王子からの縁談の話が来たのですが、双子の妹が私に成りすまして王子に会いに行きました。しかしその結果……

水上

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 私は部屋の中で一人、考えていた。

 ヘレンかお父様が真犯人の可能性が高い。
 そう考えた時、不思議と納得していた。
 この私の考えが正しければ、お母様がこのタイミングで殺されたことにも、一応の説明がつく。

 おそらく動機は、意見の不一致だ。
 もちろんそれは、あの三人が抱えている秘密のことについてである。
 ヘレンを私に成りすますことで、王子と婚約しているけれど、その秘密が明るみに出るかもしれないと思い始めたのだろう。

 だからお母様が、自白すれば罪が軽くなるかもしれないとでも、言い出したといったところか。
 それで、黙っていれば大丈夫という側と、バレる前に自白して、罪を軽くしようという側に分かれたに違いない。
 もしお父様が犯人だった場合、捕まったとしても、ヘレンのことを話すだろうか……。

 溺愛するヘレンの秘密を守るために、お母様を殺した動機を偽る可能性もある。
 口だけなら、夫婦喧嘩とでも何とでも言える。
 そして、それが本当のことなのかは証明することができない。
 つまり、捕まったとしてもお父様が口を割らなければ、ヘレンが成りすましの偽物だという真実は明るみに出ない。

 それは、私にとっても都合が悪い。
 仮にお父様の方が犯人だったとして、お父様は捕まったら、簡単に口を割るのかしら……。

     *

 (※父親視点)

「はあ……、はあ……」

 私は必死に走っていた。
 しかし、追いかけてくる兵との距離は、縮まる一方だった。
 このままでは、捕まるのも時間の問題だ。

 私は長い階段を降り始めた。
 降りながら後ろを振り返ると、兵たちとの距離はさらに縮まっていた。
 恐怖で体が震えそうだ。
 捕まれば、私には処罰が下される。
 それだけは、絶対に御免だった。

 階段を下りながら、うしろを向いたのがいけなかった。
 私は足を滑らせ、勢いよく階段から落ちていった。
 勢いは止まらず、一番下まで階段を転げ落ち、私は地面に倒れていた。

「うぅ……」

 体中が痛い。
 慣れない運動をしたせいだけではない。
 長い階段から転げ落ちた時に、体のあちこちを地面に打ち付けていた。
 しかし私は、必死に立ち上がった。
 痛みに悲鳴を上げている暇はない。
 今はとにかく、兵たちから逃げなければならない。

 不幸中の幸いというべきか、長い階段を勢いよく転がり落ちたことによって、兵たちとの距離は少し広がっている。
 私はまた走って逃げ始めようとした。
 しかし、それはできなかった。
 階段から落ちた時、足をひねっていたようだ。
 走るなんて、とても無理だ。
 歩くだけで、激痛が走る。

 私は周りを見渡した。
 普通に逃げたのでは、いずれ捕まってしまう。
 そうだ、あそこに逃げよう!
 
 私の目に飛び込んできたのは、広い森だった。
 そこは、凶器の銃や金品を捨てた森だった。
 この森は広いから、走れなくても、木に隠れながら逃げれば、見つからないはずだ。
 私は足を引きずりながら、森の中に入った。
 
 兵たちはまだ、階段の半分を降りたところだった。
 私は木の陰に隠れながら、さらに森の奥へと進んだ。
 うしろを振り返っても、兵の姿は見えない。
 それは、見えないほど距離が離れたからではなく、何本もある木で見えないせいだ。

 森の中は暗くて視界が悪い。
 近くが何とか見える程度である。
 しかしそれでも、私は必死で兵から逃げていた。
 うしろからは、たくさんの兵たちの声が聞こえる。
 しかし、彼らは私の正確な居場所はわからなくなっているはずだ。

 少し、休憩しよう。
 もう、動くことができない。
 ずっと走っていて疲れたし、階段から落ちたせいで、体中が痛い。
 私は木に背を預けて座った。
 頭が、ぼんやりとする。
 気を抜くと、意識を失いそうだった。

 どうしてこんなことになったんだ……。
 私はただ、ヘレンの幸せな姿を見たかっただけなのに……。
 それがまさか、こんなことになるなんて……。
 
「やっと見つけましたよ」

 意識が朦朧としていた私は、その声に驚いた。
 顔を上げると、目の前にはたくさんの兵がいた。
 私は恐怖で、動くことができなかった。

「あなたを逮捕します」

 私は、とうとう捕まってしまった。
 どうしてこんなことに……。
 私は人生の選択肢を、どこで間違えたのだろう……。
 捕まってしまった私は、そのまま連行された。
 そして、取り調べを受けることになった。

 取り調べをしている兵は、アンドレと名乗った。
 そして彼からは、ある事実が告げられた。

「実はさっき貴方が逃げた森で、銃と金品をいくつか見つけました。あなたが逃げていた獣道の近くにありました」
 
 しまった……。
 つい、銃を捨てた時に通った道と同じ道を通ってしまった。
 森は暗くて視界が悪かった。
 だから、一度通った道なら慣れているから、暗くても迷わず進める。
 そう判断したのが、裏目に出てしまった……。

 それに、兵たちはどうやって、私を見つけたんだ?
 あんなに広い森で私を見つけるなんて、不可能だと思っていたのに……。
 私はその疑問を、彼にぶつけてみた。

「それなら簡単なことですよ。血の跡を追跡したのです。貴方は階段から落ちたせいで、かなり出血していましたからね」

 そうか……、結局どうあがいても、私は捕まる運命だったということか。

「現在、あなたから採取した指紋と、銃についていた指紋を照合しています。まあ、おそらく一致するでしょうね」

 私は兵のその言葉に、絶望していた。
 指紋が一致することは、私が一番よくわかっている。
 証拠がでたら、私が妻を殺したことが確定する。
 私は人殺しとして、裁かれることになるのか……。
 しかしそこで、あることを思い付いた。

 王子を騙している件は、まだバレていない。
 私は今のところ、妻を殺した動機を黙っている。
 それは、動機を話せば、ヘレンが成りすましの偽物だとバレてしまうからだ。
 そして、そのことを自白すれば、少しは罪を軽くしてもらえるかもしれない。

 しかし、自分の罪を軽くしてもらうために、愛するヘレンを売るなんて……。
 自分とヘレンを天秤にかけるなんて、今まで考えたこともなかった。
 私は、決断しなければならない。

 減刑してもらうために、ヘレンを売るのか、それとも……。
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