肋骨-アバラボネ-

ゆうじ

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和解

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ここは何処だ。私は死んだ。だが生きている。私は何をしていた。なんだ、この、胸がざわめく感じは。何かすべきことがあったはずなのに、なのに、思い出せない。
 
 
 
 家に連れ込まれてもなお、男は動かない。口をパクパクとしたまま動かない。揺すってみると、気づいた。
「ちょっとあんた!なんなのよいきなり!」
髪が長く、凛とした女性。梓がいつもの調子で説教をする。男は最初戸惑ったように見られたが次第に落ち着きを取り戻してポツリ、ポツリと喋りだした。
「あの、僕死神なんですけど、仕事をしようとしたら、そいつに邪魔されて…。」
今までの事のあらましを梓に伝えると、やはり死神と名乗った男に細い腕に似つかない威力の拳骨が振り下ろされた。
「それは運が悪かっただけじゃない!こっちに押し付けないでよアホンダラ!!」
再び鈍い音が響く。
「す、すいませんでした…。」
死神が深々と頭を下げると、今の今まで怒を表にしていた彼女が一瞬驚いた顔をした。それをずっと隣で見ていた健二が口を開く。
「どうしたの?梓。」
梓は健二の問に皮肉をめいいっぱいの込めて答える。
「だっていつも真面目に謝らない健二相手にしてきたから…なんかすぐ謝られるとしっくりこないっていうか……。」
健二は苦笑いをしながら再び死神と向かい合った。先ほどとは打って変わってすこぶる大人しい。反省しているのか、俯いている。
「まぁこっちも悪かったね。仕事中なのに家の修理までさせちゃって。」
既に家のドアは応急処置ではあるが修理が済んでいた。
「いやぁいいんですよ!悪かったのは僕なんで!」
 始まった。梓は心の中で舌打ちをする。健二は謝れると自分が悪いと思うこの上なく厄介な性格である。相手がめんどくさいと思ってくれるか、いいんですかとどちらかが諦めたらやり取りを延々と聞かなくてならない者にとって一番ありがたいのが世間一般的な考え方でありその場を凌ぐ最善の方法である。だが、どうやらこの死神も生憎同じ性格でとことん粘るタイプのようだ。こっちが悪かったこっちの方が悪かった、というような流れが数分間続いている。ここは早々に切り上げなければならないと梓が焦り出す。時刻は11時45分。梓の部活が始まるのは1時。此処から高校まで歩いて1時間。一刻も早く昼ご飯の支度をして部活に行かなくてはならないのだ。遅刻なんてしたら笑われてしまう。という不安が頭の中を支配する。だがこの状況から脱するのはかなりの勇気が必要だ。この自称死神は吹っ切れると大鎌を振り回す変人である。あまり関わりたくないのが梓の本音だ。
 だが、ここで奇跡が起きる。
「ぐぅ」
混沌とした小屋に神の救いとも思える腹の虫の鳴き声が谺響する。
「あ、すいません。」
死神がそう言うと間髪入れずに梓が話の支配権を握る。
「じゃあそろそろご飯にしよっ!あんたも食べてきなよ !」
そう言ってこの場から脱出を図った梓は昼食の準備に取り掛かった。
「死神…さんだっけ?」
健二が口を開き、
「君、でいいですよ。何か?」
死神が笑顔で返す。
「魂を集めてる所があるんだけど、ノルマってどれくらいなの?」
思いもよらない質問に少々戸惑った死神だったが今日のノルマを達成していない彼にとって聞かないことは無い内容だ。1日5人で、自分はあと2人だと伝えると、健二は笑顔で答えた。
「よかった~!ちょうど今2つ溜まってるんだ~。あとで一緒に行こうか!」
 
 
 小鳥達が華麗な奏音を奏でている。森の深い、深い所に二人は向かっていた。
「なぁ、此処はどこだい?随分歩いたようだけれど。」
汗を流し、ジャケットを脱ぎつつ問いかける。真夏にも関わらず真っ白な肌をした健二はこっちだと言い、ひとつポツンと佇んでいる物置に駆け出した。
「ほら、入ってごらん。」
死神が恐る恐る物置に入ってみるとそこには活きのいい(?)魂が2つ、浮遊していた。
「えっ…こんなんどこから持ってきたの……?」
死神が尋ねると健二は悲しそうな顔をして、答えた。
 健二の話では、近頃といっても人間にとっては数十年ほど前から、なのだが人間が真夜中に森を荒らすらしい。最初はちょっとしたイタズラ程度のものだったので健二も目をつぶっていたのだが、段々行動がエスカレートし、木を斧で切ったり、町ぐるみで秘密裏に伐採するようになったのだ。人間の身勝手な行動に堪忍袋の緒が切れた健二は遂に武力行使に出て、反省の色を見せない人間を消しているのだという 。
「で、これは昨日見つけた人間の魂ってこと。魂ほっとくと食っちまう奴らがいるし、それを見ちまった人間が噂を広めて余計迷惑だからな。こうして1箇所に集めてんだ。」
確かにこのご時世ではSNSで全世界に一瞬で広まってしまう。成程、とポンと手を叩いて死神はありがたく魂を受け取ることにした。
「今日は色々ありがとう。おかげでノルマ達成したし。そうだ、お礼したいから、ちょっと家の台所使っていいかな?」
健二は怪訝な顔をしたが、まぁいっかと思い、2人はその場を後にした。
 
    其ノ参      『和解』                     終 
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