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(※アンドレ視点)
「いろいろと考えたのですが、お父様がお母様を殺害した犯人ではないとわかったことで、私が本物のエマだと証明できる可能性が生まれました」
「え!? 本当ですか!? いったい、どうやって……」
私は彼女の言葉に驚いていた。
彼女は私よりも、ずっと先を見据えているようだ。
いったいどれだけ、思考を巡らせているのだろう。
「まずは、お父様がどういう意図で、お母様を殺害したか、という点が重要です。これによって、私が本物だと証明できるかどうかが決まります。お父様がどういう意図でお母様を殺害したか、それについては、二つの仮説があります」
「二つ、ですか……」
私は息をのんだ。
私も兵として、それなりに経験を積んできたが、今は彼女の話について行くのがやっとだった。
「まず一つ目は、自分たちの付いた嘘を、お母様に告発されないように、口封じをする目的で殺害した、という仮説です。嘘がバレそうだと不安になり、バレる前に自白すれば、罪が軽くなるとお母様は考えた。しかし、お父様とヘレンは、そうは思わなかった。きっとバレないはずだから、わざわざ自分たちから話す必要はない、と考えたのです。だからお父様は口封じのために、お母様を撃った。しかし、既に死んでいるとは気づかなかった、という仮説です」
「確かに状況から見て、その仮説はかなり有力ですね……」
「ええ、そして、二つ目の仮説ですが、これは、お母様が死んでいることを、お父様があらかじめ知っていた、という仮説です」
「え!? そんなことが、ありえるのですか!? 死んでいることに気付いていたのに、どうして撃ったのですか?」
私はそんな可能性を考えてもいなかったので、驚いていた。
「それは、溺愛しているヘレンを守るためです。この仮説は、お母様を殺したのがヘレンだ、という前提で組み立てられた仮説です」
「え、まさか……、そんな……、どうして、妹さんが……。いや……、でも、確かに、その可能性もあるのか……」
「まあ、証拠はありませんけれどね。資料を見た時に、何か違和感を感じたのですが……、その違和感の正体は、まだわからないままです。とりあえず今は、仮説のことを説明しましょう。もしお父様が、お母様を殺したのがヘレンだと気付いていた場合、お父様は、ヘレンの犯行だとバレないように、強盗の仕業に見せかけたのです。これが、二つ目の仮説です。まあ、偽装工作は、お粗末なものでしたけれどね」
「なるほど……、その二つの可能性があるわけですか……。つまり、自分の立場を守るために口封じをしたのか、あるいは、娘の犯行を知ってしまったから、それを隠すために、自分の妻を撃ったというわけですね」
「ええ、そうです。後者の仮説だった場合は、お父様は自分が殺人犯ではないと分かったうえで、ヘレンのために、その罪を被ろうとしているということになります。この場合は、もうどうしようもないですね。それだけの覚悟があるのなら、私にできることはありません。しかし、前者の仮説だった場合は──」
「うわあぁぁあああああ!!!」
そこで私は、突然叫び声を上げた。
べつに、頭がおかしくなったわけではない。
もちろん、目の前にいる彼女を驚かせようとしたわけでもない。
しかし彼女は、かなり驚いている様子だった。
まあ、目の前にいる人が突然叫びだしたら、驚くのは当然だ。
「ど、どうしたのですか、アンドレさん……。突然叫び声をあげるなんて、何かあったのですか?」
「あ、いえ、何もありません。どうぞ、お話を続けてください」
私はさらりと受け流して、やり過ごそうとした。
「突然叫びだして、何もないわけがありません。怪しいですねぇ、何を隠しているのですか? あ、そういえば、叫んだ時、あちらの方を見ていましたね」
そのことに気付かれるとは……、さすがの観察眼である。
彼女は横を向いて、私が見ていた方向を凝視していた。
「あ、飛んでいた小さな虫が、壁にくっついていますね。もしかして、アンドレさん、虫が苦手なのですか?」
彼女に指摘されたことは、完全に図星だった。
しかし、虫が怖いなんて、恥ずかしくて言い出すことはできない。
「あれぇ? アンドレさん、無視ですか? 虫だけに、無視するおつもりなのですか?」
「い、いえ……、そんな……、私は、兵士です。そんな私が、まさか虫ごときで叫び声をあげるわけがないでしょう? 虫なんて視界に入っても、無視すればいいだけですからね、ははは……」
「へえ、そうですか……。私、昔はわんぱくな少女だったので、虫を捕まえることに抵抗がないのです。今あの虫を捕まえて、こちらに連れてきましょうか?」
「あ、いや、申し訳ありません。白状します。実は、私は虫が苦手なのです。突然叫んだりして、申し訳ありませんでした」
「やっぱり虫が苦手だったのですか。最初から素直に、そう言えばいいのに……」
彼女は席から立ち上がった。
そして、その虫がいる方へ向かった。
まさか、私が嘘をついたから、その罰として……。
「はい、さようなら」
彼女は窓を開けて、捕まえた虫をそちらに連れて行った。
窓には格子があったが、虫はその小さな隙間から逃げていった。
私は、安堵のため息をついた。
「虫が苦手だなんて、別に恥ずかしいことではないと思います。誰にでも、苦手なものの一つや二つ、ありますよ」
再び席に着いた彼女は、笑顔でそう言った。
私は思わず、その笑顔に見惚れていた。
私にある頼みごとをしたいという彼女の言葉で、私は我に返った。
それは、私に、牢獄にいるローリンズ氏に会いに行ってほしいというものだった。
そして、彼女は自身が本物だと証明する計画の説明を始めた。
それは言い換えれば、殿下に婚約者が偽物だと証明するための計画だった……。
「いろいろと考えたのですが、お父様がお母様を殺害した犯人ではないとわかったことで、私が本物のエマだと証明できる可能性が生まれました」
「え!? 本当ですか!? いったい、どうやって……」
私は彼女の言葉に驚いていた。
彼女は私よりも、ずっと先を見据えているようだ。
いったいどれだけ、思考を巡らせているのだろう。
「まずは、お父様がどういう意図で、お母様を殺害したか、という点が重要です。これによって、私が本物だと証明できるかどうかが決まります。お父様がどういう意図でお母様を殺害したか、それについては、二つの仮説があります」
「二つ、ですか……」
私は息をのんだ。
私も兵として、それなりに経験を積んできたが、今は彼女の話について行くのがやっとだった。
「まず一つ目は、自分たちの付いた嘘を、お母様に告発されないように、口封じをする目的で殺害した、という仮説です。嘘がバレそうだと不安になり、バレる前に自白すれば、罪が軽くなるとお母様は考えた。しかし、お父様とヘレンは、そうは思わなかった。きっとバレないはずだから、わざわざ自分たちから話す必要はない、と考えたのです。だからお父様は口封じのために、お母様を撃った。しかし、既に死んでいるとは気づかなかった、という仮説です」
「確かに状況から見て、その仮説はかなり有力ですね……」
「ええ、そして、二つ目の仮説ですが、これは、お母様が死んでいることを、お父様があらかじめ知っていた、という仮説です」
「え!? そんなことが、ありえるのですか!? 死んでいることに気付いていたのに、どうして撃ったのですか?」
私はそんな可能性を考えてもいなかったので、驚いていた。
「それは、溺愛しているヘレンを守るためです。この仮説は、お母様を殺したのがヘレンだ、という前提で組み立てられた仮説です」
「え、まさか……、そんな……、どうして、妹さんが……。いや……、でも、確かに、その可能性もあるのか……」
「まあ、証拠はありませんけれどね。資料を見た時に、何か違和感を感じたのですが……、その違和感の正体は、まだわからないままです。とりあえず今は、仮説のことを説明しましょう。もしお父様が、お母様を殺したのがヘレンだと気付いていた場合、お父様は、ヘレンの犯行だとバレないように、強盗の仕業に見せかけたのです。これが、二つ目の仮説です。まあ、偽装工作は、お粗末なものでしたけれどね」
「なるほど……、その二つの可能性があるわけですか……。つまり、自分の立場を守るために口封じをしたのか、あるいは、娘の犯行を知ってしまったから、それを隠すために、自分の妻を撃ったというわけですね」
「ええ、そうです。後者の仮説だった場合は、お父様は自分が殺人犯ではないと分かったうえで、ヘレンのために、その罪を被ろうとしているということになります。この場合は、もうどうしようもないですね。それだけの覚悟があるのなら、私にできることはありません。しかし、前者の仮説だった場合は──」
「うわあぁぁあああああ!!!」
そこで私は、突然叫び声を上げた。
べつに、頭がおかしくなったわけではない。
もちろん、目の前にいる彼女を驚かせようとしたわけでもない。
しかし彼女は、かなり驚いている様子だった。
まあ、目の前にいる人が突然叫びだしたら、驚くのは当然だ。
「ど、どうしたのですか、アンドレさん……。突然叫び声をあげるなんて、何かあったのですか?」
「あ、いえ、何もありません。どうぞ、お話を続けてください」
私はさらりと受け流して、やり過ごそうとした。
「突然叫びだして、何もないわけがありません。怪しいですねぇ、何を隠しているのですか? あ、そういえば、叫んだ時、あちらの方を見ていましたね」
そのことに気付かれるとは……、さすがの観察眼である。
彼女は横を向いて、私が見ていた方向を凝視していた。
「あ、飛んでいた小さな虫が、壁にくっついていますね。もしかして、アンドレさん、虫が苦手なのですか?」
彼女に指摘されたことは、完全に図星だった。
しかし、虫が怖いなんて、恥ずかしくて言い出すことはできない。
「あれぇ? アンドレさん、無視ですか? 虫だけに、無視するおつもりなのですか?」
「い、いえ……、そんな……、私は、兵士です。そんな私が、まさか虫ごときで叫び声をあげるわけがないでしょう? 虫なんて視界に入っても、無視すればいいだけですからね、ははは……」
「へえ、そうですか……。私、昔はわんぱくな少女だったので、虫を捕まえることに抵抗がないのです。今あの虫を捕まえて、こちらに連れてきましょうか?」
「あ、いや、申し訳ありません。白状します。実は、私は虫が苦手なのです。突然叫んだりして、申し訳ありませんでした」
「やっぱり虫が苦手だったのですか。最初から素直に、そう言えばいいのに……」
彼女は席から立ち上がった。
そして、その虫がいる方へ向かった。
まさか、私が嘘をついたから、その罰として……。
「はい、さようなら」
彼女は窓を開けて、捕まえた虫をそちらに連れて行った。
窓には格子があったが、虫はその小さな隙間から逃げていった。
私は、安堵のため息をついた。
「虫が苦手だなんて、別に恥ずかしいことではないと思います。誰にでも、苦手なものの一つや二つ、ありますよ」
再び席に着いた彼女は、笑顔でそう言った。
私は思わず、その笑顔に見惚れていた。
私にある頼みごとをしたいという彼女の言葉で、私は我に返った。
それは、私に、牢獄にいるローリンズ氏に会いに行ってほしいというものだった。
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