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 (※隊長視点)

 例の医師の事件は、自殺で処理されそうだった。
 
 しかし、私はどこか違和感を覚えていた。
 それが何かは具体的にはわからないが、なんとなく、不自然な感じがしたのだ。
 しかし、憲兵である私が、なんとなくという理由で、無駄に捜査を引き延ばすわけにはいかない。
 
 いくつかの難事件を見事に解決して、今や隊長という立場の私だが、それは実力によるものではなかった。

 私が今まで事件を解決できたのは、偶然だ。
 たまたま思い付いたことを元に捜査をした結果、証拠を見つけたり、犯人を特定できたに過ぎない。
 毎回のように、そんな奇跡的な思い付きなど、できないのだ。

 しかし、私の同僚たちは、私に期待の目を向けている。
 私はそのプレッシャーのせいで、胃に穴が開きそうなほどのストレスを感じていた。

 そんな重圧を感じていた時、私の部下の一人が意見を述べた。

「これは……、おそらく自殺ではありませんね」

 そう言ったのは、訓練校を首席で卒業して憲兵に入団した期待の新人、キャサリン・ビルだった。
 その彼女が、ウィリーの事件の資料を見て、自殺ではないと言った。

「……何か、理由があるんだな?」

 私は当然の質問をした。
 憲兵では自殺として処理する流れだったが、何か見落としがあったのかもしれない。

「確かに、ロープで首を吊ったように見えますが、少し不自然です」

「どう不自然なのだ?」

 確かに私も不自然だとは思っていたが、具体的に何が不自然なのかは分からなかった。

「被害者の方の首を見てください」

「引っ掻き傷があるな。首をつってから、苦しかったから暴れたのだろう」

 私は資料にある写真を見ながら答えた。

「ええ、そうでしょうね。覚悟を持って自殺を決意しても、実行すれば、当然苦しいです。彼が抵抗したのも、わからないでもありません」

「ああ、そうだな。だったら、特に不自然ではないように思うが……」

「私が不自然だと言ったのは、そこではありません。私が不自然だと思ったのは、そもそもどうして、被害者の方は首を吊ったのかという点です」

「どうしてって……、自殺するためじゃないのか?」

「いえ、私の言い方が悪かったですね。彼はどうして、自殺の方法に、首つりという方法を選んだのでしょうか? 彼が務めている病院の棚には、たくさんの薬がありますよね。その中には、飲めば苦しむことなく簡単に死ねるような物もあります。それなのに、どうしてわざわざ苦しくなることがわかりきっている首つりをしたのでしょうか?」

「確かに……、そうだな」

 そうだ、私が感じていた違和感は、まさにそれだ。
 そこが不自然に感じていたのだ。
 彼が死んでいた場所には、たくさんの薬があった。
 それを飲む方が、首を吊るよりも簡単に死ぬことができる。

「つまりこれは、自殺に見せかけた他殺だという可能性があります」

「確かにそうだな。でも、いったい、誰がそんなことを……」

「資料を見た限りでは、一人怪しい人物がいますね」

 さすがに、そこまではわからないと思っていたのが、彼女はさらりとそう言ってのけたのだった。
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