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5話

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「で、僕は何からすればいい?」
話が早いな。俺の脳の処理のスピードはそこまで速くないぞ。
「何から、ねぇ・・・。」
いきなりそう言われても困るのは誰だってそうだし、斜め下に視線を落とした難しい顔で考え込むスージーを傍観するしかできなかった。とりあえずついてきて、と言いたいと思う。でも、なんとなくだがそれを快く引き受けるとは思えない。自分に出来ることがないかを心待ちにしている表情でさっきからずっとスージーの方を見ているんだもの。彼女の視線の向く先の理由がわかる。これじゃあまさに命令待ちの忠犬みたいだ。
「なんかない?」
パンドラは急に俺の方を振り向いて期待の眼差しを向ける。
俺?俺なのか!?よりにもよって、なんで!?
「俺が!?」
思わず声にも出た。いやいや、冗談じゃない。出会って間もない上に得体の知れない奴に俺は何を頼めばいいんだ。こういうのは、大抵相手の情報を理解してからでないと・・・。
そういや、スージーも言っていた。コイツはたいそうお強いんだと。
「おすわり・・・。」
聖音が余計な事をしでかしそうになるのを止めるついでに手をあげて主張した。
「ああはいはい!・・・なあ、コイツがそんなに強いんなら、一つ提案がある。」
「もう!名前で呼んでよ!」
と注意される。人のなりはしてないのにここで今まで会った面々の中では中身が相当めんどくさい奴だな。
「あっ、ああ。パンドラがそんなに強いんなら、ダメ元で一つ提案があるんだけど。」
「勿体ぶらないでさっさと言えよな。」
オスカーからもんくがとんでくる。焦らしたつもりはないんだけど。
「さっき通ってきた近道、他の魔物がうようよしているんだろ?そいつらを倒してもらったらいいんじゃないか?そしたら、安全に時短も出来る。えっと・・・いや、その。」
「任せて!」
早い。
せっかく戦う術を教えてもらったのに楽をしていいのか、とか、一方的に囮かあるいは盾にするのは自分達だけの安全しか考えていない方法ではないか、とか、動くとやっぱり足手まといになるのかもしれない、とかあとからになって次々と浮かんできた後悔がすべてアホらしくなってくるほどには清々しい快諾の返事だった。
「どんな奴でもボコボコにするからね!任せてね!」
何もそこまでやれとは言っていない。ともあれ、パンドラの方はむしろ乗り気なので良かったと言っていいのだろうか。彼がそのつもりなら最高なんだが、他の意見も聞いておかないと。
「魔法には弱いんだ。そこだけは覚えといてね。」
心配しなくとも、魔法に俺たちが強いわけがない。これは嫌味だ。
「・・・みんなはどうだろう。」
当の本人があの調子なのだから、とは思うが誰かは別の意見を持っているかもしれない。そもそも俺だってみんなの意見を聞いてから発言したかったんだけど。
「私は全然いいよ!ね!?」
大賛成の聖音。初めこそ警戒していたが聖音にとってパンドラは好印象のようだ。いかにも同意を求める輝かんばかりの笑顔を向けられたオスカーは若干気難しい顔をして俺を睨んでいた。
「・・・お前がそれでいいんならな。何かあってもお前の責任にするからな。」
うーん。あいつの言い分もわからなくもない。責任の言葉が出ると、自分の決断が本当に良かったのかと不安と後悔を感じる。が、自分の案があるなら先に主張するのもオスカーであり、それがないのは他に案がないのだろう。自分を信じよう。でないとやってられない。
あとは・・・。
「アタシはさっき言った通りよ。」
そういえばスージーはさっきパンドラにいくつか条件を出したところだった。様子もいつも通りといった感じ。いや、きのせいかやや疲れているようにも見える。
「アレは信じていいと思います。僕はこれといって特にありませんし・・・師匠がいいなら構いません!」
そんな語尾を強める必要ある?完全に師匠の判断を信じきってるみたいな。元々マシューはスージーほど彼に警戒していたわけではないので、みんな次第で判断したんだろうが。
「あの、僕の名前・・・。」
「わぁ、よかった!頼もしいね!」
名前をなかなか読んでもらえない事について物申すも聖音に邪魔をされた。パンドラも頼もしいなんて言われたからにはわざわざそれを邪魔しようともしなかった。
「オイオイ、正気かお前懐きすぎだろ。なんとかバーナードみたいな顔してるけど立派な化物なんだぞ。」
オスカーが不服を訴える。確かによく見れば顔は大型犬のそれっぽいが・・・。
「見た目なんて関係ないよ。だったらあの二人はどうなるの?」
「俺は元から信じきっちゃいねえよ。そんなんだから風船モンスターに二回も引っかかるんだろうがよ。」
「あれは私なんにもしてないのに!」
そんな終わった事でくだらない言い合いしていても仕方ないだろ!
「まあまあまあまあ、ね?」
言い争いを止めたのはまさかのパンドラだった。その大きな図体で割り込まれたら二人も体ごと退けざるを得ない。
「すぐに信じてとは言わないよ。今から行動で示すから、それからで構わないよ。」
自分の事がきっかけで揉めているにもかかわらず、かといって今すぐに信じて欲しいと強要しない。パンドラとかいう奴、おそらく一番頼りになるのでは?
「ケッ、バケモノのくせに生意気言いやがって・・・。」
文句がまだ止まないオスカーだったが、一言ぼやいてからはなにも言わなくなった。
「そうと決まれば早速行こうよ!ねえねえ、どこ行くの?」
さっきまでは随分大人びた対応をしていたくせに途端に見た目にそぐわない子供っぽさを見せる。
「公園でしょ?確か。」
スージーは一応覚えていたみたいだ。彼女が壊してしまった俺たちのお付きをなんとかしなければいけないからだ。そういや、アレにも監視機能ついているということは一体壊れたらアマリリアに気付かれてしまうのでは?と、今更になって気付いたのは俺だった。帰ったら面倒な事になるのは避けられそうにないな・・・。
「公園?何しに?」
「アンタは黙ってついてくればいいの。ほら、もうここには用がないわ。行くわよ。」
相変わらずつっけんどんな態度に諦めつつも気を落としているパンドラを無視して俺たちには怠そうなのは変わらずだが普通に、気さくに声をかける。またもスージーを先頭に並んで後に続いた。



トラウマになる事間違いなし、な例の「魔窟」と化した人気のない路地裏を歩く。あーあ、行く時は綺麗な街並みだったのに今はどうだ、ボロボロの廃墟だ。遠くの建物まで穴が空いたり分断されてたり挙句には煙がもうもうと出ていたり、燃えている所もあったり、このまま放置していてもいいのだろうか?そして、なんとまあむごい魔物の亡骸が至る所に転がっているのだ。動物の死骸ほど血肉を見せびらかすわけでもないが、やはり生物の死を目の当たりにして良い気分なんかするわけでもなく。
「・・・・・・。」
俺たちを苦しめた化物クラゲは綺麗な虹色だったのに濁った白色になって固まっていた。あれは一体どんな状態なのだろう。
「あっ、ジェリージェムの死体だ。」
パンドラが人の疑問を独り言感覚で解決してくれた。
「あれも死んでるの?」
「死んだらああなるんだよ。死体は色んな武器や防具の素材になるから重宝されるらしいよ。」
聖音が余計なことさえ聞かなけりゃ、こんなげんなりとした気分にならなかったのに。
ここにくるまでの間に、パンドラはスージーや俺たちにすでに説明してくれていた。
「僕についてならなんでも聞いて!ギリギリの個人情報以外なら!」
といった。一応、サモンズドッグがどういった魔物なのかを尋ねてみたところ。曖昧な答えかこの世界での歴史から長々と語られた(わりには語彙が少なくあやふや)ので、聞いた手前もあるから聞くふりだけした。サモンズドッグは昔、人間が持ち込んだ動物をベースに様々な魔物と合わせて作られた合成魔獣。魔物とはいえ生き物を弄り回す魔女の倫理の無さをつっこみたいところであるが、それを今ここで言っても仕方がない。学習能力も高く、人並みの知能を持っている。そのため、パンドラみたいに自分の住む村以外で働く例は少なくない。しかしほとんどは人間をに嫌っているため、村から出るのは滅多にないそうだ。
「好きな食べ物は?」
聖音がなんともべたな質問を投げかける。人ならざる化物相手に聞く内容がそんなものでいいのか?
「アイスとカレーだよ。」
パンドラは俺たちの質問に答えれる範囲で応答してくれる。しかも、人間味あふれる好みである。アイスとカレーって。
「僕らは食べれるものならなんでも食べるけど、普段はその辺の草を食べてるんだ。ここのカレーはなんというか、辛口ばっかだね。なんといっても・・・。」
たわいもない会話を流し聞きしながら、ふと感じたことがあった。
人間が好きと堂々と言った割には、俺たちに興味を示す素振りを見せない。いや、親しげには話しかけてくれるものの人間に対し鬼になることがないのか特に何も聞いてこない。もしかして、まずは黙って観察から入っているのだろうか?
「私は辛いの大好きだから食べてみたいなぁ。他にどんなものがあるの?」
「量はどれぐらいあるんだ?」
聖音とオスカーがひっきりなしに質問責めするものだから、聞く暇がないのかな?
「あっ。そうだ、思い出した。ねえねえ。」
さっきから黙っていたマシューが突然会話に割り込む。
「サモンズドッグといったら、アレ。アレができるんでしょ?」
腹部の前で輪を作った右手を前後に動かすシュール極まりない謎のジェスチャーを始めた。
「アレじゃわからないよ。」
お前もお前だ。かくかくしかじかで状況を説明しようと試みた奴がいまさら何を言う。
「ほら、体の中から物を出したり、逆にしまい込んだりできるっていう・・・ 見てみたいなあ、僕。」
ようやく理解したパンドラが突然、帽子の唾をくいっと持ち上げた。その動作にいったいなんの意味があるのだろう。唾から覗く表情はとても自信に溢れていたので、おそらく今から何かおっぱじめるつもりなのか、そんな予感がした。
「え、なになに!?なにそれ!」
食いついたのは聖音。スージーも気になっていたのか、歩みを緩めてこっちを見ている。
「へっへーん。そこまで言われたらしょうがないなぁ!」
一人は男だが、女子二人の眼差しを受けて満更でもなくとてもドヤ顔で、声も溌剌。非常にわかりやすい。そしてパンドラは一、二歩分ほど距離を取り、自身の腹部に大きい方の掌を当てた。そこから起こった事をしばし信じられないでいた。「言葉通り」の現象が起こったんだから。
服の上からだ。そんな野暮なことはこの際どうでもいい。そう、腹部からだ。長い棒のようなものを引っ張り出した。出てくる出てくる、とっくに貫通してもおかしくないぐらいの長い金属の細い棒が出てくる。最後に標識が姿を現し、終わった。
なにをこの目で見たんだろう。手品?
いくら大きな体とはいえ到底入りきらない代物が出てきた。物理的法則とか諸々を不条理な現象が壊していく瞬間に頭が混乱する。脳内でたくさんの弾けるボールのおもちゃがあちこちで跳ね返っているような感覚だった。
驚いているのは勿論、俺だけじゃないはず。みんなが歩みを止めて、誰一人として言葉を発していないのだもの。
「どう?これが僕らがサモンズドッグと呼ばれる理由なんだけど・・・。あれ?みんな、びっくりして声も出ないって感じ?」
おっしゃる通りである。
「・・・・・・。」
「すげぇ・・・。」
さっきまであんなにうるさかった聖音が口をあんぐりと開けたままフリーズしているし、オスカーだって珍しく素直に感嘆していた。
「へぇ、すごいね!聞いたことはあるけど生で見るのは初めてだ。どの内臓から出したり入れたりしてるの?」
「この位置だと胃じゃない?ちょっと、大丈夫なの?コレ・・・この、なんで標識なのよ・・・。」
マシューも興味の眼差しで穴の一つも開いていない上着を眺めている。スージーは驚きつつも違う着眼点に注目していた。大丈夫、溶けてない。
「内臓とか言わないでよ・・・。違うと思うよ・・・。魔女の作り物でしょ?多分、なんていうか、こう結界みたいなのがあるんじゃない?」
隠し芸でも披露して得意げだったパンドラが今度はドン引きのご様子だった。もうこんなもの見せられたらそう言われても信じてしまいそう。穴が開いていない服を見ても、そうだ。
「にしても便利な体ねぇ?車とか入らないかしら。あと冷蔵庫。壊れたやつがいつまでも庭にあるの邪魔で参ってたのよ。」
「そんな大きい物入らないよ・・・。」
そして早速スージーはパンドラを押し入れか倉庫にでもならないかと思案注。さっきまであんなに毛嫌いしてたのに。長いものは入っても幅のある物は厳しいようだ。まあ、なんでも入るよ、とでも言われたらそれこそ次元の壁さえ超えてしまうのか!?とツッコミたくなるならやめてほしい。
「・・・・・・。」
今度はオスカーがバットの先でパンドラの腹部を強く押した。
「無理矢理入れても入らないからね!?」
次にわかったのは自分の意思でないと出来ない事。寝ている時とかに誰かから色々なものを入れられては困るだろうしな。
「使えねえな。」
オスカーはまたすぐそういう事を言う。(催促したのはマシューだが)せっかく凄技見せてもらってからすぐに投げられた言葉がそれではあんまりだ。オスカーが手前にいる以上言葉による慰めも難しいので露骨なまでに嫌な顔をして首を横に振って見せた。「気にするな」と仕草と表情であらわしたつもりだ。果たして、伝わってくれるといいが。
「ああ、気にしてないよ、ところで・・・。」
伝わってよかった。ところで。聖音がいつの間にかパンドラの背後に移動して、あるものをじっと見つめていた。
「犬って嬉しかったら尻尾振るんだよ?」
完全にわんこ扱いだ。言われてみれば尻尾はただ地面に垂れ下がってるだけでびくともしなかったが、なんだか重そうだから軽々と動かせないのかも。
「そんな細かい動きはできないよ、重いし。」
「なるほど・・・ねえ、この肉球・・・触っていい?」
女の子の上目遣い(気のせいか少し口元がにやけていた)のお願いとはいえ、パンドラも露骨に嫌そうな顔をあらわにする。
「えーやだやだ・・・どうしても触りたいっていうんなら・・・。」
短い方の腕を差し出す。短い毛に覆われた手は人の手に形が似ているが、肉球がちゃんとあった。そんな事より、油断したのだろう。オスカーが尻尾を持ち上げる。しっかりと肉球のあたりを両手で握手する形で。
「ひゃあ!!」
間抜けな声とともに尻尾で勢いよく振り払う。しなやかな動きはまるで鞭のようだ。
「まったく!尻尾はただでさえ敏感なのに!なんでそんなとこにあるんだよ!」
知らんがな。
・・・合成魔獣、長所もあれば望まぬ欠点もあるみたいだな。オスカーは悪びれもしなかった。
・・・・・・。
なんだろう、この感じ。懐かしいな。なんでだろう。パンドラと話しているとそんな感じが時々ある。
人とは違う化物に、心があるないにかかわらず妙に人間臭いんだ。見た目よりだいぶ幼くて、親しみやすくて。
端的に言えば、まるでと話しているみたいな・・・。
「どうしたの?えっと、リュドミール君?」
おっと、考え事をしていた。
「いや、なんでもない。」
またも首を横に振る。関係ない、俺のただの思い込みだ。
「そういえばさ、君たちの他に誰か・・・。」
パンドラが何か言いかけたその時、建物の後ろから、化物クラゲもといジェリージェムがゆるりと優雅に宙を漂ってきた。初めて見たものやさっきの死体に比べたらやや小さいが、それにしたって俺たちの倍はある。
「わあっ!?師匠、まだ残ってるんですけど!」
「残ってたわね。」
狼狽るマシューにスージーは日常のなんでもない会話のように返す。冗談じゃない、ある程度覚悟はしていたが正直、また戦わなくてはいけないのか!?という心底うんざりと恐怖と不安がごちゃまぜな気持ちである。
「何?倒していいの?」
パンドラが指をさす。そうだ、このためについてきてもらったようなもんだ。しかし、いかにも緊張感に欠ける言動や素振り、争いが嫌いという情報に不安が拭えない。
「いいわよ。」
スージーがそういった瞬間、ジェリージェムが二本の触手を浮上させてまっすぐ、弾丸の軌道のごとくまっすぐこっちをめがけてきた。狙うは俺やスージー達ではない、パンドラだった。新しい獲物を見つけたと言わんばかりに。
だが、パンドラは触手が到達する前に、いや、かのように、すでに長い腕はちょうどのところに構えてあって、鋭い触手の攻撃を・・・伸ばした片手で二つとも叩いた。
行き場を失った触手は勢い余って体ごと叩かれた方向へぐるりと一回転。運良く生き残っていた鉄筋を真っ二つにして、そのまま今度は反対から触手が今度は縄のようなしなやかさを帯びて迫る。
「うわっ!」
と軽い悲鳴に似た声をあげながらも、しっかりと触手を両手で受け止めた。後退りさえしない。腕の力だけで防いだのだ。正面を向き、次の攻撃を仕掛けようと他の触手をうねらせていたがパンドラは握っているうちの一本の触手を、後ろに力強く引っ張るとピンと伸びたそれはちょうど中間あたりでブチィッと音を立てて千切れた。千切れた所に白い電気が流れる。
「ギェエエエエエエエエエエ!!!!!!」
ジェリージェムは金属音やノイズ混じりの絶叫を上げて、千切られた反動で後ろに体が揺らめく。が、短くなった触手をそこらへんに投げ捨てた後パンドラは両手でもう一つの触手を握った。
「みんな、しゃがんだほうがいいよ。」
やはり緊張感の微塵もない声色だけど繰り広げられるはどこからどう見ても戦闘なので、俺たちは全員その場にしゃがみ込んだ。
「うーん・・・。」
脚を広げ、両腕をやや右に。ジェリージェムの体が右に動く。
「えいっ!」
体を捻り、力一杯触手を振り回し、後からジェリージェムの本体ごと彼方の方向へぶん投げた。さっきの触手みたいに今度は自分が飛んで行った。遠く、遠く、遠くへ飛んでいってバウンドしながらやがては地面に転がった。
「・・・・・・。」
言葉が出ない。これも何度目だろう。
でもまだ終わりじゃなかった。ジェリージェムは白くなってない。生きている、と確認したやすぐに本体が高速移動してくる。俺たちの方へ・・・。
「しつこいなぁ。」
渋々と道の真ん中に出たパンドラが、今度は長い強靭な腕から繰り出す拳で真っ正面から迎撃した。柔らかい身体に食い込み、貫いて中の球体に更にヒビが入る。衝撃で後ろにまたも飛んでいった後、しばらくしてジェリージェムの球体が爆発して木っ端微塵に散らばった。ドオォンという音と、爆炎はなかったものの青白い光が放たれてとても目を開けてはいられないほど眩しかった。


「・・・・・・・・・。」
光が弱まり、目を開けたら無駄にデカい図体は周りに散らばって見るもグロテスクなことになっていた。
「うわぁ気持ち悪っ。」
両手についたホコリを軽く払って、俺たちの思っていたであろう考えをそのまんまの表情を添えて代弁してくれた。俺はもう、驚きでそんな些細な気持ちでさえ言葉として口から出せない。口が動かないのだ。
「・・・やるじゃない。逆に引くわ。」
一番先に立ち上がったのはスージーだ。
「物理攻撃効くの?アイツ。」
「僕が強すぎるから仕方ないね!」
ふんとのけぞって胸を張る、再びドヤ顔。パンドラの実力は初めから知っていて改めて認識させられたスージーは何も言い返さなかった。マシューもさすがに、バラバラの死体とパンドラを呆けた顔で何度も見比べて現実を理解しようとしていた。

「あーこわ、味方でいてくれてよかったわね、ほんと。行きましょう。立ち話してたからこんな目にあうのよ。・・・関係ないか。」
スージーはさっさと切り上げて、前へと足を歩め始めた。
「手の平すぐに返しちゃってさ。まあ僕をそうやって頼りにしてくれるんなら別に構わないんだけどねー。」
声も弾んでたいそうご機嫌なパンドラが後を続く。
・・・。
足に力がうまく入らない。こんなことが常に起きる、そんな世界で生きているからなのか、なんでもなかったみたいにすぐに切り替える事ができるのは。
「どうしたの?」
俺の違和感に先に気づいたのがパンドラだった。ふと振り返っただけなのに、俺の歩き方がおぼつかないというか、どこか変に見えたのかもしれない。
「抱えてあげよっか。」
「大丈夫だ。」
即答した。怪我でもしてるならまだしも、みっともない。それに、俺のせいでパンドラが本来の力を発揮できなくなるのも嫌だ。
こうして俺たちは強力すぎる仲間を加えて、魔物のまだ潜む元路地裏だった廃墟を進んでいった。


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