妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放されました。でもそれが、私を虐げていた人たちの破滅の始まりでした

水上

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 (※シルビア視点)

「や……、やめて、マーガレット! 私は、死にたくなんてないわ!」

 私は涙を浮かべ、声を震わせながら、小さなナイフを持っている彼女に訴えた。
 しかし、彼女は残酷な笑みを浮かべ、更に私に迫ってきた。
 私は後退したが、壁に背がぶつかり、追い詰められた。

 いったい、あのナイフはどうやって手にいれたのだろう。
 刑務所ないでの食事に、ナイフを使うことはない。
 でも、ここでの生活が長いマーガレットのことだ。
 力もコネもある彼女にとっては、小さなナイフ一本を手にいれるくらい、簡単なことなのだろう。

「いい表情だ……。相変わらず、お前のきれいな顔が無様に歪んでいるところを見るのは、最高だ」

 マーガレットは笑いながら、私に詰め寄ってきた。
 そしてついに、ナイフが届くところまで距離は縮まった。

 私は自分の命が脅かされていることに、恐怖を感じていた。

 今にして思えば、これまでの私は、心のどこかで安心していた。
 どんなにマーガレットに痛め付けられても、殺されることはないと油断していた。
 痛みや苦しみに恐怖を感じながらも、それは心のそこからの恐怖ではなかった。
 しかし、今は違う。

 マーガレットの手には、ナイフが握られている。
 それは、命を奪うための道具だ。
 その切っ先が今、私に向けられている。
 私は震えて立っていられなくなり、膝から床に崩れ落ちた。

「ははははは!! 情けないな、シルビア! 膝が笑っているじゃないか!」

 マーガレットは私の様子を見て、更に声をあげて笑い始めた。

「お願い……、考え直して。マーガレット、あなた、私からお金を受けとるつもりだったのでしょう!? 私を殺したら、お金は手に入らないわよ?」

 私はなんとか、彼女の気が変わることを祈った。
 大金を手にいれるという目的を思い出せば、彼女もこんなことはやめるはずだ。
 しかし……。

「そう思っていたが、金よりも、お前のことを絶望させる方が、楽しいと思ったんだ。そして今、実際に楽しい。いい表情だぞ、シルビア……。その顔がもう見れなくなると思うと、少し名残惜しいが、そろそろ終わりにしよう」

 マーガレットが、ナイフを持った手を振り上げる。

「お願い、やめて!」

 恐怖で体が動かない私は、喉が張り裂けそうなほど必死に叫んだ。
 しかし、彼女は動きを止めることはなかった。

 ナイフを持った手が、振り下ろされる……。
 それは、あっという間のことだった。

 気付けば私の体からは液体が流れ、ゆっくりと床に広がっていた……。
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