまじないだよ」
小学校の教室。
片思いだった優花にそう言われたタケルは、内心どきどきしながら彼女を見つめる。ふたりの間で紡がれる恋まじないの言葉。でもやがてそれは記憶の彼方へと消えて行く。
大学生になったタケル。
通っていた大学のミスコンでその初恋の優花に再会する。
そして発動する小学校時代の『恋まじない』。タケルは記憶の彼方に置き忘れてきた淡い恋を思い出す。
初恋と恋まじない。
本物の恋と偽りの想い。
――初恋が叶わないなんて誰が決めた!!
新たな想いを胸にタケルが今、立ち上がった。

俺の家には学校一の美少女がいる!
ながしょー
青春
※少しですが改稿したものを新しく公開しました。主人公の名前や所々変えています。今後たぶん話が変わっていきます。
今年、入学したばかりの4月。
両親は海外出張のため何年か家を空けることになった。
そのさい、親父からは「同僚にも同い年の女の子がいて、家で一人で留守番させるのは危ないから」ということで一人の女の子と一緒に住むことになった。
その美少女は学校一のモテる女の子。
この先、どうなってしまうのか!?
Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説
宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。
美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!!
【2022/6/11完結】
その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。
そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。
「制覇、今日は五時からだから。来てね」
隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。
担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。
◇
こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく……
――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる