11 / 37
【第2章】失くしたもの
第3話
しおりを挟む世間では五月病という言葉がある通り、5月の長い休みの後は、まだどこかダラダラした空気感が残っている。
かくいうボクも、結葉と出かけた日以外はずっと家に引きこもってネトゲをしていた。
まだまだ五月の前半だというのにも関わらず、日差しの強さがますます増し、冷房をつけないと暑くて熱中症になってしまいそうに思えるくらいだ。
クーラーの中で食べるカップアイス。
口の中が寂しくなったらポテトチップス。
甘いものが欲しくなったら今度はチョコレート。
完全にダメダメな食生活を送ってしまった。
でも不思議なことに、体重はあまり変わらないというのが数少ないボクの取柄だったりする。
授業中にも関わらずこんなことを考えてしまうあたり、やはりボクも五月病にかかってしまったみたいだ。
キーン、コーン、カーン、コーン
いつの間にか、本日最後の授業に終わりを告げるチャイムが鳴った。
最後の授業は生物で移動教室。
今日は掃除当番でもないし、ホームルームが終わったら真っすぐ帰ってネトゲ三昧だ。
みんなが自分の教室に戻る中、ボクはまだ立ち上がらない。
あまりみんなの輪の中に入りたくないからだ。
最後にひっそりと風のように去っていく。
ただし、あからさまに一人でポツンといると先生からも目をつけられてしまうから、その絶妙なタイミングを見計らうのが重要になってくる。
それがボクのスタイルだった。
最近は結葉と一緒に行動してばかりだったから、こうやって一人で行動するのは久しぶり。
なぜ一人かというと、今日は結葉がズル休みだからだ。
昨日まで北の方にある父方の実家に行っていたため、「疲れたしなんかダルいから今日は休む」とのことらしい。
ようやく席を立って教室を去ろうとしたとき、あるものを拾った。
誰かの生徒手帳のようだ。
名前を確認してみると「真中沙央梨」と丁寧な字で書かれている。よく物を落とす子だな。
ちょっと微笑ましく思っていると、
パサリ
「これは……去年の体育祭の写真かな?」
1年生のときに同じクラスだった女の子たちが仲良くピースをして写っている。
たしかカメラマンの人が撮り歩いていたっけ。
基本的に卒業アルバム用だと思うが、希望者にはサンプル写真の一覧の中から選んで購入することができた。
ボクは当然買ってない。
何の思い入れもないし。
でも、この写真————
「あっ、武田さんが拾ってくれたんだ。私の生徒手帳さん」
急いで戻って来たのか、ちょっと息を切らしながら真中さんがやってきた。
「う、うん。そうだ、中にあった写真も落ちてきちゃって、ちょっと見ちゃった」
「あ、そうなんだ……。拾ってくれてありがとう」
一瞬、戸惑ったような目をした気がするけど、すぐにまた優しい柔らかな表情に戻った。
「去年の体育祭だよね? 写真買ったんだ?」
「大切な思い出だからね。でも、こうやって落として失くしたら嫌だなぁ。そうだ! この写真さんもお庭にしまっちゃおうかな!」
「お庭にしまう? 大切なものなのに埋めちゃうってこと?」
「大切なものだからだよ♪ 大切なものとか宝物を失くすと悲しくなっちゃうでしょ? だったら無くさないように、自分の一番身近なところに大切にしまっておくの。なんかタイムカプセルっぽくて、ずっと未来まで一緒になれる気がする」
大事そうに写真を胸に押し当てながら、笑顔でそう答える真中さん。
周りの人間関係も良好で、みんなから頼りにされて、学級委員までやって、この学校での生活をちゃんと送れている。
この子の住んでいる世界は、やはりボクとは決定的に違うみたいだ。
先に教室へ戻っていった真中さんを見送り、自分も後に続く。
ふと、先ほどの写真が頭をよぎる。
真中さんを含め3人で仲良くピースをしている、その後ろ。
つまらなそうに競技の様子を見つめている人間が一人。
やっぱり……あれはボクだよね?
まぁ一緒のクラスにいたんだし、写真に写り込んでしまうこともあるか。
楽しそうにしているところに、ボクのような暗い顔をした人が写り込んでしまったのは本当に申し訳ないと思ってしまった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』
コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ”
(全20話)の続編。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211
男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は?
そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。
格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。
M性に目覚めた若かりしころの思い出
なかたにりえ
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、それをはじめて自覚した中学時代の体験になります。歳を重ねた者の、人生の回顧録のひとつとして、読んでいただけましたら幸いです。
一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。
後悔と快感の中で
なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私
快感に溺れてしまってる私
なつきの体験談かも知れないです
もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう
もっと後悔して
もっと溺れてしまうかも
※感想を聞かせてもらえたらうれしいです
女ハッカーのコードネームは @takashi
一宮 沙耶
大衆娯楽
男の子に、子宮と女性の生殖器を移植するとどうなるのか?
その後、かっこよく生きる女性ハッカーの物語です。
守護霊がよく喋るので、聞いてみてください。
ジャグラック デリュージョン!
Life up+α
青春
陽気で自由奔放な咲凪(さなぎ)は唯一無二の幼馴染、親友マリアから長年の片想い気付かず、咲凪はあくまで彼女を男友達として扱っていた。
いつも通り縮まらない関係を続けていた二人だが、ある日突然マリアが行方不明になってしまう。
マリアを探しに向かったその先で、咲凪が手に入れたのは誰も持っていないような不思議な能力だった。
停滞していた咲凪の青春は、急速に動き出す。
「二人が死を分かっても、天国だろうが地獄だろうが、どこまでも一緒に行くぜマイハニー!」
自分勝手で楽しく生きていたいだけの少年は、常識も後悔もかなぐり捨てて、何度でも親友の背中を追いかける!
もしよろしければ、とりあえず4~6話までお付き合い頂けたら嬉しいです…!
※ラブコメ要素が強いですが、シリアス展開もあります!※
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
かずのこ牧場→三人娘
パピコ吉田
青春
三人娘のドタバタ青春ストーリー。
・内容
経営不振が続く谷藤牧場を建て直す為に奮闘中の美留來。
ある日、作業中の美留來の元に幼馴染の一人のびす子がやって来る。
びす子が言うには都会で頑張ってるはずのもう一人の幼馴染の花音が帰って来ると連絡が来たとの事だった。
いつも学生時代から三人で集まっていた蔵前カフェで花音と会う為に仕事を終わらせびす子と向かうと・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる