9 / 52
【第2章】彼女がいた世界、そして笑う
第2話
しおりを挟む「なるほどね。随分上手く取り入ったじゃないか。姑息なやり方で標的を手なずける……それが吸血鬼という生き物らしい」
ヴァンの目がかっと見開かれた。
その瞬間、どす黒い暗雲が立ち込めたようにして、室内の空気がにわかに重量を増す。
明るく灯っていた電燈が突然ふっと消え、辺りは薄暮に包まれた。
「貴様の生き残るわずかな可能性は、今を限りに消滅した。冥府の先で後悔するんだな。己が俺の逆鱗に触れたことを……!」
その途端、漆黒の霧のような形をした凄まじい力がヴァンの身体から放たれた。
一瞬だが、黒数珠の力が緩み、弱まる。
遥の表情から刹那、笑みが消えうせた。低く舌打ちすると、
「無駄なことをする」
再び錫杖を振り上げて、力を込めた。それで数珠は元の勢いを取り戻し、ヴァンの身体を緊縛する。
先ほどよりもずっと強い戒めに、ヴァンは顔を歪ませた。
「遊びの時間はもう終わりだ。果てない地獄で永久にさまようがいい。……無為な二百年だったな」
ヴァンの身体が薄れかかって見える。聖は首を振って喉が枯れるほどに叫んだ。
「駄目だ!やめろ!殺さないで……!」
遥は涼しい笑顔で聖の懇願を聞き流し、錫杖を掲げてヴァンにとどめの一撃を振り下ろした。
「さようなら、愚かな吸血鬼さん」
「っやめろおおおっ!!!!!!!!」
聖が自分の鼓膜が破れるほどの叫び声をあげた、そのときだった。
何か熱い塊が体を駆け抜け飛び出していったかと思うと、パリン、と澄んだ物悲しい音が響き、結界が割れて破片が四方へ飛散した。
聖はそれをヴァンがやったのだと錯覚し、そのまま彼のそばへ駆け寄る。
膝をついて、黒数珠を引きちぎろうと手をかけた瞬間、
「え?!」
数珠をつないでいた紐がぶつりと音を立てて切れ、数珠の珠が弾けるようにして床へこぼれて勢いよく散らばった。
「……」
その様子を少し離れた場所で目撃した遥は、目を見開いて驚きを浮かべ、それから剣呑な眼差しになる。
(触れただけで壊れた……何で……)
聖は戸惑いながらも、青白く生気を失った顔で横たわるヴァンを覗き込み、肩に手をかけて揺すぶった。
ヴァンの目がかっと見開かれた。
その瞬間、どす黒い暗雲が立ち込めたようにして、室内の空気がにわかに重量を増す。
明るく灯っていた電燈が突然ふっと消え、辺りは薄暮に包まれた。
「貴様の生き残るわずかな可能性は、今を限りに消滅した。冥府の先で後悔するんだな。己が俺の逆鱗に触れたことを……!」
その途端、漆黒の霧のような形をした凄まじい力がヴァンの身体から放たれた。
一瞬だが、黒数珠の力が緩み、弱まる。
遥の表情から刹那、笑みが消えうせた。低く舌打ちすると、
「無駄なことをする」
再び錫杖を振り上げて、力を込めた。それで数珠は元の勢いを取り戻し、ヴァンの身体を緊縛する。
先ほどよりもずっと強い戒めに、ヴァンは顔を歪ませた。
「遊びの時間はもう終わりだ。果てない地獄で永久にさまようがいい。……無為な二百年だったな」
ヴァンの身体が薄れかかって見える。聖は首を振って喉が枯れるほどに叫んだ。
「駄目だ!やめろ!殺さないで……!」
遥は涼しい笑顔で聖の懇願を聞き流し、錫杖を掲げてヴァンにとどめの一撃を振り下ろした。
「さようなら、愚かな吸血鬼さん」
「っやめろおおおっ!!!!!!!!」
聖が自分の鼓膜が破れるほどの叫び声をあげた、そのときだった。
何か熱い塊が体を駆け抜け飛び出していったかと思うと、パリン、と澄んだ物悲しい音が響き、結界が割れて破片が四方へ飛散した。
聖はそれをヴァンがやったのだと錯覚し、そのまま彼のそばへ駆け寄る。
膝をついて、黒数珠を引きちぎろうと手をかけた瞬間、
「え?!」
数珠をつないでいた紐がぶつりと音を立てて切れ、数珠の珠が弾けるようにして床へこぼれて勢いよく散らばった。
「……」
その様子を少し離れた場所で目撃した遥は、目を見開いて驚きを浮かべ、それから剣呑な眼差しになる。
(触れただけで壊れた……何で……)
聖は戸惑いながらも、青白く生気を失った顔で横たわるヴァンを覗き込み、肩に手をかけて揺すぶった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

コミュ障な幼馴染が俺にだけ饒舌な件〜クラスでは孤立している彼女が、二人きりの時だけ俺を愛称で呼んでくる〜
青野そら
青春
友達はいるが、パッとしないモブのような主人公、幸田 多久(こうだ たく)。
彼には美少女の幼馴染がいる。
それはクラスで常にぼっちな橘 理代(たちばな りよ)だ。
学校で話しかけられるとまともに返せない理代だが、多久と二人きりの時だけは素の姿を見せてくれて──。
これは、コミュ障な幼馴染を救う物語。
毎日更新します。

俺たちの共同学園生活
雪風 セツナ
青春
初めて執筆した作品ですので至らない点が多々あると思いますがよろしくお願いします。
2XXX年、日本では婚姻率の低下による出生率の低下が問題視されていた。そこで政府は、大人による婚姻をしなくなっていく風潮から若者の意識を改革しようとした。そこて、日本本島から離れたところに東京都所有の人工島を作り上げ高校生たちに対して特別な制度を用いた高校生活をおくらせることにした。
しかしその高校は一般的な高校のルールに当てはまることなく数々の難題を生徒たちに仕向けてくる。時には友人と協力し、時には敵対して競い合う。
そんな高校に入学することにした新庄 蒼雪。
蒼雪、相棒・友人は待ち受ける多くの試験を乗り越え、無事に学園生活を送ることができるのか!?
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
何故か超絶美少女に嫌われる日常
やまたけ
青春
K市内一と言われる超絶美少女の高校三年生柊美久。そして同じ高校三年生の武智悠斗は、何故か彼女に絡まれ疎まれる。何をしたのか覚えがないが、とにかく何かと文句を言われる毎日。だが、それでも彼女に歯向かえない事情があるようで……。疋田美里という、主人公がバイト先で知り合った可愛い女子高生。彼女の存在がより一層、この物語を複雑化させていくようで。
しょっぱなヒロインから嫌われるという、ちょっとひねくれた恋愛小説。

小学生の時にかけた恋のおまじないが、さっき発動しました。
サイトウ純蒼
青春
「恋のおまじないだよ」
小学校の教室。
片思いだった優花にそう言われたタケルは、内心どきどきしながら彼女を見つめる。ふたりの間で紡がれる恋まじないの言葉。でもやがてそれは記憶の彼方へと消えて行く。
大学生になったタケル。
通っていた大学のミスコンでその初恋の優花に再会する。
そして発動する小学校時代の『恋まじない』。タケルは記憶の彼方に置き忘れてきた淡い恋を思い出す。
初恋と恋まじない。
本物の恋と偽りの想い。
――初恋が叶わないなんて誰が決めた!!
新たな想いを胸にタケルが今、立ち上がった。

俺の家には学校一の美少女がいる!
ながしょー
青春
※少しですが改稿したものを新しく公開しました。主人公の名前や所々変えています。今後たぶん話が変わっていきます。
今年、入学したばかりの4月。
両親は海外出張のため何年か家を空けることになった。
そのさい、親父からは「同僚にも同い年の女の子がいて、家で一人で留守番させるのは危ないから」ということで一人の女の子と一緒に住むことになった。
その美少女は学校一のモテる女の子。
この先、どうなってしまうのか!?
Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説
宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。
美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!!
【2022/6/11完結】
その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。
そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。
「制覇、今日は五時からだから。来てね」
隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。
担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。
◇
こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく……
――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――
冬の水葬
束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。
凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。
高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。
美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた――
けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。
ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる