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「あぁ、震えが止まらないわ。マッチョくん、いったいどうしてだと思う?」

「それは昨日、お嬢様が雨の中を傘もささずに帰ってきたからだと思います」

「うーん、やっぱりそれしか考えられないよね。ということで、犯人には、しかるべき罰を受けてもらわないと」

「だから、憲兵の駐屯所に向かっているわけですね」

「そういうこと」

 私はマッチョくんと共に、憲兵の駐屯所に向かっていた。
 アイザックの起こした事件以降、マッチョくんはいつの間にか、私の付き人的ポジションに収まっていた。
 まあ、一人で行動したいときは、昨日の様に一人で行動しているのだけれど。

 私たちは、駐屯所に到着した。

「あの、すいません」

「……ああ、貴女ですか。何か御用ですか?」

 対応してくれた憲兵には、見覚えがあった。
 確かアイザックの事件の時に、現場を仕切っていた憲兵である。
 名前は……、そう、レナードさんだ。

「レナードさん、私のことを覚えていてくださったのですね」

「ええ、まあ、現場であんな大立ち回りをする人は滅多にいませんからね。印象に残っていたのです」

「今日ここへ来たのは、犯人を捕まえてほしいからなんです」

「はあ、犯人ですか。何の犯人ですか?」

「泥棒です」

「……泥棒ですか」

「あ、今、ちょっとがっかりしましたよね? なんだ、ただの泥棒か、みたいな顔をしていましたよ」

「これは失礼致しました。実は今、二つの事件を抱えていまして、うちは手一杯なんですよ」

「二つの事件? どんな事件ですか?」

「一つは殺人未遂で、もう一つは窃盗です」

「あ、じゃあ、その二つの事件を私が解決しますから、泥棒捜しを手伝ってもらえませんか? さて、さっそく、事件の資料を見せてください」

「な、何を言っているのですか。できませんよ、そんなこと。部外者に事件の資料を見せるのは、禁じられているのです」

 なるほど。
 確かに言われてみれば、当然である。
 しかし、私はそんな簡単には引き下がらない。

「部外者? 部外者って、誰のことですか? 先日、憲兵さんが行き詰っている事件を解決した功労者なら、ここにいますけれど?」

「あ、あの、困ります。いえ、もちろん、先日のアイザック氏逮捕の件につきましては、我々も感謝しております。しかし、こちらにも規則というものがあるので……」

 うーん、だめか。
 薄情者め。
 いや、どちらかといえば、私の方が恩着せがましいか……。
 しかし、意外なところから援護された。

「規則というのでしたら……」

 それまで私のうしろに控えて黙っていたマッチョくんが口を開いた。

「外部委託というものがありますよね。つまり、お嬢様を顧問として迎え入れるのはどうでしょう? 確かに、憲兵は忙しそうですね。それなのに、お嬢様がクレーマーのごとく、ずっとここで駄々を捏ねているのに付き合っていては、あなたたちの仕事がさらに遅れてしまうのでは? ここは、優れた頭脳を持つ彼女を顧問として受け入れるのが、最も合理的な判断だと思いますが、いかがでしょうか?」

「……確かに、彼女には以前の事件での実績がある。いいでしょう。あなたの提案を受け入れます」

 レナードさんがマッチョくんの提案を受け入れてくれた。
 うん、ナイスアシスト。
 ……あれ?

 なんか途中で失礼なことを言われた気がするけれど、まあ、最後は褒めてくれたからいいか……。
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