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661:不可侵
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ほんの少し寝ただけだ。
いい匂いで目が覚める。
わたしの好きなチーズリゾットだ。
「あーーん。」
「あーーん。」
全身タイツは脱がされ、
今回の行商用の服に着替えていた。
目覚めたときからマティスがわたしを抱きかかえている。
わたしも離れたくはない。
食べ終わってからもだ。でも、おトイレは別。絶対だ。
ニックさんと師匠は少し離れたところに。
射撃の鍛錬をしていた。
音が出ないようにはしているので、静かだ。
あの発射時の音は、銃身と銃弾がこすれる音と
飛び出すときの衝撃音だ。
砂漠石が音を出しているわけではない。
サイレンサーのように別口で音を制御する砂漠石が組み込まれたものも
すぐに開発されるだろうか?
これは公開できない。
「落ち着いた?」
「はい。先に。
ニックさん、決して悲しくて泣いたわけじゃないです。
あなたの強さに、今こうしていることに感謝を。」
「ああ。分かってる。それで?」
「強くなるにはなにをすればいいですか?」
「なんのために?」
「わたしが寿命以外で死なないように。」
「マティスを守るんじゃないのか?」
「マティスはマティスを。わたしはわたしを。
お互いが死なないために。」
「どこか小さな村に住めばいい。
イリアスの端の村、ジュゲム村って名前になったか?
そこでもいい。人とかかわるからだ。争いが起こるのは。
いっそ、2人だけでも生きていけるだろう?」
「それは無理だ。大陸を廻るから。砂漠もすべて。
砂漠の民なんです。住むなら砂漠だ。
砂漠石を砂トカゲと取合うんですよ。
砂漠石を採るものと闘うんですよ。
それがトカゲでも人でも。
砂漠石の売り買いで砂漠の民の生活が成り立つ。
人と関わらずに生きていくのはそれは人ではない。
強くないと。」
「そうだな。それは強くないとな。」
「ええ。どうすればいいですか?」
「経験だけだよ。十分強い。
ただ、相手が俺たちだ。テルマでもダメだ。
なんでかわかるな?」
「はい。」
「愛しい人?」
「うん。マティス、2人で頑張ろう?
今までじゃダメなんだ。
いままではお遊びなんだよ。
違うんだ、本物は。
滅しにかかる相手がたまたま自分よりも弱かっただけだ。
あれだよ、トックスさんの値切りだよ。」
「ああ、わかる。
だからな、まずはワイプとする。
愛しい人はニックとしてくれ。」
「え?わたしなんですか?それはいいんですが、
わたしも本気ですると、その保証はできない。」
「俺が見てるよ、止めるから。
俺たちのは、ガイライが戻ってからしよう。あれも止められる。
それでいいな?」
「「はい。」」
「良し!じゃ、鍛錬はガイライが戻ってからってことにしよう。
人と関わらずに生きていけないんじゃなくて、
俺は酒と関わらずしては生きていけないとおもう。
酒だよ、酒!
向こうに集落がある。そこだろう?
どうするんだ?旅人を装っていくのか?」
「ふふふふ。わたしも、それ、そう思います。
10番門内で聞いたってことで。
わたしもマティスも変装するから。
メジャートから王都までの街道で見た姿は、護衛の服だったからね。
この格好なら分からないんじゃないかな?」
「金と米とを渡したんだな?なんで?」
ベッカンコの話をする。
「3人で300ですか?」
「少なかった?」
「この界隈は物価が高い。
その分、領外だとしても稼ぎがいい。
彼らが話したように早仕込みの酒ができないとなると、
いつもの倍の雨の日。
早仕込みの酒を売る前提で、食料を買うこともできない。
300ですか。3人だけならいいんですが、家族がいれば、
足りないですね。成人する子供がいれば不安でしょう。
領外ですからね、支援もない。」
「あちゃー、それは悪いことをしたね。
コットワッツは月に15リングあればいいって聞いてたから。」
「それは、領内だからですよ。
しかも、コットワッツ、ボルタオネ、ラルトルガは物価が安い。」
「そうなんだね。
様子見て、お酒造りを考えてくれてたら、追加支援かな?
そのお金で別のことを始めてるんだったらそれも良し。追加はないけどね。
こっちも慈善事業じゃないからね。酒ですよ、酒!」
集落に行くと、
かなりの人々が暮らしているようだ。
家のなかに気配だけする。
村なのか、ちゃんと番人もいる。
が、ちょっと、柄が悪い。
「何もんだ?」
「ああ、タフトで行商をしてきたんだよ。
そこの10番門内でな、ここの酒を呑ませてもらったんだ。うまいな!
それで、売ってもらえないかと思ってさ。」
酒付きを前面に出してニックさんが交渉。
「時期が悪いな。仕込みが終わったとこだよ。
呑めるようになるのは新年が過ぎてからだ。」
「なんだ。そうなのか。
そんなこと言ってくれなかったからな。
ちょっとくらい残ってないの?」
「ないな。その酒も売る先は決まってるし、
早い者勝ちなんだ。なんだったら、手付を置いてくか?
だったら、確実にあんたの手に入るようにしておくぜ?」
「えー。難しいな。手付を出すのはいいけど、
新年過ぎっていつ?」
「あー、2回目の合わさり以降だ。」
「2回目ね。難しいな。その時期は南に行ってるな。
俺たち行商だから。
縁がなかったってことか。んー、残念だな。」
「そうかい。ま、仕方がないな。」
「今度はその時期にこっちに来るようにするよ。
ほら、残念だが、行こう。
月が昇る前に街道に戻るぞ。」
(ニックさん?あれ、嘘行ってるよ)
(わかったか?酒の仕込みは今の時期じゃない。
雨の日の後だ。早仕込みにしては遅い。
それに水が出ないんだろ?あれは盗賊の集団だな)
(モウ?慣れなさいよ?腐敗臭もしました)
(はい。あの3人はどこにるんだろ?)
(どうだろうな。あれらが来たから逃げたのかもしれん)
(探していい?)
(もちろんだ)
(実戦は?)
(マティスよ、あれらではなんの鍛錬にもならん。
襲ってくれば別だがな)
「ま、走り込みだ。
マティス!水脈は分かるんだな?
それを追っていこう。酒を造るんだったら必ず水はいる。
荷重12で、走るぞ。
地面を蹴ってな。
攻撃はモウちゃんのみ。マティスとワイプにだ。
2人は受けるだけ。モウちゃん、遠慮するな。
怪我とか気にするな。
悪いがそこまでいかない。
マティス?受けろ。避けるな。
ワイプもだ。お前も鈍っているのは自分でもわかるだろ?
それは俺もなんだがな。」
「ニックさんも?」
「俺もマティスとワイプに攻撃だな。
連携はとろう。が、それを期待するな?」
「ニック殿に攻撃は?」
「できるんならな?その隙を見逃すな?モウちゃん?」
「押忍!」
「「・・・・。」」
では出発という段階で、やはりのお客様。
「準備運動だな。面倒だから殺すなよ。」
「「「応!」」」
所詮は素人相手の盗賊。
数で押してくる。
連携が取れていればまだしも、そうでもない。
施主殺しあたりを放てば一発だろう。
殺さずの縛りで応戦。
なるほど、次の相手、いや、次の次を見定める。
あれ?
わたしだけ相手してない?
マティスは?師匠と?
ニックさんは見てるだけだ。
「ん。終わりました!!」
「良し、良し。俺ら抜けたのを気付いたのは3人手前か?」
「それぐらいです。」
「モウちゃんが2人目相手にした時から、
マティスとワイプがやり合ってな、
そっちを見てたよ。」
「2人目!」
「もっと全体をな。」
「はい。で?それは?」
ニックさんは一人だけ確保していた。
ボス?
「聞いとけば早いだろ?」
「なるほど!」
「おい!こっちが聞きたいことわかるよな?
お前たちが作ってるわけじゃないだろ?
酒だよ、酒!
どこにやった?出せよ!!」
酔っ払いだよ、それじゃ。
「どこにもない!全部呑んださ!」
「ここにいた人たちは?」
「知らん!!俺たちが来た時には誰もいなかった。
酒とくいもんが残ってたからここにいただけだ!
それも全部無くなった!」
「腐敗臭がしてる。
ここらは土葬だ。墓を掘り返したな!!」
「当たり前だろ!
タフトはみんな土に埋めるんだ!誰も使わないのにな!
それを有効に使うんだ!何が悪い!!
しけたもんだったよ!なにも埋めてなかった!
ここは捨てた場所だったんだよ!!」
「・・・きちんと埋め戻しとけよ!」
この尋問の間にボス(仮)はぼこぼこにされている。
また、気絶しない微妙な加減で鳩尾に入れられた。
「土葬なんだね。」
「モウちゃんのところは?」
「国で違うよ。故郷は昔は土葬だったけど、
墓事情とか、流行り病とかで火葬になってる。
国で決まってるわけじゃないけど、
地域、自治体で決まってるんだったかな?
なんせ、火葬だ。砂漠の民と同じ。それでお墓がある。
そのお墓も、無くなってきてるかな?
なんせ、土地がない、管理するものがいないって。
うちもお墓は作らなかった。なにも。部屋にもなにも飾らなかったよ。
遺骨も何もかも処分してもらった。
なにか祀ればそこに固定してしまうと思ってたから。
よかったよ。こっちに来た今となっては。
あれば、心残りになる。
いつでも、どんな場所にも母さんはいるからね。」
「それはそうだな。
しかし、流行り病って?」
「んー、例えばよ、その亡くなった方が病気で死んだとするでしょ?
で、その原因は、いろいろなんだけど、
目に見えない物が原因なら、その遺体の中にまだあるんだよ。
だから、それを断ち切るために焼いてしまうの。
ここの亡くなった方が、老衰とかだったら、そんなに心配しないけど、
病気で死んだとなったら、
それを掘り返したお前たちは同じような病にかかるだろうな。
どんな病だったろうか?
ここを捨てなければならない病だったんだろうな。
厳重だったんじゃないか?
深く埋めていなかったか?
埋葬品は苦しんで死んだ人へのせめてもの手向けだ。
それをお前たちは掘り返したんだ。
からだがだるくないか?喉が痛くないか?
肌がガサガサか?食欲もないんじゃないか?
喉も乾くだろう?
動きも鈍いしな。
哀れだな。
仕方がないな、死者を愚弄した罰だ。
送ったもの達の気持ちを踏みにじった報いだ。
苦しんで死ね。」
留めの一発を入れられて、気を失った。
「モウちゃん?」
「うん。念のため、言霊を使うよ。
まとめてかけるから!!」
尋問が始まった時から、
マティスと師匠はやり取りを聞いていた。
『異なるものよ
お互いの真理が異なるものよ
我らは我らの真理に基づき生きていこう
汝らは汝らの真理を基に生きている
それは不可侵領域
此度不可侵は破られた
我らの体内に入りしものよ
滅せよ!』
「?なにも変わらないと思うんだが?」
「ごめん、わたしもわかんない。
とにかく、手を洗って、マスクして。
で、掘り返したご遺体は焼くから。」
盗賊たちも今の状態でなにかに侵されているのなら、
これで大丈夫だろう。
が、目に見えない恐怖はきっとまとわりつく。
水が乏しいこの場所で酒だけを飲んでいたんだ。
不健康そのものだ。
マティスは水脈が井戸からかなりふかいところまで
潜ったようだと。
井戸を掘った跡もある。
が、酒造りができるほどの水は出なかったのか。
ほんの少ししか湧き出ていなかった。
ここではもう酒造りは無理なようだった。
それは、外れに無造作に投げ出されていた。
「愛しい人。見なくていい。」
「大丈夫。ここはわたしの生きる世界。
あるよね、こういうのは。
ああ、子供までいるよ。
ああ、かわいそうに。」
5人ほど。
みな、裸に近い状態だった。
子供も死んでいるということはやはり流行り病なのだろうか?
ここでは風邪でも人は死ぬ。
少し深めに穴を掘り、きれいに並べる。
からだはできるだけきれいに。
簡単な服も着てもらう。
皆にアーリアの水筒に水を入れて横に供え、
女の人には髪を撫でつけ、カメリの花を。
子供には甘い飴を。
屈強な蔵人だったであろう人達には酒を。
あの3人のだれかかなのかはわからない。
顔の判別はできないのだ。
覚えているとかそういう以前に。
あのときはお茶葉を緑の石で成長を早め、
それごと燃やした。
今回も同じように。
この作業はわたし一人で。
ウィルスとか病原菌とかをいまいち理解しきっていない
マティスたちの作業ではこわいから。
わたしは完全防備の状態で触れることなく進めていく。
彼らは簡易クリーンルームで待機だ。
ここまでしなくてもいいかもしれないが、
念のため。
砂漠石の膜ごと燃やせば、やはりあっという間に
燃え尽きた。
ただ、薄い緑がかった煙が天に昇る。
言葉はない。
あれはツイミさんがいたからだ。
ただ心の中で手を合わせた。
殺さずの条件だったので、
気付いた野盗共は、わたしの姿をみて
みな逃げていった。
健康な人でも逃げるだろうな。
改良型の防護服は息は楽にできるが、
からだが異様にでかい。
宇宙服をもっとでかくしたような。
それは怖いな。
空気も一応清浄化して、服を脱ぐ。
「来るな、あの3人では?」
遠くに人の気配がする。
あの3人か?ああ、そうみたいだ。
煙が見えたから来たのだろうか?
近くにいたんだろうな。
女のわたしを見たからだろうか、
恐る恐る近づいてきた。
「お、お前たち?何をしている?
ここにいた野盗たちはどうした?」
「ああ、ここから逃げ出すのは見ましたよ?
なにがあったんだと見に来れば、ここにご遺体が投げ出されていたので。
わたしどもの風習で焼きました。
こちらの方ですか?
余計なことをしてしまったでしょうか?」
師匠が悪意、警戒感-200%の気で
話しかける。
普段を知っているわたしたち3人には
胡散臭さ500%だ。
「外に?」
「ええ。かなり前にはぎ取ったんでしょうかね。
その、かなり痛んでいましたし、匂いも。
掘り起こして、奪うだけ奪って、そのままだったんでしょうか?
そのままというのはなんとういか。
それで、焼きました。」
「そ、そうか。」
「あの方たちは病で?」
「そうだ。水が枯れてな。
水を探しに行っている間に次々とな。
埋葬はしたんだ。動けるものだけでここを離れた。
そしたら野盗が住み着いた。墓守がいなければ荒らされるだろうな。
そうか、燃やしてくれたか。
その煙だったんだな。」
どんな状態だったか師匠に詳しく聞いてもらう。
おしっこは濃い茶色で、体温はあがり、汗が出なくなる。
意識がもうろうとしてそのまま死んでいったと。
脱水症状?
それだけで?
水があれば助かったのか?
1年に一度だけ雨が降るこの大陸では、
地下に豊富に水がある。
それを探せなかったのか?
いや、それを探せるのは領主だけ?
いい匂いで目が覚める。
わたしの好きなチーズリゾットだ。
「あーーん。」
「あーーん。」
全身タイツは脱がされ、
今回の行商用の服に着替えていた。
目覚めたときからマティスがわたしを抱きかかえている。
わたしも離れたくはない。
食べ終わってからもだ。でも、おトイレは別。絶対だ。
ニックさんと師匠は少し離れたところに。
射撃の鍛錬をしていた。
音が出ないようにはしているので、静かだ。
あの発射時の音は、銃身と銃弾がこすれる音と
飛び出すときの衝撃音だ。
砂漠石が音を出しているわけではない。
サイレンサーのように別口で音を制御する砂漠石が組み込まれたものも
すぐに開発されるだろうか?
これは公開できない。
「落ち着いた?」
「はい。先に。
ニックさん、決して悲しくて泣いたわけじゃないです。
あなたの強さに、今こうしていることに感謝を。」
「ああ。分かってる。それで?」
「強くなるにはなにをすればいいですか?」
「なんのために?」
「わたしが寿命以外で死なないように。」
「マティスを守るんじゃないのか?」
「マティスはマティスを。わたしはわたしを。
お互いが死なないために。」
「どこか小さな村に住めばいい。
イリアスの端の村、ジュゲム村って名前になったか?
そこでもいい。人とかかわるからだ。争いが起こるのは。
いっそ、2人だけでも生きていけるだろう?」
「それは無理だ。大陸を廻るから。砂漠もすべて。
砂漠の民なんです。住むなら砂漠だ。
砂漠石を砂トカゲと取合うんですよ。
砂漠石を採るものと闘うんですよ。
それがトカゲでも人でも。
砂漠石の売り買いで砂漠の民の生活が成り立つ。
人と関わらずに生きていくのはそれは人ではない。
強くないと。」
「そうだな。それは強くないとな。」
「ええ。どうすればいいですか?」
「経験だけだよ。十分強い。
ただ、相手が俺たちだ。テルマでもダメだ。
なんでかわかるな?」
「はい。」
「愛しい人?」
「うん。マティス、2人で頑張ろう?
今までじゃダメなんだ。
いままではお遊びなんだよ。
違うんだ、本物は。
滅しにかかる相手がたまたま自分よりも弱かっただけだ。
あれだよ、トックスさんの値切りだよ。」
「ああ、わかる。
だからな、まずはワイプとする。
愛しい人はニックとしてくれ。」
「え?わたしなんですか?それはいいんですが、
わたしも本気ですると、その保証はできない。」
「俺が見てるよ、止めるから。
俺たちのは、ガイライが戻ってからしよう。あれも止められる。
それでいいな?」
「「はい。」」
「良し!じゃ、鍛錬はガイライが戻ってからってことにしよう。
人と関わらずに生きていけないんじゃなくて、
俺は酒と関わらずしては生きていけないとおもう。
酒だよ、酒!
向こうに集落がある。そこだろう?
どうするんだ?旅人を装っていくのか?」
「ふふふふ。わたしも、それ、そう思います。
10番門内で聞いたってことで。
わたしもマティスも変装するから。
メジャートから王都までの街道で見た姿は、護衛の服だったからね。
この格好なら分からないんじゃないかな?」
「金と米とを渡したんだな?なんで?」
ベッカンコの話をする。
「3人で300ですか?」
「少なかった?」
「この界隈は物価が高い。
その分、領外だとしても稼ぎがいい。
彼らが話したように早仕込みの酒ができないとなると、
いつもの倍の雨の日。
早仕込みの酒を売る前提で、食料を買うこともできない。
300ですか。3人だけならいいんですが、家族がいれば、
足りないですね。成人する子供がいれば不安でしょう。
領外ですからね、支援もない。」
「あちゃー、それは悪いことをしたね。
コットワッツは月に15リングあればいいって聞いてたから。」
「それは、領内だからですよ。
しかも、コットワッツ、ボルタオネ、ラルトルガは物価が安い。」
「そうなんだね。
様子見て、お酒造りを考えてくれてたら、追加支援かな?
そのお金で別のことを始めてるんだったらそれも良し。追加はないけどね。
こっちも慈善事業じゃないからね。酒ですよ、酒!」
集落に行くと、
かなりの人々が暮らしているようだ。
家のなかに気配だけする。
村なのか、ちゃんと番人もいる。
が、ちょっと、柄が悪い。
「何もんだ?」
「ああ、タフトで行商をしてきたんだよ。
そこの10番門内でな、ここの酒を呑ませてもらったんだ。うまいな!
それで、売ってもらえないかと思ってさ。」
酒付きを前面に出してニックさんが交渉。
「時期が悪いな。仕込みが終わったとこだよ。
呑めるようになるのは新年が過ぎてからだ。」
「なんだ。そうなのか。
そんなこと言ってくれなかったからな。
ちょっとくらい残ってないの?」
「ないな。その酒も売る先は決まってるし、
早い者勝ちなんだ。なんだったら、手付を置いてくか?
だったら、確実にあんたの手に入るようにしておくぜ?」
「えー。難しいな。手付を出すのはいいけど、
新年過ぎっていつ?」
「あー、2回目の合わさり以降だ。」
「2回目ね。難しいな。その時期は南に行ってるな。
俺たち行商だから。
縁がなかったってことか。んー、残念だな。」
「そうかい。ま、仕方がないな。」
「今度はその時期にこっちに来るようにするよ。
ほら、残念だが、行こう。
月が昇る前に街道に戻るぞ。」
(ニックさん?あれ、嘘行ってるよ)
(わかったか?酒の仕込みは今の時期じゃない。
雨の日の後だ。早仕込みにしては遅い。
それに水が出ないんだろ?あれは盗賊の集団だな)
(モウ?慣れなさいよ?腐敗臭もしました)
(はい。あの3人はどこにるんだろ?)
(どうだろうな。あれらが来たから逃げたのかもしれん)
(探していい?)
(もちろんだ)
(実戦は?)
(マティスよ、あれらではなんの鍛錬にもならん。
襲ってくれば別だがな)
「ま、走り込みだ。
マティス!水脈は分かるんだな?
それを追っていこう。酒を造るんだったら必ず水はいる。
荷重12で、走るぞ。
地面を蹴ってな。
攻撃はモウちゃんのみ。マティスとワイプにだ。
2人は受けるだけ。モウちゃん、遠慮するな。
怪我とか気にするな。
悪いがそこまでいかない。
マティス?受けろ。避けるな。
ワイプもだ。お前も鈍っているのは自分でもわかるだろ?
それは俺もなんだがな。」
「ニックさんも?」
「俺もマティスとワイプに攻撃だな。
連携はとろう。が、それを期待するな?」
「ニック殿に攻撃は?」
「できるんならな?その隙を見逃すな?モウちゃん?」
「押忍!」
「「・・・・。」」
では出発という段階で、やはりのお客様。
「準備運動だな。面倒だから殺すなよ。」
「「「応!」」」
所詮は素人相手の盗賊。
数で押してくる。
連携が取れていればまだしも、そうでもない。
施主殺しあたりを放てば一発だろう。
殺さずの縛りで応戦。
なるほど、次の相手、いや、次の次を見定める。
あれ?
わたしだけ相手してない?
マティスは?師匠と?
ニックさんは見てるだけだ。
「ん。終わりました!!」
「良し、良し。俺ら抜けたのを気付いたのは3人手前か?」
「それぐらいです。」
「モウちゃんが2人目相手にした時から、
マティスとワイプがやり合ってな、
そっちを見てたよ。」
「2人目!」
「もっと全体をな。」
「はい。で?それは?」
ニックさんは一人だけ確保していた。
ボス?
「聞いとけば早いだろ?」
「なるほど!」
「おい!こっちが聞きたいことわかるよな?
お前たちが作ってるわけじゃないだろ?
酒だよ、酒!
どこにやった?出せよ!!」
酔っ払いだよ、それじゃ。
「どこにもない!全部呑んださ!」
「ここにいた人たちは?」
「知らん!!俺たちが来た時には誰もいなかった。
酒とくいもんが残ってたからここにいただけだ!
それも全部無くなった!」
「腐敗臭がしてる。
ここらは土葬だ。墓を掘り返したな!!」
「当たり前だろ!
タフトはみんな土に埋めるんだ!誰も使わないのにな!
それを有効に使うんだ!何が悪い!!
しけたもんだったよ!なにも埋めてなかった!
ここは捨てた場所だったんだよ!!」
「・・・きちんと埋め戻しとけよ!」
この尋問の間にボス(仮)はぼこぼこにされている。
また、気絶しない微妙な加減で鳩尾に入れられた。
「土葬なんだね。」
「モウちゃんのところは?」
「国で違うよ。故郷は昔は土葬だったけど、
墓事情とか、流行り病とかで火葬になってる。
国で決まってるわけじゃないけど、
地域、自治体で決まってるんだったかな?
なんせ、火葬だ。砂漠の民と同じ。それでお墓がある。
そのお墓も、無くなってきてるかな?
なんせ、土地がない、管理するものがいないって。
うちもお墓は作らなかった。なにも。部屋にもなにも飾らなかったよ。
遺骨も何もかも処分してもらった。
なにか祀ればそこに固定してしまうと思ってたから。
よかったよ。こっちに来た今となっては。
あれば、心残りになる。
いつでも、どんな場所にも母さんはいるからね。」
「それはそうだな。
しかし、流行り病って?」
「んー、例えばよ、その亡くなった方が病気で死んだとするでしょ?
で、その原因は、いろいろなんだけど、
目に見えない物が原因なら、その遺体の中にまだあるんだよ。
だから、それを断ち切るために焼いてしまうの。
ここの亡くなった方が、老衰とかだったら、そんなに心配しないけど、
病気で死んだとなったら、
それを掘り返したお前たちは同じような病にかかるだろうな。
どんな病だったろうか?
ここを捨てなければならない病だったんだろうな。
厳重だったんじゃないか?
深く埋めていなかったか?
埋葬品は苦しんで死んだ人へのせめてもの手向けだ。
それをお前たちは掘り返したんだ。
からだがだるくないか?喉が痛くないか?
肌がガサガサか?食欲もないんじゃないか?
喉も乾くだろう?
動きも鈍いしな。
哀れだな。
仕方がないな、死者を愚弄した罰だ。
送ったもの達の気持ちを踏みにじった報いだ。
苦しんで死ね。」
留めの一発を入れられて、気を失った。
「モウちゃん?」
「うん。念のため、言霊を使うよ。
まとめてかけるから!!」
尋問が始まった時から、
マティスと師匠はやり取りを聞いていた。
『異なるものよ
お互いの真理が異なるものよ
我らは我らの真理に基づき生きていこう
汝らは汝らの真理を基に生きている
それは不可侵領域
此度不可侵は破られた
我らの体内に入りしものよ
滅せよ!』
「?なにも変わらないと思うんだが?」
「ごめん、わたしもわかんない。
とにかく、手を洗って、マスクして。
で、掘り返したご遺体は焼くから。」
盗賊たちも今の状態でなにかに侵されているのなら、
これで大丈夫だろう。
が、目に見えない恐怖はきっとまとわりつく。
水が乏しいこの場所で酒だけを飲んでいたんだ。
不健康そのものだ。
マティスは水脈が井戸からかなりふかいところまで
潜ったようだと。
井戸を掘った跡もある。
が、酒造りができるほどの水は出なかったのか。
ほんの少ししか湧き出ていなかった。
ここではもう酒造りは無理なようだった。
それは、外れに無造作に投げ出されていた。
「愛しい人。見なくていい。」
「大丈夫。ここはわたしの生きる世界。
あるよね、こういうのは。
ああ、子供までいるよ。
ああ、かわいそうに。」
5人ほど。
みな、裸に近い状態だった。
子供も死んでいるということはやはり流行り病なのだろうか?
ここでは風邪でも人は死ぬ。
少し深めに穴を掘り、きれいに並べる。
からだはできるだけきれいに。
簡単な服も着てもらう。
皆にアーリアの水筒に水を入れて横に供え、
女の人には髪を撫でつけ、カメリの花を。
子供には甘い飴を。
屈強な蔵人だったであろう人達には酒を。
あの3人のだれかかなのかはわからない。
顔の判別はできないのだ。
覚えているとかそういう以前に。
あのときはお茶葉を緑の石で成長を早め、
それごと燃やした。
今回も同じように。
この作業はわたし一人で。
ウィルスとか病原菌とかをいまいち理解しきっていない
マティスたちの作業ではこわいから。
わたしは完全防備の状態で触れることなく進めていく。
彼らは簡易クリーンルームで待機だ。
ここまでしなくてもいいかもしれないが、
念のため。
砂漠石の膜ごと燃やせば、やはりあっという間に
燃え尽きた。
ただ、薄い緑がかった煙が天に昇る。
言葉はない。
あれはツイミさんがいたからだ。
ただ心の中で手を合わせた。
殺さずの条件だったので、
気付いた野盗共は、わたしの姿をみて
みな逃げていった。
健康な人でも逃げるだろうな。
改良型の防護服は息は楽にできるが、
からだが異様にでかい。
宇宙服をもっとでかくしたような。
それは怖いな。
空気も一応清浄化して、服を脱ぐ。
「来るな、あの3人では?」
遠くに人の気配がする。
あの3人か?ああ、そうみたいだ。
煙が見えたから来たのだろうか?
近くにいたんだろうな。
女のわたしを見たからだろうか、
恐る恐る近づいてきた。
「お、お前たち?何をしている?
ここにいた野盗たちはどうした?」
「ああ、ここから逃げ出すのは見ましたよ?
なにがあったんだと見に来れば、ここにご遺体が投げ出されていたので。
わたしどもの風習で焼きました。
こちらの方ですか?
余計なことをしてしまったでしょうか?」
師匠が悪意、警戒感-200%の気で
話しかける。
普段を知っているわたしたち3人には
胡散臭さ500%だ。
「外に?」
「ええ。かなり前にはぎ取ったんでしょうかね。
その、かなり痛んでいましたし、匂いも。
掘り起こして、奪うだけ奪って、そのままだったんでしょうか?
そのままというのはなんとういか。
それで、焼きました。」
「そ、そうか。」
「あの方たちは病で?」
「そうだ。水が枯れてな。
水を探しに行っている間に次々とな。
埋葬はしたんだ。動けるものだけでここを離れた。
そしたら野盗が住み着いた。墓守がいなければ荒らされるだろうな。
そうか、燃やしてくれたか。
その煙だったんだな。」
どんな状態だったか師匠に詳しく聞いてもらう。
おしっこは濃い茶色で、体温はあがり、汗が出なくなる。
意識がもうろうとしてそのまま死んでいったと。
脱水症状?
それだけで?
水があれば助かったのか?
1年に一度だけ雨が降るこの大陸では、
地下に豊富に水がある。
それを探せなかったのか?
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