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(※ヘレン視点)
彼から放たれた言葉は、信じられないものだった。
「エマ! いや、ヘレン! いったい君は、何を考えているんだ!? 姉に成りすまして、私と婚約するなんて、信じられない! 私を今まで、騙していたのか!」
殿下は、今までに見たことがないほど怒っていた。
私のことを、愛してくれているのではなかったの?
確かに嘘をついたのは悪かったけれど、心のどこかでは、許してもらえると思っていた。
それがまさか、こんなに怒るなんて……。
「あの、聞いてください。確かに私は、嘘をつきました。それは、許されないことです。でも、殿下、私たちは、愛し合っていたではありませんか。こんなことで私たちの関係が終わるなんて嫌です! お互い水に流して、これからまた、再出発しましょう」
「ふざけるな! 許せるわけがないだろう! 確かに私は君を愛していた! しかし、だからこそ、こんな大事なことを黙っていて、私を騙したという裏切りが許せないんだ! それに、お互い水に流しましょうだと!? 水に流してやるのは、私の方だけだ! 私が君に何かしたか!?」
「確かにそうですね、すいません……。でも、私が殿下を愛しているのは本当なんです! 確かに嘘をついてしまったのは、申し訳ないと思っています! でも、すべては、愛ゆえの行動なのです! どうか、許してください! そして、今度はヘレンとして、私のことを愛してください!」
「いい加減にしろ! 君は、どれだけ自分のことしか考えていないんだ! 私の気持ちにもなってみろ! こんな裏切りは、到底許すことはできない! エマ! いや、ヘレン! 君との婚約は、破棄する!」
「そ、そんな……」
私は膝から崩れ落ちた。
婚約破棄ですって?
そんな……、そんなことって……。
こんなの、あまりにひどい仕打ちだわ……。
今までの私の頑張りは、なんだったのよ……。
殿下にバレないように、必死にお姉さまのふりをした。
そうして手に入れた殿下との幸せな生活は、本当に楽しかった。
そして、その生活を維持するために私は……。
私のしてきたことが、すべて無駄になってしまうの?
どうして、こんなことに……。
私はうつむき、涙を流していた。
今までの優しい殿下なら、泣いている私に慰めの言葉をかけてくれた。
でも、今の殿下は、私に何も言ってくれなかった。
すでに私のことなど、眼中にないようだ。
「殿下、お願いですから、許してください……」
私は震える声で、殿下に懇願した。
しかし、彼は私の方を見ようともしない。
そして、私に言葉をかけることもなく、どこかへ去ってしまった。
どうして……、どうしてこんなことに……。
*
(ウィリアム王子視点)
私は、ある場所に向かって歩いていた。
なんてことだ……、まさか、エマの正体が、姉に成りすましていたヘレンだったなんて……。
彼女はずっと、私に嘘をつき続けていたのか……。
確かに私は、彼女のことを愛していた。
しかし、こんな裏切りを知って、それでも彼女を愛するなんて不可能だった。
それに、私の婚約者がヘレンだったということは、牢獄にいる彼女こそが、私が本来婚約しようとしていたエマだということだ。
私は、一刻も早く、彼女に会いたかった。
会って、彼女に謝りたかった。
そして、裏切りに会って傷ついた私を、慰めてほしい。
エマならきっと、私に優しい言葉をかけてくれる。
そして、その時に、私の長年の想いを伝えるんだ。
ついに、エマのいる牢獄に到着した。
ずいぶんと遠回りをしてしまったが、私の想いを、エマなら受け入れてくれるはずだ……。
彼から放たれた言葉は、信じられないものだった。
「エマ! いや、ヘレン! いったい君は、何を考えているんだ!? 姉に成りすまして、私と婚約するなんて、信じられない! 私を今まで、騙していたのか!」
殿下は、今までに見たことがないほど怒っていた。
私のことを、愛してくれているのではなかったの?
確かに嘘をついたのは悪かったけれど、心のどこかでは、許してもらえると思っていた。
それがまさか、こんなに怒るなんて……。
「あの、聞いてください。確かに私は、嘘をつきました。それは、許されないことです。でも、殿下、私たちは、愛し合っていたではありませんか。こんなことで私たちの関係が終わるなんて嫌です! お互い水に流して、これからまた、再出発しましょう」
「ふざけるな! 許せるわけがないだろう! 確かに私は君を愛していた! しかし、だからこそ、こんな大事なことを黙っていて、私を騙したという裏切りが許せないんだ! それに、お互い水に流しましょうだと!? 水に流してやるのは、私の方だけだ! 私が君に何かしたか!?」
「確かにそうですね、すいません……。でも、私が殿下を愛しているのは本当なんです! 確かに嘘をついてしまったのは、申し訳ないと思っています! でも、すべては、愛ゆえの行動なのです! どうか、許してください! そして、今度はヘレンとして、私のことを愛してください!」
「いい加減にしろ! 君は、どれだけ自分のことしか考えていないんだ! 私の気持ちにもなってみろ! こんな裏切りは、到底許すことはできない! エマ! いや、ヘレン! 君との婚約は、破棄する!」
「そ、そんな……」
私は膝から崩れ落ちた。
婚約破棄ですって?
そんな……、そんなことって……。
こんなの、あまりにひどい仕打ちだわ……。
今までの私の頑張りは、なんだったのよ……。
殿下にバレないように、必死にお姉さまのふりをした。
そうして手に入れた殿下との幸せな生活は、本当に楽しかった。
そして、その生活を維持するために私は……。
私のしてきたことが、すべて無駄になってしまうの?
どうして、こんなことに……。
私はうつむき、涙を流していた。
今までの優しい殿下なら、泣いている私に慰めの言葉をかけてくれた。
でも、今の殿下は、私に何も言ってくれなかった。
すでに私のことなど、眼中にないようだ。
「殿下、お願いですから、許してください……」
私は震える声で、殿下に懇願した。
しかし、彼は私の方を見ようともしない。
そして、私に言葉をかけることもなく、どこかへ去ってしまった。
どうして……、どうしてこんなことに……。
*
(ウィリアム王子視点)
私は、ある場所に向かって歩いていた。
なんてことだ……、まさか、エマの正体が、姉に成りすましていたヘレンだったなんて……。
彼女はずっと、私に嘘をつき続けていたのか……。
確かに私は、彼女のことを愛していた。
しかし、こんな裏切りを知って、それでも彼女を愛するなんて不可能だった。
それに、私の婚約者がヘレンだったということは、牢獄にいる彼女こそが、私が本来婚約しようとしていたエマだということだ。
私は、一刻も早く、彼女に会いたかった。
会って、彼女に謝りたかった。
そして、裏切りに会って傷ついた私を、慰めてほしい。
エマならきっと、私に優しい言葉をかけてくれる。
そして、その時に、私の長年の想いを伝えるんだ。
ついに、エマのいる牢獄に到着した。
ずいぶんと遠回りをしてしまったが、私の想いを、エマなら受け入れてくれるはずだ……。
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