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天狗の鼻を折る

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 階段を降り下の階を探しを繰り返して、地下6階まで降りた。地下に進んでいるから魔物も強くなってきている。魔物1体1体の我が強いから、群れで行動する魔物は少なくなってきた為か囲まれることはほとんどないが、万一囲まれてしまったら切り抜けられないかもしれない。

 下の階への階段を探していたら、前方に魔物が1体倒れているのを見つけた。キラーハウンドだ。大型犬よりも2回りほど大きい魔物で、群れで狩りをする。非常に獰猛な魔物だ。
 キラーハウンドは全身傷だらけで体の周りに血溜まりができている。お腹あたりが苦しそうに上下しているからまだ生きてはいるようだ。周りにキラーハウンドがいないから、怪我をして足手纏いと判断され捨てられたんだろう。
 危険がないようにこいつを殺すのが普通だろうが、なんとなくとどめを刺す気にならなかった。
 止めどなく血が流れているから手遅れかもしれないが、安い回復薬を布に染み込ませ傷口に当てる。直接かける方が効果が高いが、ぶっかけて回復薬で窒息して死んでしまったら治療の意味がない。バングルから包帯を取り出し、回復薬を染み込ませ傷口に巻きつける。
 止血を済ませ、キラーハウンドを抱え見つかりにくい所に移動させる。
 どうしてこいつを助けたのか、自分でもさっぱり分からない。理由はない、ただの気まぐれということにしておこう。

「ーーんな!」

 鎌を背負い直し移動しようとした時、遠くから声が聞こえてきた。相当怒っている、聞き覚えのある声だ。
 気になりそちらに向かおうと足を動かした時、キラーハウンドが起きあがろうと体勢を変えた。殺意は感じられないから、襲う気は無さそうだ。

「怪我してるんだからお前はここにいな。動くと傷口が広がるぞ。」

 怪我をしていない部分を優しく抑え、起きあがろうとするのを阻止する。何故だかこいつには死んでほしくなかった。

 私はキラーハウンドを置いて、声がした方へ走った。近づくにつれて怒号が大きくなっていく。喧嘩だろうか、何かを殴っているような音も聞こえてきた。

「お前のせいで1体逃しただろうが!どうしてくれんだ、この無能が!!」

 はっきりとそう聞こえた。怒号を発している人間は、どうやらパーティの内1人に対して怒りを向けているようだ。
 奴らの周りはキラーハウンドの死体だらけだ。どうやらさっきの怪我をしていた子は、こいつらから命からがら逃げた子だったみたいだ。
 私は喧嘩しているパーティにバレないように、影に入って近づく。

「もうこいつ居なくて良くね??荷物持ちにしかならないし、てかバングルあるから荷物持ちいらないし。サポートも全然できない、役立たずなんか生きてるだけ無駄っしょ?邪魔よ。」

 怒号とは違う、落ち着いた声が響いた。これは喧嘩や仲間割れとは違う感じだ。
 私は影の中から、こっそり様子を伺う。
 私と同じくらいの歳の竜人の男が壁際に尻餅をついた状態で、他の3人に囲まれていた。

「それもそうだな。いるだけ邪魔だわ。」

 さっきまで怒り狂っていた男がその言葉に落ち着きを取り戻したと同時に剣を振り上げた。
 あぁ、嫌だな。本当に嫌だ。
 私は影から出て振り下ろされた剣を鎌で受け止めた。
 面倒事に巻き込まれたくない。なるべく静かで、穏やかでいたい。見て見ぬ振りをすれば関わることなく終わったのに。なのに、飛び出してしまった。

「あ?なんだよてめぇ。お前も殺されてぇの?」
「こいつ、1階で会った痛いやつじゃん。なに邪魔してくれてんの?」

 声にイラつきが戻ってきて、剣もどんどん重くなる。一度鎌を手前に引き、右側に剣を弾き構え直す。

「嫌だなぁ。怒鳴り声を聞くとさ前の事を思い出すんだよ、惨めで哀れなあの時をさ。何で邪魔するかだっけ?前の自分見てる見てるみたいで腹立つからだよ。」

 相手を睨みながらそう返す。ついでに『鑑定』をして相手のLvと職業を覗く。
 平均Lv40、剣士、魔導士、パラディンのパーティだ。
 剣士は剣で戦い、魔導士は魔法を使って戦う。パラディンは確か、斧、大剣系の大きな武器で戦いながら仲間の治療もできる中距離型の職業だったはず。
 鎌闘士の私も近距離型だから、上手く戦えたとしてもジリ貧だ。短期で一気に殺しにかかった方がいいな。

「もういいや、そこ退く気ないみたいだし。お前も邪魔。」

 相手パーティも武器を構える。こっちの出方を伺っているようだ。
 向こうには魔導士がいる。バレないようにスキルで魔力耐性をこっそり上げておく。念の為だ。

「無駄な時間を使いたくない。サクッと終わらせよう。」

 パラディンがボソッと呟いた時、剣士とパラディン左右同時に飛びかかってきた。
 私は影の中に竜人も引き摺り込み、回避する。竜人は何が起こったのか分からないようで、混乱しているみたいだ。しばらく影の中にいてもらった方がいいかもしれない。

「足元にいる!気をつけて。」

 魔導士の女がそう警戒を促す。しかし、ここは明かりはあれど暗いダンジョンの中。いくらでも移動できる。私は素早く魔導士の背後に移動し、ダメージ覚悟で武器を振り上げながら影から飛び出した。このまま首を刈り取ってやる。

「炎の精霊よ、我が手に炎を。敵を焼き払え『ファイアボール』!」
「うぐ!」

 魔導士の杖の先から炎の弾が出現し、腹に直撃した。動きを読まれていた。魔力耐性を上げておいたおかげで火傷程度で済んだが、かなりのダメージを喰らってしまった。魔力耐性を上げていなかったら今頃、腹が焼け爛れていただろう。

 後ろに飛んで距離を取ってもいいがこれくらいの痛みなら我慢できるし、剣士、パラディンとやり合ってる後ろから魔法を撃たれては敵わないため、魔導士から先に仕留めたい。
 振り上げたままの鎌を魔導士めがけて振り下ろす。さっきの一撃で勢いは潰されているが、首にダメージを入れることはできるはずだ。できれば喉を抉って詠唱できないようにしたいところだ。

「が!」

 抉ることは出来なかったが、確実に首にダメージが入った。回復薬を使ってもすぐには癒えないだろう。これで少しは近距離戦に集中できる。
 崩れていく魔導士の後ろから剣士が迫ってきているのが見えた。鎌の内側で剣士の体を弾き飛ばし、パラディンの方は走る。回復魔法が使える奴は潰しておきたい。
 パラディンは体格が私の2回りくらい差がある。軽く飛んで振りかぶるだけでは大したダメージにならない。『跳躍』のスキルで通常時より高く飛び頭の上から振り下ろす。
 振り下ろした鎌はパラディンには届かず、腹に衝撃が走り体が吹っ飛ばされる。相手がハンマーを振り抜いた姿が見える。あれにやられたのか。
 体が地面に叩きつけられたが勢いが失われずそのまま転がる。中級魔法、ファイアボールと大男のハンマーフルスイングを同じ場所に受けたのは流石にきつい。腕に力を入れても起き上がれない。ここに来て実践不足を実感する。

「早かったねー!俺びっくりしちゃった。図書館にこもってるって噂だったから魔法系のやつかと思ったら、がっつり近距離型だったんだ。いっぱい魔法覚えたんでしょ?それはどうしたの?戦いで生かさなきゃなんの意味もねぇよ、なぁ?かっこいい事言いながら出てきたのにねぇ!だっさいねぇー。ギルドの人達から優しくされちゃって、調子乗ってたんでしょ?あーあ、可哀想に。」

 剣士が話しながら私の体を蹴りつける。主に腹を中心に。骨が折れる音が聞こえた。さっきのハンマーで肋骨は確実に折れているし、結構危ないかもしれない。

「もういいや、飽きた。じゃあな。」

 蹴り飛ばされ後方に飛ぶ。崖付近に倒れていたみたいだ。
 ダンジョンの元々小さな明かりがどんどん小さくなる。体が地面に落ちない。相当な高さだ。この高さから落ちたらもう助からないだろう。
 私は生を諦め意識を手放した。
 
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