いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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564:雌雄株

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海沿いの崖沿いはやはり水分を含む風が吹くからか、
植物が豊富だ。
腰の高さまであるような細長い草だが、すべて、地面に寝ている。
それがお互いに絡み合っているので、すり足で進むとこけてしまう。
ものすごく単純な罠だ。
がっし、がっしと踏みつけていく。
踏んでも振り返れすぐに元に戻っている。呪いの森の草のようだ。
少し刈り取っておこう。
後は根っこごと。
草の先に、小さな種が付いている。
けっこうたくさん。
あー、これ、なんていう名だったかな。ハカラメ?多肉植物であったな。
小学校の時、教室で育てていた。
ぽろぽろ産まれてくるのだ。
クラス全員が持って帰り、家でも育てていたと思う。うちもけっこ大きくなったが、
子株が増えすぎて、何もしないこと!という決まりができてしまった。
親株はかなり大きくなって、最後は白っぽいものが伸びてきて、
花ではなかったと思うのだが、その後枯れてしまった。

これも、どんどん増えていくのかな?

「食べるのか?」
「いや、とりあえず持って帰る。
うん、植物はマティスと家で食べることにする。」
「そうしてくれ。」
「はーい。」


草ばかりで花は咲いていない。
ほんと、あの香りはどれなんだろう?
きっとここにはこんなのがあるんだよって教えてくれたと思うんだけどな。
なんでもいいように考える主義です。

「下に降りるか?」
「うん。」
「おいで。」
「はーい。」


がっしり抱きかかえてもらって、マティスが、ひょいと、崖を落ちていく。
うー、おなかにGを感じるね。


地面に付く寸前で、停止、軽く着地。
絶壁の家はこの向こうだ。
ちょうど出っ張った岩肌でこちらからは見えない。

砂浜は白い大理石が砕けたような、白い砂浜。
サラサラだ。
かなり丸くなっている。動植物はぱっと見はいなさそう。
砂も確保しておこう。

岩を超えれば、絶壁の家だ。
目立たなくしているはずだが、わたしたち2人の眼には
そのまま見える。
どーんと穴が開いている状態だ。

あと、2つぐらい客室を作ってもいいかもしれないな。

月無し石は砂浜に降りた途端にどこかに遊びに行っている。
帰ってくる前に、真水のプールを用意しないとね。

今度は崖を登って上に。
熊の毛皮は脱いでいる。昇るのに邪魔にならないように結構ぴったりな服を着た。
イリアスの服だ。
靴はゴム底にしている。
ロッククライミング?
基本飛べるから、それに頼らないようにしながら登っていく。

「愛しい人?花が咲いているぞ?」

見上げればそれはとてもきれいな青い花だった。
青い花はこっちでは初めて見た。

「採るか?」
「いや、せっかく頑張ってここで咲いてるもの。そのままで。
結構ぎっしり咲いてるね。
でも、種ができるんなら欲しいかな。種っていつぐらいにできるんだろ?」
「いろいろだぞ?雨の前か後か?
ここは雨が降れば海に流れるだろう。
そうなると、雨の前に芽吹いておかなくては。」
「ああ、そう考えればいいんだね。ということはそろそろ?
いや、その前に花があるということは虫がいる?
いや、風媒花?その割には派手だよね?
あ!香りは?」

マティスはわたしより先に登ってくれている。

「香りは風があるからわからんな。
ふうばいか?繁殖の方法だな?生き物はいないからな。
ん?この一帯をそのまま取ろう。後で戻せばいいだろう。」
「ん。家でみる?」
「砂漠でいいだろう。風のないところまで。」
「あい。」

ボコンとその花の周辺。1m立法を抜き取る。
マティスはそれを先に移動させ、わたしを抱えてその場所に移動した。
過保護です。

植物が動かないというのは嘘ですね。
その花は、シュルシュルと動き、廻りを観察しているようだった。
あの香りもする。しかし、ちょっと下品に感じる。


「さっきも手をかざしたら動いたんだ。」

オジギソウみたいな?

食虫植物?あれは動くわけでもない。
ここいらの植物は動くのが普通とか?

採取した草を出してみる。


「ひえぇぇぇぇーーー!!!」


伸びたのだ。
根っこごと採った草が、花の方に。
で、先につけていた、実というか芽?を花弁に突っ込んでいる。
そのまま、花は閉じて、葉の先を食い違った?
OH!卑猥です。

「これ?同種?それともどっちか、両方かが動物で、
卵かなんか植え付けてるとか?」
「わからん。匂いの元はこれか?」
「ちょっとかわいそうだけど、解体してみようか?」

花たちを見ると、がくが膨らんでいるものとなにも膨らんでいないものとがあった。
一番大きく、ぷくりと膨らんだガクと今、受粉したばかりの物も割ってみる。

コロンと種が出てきた。

今、受粉したばかりのものが強い香りを出していた。


花の残り香?
何のために香る?
緑の草の方が花の位置を探すため?
で、触れれば、花を閉じて先を食いちぎると。
それで受粉完了。

あの草が、風が止む瞬間を狙って、この花と受粉しているのだろうか?
月が沈む前は風が止むのだろうか?
雌雄株で形が違うと?動物ではあることだよね?植物でもあるか?
銀杏の木は見た目でわかるぐらいなんだけど、それ以外は知らないな。


「直接聞かないのか?」
「いや、植物や、食べる動物たちはやめておこうと。」
「そのほうがいいな。」
「これ、種というか、あの場所で大きくなっても海に落ちるだけだよね?」
「風に乗って、草原戻ってくるとか?」
「ああ、それか。これ、割ってみるね。」




大きい種を割ってみた。


なるほど、胞子だ。
はじけて、海風に乗って草原に散らばる。
ん?そうなると、散らばった草は受粉できない。
遠くに行けば行くほど不利じゃないの?
植物だって、子孫繁栄レースに参加しているんだ。
ここに寝付いたの偶然かな?
砂漠に近い草たちは草たちで繁殖の方法が別にあるとか?
繁殖方法が1つしかないと思うほうがおかしいのか?
花が岩陰に咲くのは風が強く耐えられないからだ。
受粉して繁殖すればより強い個体が生まれるとか?
あとは、普通に繁殖?

「面白い!!」
「そうか?」
「繁殖するためにいろんな知恵があるということだね。
人間以外の動物が卵から生まれるように、
植物だって私の知っている方法と違うってわけだ。
月が沈む、風が止むであろう時間帯に観察しよう。」
「それで?どうする?」
「受粉したばっかりの種はもらう。
その代わり、もうはじけそうな種は上に移動する。
おそらく半分は海に落ちてるよ。
そうすれば、草原いまかれる胞子の数は変わらないから許してくれるだろう。」
「砂漠がこの草原の草だらけにならないか?」
 「砂漠が許すならそうなるけど、それにはものすごく時間がかかると思うよ?
ここは草が無くなって草原になるんじゃなくて、砂漠主体だ。
砂漠が許すか許さないかだ。」
「砂漠主体な。そうだろうな。」
「うん。これ、どれくらい香りが持つかな?
ちょっと、熟してる種は取っておこう。
で、今受粉したものも。」
「戻すんじゃないのか?」
「予定変更です。根だけ残して岩は戻そう。
雌株は雌株で繁殖方法があるはずだ。」
「花弁は?」
「なんか、きれいだから、押し花とか、絞ったら染付に使えるかも?
花びら自身は匂わないね。このガクのところから匂いがするんだ。」

2人で、チマチマ、花を摘み取り、
岩を戻し、ガクを切り裂いて種を取り出した。
1/3ほどが香無しの種が出たので、がけっぷちに撒いた。
数個はもちろん植物園に。雌株も数株。
香付きの種は水洗いしても大丈夫。
未熟な種だから香りが出るのかな?
未熟なものは割っても胞子ではなく、ドロっとした液体だった。
もったいないから密閉容器に入れておこう。


「生き物じゃないよね?」
「動物ってことか?虫?」
「実は小さい虫でうじゃうじゃしてるとか?」
「愛しい人は嫌なくせによくそんなことを思いつくな。」
「嫌だからね!」
「収納してみればいい。」
「クジラ石も虫だけど、収納できるじゃん!」
「虫とコクが呼んでいるだけであって、愛しい人が嫌がる虫ではないのだから。」
「そうだよね?こう、わしゃわしゃってうごめくのが嫌なんよ。
ん、収納出来た!問題なし!!」
「よかったな!この香りはコットワッツ風の平原の収入源になるかもしれないぞ!」
「やった!!!セサミンを驚かせたいから、
トックスさんに聞いて、ドロインさんにも聞いて、コクにも聞いてみよう。
で、大丈夫だったら、セサミンに献上しよう!」
「ああ、喜ぶだろうね。」
「うん!」


が、世の中そんなに甘くはない。
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