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 (※ベラ視点)

「キャサリン……、どうして、こんなところに……」

 私は、彼女が現れたことに心の底から驚いていた。
 まさか、こんなところで彼女に出会うなんて、思ってもいなかった。

「どうしてと言われましても……、あなたの顔が見たかったからですよ。実はあなたに見せたい、面白いものがあります」

 キャサリンはそう言うと、持っていたものを私によく見えるように掲げた。

「これ、なんだかわかります? あの日、宿屋であなたとジャックが計画について話していた内容を記録した録音機です」

 キャサリンは事も無げにそう言った。
 私は彼女のその言葉を聞いて、驚愕した。

「録音機……、ですって?」

 そう言った私の声は震えていた。

 録音機?
 あり得ないわ……。
 あの時、どこかから録音していたというの?

「嘘なんじゃないかと、疑っているようですね。でも、嘘ではありませんよ。私はあの時、あなたたちがいた部屋のクローゼットに、隠れていたんです。この録音機を録音状態にしたままで……」

 キャサリンは不適な笑みを浮かべながら、持っていた録音機のボタンを押した。
 すると、ジャックの声が聞こえてきた。

『ベラ、僕は自分の命を、自分で断つ。そして、その事がばれないように、密室殺人事件のように見せかける計画を立てたんだ。君にも、手伝ってほしい』

 それは間違いなく、あの日の私たちの会話を録音したものだった。 
 そして、それは絶対に世間に公表されてはいけない内容だった。

 そう、ジャックは自殺だったのだ。

 その事がばれないように、ショーを利用して、謎の密室殺人事件を演出したのだ。

 彼は、自分のショーの二つ前の演目が終わったときに、自らのお腹を銃で撃った。
 演目が終わって観客たちが歓声や拍手を送っていたので、銃声はごまかせた。
 そして、彼は吸水性に優れた服を衣装の下に着込んでいたので、血が滴り落ちることもなかった。

 私は、彼から薬莢を受け取っていた。
 それをさっき、地面においたのだ。
 そして彼は、弾をボックスの中に落とした。
 
 私はさっき煙幕が出ているときに銃を撃ったが、もちろんそれはジャックを狙ったものではない。
 あれは、銃声を観客たちに聞かせるのが目的だった。
 あのタイミングでジャックが撃たれたのだと、思わせたかった。

 しかし、実際にはジャックは、のだ。
 それが、自殺を密室殺人事件に見せかけるためのトリックだった。
 ジャックが考えた、まさに命懸けの計画だった。

 すべては、自分がいなくなったあとも、私に不自由なく過ごしてほしいという思いからの行動だった。

 私は彼の覚悟を受け取り、計画を手伝った。
 そして予定通りうまくいって、私は倍額保証条項が適用された保険金を受けとるはずだったのに……。
 ジャックがその命を使って遺してくれたものを、受けとるはずだったのだ。

 それなのに、キャサリンが録音していたせいで、すべてが台無しになってしまった。
 このままでは、ジャックは無駄死にになってしまう。
 彼の思いが、消え去ってしまう……。

「その録音機を、こちらに渡しなさい!」

 私は銃口をキャサリンの額に当てながらそう言った。
 しかし……。

「銃を下ろせ!」

 私はいつの間にか銃を構えた憲兵に囲まれていた。
 そして、驚いている間に、私はキャサリンにあっけなく銃を奪われた。

「残念でしたねぇ、ベラさん。あなたとジャックの計画は、何もかも失敗に終わったようですよ」

 キャサリンが、満面の笑みを浮かべながらそう言った。

「こんなの、あんまりだわ……。ジャックが私のために、命をかけてまで計画を実行したのに……」

 気づけば、私の目からは涙が溢れていた。

「あらあら、そんなに涙を流して……。悲劇のヒロイン気取りですか? あなたは、ではないでしょう? ジャックにしてもそうです。ヒーロー気取りで、命を懸ける自分に酔っていたんでしょうね。忘れてはいけませんよ? あなたたちは、私を大きく傷つけた加害者です。そんな涙を流す資格なんてないのですよ。あなたたちは、ただの犯罪者です。そのことを、ゆめゆめお忘れなく……」

 キャサリンはそう言うと、満足そうな微笑みを浮かべながら去っていった。
 私は憲兵に拘束され、連行された。

 私の無念の叫び声と、キャサリンの笑い声が、その場に響き渡っていた……。
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