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やっぱりストーカー
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「で?」
そう言ったビャクは、呆れたように私を見てため息を吐いた。
「お前は公国で奉仕が義務付けられたんじゃなかったか?」
「そんなのが私を縛る理由になると思う?」
ナンセンスねと私が笑いかけると、それもそうだなとビャクは納得したように頷いた。
「だが、調子こいて死刑にされるなんて俺はまっぴらごめんだ。」
「じゃあ、帰れば?きっと怒ったハジメがあなたをクビにするだろうけど。」
仕返しすると言っただろう。
今回は何がなんでもついてきてもらうぞ。
そう言う意味を込めて、ビャクの手を何度か叩くと、めんどくさそうにため息を吐かれた。
長く歩いていた路地を抜けて、深い霧の漂う早朝。
私とビャクは、雇った王都の行商人の荷車に潜んでいた。
「しかし、もっとマシな忍び込み方はなかったのか。臭くてかなわん。」
「我慢しなさい。この程度嗅ぎ慣れてるでしょ。」
綺麗好きなハジメなら、いざ知らず。
臭いの発生源すら作っていたくせに。
私が鼻を鳴らせば、ビャクは心底嫌そうに舌を打った。
窓のない荷車から、現在地を知るのは不可能なことで、加えて景色が変わらない分随分暇な感情が際立つ。
ビャクに寄っかかって、ふわふわした気分で目を閉じていると、荷車がゆっくりと停車した。
誰かの話し声に、ビャクは自分の人差し指を口に持っていくのを私に見せると、ゆっくり立ち上がった。
ビャクが腰の銃を手に取るのが見えて、鳴り響くであろう銃声に備え、耳と目を塞ぐ。
今か今かと、心の準備をして待っていると、私の手を誰かが握った。
「大公!」
少し怒った表情の彼は、私の手を取って立ち上がらせると、荷車の出口に引っ張っていく。
どうやら、隠密で王都に行く作戦は失敗に終わったな。
ガッカリと、もうこの臭い荷車に乗らなくていい喜びがうっすらと浮上する。
ビャクは大変嬉しそうだ。
「え?」
ビャクは帰りの馬車の扉を開けると、そこにはハジメとアダム。
眉間にシワを作って大公を見上げると、彼は少し口元を緩めて眉尻を下げた。
「王都、行きたかったんだろ?」
「うん。でも、私が行くと面倒なんでしょう?」
「半年以内に戻るなら、皇帝も文句は言わないさ。それに俺も、今回の件でいろいろ王都に用ができた。」
軽く膝を折った大公が私の前に屈むと、まるでダンスを誘うように手を差し出した。
「一緒に行っていただけますか?」
珍しく茶化すようにそう言った大公が、耳を赤く染めたのはきっと気のせいだろう。
それよりも王都に行けることが嬉しくて、軽率にも私は大公に熱い抱擁をした。
そう言ったビャクは、呆れたように私を見てため息を吐いた。
「お前は公国で奉仕が義務付けられたんじゃなかったか?」
「そんなのが私を縛る理由になると思う?」
ナンセンスねと私が笑いかけると、それもそうだなとビャクは納得したように頷いた。
「だが、調子こいて死刑にされるなんて俺はまっぴらごめんだ。」
「じゃあ、帰れば?きっと怒ったハジメがあなたをクビにするだろうけど。」
仕返しすると言っただろう。
今回は何がなんでもついてきてもらうぞ。
そう言う意味を込めて、ビャクの手を何度か叩くと、めんどくさそうにため息を吐かれた。
長く歩いていた路地を抜けて、深い霧の漂う早朝。
私とビャクは、雇った王都の行商人の荷車に潜んでいた。
「しかし、もっとマシな忍び込み方はなかったのか。臭くてかなわん。」
「我慢しなさい。この程度嗅ぎ慣れてるでしょ。」
綺麗好きなハジメなら、いざ知らず。
臭いの発生源すら作っていたくせに。
私が鼻を鳴らせば、ビャクは心底嫌そうに舌を打った。
窓のない荷車から、現在地を知るのは不可能なことで、加えて景色が変わらない分随分暇な感情が際立つ。
ビャクに寄っかかって、ふわふわした気分で目を閉じていると、荷車がゆっくりと停車した。
誰かの話し声に、ビャクは自分の人差し指を口に持っていくのを私に見せると、ゆっくり立ち上がった。
ビャクが腰の銃を手に取るのが見えて、鳴り響くであろう銃声に備え、耳と目を塞ぐ。
今か今かと、心の準備をして待っていると、私の手を誰かが握った。
「大公!」
少し怒った表情の彼は、私の手を取って立ち上がらせると、荷車の出口に引っ張っていく。
どうやら、隠密で王都に行く作戦は失敗に終わったな。
ガッカリと、もうこの臭い荷車に乗らなくていい喜びがうっすらと浮上する。
ビャクは大変嬉しそうだ。
「え?」
ビャクは帰りの馬車の扉を開けると、そこにはハジメとアダム。
眉間にシワを作って大公を見上げると、彼は少し口元を緩めて眉尻を下げた。
「王都、行きたかったんだろ?」
「うん。でも、私が行くと面倒なんでしょう?」
「半年以内に戻るなら、皇帝も文句は言わないさ。それに俺も、今回の件でいろいろ王都に用ができた。」
軽く膝を折った大公が私の前に屈むと、まるでダンスを誘うように手を差し出した。
「一緒に行っていただけますか?」
珍しく茶化すようにそう言った大公が、耳を赤く染めたのはきっと気のせいだろう。
それよりも王都に行けることが嬉しくて、軽率にも私は大公に熱い抱擁をした。
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