妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放されました。でもそれが、私を虐げていた人たちの破滅の始まりでした

水上

文字の大きさ
上 下
34 / 45

34.

しおりを挟む
 (※オリバー視点)

 おれは泣きながら声を震わせ、憲兵の質問に答えた。

 完璧だ。
 我ながら、なんという演技力。
 今のおれは、婚約者を失った哀れな被害者だ。

 さすがにこの憲兵も同情して、情けの言葉をかけてくるだろう。
 そして、もう帰ってもいいと許可が出るはずだ。
 そう思っていたが……。

「オリバー様、あなたを逮捕します」

 おれの予想は外れ、そんな言葉を憲兵からかけられた。

「……は?」
 
 おれは訳がわからず、困惑していた。
 ……逮捕?
 逮捕だと!?
 この憲兵は今、おれのことを逮捕すると言ったのか?

 いったい、どうして……。

 当然、その疑問が浮かんでくる。
 そして逮捕されるという不安からか、おれの体は震えていた。
 すべてうまくいくと思っていただけに、こんな展開は予想だにしていなかった。

 おれは何か、ミスをおかしたのか?
 
 確かにイザベルが動かなくなった姿を見て気が動転していたし、こんな状況ははじめてだったから、常に不安な気持ちに支配されていた。
 しかし、それでも必死に考え、完璧な偽装工作をしたはずだ。
 彼女はどう見ても、首をつって自殺を図ったように見えたはず……。

 それにも関わらず、目の前にいる憲兵は、おれのことを逮捕すると言った。
 まずは、その理由を聞かなくてはならない。
 そうだ、落ち着くんだ……。

 逮捕すると言われて動揺したが、単に彼がハッタリで鎌をかけてきている可能性だってあるんだ。
 それでおれの自白を引き出そうとしているに違いない。
 だが、その手には乗らないぞ。
 そんな手が通用するのは、気の弱い臆病者の犯罪者だけだ。
 おれは、そうではない。

 必ず言い逃れして、この状況から脱してやる。

「おいおい、逮捕だって? このおれを誰だと思っている? それなりの覚悟はしているんだろうな? もしお前の勘違いだったら、ただじゃおかないぞ」

 おれは憲兵を睨み付け、鋭い口調でそう言った。
 これで恐れをなして、先程の逮捕するという発言を取り消してくれたらいいのだが……。
 まあ、取り消さずにおれを逮捕する正当な理由をのべても、おれはそれを論破して、必ず逃げ切ってやるまでだ。

「では、説明いたしましょう」

 憲兵が口を開いた。
 そして、続ける。

「あなたは、明らかに嘘をついている。憲兵の質問にたいして嘘の証言をするのは、あなたの立場を悪くするだけですよ?」

「嘘だと? おれは、嘘なんてついていない。正直に見たままの状況を話しただけだ」

 ここで動揺している姿を見せるわけにはいかない。
 それだと、嘘をついていたと言っているようなものだからだ。

「あくまでも、嘘をついていたと認めないのですね。それでは続けましょう。先程あなたは、イザベル様が踏み台に乗っているところを、通りから見たと言いましたね? それで自殺しようとしていると察したわけですね?」

「そうだ。部屋は四階とはいえ、窓の近くだから、通りからでも見えたんだ。この部屋は通りに面したところにあるのだから、どこにも矛盾などないはずだ」

 おれは自信のある態度を崩さずにそう言った。

「いえ、まさにそれが、矛盾した発言なのですよ」

 憲兵が鋭い目付きをこちらに向けながら言った。
 訳がわからない。
 どこにも矛盾などないはずだ。
 
 そう頭では考えていても、先程までの自信は鳴りを潜め、おれの体は不安で震え始めていた……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】我儘で何でも欲しがる元病弱な妹の末路。私は王太子殿下と幸せに過ごしていますのでどうぞご勝手に。

白井ライス
恋愛
シャーリー・レインズ子爵令嬢には、1つ下の妹ラウラが居た。 ブラウンの髪と目をしている地味なシャーリーに比べてラウラは金髪に青い目という美しい見た目をしていた。 ラウラは幼少期身体が弱く両親はいつもラウラを優先していた。 それは大人になった今でも変わらなかった。 そのせいかラウラはとんでもなく我儘な女に成長してしまう。 そして、ラウラはとうとうシャーリーの婚約者ジェイク・カールソン子爵令息にまで手を出してしまう。 彼の子を宿してーー

溺愛されている妹がお父様の子ではないと密告したら立場が逆転しました。ただお父様の溺愛なんて私には必要ありません。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるレフティアの日常は、父親の再婚によって大きく変わることになった。 妾だった継母やその娘である妹は、レフティアのことを疎んでおり、父親はそんな二人を贔屓していた。故にレフティアは、苦しい生活を送ることになったのである。 しかし彼女は、ある時とある事実を知ることになった。 父親が溺愛している妹が、彼と血が繋がっていなかったのである。 レフティアは、その事実を父親に密告した。すると調査が行われて、それが事実であることが判明したのである。 その結果、父親は継母と妹を排斥して、レフティアに愛情を注ぐようになった。 だが、レフティアにとってそんなものは必要なかった。継母や妹ともに自分を虐げていた父親も、彼女にとっては排除するべき対象だったのである。

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

「優秀な妹の相手は疲れるので平凡な姉で妥協したい」なんて言われて、受け入れると思っているんですか?

木山楽斗
恋愛
子爵令嬢であるラルーナは、平凡な令嬢であった。 ただ彼女には一つだけ普通ではない点がある。それは優秀な妹の存在だ。 魔法学園においても入学以来首位を独占している妹は、多くの貴族令息から注目されており、学園内で何度も求婚されていた。 そんな妹が求婚を受け入れたという噂を聞いて、ラルーナは驚いた。 ずっと求婚され続けても断っていた妹を射止めたのか誰なのか、彼女は気になった。そこでラルーナは、自分にも無関係ではないため、その婚約者の元を訪ねてみることにした。 妹の婚約者だと噂される人物と顔を合わせたラルーナは、ひどく不快な気持ちになった。 侯爵家の令息であるその男は、嫌味な人であったからだ。そんな人を婚約者に選ぶなんて信じられない。ラルーナはそう思っていた。 しかし彼女は、すぐに知ることとなった。自分の周りで、不可解なことが起きているということを。

パーティー中に婚約破棄された私ですが、実は国王陛下の娘だったようです〜理不尽に婚約破棄した伯爵令息に陛下の雷が落ちました〜

雪島 由
恋愛
生まれた時から家族も帰る場所もお金も何もかもがない環境で生まれたセラは幸運なことにメイドを務めていた伯爵家の息子と婚約を交わしていた。 だが、貴族が集まるパーティーで高らかに宣言されたのは婚約破棄。 平民ごときでは釣り合わないらしい。 笑い者にされ、生まれた環境を馬鹿にされたセラが言い返そうとした時。パーティー会場に聞こえた声は国王陛下のもの。 何故かその声からは怒りが溢れて出ていた。

虐げられていた姉はひと月後には幸せになります~全てを奪ってきた妹やそんな妹を溺愛する両親や元婚約者には負けませんが何か?~

***あかしえ
恋愛
「どうしてお姉様はそんなひどいことを仰るの?!」 妹ベディは今日も、大きなまるい瞳に涙をためて私に喧嘩を売ってきます。 「そうだぞ、リュドミラ!君は、なぜそんな冷たいことをこんなかわいいベディに言えるんだ!」 元婚約者や家族がそうやって妹を甘やかしてきたからです。 両親は反省してくれたようですが、妹の更生には至っていません! あとひと月でこの地をはなれ結婚する私には時間がありません。 他人に迷惑をかける前に、この妹をなんとかしなくては! 「結婚!?どういうことだ!」って・・・元婚約者がうるさいのですがなにが「どういうこと」なのですか? あなたにはもう関係のない話ですが? 妹は公爵令嬢の婚約者にまで手を出している様子!ああもうっ本当に面倒ばかり!! ですが公爵令嬢様、あなたの所業もちょぉっと問題ありそうですね? 私、いろいろ調べさせていただいたんですよ? あと、人の婚約者に色目を使うのやめてもらっていいですか? ・・・××しますよ?

代わりはいると言われた私は出て行くと、代わりはいなかったようです

天宮有
恋愛
調合魔法を扱う私エミリーのポーションは有名で、アシェル王子との婚約が決まるほどだった。 その後、聖女キアラを婚約者にしたかったアシェルは、私に「代わりはいる」と婚約破棄を言い渡す。 元婚約者と家族が嫌になった私は、家を出ることを決意する。 代わりはいるのなら問題ないと考えていたけど、代わりはいなかったようです。

舌を切られて追放された令嬢が本物の聖女でした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

処理中です...