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ストーカーのストーカー

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 大公の手を引いて、廊下を歩く。
 寝室はどこだと尋ねれば、放心したまま右の扉を指さした。
 その部屋に入れば、がらんとした部屋にポツンと天幕のついたベッドが一つ。
 相変わらず殺風景だなと思いながら、ベッドに歩み寄った。


「ここでいつも寝てるの?」
「……仮眠用だ。それ以外は使ってない。」


 以外を強調して言う大公に首を傾げながら、彼の手を離した。
 やっと放心状態から、意識回復したのかベッドに乗ろうとする私の首ねっこを掴んだ。


「おいっ!」
「大丈夫、さっきお風呂入ったから。」


 布団は汚れないよという意味を込めつつ、私はベッドに上がった。
 ベッドに立って、おそらく天幕のところに付けられているであろうカメラを手探りで探す。
 さらさらとした生地を撫でながら、指先に硬いものが当たった。
 縫い付けられたそれを引っ張ると、後ろの大公が私の背中を押した。
 バランスを崩してベッドに倒れ込むと、上から大公が覆いかぶさった。
 見つめ合うように、私が目を逸らせずにいると、大公が怒ったように眉をしかめた。


「お前は……。」
「なになになに、怒った?ごめんなさい!」


 手に持っていたカメラを彼の目の前に差し出した。
 今度はそれに焦点を合わせた大公。
 ますます眉間のシワを濃くさせる。


「お風呂にカメラがついてたから、初めは団員の誰かかと思ったけど。貴方のお風呂だって言うし。」


 狙いは貴方だろうと、肩を押して座るように促すと私の手からカメラを取った。
 私の上に乗ったままそれを眺めると、説明しろと一言。


「それは、うちの会計士兼魔術師に作らせた試作品のカメラ。保護魔法と時空魔法を使ったものだから、うちのもので間違いない。」


 動いたものを時空魔法と保護魔法で……。 
 難しい説明は以下省略。


「なるほど、でこれを使って俺を監視してたわけか?」
「私じゃないからね。」


 両手を上げて降参のポーズを取ると、大公はおかしそうに笑ってカメラを握りつぶした。


「俺も舐められたもんだな。」


 ビーくんを呼びつける突然の大声に身体をひくつかせると、大公が険しい顔で私を見下ろしている。
 優しく私の頬を触ると、しばらくは屋敷から出るなとお達しを出した。
 どうやら、かなりお冠らしい。
 今更言えなくなった、もう一つのカメラのことと犯人の名前を胸に秘めて、私は素直な返事を大公に返した。

 
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