いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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772:大金持ち

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わたしもな、幼い時、十分食べることができなかったことがあった。
ほんの少しの期間だけどな。
両親が病に臥せってしまってな。
ゆすっても起きないんだ。
どうしたらいいかわからなかった。
飢えというものは二度と経験はしたくないな。
何日か見かけないって、隣の家の者が尋ねてきたんだ。
そのまま両親は死んでしまったが、
あとは十分に生活の面倒を見てくれた。

スパイルだ。知ってるか?
家々で技術を教えるんだ。
だから幼かったわたしはなにも習得していない。
父と母がなにを得意としていたかも知らない。
2人が死んだあと、家にあった工具類だとおもうが、
それは一切合切なくなった。
持ち帰った者たちが、品定めをしていたんだろうな。
そのときはなにも思わなかったよ。
何も知らなかったから。
知らないというのはなにも守れないということなんだ。
食事の面倒は見てくれるが、その家の技は教えてない。
力仕事ばかりだ。
同じように家族から技術を学べなかった人の仕事だ。
そう言われていた。
いいように使われていただけだったがな。
そこでの呼び名はわたしも、”おい”や”お前”だった。
だれかに必要とされたかった。
名を呼んでほしかった。
家族が欲しかった。
いや、そんなことをいってはいけないな。
親切にしてもらったんだ。はははは。感謝しないと。
わかっている。そう思いたいだけだ。
なかなかにモウ様のようにはいかないな。
体力だけは身に付いた。
だから成人前に、ニバーセルに来た。軍に入ったよ。
そこで、鍛練を積み、勉強もした。
でないと知らないことだらけだったから。


廻りとなじまなかった。
どこか、自分を卑下していたんだろうか?
ガイライ様にコットワッツ領主の力になってやれと。
それで、コットワッツに。
あっという間に筆頭と言われた。
わたしが必要だと、そう言われたよ。
妻、カルーチと家族になった。息子も生まれた。
うれしかった。
情報を得るために王都中央院の指示にも従った。
だが、流す話は当たり前の話ばかり。
いつの間にか、役立たずだと思われたんだろうな。
変動前には声もかからなかった。
いや、その前からか?探る必要がなくなったから?
ああ、この辺りは報告しておこう。
そうだ、変動のことは知っているか?
知らないか?
天文院が2年読み間違えてな。
あと2年先のはずだったんだ。
それまでに、王都に報告した600年分は無理だが、
できるだけ集めるはずだった。
2年だ。王都に気付かれずに動ける期間。
領民から不平が出ない期間。
それ以上だとうまく事は進まないらしい。
いや、それまでにも集めていたよ。
変動後完全に石が取れなくなると知ったのは、
終わってからだ。
それを聞いてやっとわかったよ。
変動、なにか砂漠に異変があるというのは知っていたが、
完全になくなるなんて。
セサミナ様の動きに、全てに納得がいったよ。
わからないまま何かをするというのはなにか別の労力がいる。
わたしは、それがセサミナ様の為になるのならと考えていた。

お前は?わからないことだらけだっただろう?
文字を写すことも、石の大きさを記録することも素晴らしい。
そのことに気付く能力はきっと仕事に役に立つ。
わたしと一緒にセサミナ様にお仕えしよう。
いや、仕事はなんでもいい。
隠密でも、なんでも。
コットワッツに害成すこと以外なら何でも。
ただ、きちんとその仕事の対価をもらうんだ。
だけど、さきにわたしと家族になろう。
お前は昔のわたしだ。
おいではなく、オウィと呼んだものがお前の父か、
シクロストと呼んだものが父か、
顔が似ているというなら、シクロストが父か、
お前と血のつながりがあるのかもしれんな。
こんな過酷な条件をお前にさせたのも、
なにか意味あることだったかもしれない。
それもどうでもいい。
わたしは、お前と家族になりたいんだ。
お前の為ではないかもしれん。
わたしの昔の、子供だったわたしを助けたいだけかもしれない。
だけど、お前だからだ。
わたしのオーロラだから。
さ、起きているな?返事は会合が終わってからでいい。
自分で決めればいい。
だけど、それまでわたしの傍にいるのは宣言したからな。

目を覚まして、甘いものを頂こう。
それから、風呂に入ろう。
手合わせは、後だな。
外に出て、正式に入都しなければ。
その時は傍付き見習いでいいだろう。


目をさませ、わたしのオーロラ。





─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘



-----うまく使ってほしい。
-----それが彼の為だ。



そう読み上げられたとき、やっぱりなって。
自分でも読めた。
字が理解できることがうれしかった。
それが、とてもうれしい。
これから本も読めるんだ。


貯めた金は100枚の束が、15コ。
金持ちになっていると思っていた。
もう少しで大金持ちになるって。
違うんだな。

俺は今までなにをしていたんだろう。
これからどうしようか。
ああ、眠いな。



ルグが抱きしめている。
モウは柔らかかった。そしていい匂いだ。
ルグは柔らかくはないが、安心する。
さっきのは固かったけど。
あれと同じだ。あたたかい。

ルグの声が聞こえる。

そうだな。
それはあとで自分で決める。

だけど、先に宣言したからな。

甘いもの?なんだろう?
そうだ。これも契約だ。
それはどんな内容でも守る。
それが、オーロラ。

俺のことだ。



「ルグ?」
「起きたか?」
「甘いのって?」
「ああ、とっておきだ。わたしもすきなんだ。
だけど、2度ほどのみ損ねたからな。うれしいな。
さ、食べよう。これは熱いぞ?冷ましてな。ふーって。」
「それぐらい知ってるよ!」
「そうか?」





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