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653:作り話
しおりを挟むやはり愛し合っていたんだろうな、父様と母様は。
結ばれないしがらみがあったんだろうな。
正にロミオとジュリエットだ。
子が、お前が産まれたのは喜ばしいことなんだよ。
分かっていただろうな、母は。
誰の子供かは。ひとつの賭けだたんだろうな。
腹の中にいる間、それそれは慈しんだはずだ。
この子はあの方の子。
母にはわかるのですよ?
何も心配はいらない。大きくおなり、愛しい子。
だが、産まれてしまった姿かたちは
ごまかしようがない。
母の元では育てられない。
ああ、その髪色も、瞳の色もあのお方そのもの。
少しでも母に似ていれば、このまま育てることができたのに。
いいえ、これは、幸せなこと。
あの方の子を産むことができたんですもの。
ああ、でも一刻も早く、館の外に。
あれには死産だと。
ええ、わたしは大丈夫、どんなことでも耐えましょう。
この子が生きているのですもの。
秘密裏に父親の元に泣く泣く預けたんだ。
いつか、いつか、3人で暮らそうとな。
それまで待っててくれ、と。
あなた、愛しいあなた。
いまのわたしではどうにもできない。
あなたの元に行くこともできない、わたしを恨んでください。
なにをいうのか。
望んではいけないものを望み、そしてこの手にある幸せを
どうして恨むことなぞできようか?
ああ、お前が心配だ。
分かっている、分かっている。
立派に育てて見せる。お前と同じだけ、
それ以上に愛を注ごう。
お前を愛している。
今までも、これからも。
身を切られる思いだろうね。だが、我慢できる。
愛する人の手で、愛する子供を育ててくれるのだから。
我慢すればいいのは己だけ。
はやく、はやく、3人で暮らせるように動かなくてはとな。
お前は父親と母親のことを誰から聞いた?
他人だろ?面白おかしくな。
父は言っていたはずだ、なんら恥じることはないと。
母の元に戻ったのは、母に子を産めと強要する勢力がなくなったか、
己に発言力が付いたからだ。努力したのであろうな。
迎えに行くためにな。
当然、父親も一緒にといわれただろうな。
が、父親は身を引いたんだよ。
いくら愛し合っていても、身分の違いは下の者ほど、大きく感じる。
自分のことを恥じてな。
お前を育てている間、廻りからなんと言われて来ただろうか?
想像できるか?
これからは貴族として生きる息子の父親が、
己のような身分では迷惑がかかる。
母は泣いただろうな。
どうして?どうして?
これから、なにも言わせない。
それだけの力はつけたのです。
ああ、どうぞ、わたしと一緒に。
分かっている。
だが、この子のためだ。
いままで、あらゆるそしりを受けた。
それがもし、この子にまで及んだら。
ああ、不甲斐ない。
ついていけないわたしを恨んでおくれ。
何を言うのです。
わたしたちの子を、このようにりっぱに育ててくれたあなたを、
どうして恨むことなぞできましょうか?
いままで、よく耐えてくれました。
分かっています。どうしようもならないということも。
あなたと同じだけ、
いいえ、それ以上に愛を注ぎましょう。
あなた、愛しています。
今までも、これからも。
親子がともに暮らすのになぜ身分が邪魔をする?
が、そこは、どうしようもないこともある。
その中に組み込まれての己の生活があるんだ。
さすがに一族を捨てて生きることはできない。
それに女であると同時に母なのだ。
我が子の幸せを思えばこそ。
愛する人に渡せるのが金だけだったんだろうな。
母はどんな思いで渡したのだろうか。
それを断ることができない己の立場をまた、父は嘆いただろうか?
人は霞だけをくろうて生きているわけではないからな。
しかし、父はこれから我が息子が成長していくことを糧に
生きていけるとおもっただろうな。
この金で我が子を必要なものを買ってくれと言えれば。
なんて不甲斐ない父親なんだ。
いいや、
これは取っておこう、あの子に何かあった時のためだ。
ああ、明日からまた頑張ろう。
だが、今日だけは少し、泣いてもいいだろうか?
わたしが不甲斐ないばかりに。
またあの人を悲しませてしまった。
もっと、力があればいいのに。この子を引き取るだけで
精一杯なんて、なんて情けない母親なんだろう。
いいえ、これから、
この子のために生きていかなくては。
ああ、明日からまた頑張ろう。
だが、今日だけは少し、泣いてもゆるしてくれますか?
母は、その後どうしただろうか?
それこそ、子のためだ。あらゆることを学ばしただろうな。
遅れを取り戻すためだとかなんとか理由をつけて、
勉学も厳しく教わっただろ?
軍に入ると言った時に母は心配で泣いただろうな。
これは、どの母親にも言えることだぞ?
軍に入ることも、止めはしなかっただろう?
その時代、お気楽お貴族様は軍には少なかったんじゃないか?
南とやり合ってた時代だろ?外に出たのはそれが落ち着いてからか?
世界を見るとニバーセルから外に出ることも反対しなかっただろ?
己の思うままにできなかったのは自分だ。それを子がしたいと望んだ時に
なぜに止められる?
己の血筋が我が子だけだとしてもな。それで、絶える一族となってもだ。
反対はしなかっただろうな。
行っておいで、世界を見ておいでと送り出さなかったか?
父様と母様はご健在か?
なにも確かめてはいないんだろう?
他人の噂話だけだ。
だから感情が動くんだ。
非道な親ならそれに感情を動かすことすらない。
考えるだけ無駄だからな。
他人に話すことすらしないだろう。
好きの反対は嫌いではなく無関心だ。
こころの片隅に置くことすらしないもんだ。
が、どれほど自分のために苦労を掛けたかと知っていれば、
今の自分の姿形を誇らしく思うだろう。
今あるものは父親と母親から授かったとな。
分からないから進めないんだ。
確かめるのが怖いのは己が弱いからだ。
が、戻ってきたんだ、ニバーセルに。
確かめることをお勧めするな。
どのようなことが分かっても、
知らないほうがよかったと思うことでも、
己は強くなるだろう。
悪いが、タンダート?弱いぞ?心がな。
その時の親の口先だけの言葉に惑わされるなよ?
隠密をするぐらいなんだ、素人に騙されるな?
は!生きていたのか?
こんな汚い下町にお貴族様が来るとはな。
お前は俺の子でも何でもないんだぞ?昔の噂話を信じたのか?
お間抜けな奴だ。
折角ここまで来たんだ、金を置いてけよ?
ないんなら出ていけ!迷惑だ!!
いまさら戻ってきたと?
それで?何しに来たのですか?
あなたは、我が子として引き取りましたが、
外に出た時点で縁を切っています。
金の無心ですか?迷惑です!
出ていきなさい!!
目を見ろ、指先を見ろ。
お前の無事な姿をみて安堵する目を。
お前を抱きしめたいと動く指先を。
そして心を見ろ。
なんて立派に。愛しているよ、我が息子。
だが、お前は貴族なんだ、ここに来てはいけない。
ああ、あの人の元にも行ってくれたのだろうか?
お前の姿を見れば、どんなに喜ぶだろうか。
なんて立派に。愛しているわ、我が息子。
だけど、ここにいれば、あなたを利用しようとする者がいる。
ああ、あの方の元にも行ったのだろうか?
あなたを見れば、どんなにお喜びになるだろうか。
そして伝えておくれ、今も愛していると。
─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘
「愛しい人?眠いだろう?おいで?
明日はまた鍛錬が始まるから。早く寝よう。」
「ん。眠いね。
油、どうやって売ろうかって話の途中だけど。
小さな樽でいいとおもんだ。とりあえずね。
また、樽を買いに行こう。
5リングだったよね、アガッターとのところで買ったのは。
50杯で5銀貨、25リングか。
金額は同じにしよう。ものはいいからね。売れるよ?
でも、最初は、マッサージオイルとして売ろうか?
で、髪にもいいんじゃないかなってことにしようか?
くふふふふ。
あれ?隠匿をどうするかも考えないと。」
「そうだな。それも考えよう。ほら、ここ、おいで?」
「んー。マティスも一緒ね。」
「もちろんだ。」
寝やすい位置に頭を移動させる。
まともに寝ていないんだ、
背中をポンポンと叩けば、くーっと眠りついた。
「ワイプ?店の話と隠匿はお前が考えろ。
ガイライ?タンダートがあれ以上に彼女の手を煩わすのなら始末しろ。
ニック?重さの調整は私もいるときだけだ。」
「はいはい。わかりましたよ?って、あなたも泣いてるんですか?」
「うるさい。」
男3人、みな泣いているのだ。
「これは、ダメだな。いや、ほんと、鼻水もでる。」
「いま作った話なんだな?タンダード?どうなんだ?」
「知らない!そんなこと知らない!!
なんなんだ!知っているのか?どうなんだ!」
「いや、作り話ですよ?彼女は何も知らない。
芝居風に話すのは前もって教えてほしいですよね。
この手の話を知っているだけですよ。だから、確かめたとしても、
今話していること以外のことが起ると考えたほうがいいですよ?
確かめていないというのは事実なんですか?
さすがに、あなたの世代の話はわたしもしりません。
が、王族の一つで今の当主がお亡くなりになればそれで、
廃絶となる一族はありますよ?
普通は養子をとるとか、手はいろいろあるんですが、
それは頑なに断っています。
それで、そのあとの財産を狙って結構人の出入りがあるんですよね。
ああ、悪い意味でですよ?
もし、ご実家ならすべて資産院にお預け頂けるようにお話願いませんか?
スクレール家なんですが。」
「・・・・。」
「タンダートの家だよ。あのまま一人だったのか?」
「ご存じで?」
「そりゃ知ってるよ。こいつの話は、悪いが有名だったんだよ。下町でな。
お前の父親が雨の日に館に忍び込んでやったとかさ。
貴族の家に出入りして金をもらっていたのは知ってる話だったからな。
なのに、雨の日が終わって赤子を連れてきたんだよ、
どう見ても自分そっくりな子をな。
酒のさかなの噂話だ。モウちゃんがいう面白おかしい話だな。
貴族に召し上げられたから、あの話は本当だったんだって。
だが、それが本当なら、それ以上は言えないだろ?
なにされるかわからんしな。
その当時のスクレール家はかなりの力と発言力をもってたよ。
親父さんも子供は預かっていただけだと、
笑うだけで、なにも言わなかったしな。
どんなことをいわれても、笑っていたよ。強い人だと思っていたよ。
ただ、お前が軍に入ってから、なにかと聞いて来た、お前のことを。
最近入った新人はどうなんだとな。
俺も、話せることは話したさ、隠すことでもない。
俺だってわかるよ?何が聞きたいかってことぐらい。
だからさ、余計にモウちゃんの話、泣くよなー。」
「・・・・生きてる、のか?」
「いや、俺は最近戻ってきたんだ、知ってるだろ?20年近く離れている。
下町にはまったくいけてねえんだ。
俺が離れるときは運び屋をしてたんだ、ガイライも知ってるだろ?ハニカって名前だ。」
「彼か。元気だぞ。」
「私も知ってるぞ。」
「マティスも?なんで?」
「セサミナをはじめ、彼には世話になった。
彼女も気に入っている。もちろん私もだ。馬車に揺られて、
王都を案内してもらった。愛しい人がそれは楽しそうに笑っていたからな。
これはどうすればいい?ワイプ?」
「なにがです?」
「ハニカに何かあれば、愛しい人が悲しむ。
セサミナもだろう。
このような息子が帰ってくれば、逆に迷惑なんじゃないか?
愛しい人はいいように話を作ったが、実は迷惑しているかもしれないだろ?
先に始末しておいたほうがいいのでは?」
「あなたもいいから寝なさい。あとは、やっておきますから。」
「そうか?くれぐれも愛しい人を悲しませるなよ?
ガイライもだ。」
「わかったから。」
これだけ念を押しておけばいいだろう。
愛しい人を風呂に入れたから寝ようか。
─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘
「考えることが山積みですね。
店のことは、モウと相談しないといけないし、
お嬢問題も、ひとまずいいとして、明日の予定は?」
「予定通り、酒の3人組?そこに行く。
やはり鍛錬はしないと。明日一日だ。
それで、18から20まで行こう。
カリクのところでマンザスが入ったことに20の顔役がどう出るかだ。
本来なら20門内で扱うだろう?
別の手が入ってるかもしれない。争いがまた起きる。
そうなると、税の収入が減るぞ?」
「やめてくださいよ。売り上げに対する税を納めてくれればいいんですY。
それを個人の懐に入れるから減るんです。
オート院長下ではそうはいかないでしょう。
そうなると、別のところに、金が流れる。
中央か、天文か、生産院はどうでしょうか。
軍も絡みますね。
当主と軍隊長、別で決まったようですよ?」
「当主が隊長というわけではないと?」
「さすがに、自分が最前線に行くのは避けたいということでしょう。
己の手駒を隊長にということですね。」
「それが裏切らないと言い切れるのか?」
「そこね、ゆくゆくは当主というこうことが約束されていれば、
好戦的な出世欲の強いものは承諾するでしょう?」
「そんなのに隊長が務まるものか!」
「でしょうね。なので、分隊は第3軍ということになりますね。
これは、お二方が戻れば、打診があるはず。」
「お前の提案?」
「まさか。噂は流しましたが。
それがなければ、ニバーセルは終わりですよ?」
「予算は?」
「出ません!!」
「なんだよ!それ!!10億作れよ!10億!!」
「えー。そうなると私軍で、ワイプ軍ですよ?それもいいんですが、活動内容が、
債権回収になります。」
「絶対に嫌だ!」
「予算は考えましょう。分隊は行商も許可されてるんですから。
塩袋はダメですが、油は?いいんじゃないんですか?」
「納税が目的か?その油はどこから仕入れている?
なんで他に卸さない?それこそ、いまアガッターの相手はしていられない。
問題だらけだ。」
「ですよね。どうしましょうか。これ、モウに話すと、あれ絡みで
話を持ってくると思うんですよ。それは避けたい。」
「何のための第3軍なんだ?」
「やっぱり。」
「なんでもモウ頼みになる。情けない。
第3軍の話が出れば受けよう。予算はこちらで。」
「権利をできるだけ勝ち取ってください。」
「・・・・。
お前たちは何の話をしている?隠匿?軍?どういうことだ?」
「いろいろあるんですよ。
あなたは、まずは、ご両親のこと確認して下さいな。
でないと、先には進めない。後回しにすると、モウの気が散ります。
明日、モウが起きたら、先にニバーセルに戻ると言ってください。
きっと送ってくれるでしょう。
店のこと、塩袋のこと、考えておきますから。
混じりはじめにニバーセルの資産院に来てください。
あ、資産お預けの件もお忘れなく。
少し寝ましょうか?
風呂は、これも明日ですね。
ほんと、便利なものはなくせない。」
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