【完結】だからお願い、恋をさせて ー死んだはずのクラスのボッチ美少女が目の前に現れた。童貞陰キャの俺氏、大パニック。-

竜竜

文字の大きさ
上 下
5 / 52
【第1章】日常、そして想い出す

第3話

しおりを挟む
 ようやく学校に到着し、自転車置き場から帰ってくる友助を待っていた。
 校庭の方から何やら声がするなと思い、少し覗いてみることにした。
 陸上部が朝練をしているところのようだ。
 今まさに短距離走が行われようとしている。

 選手たちは、クラウチングスタートをするための踏切版・スターティングブロックを各々の走りやすい位置に調節し、スタートの合図を待っている。
 このスターティングブロック(通称:スタブロ)は、スタートダッシュをするうえで重要な器具になる。
 選手それぞれで、最初に踏み出す足は左右どちらなのか、足の長さ、踏ん張りやすい足首の角度などが違うため、ブロックの前後の位置と角度を調節することができる。
 通常、人間が後ろの足で地面を蹴り前に踏み込むとき、およそ120度くらいの角度で踏ん張るのが理想なのだそうだ。
 これによってブロックからの反作用の力をより多く得ることができる。
 当然、どの角度、どの位置で踏ん張るのが最適かは人によって違ってくる。
 足だけではなく、スタブロで構えて地面に両手を付けるときの肩と指の開き幅をどのくらいにするのかも人によって違いがでてくる。
 たとえ決まった位置があったとしても、その日の調子によって、さらに微調整を加えることもある。
 そしてスタートは、その出来によってゼロコンマ1秒を左右する重要なファクターとなる。
 陸上競技の世界で、ゼロコンマ1秒というのは、とてつもなく大きな壁であり、100m走でいうと、11秒1と11秒2の間にどれほどの選手がいるのかは測り知れない。

 そんな世界で俺は、去年まで戦ってきた。
 今でも走ることは好きだし、陸上を辞めてからも勉強の合間をぬってランニングをしている。

「オン・ユアー・マークス」

 競技ルールで決められているのだが、スタートの合図は英語だ。これは〈位置について〉という意味。
 女性陣が走るようだ。それぞれ自分のルーティーンに従ってジャンプをしたり、太ももやふくらはぎをたたいて刺激を与えている。
 その中で一人、他とは比べ物にならないほど美しく、そして圧倒的なオーラを放つ人がいる。

 遠くからでも分かるほど、すらっと伸びた手足、程よく日焼けした肌、そして走るのを妨げないようにまとめ上げたお団子ヘアー。
 まっすぐゴールを見つめる集中しきった目。

 思わず息を飲む。
 選手の準備が整った。
 スタブロで構え、地面に両手を付き、目線を下にしている。
 静かな時が流れる。
 もしかしたら登校中の生徒たちの話し声が聞こえているのかもしれないが、そんなこと気にならないほど、目を奪われていた。

「セット」

 一斉に片膝を地面から離し、腰を上げる。
 その美しい選手は、止まった態勢でも、これから鋭くスタートを切ることを予感させるほどの雰囲気をまとっていた。

 パンッ

 スタートの合図をするためのピストル・雷管から乾いた破裂音と微かな白い煙が放たれる。

 すると、目を疑うほど一瞬で、先頭に立つ者が一人。
 あの美しい選手だ。
 前傾姿勢を維持し、徐々に目線を上にあげている。

 速い。

 それだけじゃない、踏み出す一歩一歩の足さばき、コンパクトで無駄のない腕振り、そのどれもが洗練されていて、走る姿までもが美しく圧倒的だ。
 そしてあっという間に、50mの距離を1位で駆け抜けた。
 タイムを測定していたマネージャーが飛び跳ねている。おそらくいい記録が出たのだろう。

「やっぱり律先輩は綺麗だよな」

 いつの間にか自転車置き場から戻り、隣にいた友助が話しかけてきた。
 隣にいたのに気付かなかったのか。
 どれだけ見惚れていたんだ俺は。

 友助は、伊勢崎先輩の美貌に当てられたがごとく、気持ち悪い満足笑みを浮かべながら、近くのマットに背中から倒れ込む。
 高跳び用のマットだが、今は選手がいないらしく、校舎側に捌けてあるようだ。

「伊勢崎律(いせさき りつ)、県立賢明高校2年生で学校一の美女。そして陸上部の絶対的エース。2次元にしかブヒブヒ言わない直行には興味ないと思うがな」
「そんなわけあるか! 3次元女子とのつながりがないだけで、興味はある。むしろ興味しかない」

 天は二物を与えずという言葉があるが、あの人ほど現実離れした才能を持っている人はいないのではなかろうか。
 足が速くて美しい。
 そして周りからも絶大な信頼を得ている。

「じゃあ、そのこじらせ癖をなんとかするために、律先輩に告白してみれば?」
「バカをいうな。告白とは好きになって一緒に添い遂げたいと誓うためにするものだ。まずはしっかりとお互いを知ってからだな――」
「あーはいはい、わかりましたよ。マジメ過ぎるんだよ直行は。告白を重く受け止めすぎ。結婚じゃあるまいし、まずはお互いを知るために付き合うっていうのもありなんじゃないか?」
「そんな軽率なことはできない。好きでもない相手と付き合っても、逆に相手に失礼だ」
「ひと昔前ならそうかもしれないが、今の世の中は色々な子と付き合って、失敗して、そうして学んだことを、最終的に一人の子を幸せにするために活かすんじゃねぇのか」
「いや、俺が付き合うのは結婚前提だ。それ以外のお付き合いは認めん」
「ダメだこりゃ。完全にこじらせてる」

 これはこじらせているのではない。
 一人の人だけを一生大切にするんだ。そのために将来のパートナーとなる人を見つけてやる。

 そして俺の第六感は告げている。

 この学校に、そのパートナーは存在すると!
 待っていろ! 俺のバラ色のスクールライフ!

 このまま男二人で陸上部の様子を見過ぎていると、妙な誤解をされかねないので、そのまま自分の教室へと向かうことにした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

コミュ障な幼馴染が俺にだけ饒舌な件〜クラスでは孤立している彼女が、二人きりの時だけ俺を愛称で呼んでくる〜

青野そら
青春
友達はいるが、パッとしないモブのような主人公、幸田 多久(こうだ たく)。 彼には美少女の幼馴染がいる。 それはクラスで常にぼっちな橘 理代(たちばな りよ)だ。 学校で話しかけられるとまともに返せない理代だが、多久と二人きりの時だけは素の姿を見せてくれて──。 これは、コミュ障な幼馴染を救う物語。 毎日更新します。

俺たちの共同学園生活

雪風 セツナ
青春
初めて執筆した作品ですので至らない点が多々あると思いますがよろしくお願いします。 2XXX年、日本では婚姻率の低下による出生率の低下が問題視されていた。そこで政府は、大人による婚姻をしなくなっていく風潮から若者の意識を改革しようとした。そこて、日本本島から離れたところに東京都所有の人工島を作り上げ高校生たちに対して特別な制度を用いた高校生活をおくらせることにした。 しかしその高校は一般的な高校のルールに当てはまることなく数々の難題を生徒たちに仕向けてくる。時には友人と協力し、時には敵対して競い合う。 そんな高校に入学することにした新庄 蒼雪。 蒼雪、相棒・友人は待ち受ける多くの試験を乗り越え、無事に学園生活を送ることができるのか!?

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

何故か超絶美少女に嫌われる日常

やまたけ
青春
K市内一と言われる超絶美少女の高校三年生柊美久。そして同じ高校三年生の武智悠斗は、何故か彼女に絡まれ疎まれる。何をしたのか覚えがないが、とにかく何かと文句を言われる毎日。だが、それでも彼女に歯向かえない事情があるようで……。疋田美里という、主人公がバイト先で知り合った可愛い女子高生。彼女の存在がより一層、この物語を複雑化させていくようで。 しょっぱなヒロインから嫌われるという、ちょっとひねくれた恋愛小説。

小学生の時にかけた恋のおまじないが、さっき発動しました。

サイトウ純蒼
青春
「恋のおまじないだよ」 小学校の教室。 片思いだった優花にそう言われたタケルは、内心どきどきしながら彼女を見つめる。ふたりの間で紡がれる恋まじないの言葉。でもやがてそれは記憶の彼方へと消えて行く。 大学生になったタケル。 通っていた大学のミスコンでその初恋の優花に再会する。 そして発動する小学校時代の『恋まじない』。タケルは記憶の彼方に置き忘れてきた淡い恋を思い出す。 初恋と恋まじない。 本物の恋と偽りの想い。 ――初恋が叶わないなんて誰が決めた!! 新たな想いを胸にタケルが今、立ち上がった。

俺の家には学校一の美少女がいる!

ながしょー
青春
※少しですが改稿したものを新しく公開しました。主人公の名前や所々変えています。今後たぶん話が変わっていきます。 今年、入学したばかりの4月。 両親は海外出張のため何年か家を空けることになった。 そのさい、親父からは「同僚にも同い年の女の子がいて、家で一人で留守番させるのは危ないから」ということで一人の女の子と一緒に住むことになった。 その美少女は学校一のモテる女の子。 この先、どうなってしまうのか!?

Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説

宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。 美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!! 【2022/6/11完結】  その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。  そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。 「制覇、今日は五時からだから。来てね」  隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。  担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。 ◇ こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく…… ――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――

冬の水葬

束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。 凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。 高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。 美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた―― けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。 ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。

処理中です...