王子からの縁談の話が来たのですが、双子の妹が私に成りすまして王子に会いに行きました。しかしその結果……

水上

文字の大きさ
上 下
30 / 55

30.

しおりを挟む
 (※父親視点)

 牢獄での生活には、本当にうんざりとしていた。

 こんなの、人間の暮らしとは、とても呼べない。
 しかし私は、ヘレンを守るために、この選択をした。
 どうせ殺人罪に問われるのだから、ヘレンを守るために嘘をつくくらい、なんともなかった。

 しかし、一生牢獄生活が待っているのかと思うと、かなり気が滅入る。
 大きなため息をついていると、アンドレという兵が、私に会いに牢獄へやってきた。

 彼は、真剣な顔つきで、私に報告することがあると言ってきた。

「実は、ローリンズ夫人のことなのですが、あなたが銃で撃つ前に、彼女は亡くなっていました」

「……は!?」

 何を、言っているんだ、こいつは……。
 妻が、既に死んでいた?
 そんな……、馬鹿な……。
 妻は、私が撃ち殺したのではないのか!?
 その前に死んでいたなんて、そんな……。

「そ、そんなの……、ありえない……。妻はあの時、ベッドで眠っていたんだ……」

「その時、きちんと顔を見ましたか? 静かな部屋なら、耳をすませば寝息も聞こえたはずですが、聞こえましたか?」

「あ、あの時は、部屋が暗かったから、顔なんて見ていない。寝息も、聞いていないが……、だが、彼女は全く動かなかったんだぞ! ベッドに横になっていて動かなかったら、眠っていると思うだろう! 私が、勘違いしていたとでもいうのか!?」

「ええ、そうです。彼女は死んだように眠っていたのではなく、眠っているように死んでいたのです。これは、検視結果が出ているので、まちがいありません。あなたは、死んでいた奥様を撃ったのです」

「そ、そんな……、まさか、そんなことが……」

 私はいろいろなものを天秤にかけ、覚悟を決めた。
 そして、涙を流しながら妻を撃った。
 それなのに、その時すでに妻が死んでいたなんて……。

「つまりですね、あなたは、殺人罪には問われないのです」

「……え?」

 兵の言葉に、私は思わず、笑みを浮かべていた。

     *

 (※アンドレ視点)

 どうやら、妻がすでに亡くなっていたと聞いて、彼は本当に驚いているようだ。

 これが演技なら大したものだが、その可能性はないとみていいだろう。
 彼にそこまでの能力があるとは、とても思えない。
 彼は、妻が死んでいたことに、気付いていなかった。
 つまりこれは、彼女が話していた前者の仮説通りだということだ。

 これなら、彼女が本物だと証明できる可能性がある。

 私は改めて気を引き締め、彼との会話に臨んだ。

「あなたは今、殺人の容疑で逮捕されていますが、それは取り下げられます。殺人未遂か、あるいは死体損壊か、いずれにしても、殺人罪に比べれば、罪は格段に軽くなります」

「そ、そうか……」

 ローリンズ氏は、ほっとしている様子だった。
 しかしここで、私はある話を、彼に持ち出した。

「しかしあなたは、もう一つ、大きな罪を犯していますよね?」

 私は彼の目を見ながら言った。

「い、いったい、何のことだ!?」

 彼は、明らかに動揺している。

「殿下を騙している罪ですよ。殿下が婚約しているのが、エマ様ではなく、妹のヘレン様だということはわかっています。まあ、この話を信じている者は、今のところは私しかいませんが、殿下も少しは疑っているご様子ですよ。ヘレン様にも、そう言われたのではありませんか? だから、奥様と口論になって、口封じのために撃ったのではありませんか?」

「そ、そんなの、ただの貴様の妄想だろう!」

 彼は否定しているが、明らかに動揺している。
 もう一押しだ。

「あなたたちが殿下に大きな嘘をついていることがバレるのは、時間の問題です。せっかく殺人罪から免れたのに、そのことがバレたら、また長い間、牢獄に入らなくてはいけなくなりますよ。王家に嘘をついたのですから、最悪の場合は、極刑だってあり得ます。そうでなくても、一生牢獄で暮らさなくてはいけなくなるかもしれません。しかし、自白すれば、あとで罪がバレた場合に比べれば、罪は軽くなります。それでも十年以上は牢獄に閉じ込められるでしょうが、それからは外の世界で余生を過ごすことができますよ」

「外に、出られるかもしれない……」

 彼は小さく呟いた。
 どうやら、自白するかどうか、かなり悩んでいる様子である。
 彼は今、娘への愛を試されている。
 自分のことを優先するのか、それとも愛する娘のために、沈黙を貫き通すのか……。

 私は、最後の一押しをした。

「随分と悩んでいるように見えますが、あまり時間はありませんよ。当然ですが、嘘がバレてから自白しても、遅いですからね。自白するのなら、嘘がバレていない今のうちだけです」

「チャンスは、今だけ……」

 彼は、小さく呟いた。
 私はそれを見て、席を立った。

「私はもう、失礼します。伝えるべきことは、すべて伝えました。あとはあなた次第ですよ。外の世界で自由な余生を過ごすのか、それともこの暗い牢獄の中で、極刑になるのを震えながら待つのか……」

 私は彼の元から去ろうとした。

「ま、待ってくれ!」

 私は彼の言葉を聞いて、足を止めた。
 思わず笑みがこぼれる。
 私は真剣な表情を作って、彼の方へ振り向いた。

「何か、話したいことでもあるのですか?」

「わかった……、正直に話す。じ、実は──」

 彼は、妻を撃った本当の動機を話し始めた。

 すべて、彼女の計画通りだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一年後に離婚すると言われてから三年が経ちましたが、まだその気配はありません。

木山楽斗
恋愛
「君とは一年後に離婚するつもりだ」 結婚して早々、私は夫であるマグナスからそんなことを告げられた。 彼曰く、これは親に言われて仕方なくした結婚であり、義理を果たした後は自由な独り身に戻りたいらしい。 身勝手な要求ではあったが、その気持ちが理解できない訳ではなかった。私もまた、親に言われて結婚したからだ。 こうして私は、一年間の期限付きで夫婦生活を送ることになった。 マグナスは紳士的な人物であり、最初に言ってきた要求以外は良き夫であった。故に私は、それなりに楽しい生活を送ることができた。 「もう少し様子を見たいと思っている。流石に一年では両親も納得しそうにない」 一年が経った後、マグナスはそんなことを言ってきた。 それに関しては、私も納得した。彼の言う通り、流石に離婚までが早すぎると思ったからだ。 それから一年後も、マグナスは離婚の話をしなかった。まだ様子を見たいということなのだろう。 夫がいつ離婚を切り出してくるのか、そんなことを思いながら私は日々を過ごしている。今の所、その気配はまったくないのだが。

辺境の獣医令嬢〜婚約者を妹に奪われた伯爵令嬢ですが、辺境で獣医になって可愛い神獣たちと楽しくやってます〜

津ヶ谷
恋愛
 ラース・ナイゲールはローラン王国の伯爵令嬢である。 次期公爵との婚約も決まっていた。  しかし、突然に婚約破棄を言い渡される。 次期公爵の新たな婚約者は妹のミーシャだった。  そう、妹に婚約者を奪われたのである。  そんなラースだったが、気持ちを新たに次期辺境伯様との婚約が決まった。 そして、王国の辺境の地でラースは持ち前の医学知識と治癒魔法を活かし、獣医となるのだった。  次々と魔獣や神獣を治していくラースは、魔物たちに気に入られて楽しく過ごすこととなる。  これは、辺境の獣医令嬢と呼ばれるラースが新たな幸せを掴む物語。

【完結】虐げられていた侯爵令嬢が幸せになるお話

彩伊 
恋愛
歴史ある侯爵家のアルラーナ家、生まれてくる子供は皆決まって金髪碧眼。 しかし彼女は燃えるような紅眼の持ち主だったために、アルラーナ家の人間とは認められず、疎まれた。 彼女は敷地内の端にある寂れた塔に幽閉され、意地悪な義母そして義妹が幸せに暮らしているのをみているだけ。 ............そんな彼女の生活を一変させたのは、王家からの”あるパーティー”への招待状。 招待状の主は義妹が恋い焦がれているこの国の”第3皇子”だった。 送り先を間違えたのだと、彼女はその招待状を義妹に渡してしまうが、実際に第3皇子が彼女を迎えにきて.........。 そして、このパーティーで彼女の紅眼には大きな秘密があることが明らかにされる。 『これは虐げられていた侯爵令嬢が”愛”を知り、幸せになるまでのお話。』 一日一話 14話完結

妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。

バナナマヨネーズ
恋愛
四大公爵家の一つ。アックァーノ公爵家に生まれたイシュミールは双子の妹であるイシュタルに慕われていたが、何故か両親と使用人たちに冷遇されていた。 瓜二つである妹のイシュタルは、それに比べて大切にされていた。 そんなある日、イシュミールは第三王子との婚約が決まった。 その時から、イシュミールの人生は最高の瞬間を経て、最悪な結末へと緩やかに向かうことになった。 そして……。 本編全79話 番外編全34話 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

【完結済】どうして無能な私を愛してくれるの?~双子の妹に全て劣り、婚約者を奪われた男爵令嬢は、侯爵子息様に溺愛される~

ゆうき
恋愛
優秀な双子の妹の足元にも及ばない男爵令嬢のアメリアは、屋敷ではいない者として扱われ、話しかけてくる数少ない人間である妹には馬鹿にされ、母には早く出て行けと怒鳴られ、学園ではいじめられて生活していた。 長年に渡って酷い仕打ちを受けていたアメリアには、侯爵子息の婚約者がいたが、妹に奪われて婚約破棄をされてしまい、一人ぼっちになってしまっていた。 心が冷え切ったアメリアは、今の生活を受け入れてしまっていた。 そんな彼女には魔法薬師になりたいという目標があり、虐げられながらも勉強を頑張る毎日を送っていた。 そんな彼女のクラスに、一人の侯爵子息が転校してきた。 レオと名乗った男子生徒は、何故かアメリアを気にかけて、アメリアに積極的に話しかけてくるようになった。 毎日のように話しかけられるようになるアメリア。その溺愛っぷりにアメリアは戸惑い、少々困っていたが、段々と自分で気づかないうちに、彼の優しさに惹かれていく。 レオと一緒にいるようになり、次第に打ち解けて心を許すアメリアは、レオと親密な関係になっていくが、アメリアを馬鹿にしている妹と、その友人がそれを許すはずもなく―― これは男爵令嬢であるアメリアが、とある秘密を抱える侯爵子息と幸せになるまでの物語。 ※こちらの作品はなろう様にも投稿しております!3/8に女性ホットランキング二位になりました。読んでくださった方々、ありがとうございます!

【完結】新婚生活初日から、旦那の幼馴染も同居するってどういうことですか?

よどら文鳥
恋愛
 デザイナーのシェリル=アルブライデと、婚約相手のガルカ=デーギスの結婚式が無事に終わった。  予め購入していた新居に向かうと、そこにはガルカの幼馴染レムが待っていた。 「シェリル、レムと仲良くしてやってくれ。今日からこの家に一緒に住むんだから」 「え!? どういうことです!? 使用人としてレムさんを雇うということですか?」  シェリルは何も事情を聞かされていなかった。 「いや、特にそう堅苦しく縛らなくても良いだろう。自主的な行動ができるし俺の幼馴染だし」  どちらにしても、新居に使用人を雇う予定でいた。シェリルは旦那の知り合いなら仕方ないかと諦めるしかなかった。 「……わかりました。よろしくお願いしますね、レムさん」 「はーい」  同居生活が始まって割とすぐに、ガルカとレムの関係はただの幼馴染というわけではないことに気がつく。  シェリルは離婚も視野に入れたいが、できない理由があった。  だが、周りの協力があって状況が大きく変わっていくのだった。

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

【完結】巻き戻したのだから何がなんでも幸せになる! 姉弟、母のために頑張ります!

金峯蓮華
恋愛
 愛する人と引き離され、政略結婚で好きでもない人と結婚した。  夫になった男に人としての尊厳を踏みじにられても愛する子供達の為に頑張った。  なのに私は夫に殺された。  神様、こんど生まれ変わったら愛するあの人と結婚させて下さい。  子供達もあの人との子供として生まれてきてほしい。  あの人と結婚できず、幸せになれないのならもう生まれ変わらなくていいわ。  またこんな人生なら生きる意味がないものね。  時間が巻き戻ったブランシュのやり直しの物語。 ブランシュが幸せになるように導くのは娘と息子。  この物語は息子の視点とブランシュの視点が交差します。  おかしなところがあるかもしれませんが、独自の世界の物語なのでおおらかに見守っていただけるとうれしいです。  ご都合主義の緩いお話です。  よろしくお願いします。

処理中です...