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(※スティーヴ視点)
「あなたには、質問があります」
状況に頭が追い付かず、不安と恐怖を感じているおれに、マリアはそう言った。
「……質問だと? どうして、俺がお前の質問に答えなければならないんだ。そんな義理は俺にはない。それよりも、お前が俺の質問に答えろ。どうしてお前がこんなところにいる? いや、それよりも、ナンシーの父親の遺体をどこに移したんだ?」
おれは震える声で、彼女に質問した。
「あなたは、自分の立場がわかっていないようですね。彼の遺体にはナイフが刺さっています。それは、あなたの指紋がついたナイフです。私が遺体の在処を憲兵に話したら、あなたは逮捕されます。これで、あなたの立場は理解できましたか?」
マリアは、不適な笑みを浮かべながら言った。
受け入れがたいことだが、おれは自身の立場を理解した。
おれは彼女の言うことを聞かざるを得ない。
「……それで、質問とはなんだ?」
おれは彼女に尋ねた。
いったい、彼女は俺から何を聞き出そうとしているんだ?
「質問をする前にあらかじめ言っておきますが、嘘や隠し事をしても無駄ですよ。私はあなたの婚約者として、ずっとそばにいましたからね。あなたが嘘や隠し事をするときの癖はわかっています。そのおかげで、あなたとナンシーさんの浮気に気づけたのですから。私の質問に答えてくれたら、彼の遺体の在処を教えます」
「ああ、嘘や隠し事はしない」
俺もそこまでバカではない。
そんなことをしたら、せっかくのチャンスを失ってしまう。
俺が助かるには、彼の遺体の在処を聞き、どこかばれないところに隠すしかない。
「それでは、質問です。あなたは、私の宝物がある倉庫に、火をつけましたか?」
彼女は鋭い目付きをこちらに向けながら言った。
おれは、彼女の質問に驚いていた。
質問するということは、ある程度確信があるということだ。
しかし、どうして犯人が俺だとわかったんだ?
入念な準備をして、何もミスなどしていないはずなのに……。
……いや、今はそんなことを考えても無駄だ。
俺がするべきことは、彼女の質問に正直に答えて、遺体の在処を聞くことだ。
憲兵に自白するならまだしも、彼女に罪を告白したところで、俺の立場が悪くなるわけでもない。
それなら、遺体の在処を聞き出すことを優先すべきだ。
「……そうだ、よくわかったな。あの倉庫に火炎瓶を投げ込んで火をつけたのはおれだ。……おれは、おれを平民に陥れたお前を許せなかった。だから、おれはお前に復讐したんだ!」
「……やはり、あなたでしたか」
マリアはそう呟きながら、悲しそうな表情を浮かべていた。
失われた宝物に、想いを馳せているのだろう。
その表情を見て、おれは自身の内から喜びと興奮が沸き起こるのを感じた。
復讐したかいがあったというわけだ。
しばらくして、マリアは真剣な表情に戻った。
「言っておきますが、あなたが平民となったのは、あなたの自業自得です。私を恨むのは筋違いです」
今さらそんな正論なんて聞きたくはなかった。
俺が聞きたいのは、遺体の在処だ。
「さあ、質問には答えたぞ。今度はお前が答える番だ。ナンシーの父親の遺体は、どこにあるんだ?」
おれは彼女に尋ねた。
しかし……。
「その質問にはお答えできません」
彼女は、きっぱりとそう言った。
「……は?」
なんだ、それは……。
バカにしているのか?
何のために、お前の質問に答えてやったと思っているんだ?
俺の中から、抑えきれないほどの怒りがわいてきた。
こうなったら、圧倒的な暴力で聞き出すしかない。
マリアは、暴力には屈しないかもしれない。
だから、彼女の要求を呑んだのだ。
しかし、約束は反故にされた。
もう、俺に残された手段はこれしかなかった。
マリアを痛めつけるために、おれは彼女に近づこうとした。
しかし、何者かが背後から、おれの肩を凄まじい力でつかんだ。
「え……」
振り向いたおれは、肩をつかんでいる人物を見て驚いた。
「……だって、彼は遺体になどなっていないのですから」
そう言ったマリアの声が、おれの耳に入った。
しかし、その声を聞く前から、おれは彼が遺体になどなっていないことを知っていた。
なぜなら、おれの肩を掴んだ人物がまさに、ナンシーの父親だったからである……。
「あなたには、質問があります」
状況に頭が追い付かず、不安と恐怖を感じているおれに、マリアはそう言った。
「……質問だと? どうして、俺がお前の質問に答えなければならないんだ。そんな義理は俺にはない。それよりも、お前が俺の質問に答えろ。どうしてお前がこんなところにいる? いや、それよりも、ナンシーの父親の遺体をどこに移したんだ?」
おれは震える声で、彼女に質問した。
「あなたは、自分の立場がわかっていないようですね。彼の遺体にはナイフが刺さっています。それは、あなたの指紋がついたナイフです。私が遺体の在処を憲兵に話したら、あなたは逮捕されます。これで、あなたの立場は理解できましたか?」
マリアは、不適な笑みを浮かべながら言った。
受け入れがたいことだが、おれは自身の立場を理解した。
おれは彼女の言うことを聞かざるを得ない。
「……それで、質問とはなんだ?」
おれは彼女に尋ねた。
いったい、彼女は俺から何を聞き出そうとしているんだ?
「質問をする前にあらかじめ言っておきますが、嘘や隠し事をしても無駄ですよ。私はあなたの婚約者として、ずっとそばにいましたからね。あなたが嘘や隠し事をするときの癖はわかっています。そのおかげで、あなたとナンシーさんの浮気に気づけたのですから。私の質問に答えてくれたら、彼の遺体の在処を教えます」
「ああ、嘘や隠し事はしない」
俺もそこまでバカではない。
そんなことをしたら、せっかくのチャンスを失ってしまう。
俺が助かるには、彼の遺体の在処を聞き、どこかばれないところに隠すしかない。
「それでは、質問です。あなたは、私の宝物がある倉庫に、火をつけましたか?」
彼女は鋭い目付きをこちらに向けながら言った。
おれは、彼女の質問に驚いていた。
質問するということは、ある程度確信があるということだ。
しかし、どうして犯人が俺だとわかったんだ?
入念な準備をして、何もミスなどしていないはずなのに……。
……いや、今はそんなことを考えても無駄だ。
俺がするべきことは、彼女の質問に正直に答えて、遺体の在処を聞くことだ。
憲兵に自白するならまだしも、彼女に罪を告白したところで、俺の立場が悪くなるわけでもない。
それなら、遺体の在処を聞き出すことを優先すべきだ。
「……そうだ、よくわかったな。あの倉庫に火炎瓶を投げ込んで火をつけたのはおれだ。……おれは、おれを平民に陥れたお前を許せなかった。だから、おれはお前に復讐したんだ!」
「……やはり、あなたでしたか」
マリアはそう呟きながら、悲しそうな表情を浮かべていた。
失われた宝物に、想いを馳せているのだろう。
その表情を見て、おれは自身の内から喜びと興奮が沸き起こるのを感じた。
復讐したかいがあったというわけだ。
しばらくして、マリアは真剣な表情に戻った。
「言っておきますが、あなたが平民となったのは、あなたの自業自得です。私を恨むのは筋違いです」
今さらそんな正論なんて聞きたくはなかった。
俺が聞きたいのは、遺体の在処だ。
「さあ、質問には答えたぞ。今度はお前が答える番だ。ナンシーの父親の遺体は、どこにあるんだ?」
おれは彼女に尋ねた。
しかし……。
「その質問にはお答えできません」
彼女は、きっぱりとそう言った。
「……は?」
なんだ、それは……。
バカにしているのか?
何のために、お前の質問に答えてやったと思っているんだ?
俺の中から、抑えきれないほどの怒りがわいてきた。
こうなったら、圧倒的な暴力で聞き出すしかない。
マリアは、暴力には屈しないかもしれない。
だから、彼女の要求を呑んだのだ。
しかし、約束は反故にされた。
もう、俺に残された手段はこれしかなかった。
マリアを痛めつけるために、おれは彼女に近づこうとした。
しかし、何者かが背後から、おれの肩を凄まじい力でつかんだ。
「え……」
振り向いたおれは、肩をつかんでいる人物を見て驚いた。
「……だって、彼は遺体になどなっていないのですから」
そう言ったマリアの声が、おれの耳に入った。
しかし、その声を聞く前から、おれは彼が遺体になどなっていないことを知っていた。
なぜなら、おれの肩を掴んだ人物がまさに、ナンシーの父親だったからである……。
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