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667:支配者
しおりを挟む20番門内。
ベルサイユ!バッキンガム!クレムリン!
知っている宮殿名を10コ言え的な豪華さ。
10コも知らんよ。
派手でゴワスと名力士が四股を踏むような圧巻。
わたしは寺尾が好きだった。
元宿屋なのだから、馬車ごと中に入れる。
そこでお泊り、様々なものを商人が持ってきてくれる。
デパートの外商みたいな?
しかし、それはかなり昔の話。
いまは、そんな豪勢な客はいない。
20番門の街並みそのままに、様々なものが売られている。
馬車が通ったであろう大門の横がショーウィンドウなのだ。
イノベーション?
町屋を改築してお店が並んでいるような、
それのベルサイユ版。
気に入ったものが目に留まれば、
その店に馬車ごと入る。
「これ、ここまで改築するのにかなり反対もあったでしょ?」
「わかるのか?そりゃもめたよ。
しかし、客が来ないんじゃどうしようもない。
最初にやった宿館がうまくいったんでみんなまねしたんだよ。」
(俺がここらに出入りしているときは
ザス頼みの商売だったからな。ザスが無くなれば、来ないだろうな)
ニックさんが教えてくれる。
月無し石と音石のインカムは、
使っていくうちにここで言うところの表層の表層の考えを
指定したものに伝えてくれるようになった。
自動バージョンアップだ。
どれだけここの石は賢いんだ?
後で大絶賛祭りをしなくては!
「しかし、またザスが入ってくるから、
ここも変わるだろうな。19番で女、20番でザス。
嫌だね。」
「嫌なの?」
「それで皆満足するからな。ものが売れない。
物を売る商売の者は皆女絡みかザス絡みになる。
悪くはないが、いいとも言えないよ?」
「ザスは知らないけど、豪遊しようって来たのに、そのきれい処と遊ぶだけで
満足するって、さすがおねいさまってことだよね?」
「あははは!そりゃそうだよ。
だけど、それだけだとほかのもんが生活できないだろ?」
「なるほど。」
「貢いでくれる客も少ないって話だしな。」
「おお、それはなんとも。」
なんせ、不景気で歓楽商売はよろしくない。
ザスが入らなくなり、
堅実にいいものを高額で売ろうという路線でタフト街道は発展してきたと。
それでも、19番での娼館は残った。
需要はあるからね。
そこにまたザスの葉が入って来たから変わるのだろう。
主の宿、パーニュさんはザス嫌いで娼館もいやなんだそうだ。
宿だけで商売したいらしい。
じゃ、ご飯系を出すのかというとそうでもない。
ご飯は18番門で。
「出すのは茶と茶菓子ぐらいですね。」
「おいしいご飯を食べて、広いお風呂に入って、
それでぐっすり眠りたいけどね。移動するのは面倒だな。お酒が入っていればなおさら。」
「酒が入ったソソはかわいいからな。」
「うん。今その話はいいよ。」
「そうか?すぐに眠りたいということだろ?」
「そうだね、それはあってるよ。」
「18番門内での店屋がいやがります。それをすると。」
「ん?だから、提携するんだよ。
今月はどこそこの夕食をご提供とか、ルームサービスだね?」
「部屋?奉仕?」
「お部屋でね、ご飯を食べれるようにするの。
超一流の料理を素敵なお部屋でいただくの。
出前だね。持ってきてもらうのよ。最後の仕上げはここでしてくれればいい。
もちろん、急に言われたら困るから、宿に入った時に聞いておくとかね。
いらない人はいらないし、お任せっていう人もいるかも。
おいしいところを紹介してとかさ。
で、ワゴンかなんかで持ってきてもらって、テーブルにセット。
あとはごゆっくりーって。
終わったころに下げればいい。
その時また、お酒などはいかがですか?って。
お客は満腹で、動かなくていい。
うん、まさにわたしの生活だね。」
「そこから風呂に入れるのは私のご褒美だからな。」
「うん。それをここで言うことは恥ずかしくないの?」
「?自慢だが?」
「そうですか。」
「おもしろいお話ですね!」
「食っちゃねは至福ですから。後はやっぱりお風呂かな。
セセ?もちろん一緒だから至福なんだよ?」
「当然だ。」
「・・・?風呂に一緒に入ると?」
「えっと、恥ずかしいことなのかな?
その家族だからいいんじゃないかなって。
2人で洗いっこ?」
「恥ずかしい!」
「なんでだ!基準が分からん!!」
「面白い!」
バスタブの多様性を説明した。
樹石の有効性も。
上客なので、ここの顔役に紹介したいと
待っているのだ。
今はザスの小物類を豊富に扱っていた、パーニュさんが懇意にしている店だ。
ザスは嫌いだが、扱う小物の装飾はいいものなので、
お客さん要望を聞いてここで作ってもらっているとか。
それは15番門外とはまた別のようだ。
だけど、フタを開けてみれば結局同じところで作っているというのは
よくあるパターンだけどね。
カリクさんとここの顔役さんのつながりがどうなんだろうな。
やっとこさ、ここの顔役が登場だ。
「待たせたか?
パーニュがここに来るとは珍しい。
やっとザスを扱うか?娼館でもいいぞ?」
「いや、それのどちらもしない。その話はいいんだ。
こちらの方々を紹介しようと思ってな。
良き客人なんだ。」
「ほう!
こちらはつい先日ザスが入りました。
いかがですか?」
良き客人とは金を持っているということだろう。
恰幅のいい商人風だ。
キャムロン食べてるなって気がする。いや、それは先入観と偏見か。
18番以降みなそうなんだけどね。
パーニュさんは違うかな。
ということは、操れないってことだな。
それも先入観か?
むっちゃダイエットに詳しいのかもしれん。それとなく聞いてみようか?
そんなことを考えていたら、露骨な態度を見せられた。
わたしたち3人はみな、一般人の気をまとっている。
門番ベリナ、宿の主パーニュ、この2人は
ニックさんに重きを置いて接客した。
ベリナさんはわたしが最初にお金を渡していたのにもかかわらず、
どうするんだ?とニックさんに目で問いかける。
そこから手間賃の上乗せの指示などを出すから、
このサ行組のリーダーはニックさんと考えている。
パーニュさんも最初はマティスに視線をあわせていたが、
余りにも無反応なので、ニックさんとお話。
わたしたちに指示するのもニックさんだし、
わたしたちもニックさんの指示に従う。
サ行組リーダーはニックさんだ。
だが、20番の顔役、ブロンサーとやらはマティスのみを見ている。
実際にこの中で一番身分の高い、身分が高かったのはマティスだ。
わたしは論外だし、ニックさんも軍のたたき上げで、
身分は平民だ。
だが、領国で暮らしていた時よりも砂漠で暮らしている方が長い。
対人数が格段に少ない。
子供のころは、みながへりくだって当然。
軍に入ればそんなことは関係ない。
砂漠でもだ。
なので、疎い。
で、緑目になって基準はわたし。
さっくり無視だ、いや、聞いていない。
それも違うな、聞こえていない。
「・・・・あの?」
「セセよ、お前に聞いてるんだ。
鈍いにもほどがあるぞ?」
「ぷ!セセが鈍い!間抜けと言われた時より笑っちゃう!」
「セセが間抜け?的確だな。」
「ふふふふ。」
「?ソソ?楽しそうだな。」
いくつかの品物を買い取り分解していた手を止め、
わたしの感情が動いてははじめてこちらを見た。
「うん。セセのいろんな顔を見れてうれしい。」
「あなたがうれしいなら私もうれしい。」
「うん。でね、こちらの方が、セセに聞いてるのよ、ザスはどうですかって?」
「ザスいらないが、それを収納する箱の細工物をもっと見たいな。」
「そうでございますか。すぐに取り寄せましょう。
いまは、パーニュの宿にお泊りですか?是非とも他の宿にお泊りください。
選りすぐりの女たちがお相手をいたしましょう。」
あーあ。
高位な身分を見抜く力はあるんだが、それ系はダメだ。
パーニュさんは知ってたな?
この人は遊女をあっせんすると。
だってほら、口の中で笑ってる。
だがどっちだ?
これに恥をかかせたかった?
それとも、この顔役に上客を紹介したかった?
断わるのは分かっていたはずだ。ここに来るまでのマティスとわたしたちとのやり取りは、
酒のさかなになるほど盛り上がっていた。
やはり夫婦というのはこうあるべきですねとまで言ったのだ。
「・・・結構だ。」
「そうおっしゃらずに。
タフト街道、最終門街で遊女を抱かいなというのはもったいのうございます。
素晴らしい女性を知るというのも財産ですよ。
妻も財産なのですから。」
「・・・結構だ。」
「こちらは初めてでございましょう?
こちらの女性に遠慮しているのですか?」
わたしを上から下まで見るのはいいんだけど、
下品な笑い方は頂けない。
(おいおい、気を練ってるぞ?)
(ニックさん、これまずいわ)
(それはわかるが、ここで流せないとこれから先どうにもならんぞ)
(ああ、そこがまず違うのよ。わたしたちは世間はどうでもいいのよ、すでに。
2人でつとめを果たせばそれでいいの。
セサミナの兄、ワイプの弟子、ニックの弟子、ガイライの母、
ニバーセルの領民っていう縛りがあるけど、細くて緩い。
基本は緑の目とその対象なんだ。
セサミナとニバーセル王に礼は取るがそれ以外はしない。
わたしを否定、もしくは蔑んだら終わりだ、ここら一帯が)
「セセ。それはやめろ。」
「セセ?それはあとでいろいろ面倒なことになる。」
「そうか?ではやめておこう。」
やっぱりなんかする気だったんだ。
(マティス?
わたしはほかの人がわたしのことを何て言っても全くと言っていいほど、
どうでもいいんよ?
わたしがマティスのことを好き好き大好きことになんの影響もないから)
(私もだ。だが、この男、何が目的だ?)
(モウ?パーニュに面倒を見てもらおう。できるか?)
(ラジャー!)
ここの顔役ブロンサーはわたしとニックさんが
女遊びはやめろといったようにとったのだろうか?
ものすごく不機嫌な顔だ。
瞬き一つで世界が動くような気を出してみる。
影の支配者風。
そして名前をわたしの声で呼ぶ。
『パーニュ殿?これはあなたの思惑か?
我らを使うな。わかるな?』
「!申し訳ございません!」
「いや、謝らなくてもいい。
あなたの宿には泊まりたいと思っているから。
今後、こういった誘いは遠慮してくれ。」
「承知いたしました。本当に申し訳ありませんでした。」
「そうですよ。パーニュの宿にあなたは泊まればいい。
少し身の程を知ったほうがよろしいでしょう。
あなたはこの方にふさわしくない。」
「ブ、ブロンサー!止めろ!」
(モウ、感情を出すなよ)
(あ、これ系は大丈夫です)
(はは!さすがだな。しかし、どうしてだ?
どうしてモウを排除しようとする?)
マティスはまたご機嫌に、装飾品を分解するのに没頭し始めた。
わたしが、他はどうでもいいと言い切ったし、
ニックさんがいるからだ。
「ええ、彼はとても素敵な人ですから。
それを射止めたわたしは幸せ者ですね。」
「あなたは、ご自分の立場をおわかりになっていないようだ。
彼の為にもあなたは身を引くべきなんですよ?」
「彼の為?」
「ブロンサー!分からないのか!やめろ!!」
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