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「あの、そんなに熱くならないでください。私なら平気ですから。どうか落ち着いてください」

「落ち着いていられるか。マーシーはまた君を傷つけたんだぞ。さすがに僕も我慢の限界だ。仏の顔も三度までというだろう?」

「彼女にやられたのはまだ二度目ですよ。何をするつもりか知りませんが、どうか落ち着いてください」

「二度あることは三度あるというからね。実質三度目だ。僕は彼女を許さない」

 それは少々理論の飛躍というか、めちゃくちゃな論法だが、エリオットが私のために怒ってくれていることは伝わってきた。
 マーシーのことは、とりあえず彼に任せることにした。

「それでいったい、どうするつもりなのですか? 暴力なんて絶対だめですよ」

「もちろん、そんなことはしない。だが、徹底的に彼女を追い込む。君を傷つけたらどうなるか、思い知らせてあげないとね」

「何か考えがあるのですか?」

「その前に、まずは君の手当てをしないとね。医務室まで連れて行くよ」

「ありがとうございます」

 ということで、私はエリオットに付き添われて、医務室に向かった。

「一週間に二度も医務室に来るなんて、いじめられっ子か、あるいはドジっ子くらいのものだわ。あなたはどっちなの?」

 というのが、先生の言葉だった。
 少々変わった先生だけれど、私のことを心配してくれているのは確かなようである。

「えっと、後者の方ですね。どうやら、私の理想の動きと現実の動きが合っていないのが原因のようです」

 とりあえず騒ぎを大きくしたくないので、私はそう答えた。

「へえ、そう。原因までわかっているのなら、問題なんてすぐに解決するわ」

「そういうものですか……」

「そういうものなのよ。世の中の問題なんて、大抵のものは理想と現実のギャップに存在するの。問題を解決したいのなら、現実を理想に近づけるか、理想を現実に近づけるか、あるいはその両方か、それしかないのよ」

 私の頭に、これでもかというほど包帯をぐるぐる巻きにしながら先生はそう言った。
 治療の腕には少し疑問を覚えるけれど、言っていることは、まさにその通りだと思った。

 私のドジっ子問題を先生の言葉に当てはめると、トレーニングなどで自身の運動性能を向上させることで現実を理想に近づける方法と、自分はどの程度動けるのかということを弁えて、理想の動きを高く持ち過ぎなくすることで理想を現実に近づける方法があるというわけだ。
 
 当然、両方を同時に実践することだってできる。
 そうすれば、問題はそのうち解決するというわけだ。
 もちろん、絡んでくるマーシーをどうにかしたい問題にも、先生の言葉を当てはめることができる。
 
 あの、先生、包帯を巻き過ぎなのでは?
 治療してくれるのはありがたいのですが、前が見えにくいのですけれど……。

 この先生、言っていることは素晴らしいのに、治療の腕がいまいちだ。
 いや、この場合、治療の腕はいまいちだけど、言っていることは素晴らしいと表現した方が、印象は良いか……。
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