21 / 37
【第5章】強化! チームワーク‼
第2話
しおりを挟む「ごめーん! 待った?」
待ち人が来たのかと思い、振り返る。
「全然待ってないよ! 今日も可愛いね♪」
「ふふっ♪ ありがと! じゃあ行こっか! そういえば、来週の土曜日は夏祭りだよ」
「そっか! じゃあ来週はお祭りデートだ」
「うん♪」
見知らぬカップルが、デートの待ち合わせをしていたらしい。
ああ、落ち着かねぇ……。
かくいう俺も待ち人がいるのだ。
緊張しすぎて約束の時間の2時間前から待機している。
ってか、今はその人とは同じ家に住んでるんだし、待ち合わせする必要もないはずなんだけど。
まぁ、とりあえず屈伸でもして気を紛らせよう……。
フン! フン! フン!
うん、ダメだ。
余計に心臓の鼓動が早まるばかり。
「アンタ何やってんのよ……。恥ずかしくて声掛けづらかったんですけど」
ここ最近になって、やたらと聞き馴染んでいる声。
振り返って見てみると、想像だにしていなかった光景に思わず唖然としてしまった。
「ちょっと……なに口開いたまま固まってるのよ。起きてる?」
「ああ……」
開いた口が塞がらないとは、まさにことを言うのだろう。
目の前にいるのは青柳杏沙。
幼女戦隊リトルガールズのブルー担当。
水の力を操る一つ年上のお姉さん。
いつも俺に対して厳しくて、何かと暴力をふるう狂暴女。
まぁ、たいていは俺のせいでもあるのだけど……。
でも、今目の前にいるのは本当に杏沙なのかと疑いたくなってしまうほど……見惚れてしまっている。
狂暴だし怒ると怖いけど、なんだかんだ頼れるお姉さんって感じで、言ってしまえば美人だ。
しかし、目の前の女性は、そこら辺の芸能人よりもはるかに綺麗で華やかさにあふれている。
スレンダーな身体をさらに美しく艶やかに見せる黒のノースリーブニット。
ウエストをより細く見せるとともに、すらりと伸びる足を強調させるカーキ色のワイドパンツ。
なんか周りの人もチラチラこっちを見てくるし、そんな人の隣にいるのが俺とか……ちょっと気恥ずかしいというか、ふさわしくないというか……そのくらいのギャップを感じてしまうほど気おくれしてしまう。
「……と! ……らと! ……新斗!」
バチンッ!
「いとぅあ! 何でビンタ⁉」
「アンタがいつまでたっても無視するからでしょ!」
「見惚れてたんだからしょうがないだろ! ……やべっ!」
慌てて口を塞ぐ。色々と不意打ち過ぎて、つい口が滑ってしまった。また怒られる……!
って、あれ? 身構えているけど何も起こらない。恐る恐る確認してみると……
「えっ……?」
今度は杏沙がフリーズしていた。だが、すぐに元の調子に戻り、
「な、何言ってるのよ! いいからさっさと行くわよ!」
「へいへい」
歩き出す二人。しかし、
「きゃっ!」
「ん?」
後ろにいる杏沙が何か言ってきたのかと思って後ろを振り返ると、
ゴツン!
「「いたっ!」」
何かにつまずいたらしい杏沙が、倒れた拍子に俺に頭突きをしてきた。
「ちゃんと受け止めてよね……うー、いた」
「いきなりすぎるわ! てか、何もないところでこけたの? 案外ドジっ子だな」
「うっさい。いい? これだけは死んでも忘れないでね! これはデートなんかじゃないから! し・か・た・な・くやってるんだから!」
「わぁってるよ。さっさと行こうぜ」
そう。これはデートでは断じてない。
つい先日。
ダピルから、幼女戦隊の三人は信頼関係が構築できていないと指摘された。
敵も段々強くなってくるため、今後は信頼関係を前提とした連携プレーが必要不可欠。
不本意ながら、俺がその信頼関係構築のネックになっているということで、こうして一緒に行動して、お互いを知っていくことから始めることにしたのだ。
だから、まずは杏沙とこうして休日に一緒に街に出てきた。
ゆえに、これはデートではないのだ。
……でも、見た目だけは芸能人並みの美女と一緒に歩くことができて、ちょっと誇らしく思う自分もいる。
複雑な男心だぜ。
「着いたわ。今日は買いたいものとか見たいものがいっぱいあるのよね♪」
そう言いながら、スマホのメモアプリを見て楽しそうにしている。
やって来たのは、この島で一番大きな商業複合施設。
衣食住に関連するものはほとんど揃えることができるし、ボウリングやバッティングセンター、カラオケなど様々なアミューズメント施設が入った娯楽施設まで併設されている。
……って、あれ? 俺ってもしかして荷物持ち⁉
その予感は的中し、オシャレな洋服店や雑貨店を回っては試着と購入を繰り返す。
すでに俺の両手は重い荷物で塞がっていた。
「あの……杏沙さん……? これじゃ信頼関係どころか主従関係を築き上げちゃってるんですけど⁉」
「それもいいかもね♪」
「なんですと⁉」
「ふふっ♪ 冗談よ♪ ねぇ、こっちの服とこっちの服、はたして私はどっちを着たいと思っているでしょうか?」
突然のクイズ。
杏沙が手に持っているのは、黒のワンピースと白のワンピース。
デザインはあまり変わらない。どっちの色が好みかの二択の問題ということか。
これは杏沙の理解度が試されるぞ。
今日の買い物の傾向や今着ている服の傾向から考えると……
「黒の方?」
「ブッ、ブーッ! 残念。正解は白でした~♪ 二択でも間違うなんて、理解度が足りてないぞ!」
そう言いながら、少女のような可愛い笑顔を見せる。
ったく、不意打ちはやめてくれ。
心臓の鼓動が早くなってる。
これって、疲れて息が上がってるってだけだよね?
そんな俺のことなんて露知らずの杏沙は急に立ち止まり、
「お腹が減っちゃったからお昼にしましょ!」
ということで、荷物は全部ロッカーにしまい、すぐ近くにあるレストランに入った。
そして、各々食べたいものを食べ終わった頃。
「お待たせしました。りんごたっぷりパンケーキです」
「わー! おいしそう♪ ここのパンケーキ、食べてみたかったんだよね~」
「えっ? まだ食べるの? さっき食べたばっかじゃん」
「リンゴは別腹。私、リンゴが一番好きなの」
そう言いながらおいしく頬張る杏沙。
そして、嘘のようにペロリと平らげてしまった。こんなに細いのによく食えるな……。
そう思っていた矢先、おもむろに杏沙が口を開く。
「久しぶりにこんな遊んだ気がする! お買い物して、おいしいもの食べて」
こんな無邪気な姿を見るのは新鮮だ。
いつもはおばあちゃんを無理させないために、精一杯働いてるし、少しでも息抜きになったのならよかったかな。
ちなみに、今日は夏休みと称して銭湯も3日間の休業中だ。
だから今日は存分に遊べる。
紙ナプキンで口を拭いていた杏沙は、次の予定を提案。
「カロリーをいっぱい取っちゃったことだし、少し動かない?」
「マジ?」
食べたばかりたというのに、本当にアクティブな人だ。
しかし、これは今までの俺の評価を覆すビッグチャンス。
なぜなら————
「せいっ!」
「きゃっ! もう! ちょっとは手加減しなさいよ! なんでこんなに強いのよ」
「がはははっ! これが俺の実力だ! 見直したか?」
「普段はあんなに足手まといのくせに……」
アミューズメント施設に移動した俺たちは、バドミントンに興じている。俺の見事なラケットさばきにより、杏沙には一ポイントも取られていない。
その後もボーリングやバスケとかもやったが圧倒的な力の差を見せつける。
「ハァ……ハァ……、アンタって……意外と運動できるのね」
「まぁ運動だけはね」
「そっか。頭は悪いか」
「そこはもうちょっと俺を持ち上げてよ! 『あなたの良さは運動だけじゃないわ』とかさ!」
「嫌だよーだっ! 思ってもそんなことは絶対に言いません!」
こうして、楽しようなドキドキするような一日があっという間に終わっていく。
「そろそろ帰ろっか」
「そうだな」
再びあの大量の荷物をたずさえ、帰ろうとしたとき、
「待って」
急に呼び止められ、杏沙が自分のカバンからある箱を取り出す。
「これ……アンタにあげる。別に他意はないからね。今日は荷物も持ってもらったし、そのお礼というかなんというか……ただの気まぐれだからね!」
「ツンデレみたいな発言だな。まさか俺のこと……」
「なわけないでしょ!」
バシッ!
背中を思いっきり蹴られる。
痛みを我慢しながら、いつ買ってくれたのか分からない箱の蓋を空けてみると……
「おお! ネクタイだ! ありがとう‼」
入っていたのは、赤が基調の水玉模様のネクタイ。
女の子からのプレゼントなんていつ以来だろう。
……そうでした。
記憶にありませんでした……。
ん? 待てよ?
普段の俺って、ネクタイをする必要がないのに、なんでだ?
「早くそれをつけられるように、さっさとちゃんとした仕事を見つけなさいよ」
「なんだよその、ニートな息子を持つ母親のプレゼントと称した無言の働けアピールは!」
「ふふっ! だってそうでしょ? アンタがいて助かってるのは事実だけどね♪」
そう言って笑う彼女は、やっぱり可愛くて綺麗で見惚れてしまうほど魅力にあふれていた。
今日一日で、今まで見ていなかった杏沙の一面を見られたのは事実だが、これが本当に信頼関係構築に結びついたのかは分からない。
ただ……楽しかった。
それだけは事実として胸の中にしまっておくことにした俺であった。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。
星の国のマジシャン
ファンタジー
引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。
そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。
本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。
この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる