王子からの縁談の話が来たのですが、双子の妹が私に成りすまして王子に会いに行きました。しかしその結果……

水上

文字の大きさ
上 下
20 / 55

20.

しおりを挟む
「お母様が、亡くなった?」

 私は突然の報せに、驚いていた。
 私の言葉を信じてくれている兵、アンドレ・へーゲンは、私にそのことを教えてくれたあと、お悔やみの言葉を告げた。

 不思議と、あまり悲しいとは感じなかった。
 今まで育ててくれた恩はあるけれど、それ以上にひどい扱いを受けてきたせいもある。
 それに、あまりに突然のことだったので、悲しみよりも驚きの方が大きかった。

「あの、アンドレさん、どうして母は亡くなっていたのでしょうか?」

 私は彼に質問した。

「今のところは、強盗の仕業と見られています」

「強盗ですか……」

 確かに、ありえないことではない。
 しかし、どうにも腑に落ちない。
 なんというか、タイミングが良すぎるというか、悪いというべきなのか、とにかく、ただの強盗ではないような気がした。
 もちろん、根拠もない単なる勘だけれど。

「あの、その手に持っているものは何ですか?」

 私は彼に質問した。

「あぁ、これは、その強盗事件の資料です。私も調査に加わるように言われたので、今から戻って資料に目を通そうと思っていたのです」

「あの、それ、私にも見せてもらえませんか?」

 私は無理を承知でお願いした。

「いや、それは、その……」

 彼も困っている様子である。
 しかし、私は母の最期を、知りたかったのだ。

「お願いします。母がどのような最期を遂げたのか、知りたいのです。それに、私に生まれ育った家ですから、資料にある写真を見れば、何か気付くかもしれませんよ?」

「……ええ、わかりました。本当は部外者に見せてはいけないのですが、貴女はずっとここにいたので犯人の可能性はありませんし、今は少しでも情報が欲しいですからね。何か気付いたことがあれば、どんな些細なことでも言ってください」

「ええ、ありがとうございます。それではさっそく、資料を拝見しましょう」

 私はアンドレさんと一緒に、資料に目を通した。
 そして私は、あることに気付いたのだった。

     *

 (※ヘレン視点)

 お母様が、亡くなった。
 もう、お母様の声を聞くことはできない。
 その事実が、私に重くのしかかっていた。

 兵からの報告を受けた殿下から、私は話を聞いた。
 お母様は、強盗に銃で撃たれたとみて、兵たちは調査をしているそうだ。

 強盗に銃で撃たれたですって?
 意味が分からなかった。
 そのことで、私の頭は混乱していた。

 ということはつまり、私ももう少しあの家にいる時間が長ければ、強盗に撃たれていたかもしれないのだ。
 私はそのことに、恐怖を感じていた。
 とにかく、わからない。
 いったい、どうしてこんなことになっているのか……。

 お母様とは、喧嘩別れになってしまった。
 そして、もう二度と、仲直りもできない。
 謝ることさえ、できないのだ。

 私はお母様との最期を思い出していた。

 自然に、涙があふれてきた。
 どうして、あんなことになったの……。
 全部、私のせいなの?
 もしかしたらほかに、選択肢があったのかもしれない。
 私とお父様が、お母様の提案を受け入れて、あの家に残っていれば、違った結末を迎えたのかもしれない。
 そもそも私がお姉さまの縁談を奪って、殿下と婚約しなければ、こんなことにはならなかったのかもしれない。

 しかし、後悔したところで、後戻りなんてできない。 
 進んだ時間を戻すことなんて、できないのだ。
 言い知れぬ恐怖と絶望で、私は身体を震わせながら、涙を流していた。
 殿下は、そんな私に優しい言葉をかけて、なぐさめてくれた。

 とにかく、どうしてこんなことになったのか、まったくわからない。
 強盗に銃で撃たれたという話が、未だに信じられなかった。
 お父様が第一発見者だったそうだけれど、あのあと家に戻ってきて、発見したということよね……。
 それで、強盗が入ったと通報した。

 そのことが何を意味するのか、私はじっくりと考えていた……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

本日私は姉を卒業します!

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
公爵令嬢のアンジェリカには双子の妹アンジェラがいる。 生まれたのが数秒早かっただけで人生こんなに変わるもの⁈と思う程の依怙贔屓。 アンジェリカは妹の我儘に付き合わされながら日々を過ごしてきた。両親も何故か妹には甘々で、正直平等など存在しない。 ある日妹のアンジェラが王太子の元へ嫁ぐ事になり婚姻の儀が執り行われた。他国の来賓者達も出席する中アンジェリカはある事を実行に移す。アンジェラの姉として王太子とアンジェラに祝いを述べた最後に。 「アンジェラ、私は本日で貴女の姉を卒業します」と宣言した。無論周囲は騒然とする。妹は呆然と立ち尽くし、王太子は王太子妃を侮辱したとして不敬罪だと激怒し、国から追放すると言う。 アンジェリカは覚悟の上だったが「なら彼女は僕が妃に貰うよ」と隣国の王太子が名乗りを上げた。彼は超がつく程の美男子で実は妹が以前アプローチをしていた人物だった。妹は発狂して…婚儀はめちゃくちゃに…。

妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。

バナナマヨネーズ
恋愛
四大公爵家の一つ。アックァーノ公爵家に生まれたイシュミールは双子の妹であるイシュタルに慕われていたが、何故か両親と使用人たちに冷遇されていた。 瓜二つである妹のイシュタルは、それに比べて大切にされていた。 そんなある日、イシュミールは第三王子との婚約が決まった。 その時から、イシュミールの人生は最高の瞬間を経て、最悪な結末へと緩やかに向かうことになった。 そして……。 本編全79話 番外編全34話 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

【完】ええ!?わたし当て馬じゃ無いんですか!?

112
恋愛
ショーデ侯爵家の令嬢ルイーズは、王太子殿下の婚約者候補として、王宮に上がった。 目的は王太子の婚約者となること──でなく、父からの命で、リンドゲール侯爵家のシャルロット嬢を婚約者となるように手助けする。 助けが功を奏してか、最終候補にシャルロットが選ばれるが、特に何もしていないルイーズも何故か選ばれる。

妃殿下、私の婚約者から手を引いてくれませんか?

ハートリオ
恋愛
茶髪茶目のポッチャリ令嬢ロサ。 イケメン達を翻弄するも無自覚。 ロサには人に言えない、言いたくない秘密があってイケメンどころではないのだ。 そんなロサ、長年の婚約者が婚約を解消しようとしているらしいと聞かされ… 剣、馬車、ドレスのヨーロッパ風異世界です。 御脱字、申し訳ございません。 1話が長めだと思われるかもしれませんが会話が多いので読みやすいのではないかと思います。 楽しんでいただけたら嬉しいです。 よろしくお願いいたします。

婚約者がツンツンしてきてひどいから婚約はお断りするつもりでしたが反省した彼は直球デレデレ紳士に成長して溺愛してくるようになりました

三崎ちさ
恋愛
伯爵家の娘ミリアは楽しみにしていた婚約者カミルと初めての顔合わせの際、心ない言葉を投げかけられて、傷ついた。 彼女を思いやった父の配慮により、この婚約は解消することとなったのだが、その婚約者カミルが屋敷にやってきて涙ながらにミリアに謝ってきたのだ。 嫌な気持ちにさせられたけれど、その姿が忘れられないミリアは彼との婚約は保留という形で、彼と交流を続けることとなる。 初めのうちは照れながらおずおずとミリアに接するカミルだったが、成長に伴い、素直に彼女に気持ちを伝えられるようになっていき、ミリアも彼に惹かれていくようになる。 極度のシャイで素直な気持ちを言うのが苦手な本来ツンデレ属性な男の子が好きな女の子を傷つけないために、素直な気持ちを伝えることを頑張るお話。 小説家になろうさんにも掲載。

私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。 しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

処理中です...