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(※ヘレン視点)
私の心臓は、張り裂けそうなほど高鳴っていた。
間違いは許されないこの状況、緊張するなというのは無理な話である。
そんな状況の中、殿下は私に話を振ってきた。
「あの時のあれ、また食べたいな。君も、そう思うだろう?」
「ええ、そうですね。あれをきっかけに殿下とお話をすることができたのですから、あれはいわば、私たちの思い出の味です。私も時々思い出して、あれを食べたくなることがありますよ」
私はあえて、具体的な料理名などを口に出さず、話を別の方へ持って行こうと模索していた。
綱渡りのように緊張する会話だった。
「私たちの思い出の味か……、確かにそうだね。あの料理を食べると、私はいつも、初めて君に合った時のことを思い出すよ」
殿下は嬉しそうな表情で言った。
とりあえず、今のところは問題ないようだ。
しかし、少しほっとして油断していた私は、ここで地雷を踏んでしまうのである。
「もうずいぶんと長い間、あの料理も食べていませんね。殿下がお話しされたので、私たちの思い出の味が、なんだか恋しくなってきちゃいました」
何も考えずに口走った私のその言葉を聞いて、殿下は顔色を変えた。
「何を言っているんだ? 今週食べたばかりじゃないか? あれを食べたこと、もう忘れてしまったのかい?」
殿下は私の顔を覗き込むようにして言った。
「あはは……、そうでしたね、うっかり忘れていました。そういえば、あれを食べたのは、今週でしたね。あぁ、本当にあれ、美味しかったですねぇ」
私は自分で言いながら、気が気ではなかった。
あれって、何?
今週食べていたの?
「自分で思い出の味といいながら、それを今週食べたことを忘れていたのかい? 君、私たちが初めて会った時に食べていた料理を、本当に覚えているのか?」
殿下は訝しむような表情で私に問いかけた。
その表情を見て、私の額を流れる汗は勢いを増した。
「えっと……、あれですよね。はい、もちろん覚えていますよ。私たちが初めて出会った記念すべき日のことを、私が忘れるわけがありませんからね」
私は苦笑いしながら言った。
殿下は相変わらず、こちらを訝しむような表情で見ている。
殿下と初めて会った時、殿下が何を食べていたのか……。
それを答えない限り、殿下のこちらを見る表情は変わらないだろう。
やっぱり、こうなってしまった……。
私は、考えた。
この状況を逃れる方法を。
そして、あることを思い出した。
そうだわ!
私はお姉さまに成りすましているただの偽物だから、正解なんてわからないと思っていた。
でも、そんなことはない。
私はいつも、お姉さまと一緒にパーティに参加していた。
つまり、殿下とお姉さまが出会った立食パーティには、私も参加していた。
きっと、その時食べていた料理も、私は目撃しているはず。
そうとわかれば、あとは簡単だ。
その時のことを、思い出せばいいだけだわ!
でも、それが一番難しかった……。
あの時、殿下は何を食べていたの?
何年も前のことなんて、思い出せないわ……。
とりあえず、何とかしてヒントを得よう。
回答権は一度しかない。
一度でも間違えれば、成りすましている偽物だと疑われてしまうからだ。
それだけは、絶対に避けなければならない。
「えっと……、殿下があの時食べていた料理って、あれですよね? えぇ、あの……、パリッとした感じのやつでしたよね?」
私は曖昧な感じのことを言って誤魔化しつつ、殿下からヒントを得ようと試みた。
私のこの選択は、正しいのか、それとも間違っているのか。
私は緊張と不安に支配されながら、殿下の次の言葉を待った……。
私の心臓は、張り裂けそうなほど高鳴っていた。
間違いは許されないこの状況、緊張するなというのは無理な話である。
そんな状況の中、殿下は私に話を振ってきた。
「あの時のあれ、また食べたいな。君も、そう思うだろう?」
「ええ、そうですね。あれをきっかけに殿下とお話をすることができたのですから、あれはいわば、私たちの思い出の味です。私も時々思い出して、あれを食べたくなることがありますよ」
私はあえて、具体的な料理名などを口に出さず、話を別の方へ持って行こうと模索していた。
綱渡りのように緊張する会話だった。
「私たちの思い出の味か……、確かにそうだね。あの料理を食べると、私はいつも、初めて君に合った時のことを思い出すよ」
殿下は嬉しそうな表情で言った。
とりあえず、今のところは問題ないようだ。
しかし、少しほっとして油断していた私は、ここで地雷を踏んでしまうのである。
「もうずいぶんと長い間、あの料理も食べていませんね。殿下がお話しされたので、私たちの思い出の味が、なんだか恋しくなってきちゃいました」
何も考えずに口走った私のその言葉を聞いて、殿下は顔色を変えた。
「何を言っているんだ? 今週食べたばかりじゃないか? あれを食べたこと、もう忘れてしまったのかい?」
殿下は私の顔を覗き込むようにして言った。
「あはは……、そうでしたね、うっかり忘れていました。そういえば、あれを食べたのは、今週でしたね。あぁ、本当にあれ、美味しかったですねぇ」
私は自分で言いながら、気が気ではなかった。
あれって、何?
今週食べていたの?
「自分で思い出の味といいながら、それを今週食べたことを忘れていたのかい? 君、私たちが初めて会った時に食べていた料理を、本当に覚えているのか?」
殿下は訝しむような表情で私に問いかけた。
その表情を見て、私の額を流れる汗は勢いを増した。
「えっと……、あれですよね。はい、もちろん覚えていますよ。私たちが初めて出会った記念すべき日のことを、私が忘れるわけがありませんからね」
私は苦笑いしながら言った。
殿下は相変わらず、こちらを訝しむような表情で見ている。
殿下と初めて会った時、殿下が何を食べていたのか……。
それを答えない限り、殿下のこちらを見る表情は変わらないだろう。
やっぱり、こうなってしまった……。
私は、考えた。
この状況を逃れる方法を。
そして、あることを思い出した。
そうだわ!
私はお姉さまに成りすましているただの偽物だから、正解なんてわからないと思っていた。
でも、そんなことはない。
私はいつも、お姉さまと一緒にパーティに参加していた。
つまり、殿下とお姉さまが出会った立食パーティには、私も参加していた。
きっと、その時食べていた料理も、私は目撃しているはず。
そうとわかれば、あとは簡単だ。
その時のことを、思い出せばいいだけだわ!
でも、それが一番難しかった……。
あの時、殿下は何を食べていたの?
何年も前のことなんて、思い出せないわ……。
とりあえず、何とかしてヒントを得よう。
回答権は一度しかない。
一度でも間違えれば、成りすましている偽物だと疑われてしまうからだ。
それだけは、絶対に避けなければならない。
「えっと……、殿下があの時食べていた料理って、あれですよね? えぇ、あの……、パリッとした感じのやつでしたよね?」
私は曖昧な感じのことを言って誤魔化しつつ、殿下からヒントを得ようと試みた。
私のこの選択は、正しいのか、それとも間違っているのか。
私は緊張と不安に支配されながら、殿下の次の言葉を待った……。
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