いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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508:鉄板

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「マティス?家に帰ってきたよ?お風呂も一回はいる?
おなかすいてる?お茶づけ食べようか?ラーメンにする?
焼きおにぎり作ろうか?」
「・・・・。」
「じゃ、お風呂はいってきてもいい?
つかっただけでしょ?一緒に入ろう。」


マティスがセサミンとのことを考えていた時のように。
帰る場所はどこなのだろうかと考えていた時のように。

考えていること以外を放棄する。
考えていることはわたしのことだ。
全神経がわたしに向いている。

時間にすれば1時間もたっていない。
その短時間、わたしのことを記憶から外に出されただけで
こうなってしまうのか。
それに気付いたときか?
皆と風呂に入っていた時はなにも感じていなかったはず。
反動をどうするかだな。


じっと見ている。
わたしを。目の前にいるし、触ることもできる。
なのに、少しの間、いなくなっただけで、その時間を埋めようとしている。
次からはマティスは同席させよう。

お風呂に入り、体を洗い、
わたしもさっと自分で洗う。
その間マティスの手を握ったままだ。
仕方がないな。
台所に戻り、ストローで水を飲む。
売れるよねー、これ。
トウミギの茎の単価、手軽さには負けるけど、
高級路線で売ろうかな?


ご飯は何にしようか?
もういらない?そう。じゃ、寝てしまおう。


わたしも味見はしたからそこまでおなかがすいてはいない。

手をつないで寝室に。
すぐにでも月が沈むだろうな。

それでも、1時間ほどは眠れるか。


「愛しい人。」
「ん?なーに?マティス。」
「あなたを忘れていた。」
「んー、そうなの?ヤロー共のお風呂はそんなに楽しかった?」
「違う!忘れていたんだ!あなたの存在がなかった!
ジャグジーも簡単に着れる服も、酒が出る管も、トランポリンも!
みんなあなたが作ったものなのに!
セサミナが作ったものだと思った!
当のセサミナは私が作ったものだという口ぶりだった!
そこでおかしいと考えねばならないのに!何も思わなかった!!
皆も腹がすいているはずなのに、飯のことは何も言わない!
ワイプもだ!
ただ、風呂に入って、過ごしていた!時間が経つのを待っていた!!
どうして!!」
「んー。今は?」
「今?いつもと同じだ。愛しい人がいる。愛しい人がここにいる。
だが、さっきはいなかった!それで平気だったんだ!!」
「んー。さっきね。王様が来てたの。
お酒を分けてほしいって。」
「!!!」
「でね、2人で話したかったみたい。そういう風に王様が望んだんだね。」
「ダメだ!!どうして!」
「妖精の世話役が王様なんだって。で、やっぱりお酒がいるみたい。」
「違う!どうして2人で話した!!」
「わたしだけに用事があったからね。マティスが心配することはないよ。
でも反動がひどいよね。次からは一緒にいてね。
あれは、笑い上戸だ。青いアヒルを見せれば笑い死にするね。」
「笑い!王が笑ったのか?え?」
「笑う、笑う。禿げネタは大うけだったよ?」
「何の話をしたんだ!!」
「鼻毛の話?」
「!!!!!」
「くふふふふふ。あのね、最初はね、ちゃんと言葉も丁寧にしてたんよ?」
「話して、最初から。」
「うん。」



「100万だよ?マティスが理解できないのならいらないやっておもったけど、
大丈夫そうならもらえばよかったね。いや、でもなー、いらないよね。」
「いらない。」
「うん、マティスもそういうと思った。でもさ、ただって言うのもあれだから、
10リングっていったの。そんなもんでしょ?」
「そうか?」
「うん。でも持ってないって!それぐらい持っとけよっておもったけど、
仕方ないよね。ポケットからじゃりじゃり出されても嫌でしょ?」
「いやだな、なんとなく。」
「嫌だよ。きっと糸くずとかついてるんだよ?
いやだよ。で、今持ってるもので交換しようっ思ったのね。
でもさ、持ってるもんって服しかないからさ。」
「服?王の服?そ、それを取ったのか?」
「まさか!趣味悪くない?あれ。言わなかったけど。」
「・・・。それで?」
「うん。でね。なんか、面白話教えてって。
王様あるあるでもいいよって。」
「あるある?すまない、わからない。」
「んー、王様ならでは当たり前的なそんな話?共感話?
あるよねーっていうの。」
「ああ!それがあるある話?」
「そそ。で、マティスと同じように分からんっていうから、
価値のあるお話をしてくださいって。」
「価値?」
「例えばさ、こうすれば痩せるとかさ、
こうすれば色鮮やかに野菜を茹でれるとかさ。」
「・・・。王がそれを知っている方が嫌だな。」
「でも笑えるよ?」
「・・・笑うな。」
「で、結局名をつける権利をもらったのよ。」
「名前!王に名前を?」
「うん。でね。」
「待って!言ってはいけない!」
「へ?」
「それは、真名だ。」
「違うよ?あだ名だよ?しかも名前をつけてっていう意味の言葉、
それを聞くのは3回目なんだ。
クーちゃんとビャクも言ったんだ。たぶん、鉄板ギャグなんだよ。」
「鉄板?確実という意味だったな?ギャグ?」
「うん、コクもそういってた。名前を付けてくださいって意味だって。
ああ、コクがね。あの香木は身に付けてろって。
飾りできた?」
「ああ、できている。
銀の筒の蓋に付けた。中に砂漠石が入る筒だ。
イスナに聞けば、そのままの形で使うそうだから。」
「かっこいいね!ありがとう!」
「ああ。それで?付けたのか?あだ名を。」
「うん。笑い上戸だからね、」
「待って!今はいい。言わなくてもいい。
あなたがつけた名前だ。あなただけが知っていればいい。」
「でも、クーや、ビャクはそう呼んでいるし、コクも改めて付けたし、
みんなで使えばいいんじゃないの?」
「・・・・すまない。クーや、ビャク、コクもか?
それらはいい。だが、王の名前、あだ名でも、怖い。」
「そうか。それはあるかもね。それに呼ぶこともないだろうしね。
また来るなんて言ってたから塩まいてやったよ!」
「また?塩?」
「そ。塩は厄除けなんだよ。」
「塩がか?」
「うん。嫌な客が来たら二度と来るなってことで塩をまくの。
逆にお客さんが来てほしい時は盛り塩とかするんよ。塩は万能なのよ。」
「そうか。二度と来るなとあなたが言ったんだ。来ないだろ。」
「たぶんね。あの無理矢理っていうのはないだろうね。
今度があってもその時はマティスも一緒だから。心配しないで。」
「ああ、一緒だ。
・・・それで、その名前を付けてくださいっていうのは?
なんという言葉だ?」
「もう覚えたよ。
クリーテ・カネリトリア・トメリタロ
っていうの。」
「私にもつけて。名前を。」
「ん?マティスなのに?」
「コクもコクなのにもう一度付けたのだろう?
それと同じだ。あなたにつけてもらいたい。同じ名前であっても。」
「そう?じゃ、言って?」
「クリーテ・カネリトリア・トメリタロ。」
「あなたの名前はマティスだ。
マティスであり、マティであり、ティスだ。
お兄ちゃんでもあるしタローでも、セバスでもある。
全てがわたしの愛しい人。わたしの愛する人の名前。
わたしのマティス。
あなたはわたしとつとめを果たす人。
ああ、マティス。わたしも。
クリーテ・カネリトリア・トメリタロ。」
「あなたは私の愛しい人だ。
名はなくても私の愛する人。
モウでもあり、サブローでもあり、チビでも、マリーでもある。
私が呼ぶ名は愛しい人。それがあなたの名前だ。
私の愛しい人。私だけが呼べる名前。
常にあなたの心に。常にあなたの傍に。」
「うふふふ。照れるね。」
「しかし、安心した。名前を呼んで?」
「うん。マティス。わたしも呼んで?」
「愛しい人が名前になった。愛しい人。愛してる。」
「わたしもだよ。マティス。愛してる。」




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