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496:仁王立ち
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「!!!!!!!!!うーーーーーーーーーー!!!!」
「どうかな?これね、作れるのはわたしだけなの。
頑張ってくれたらもっと特別なものねみんなで食べよう。
でもね、ものすごくいい条件を言って来るかもしれない。
その時は考えて?で、その物を目の前に見てから。
口約束はダメだよ?ね?
自分で考えたのならいいからね。
そうだね、わたしなら、ものすごくいい条件ならそっちを選ぶね。
だって、それを提示できなかったわたしがへたを売ったってことだから。
そこは気にしないで?」
口を押え、うん、うん、と頷き、
コットワッツのコンテナの上に登って、仁王立ちをしてくれた。
「無理はしないでね!暴力に出られたら、呼んで!ソヤ!
我が声に応えろ!いでよ!モウ!
ってね。」
「呼ばれる方だな?マティスでもいいぞ!ソヤ。」
「わ、わかった!!」
「初めてのチョコレート!!ああ、わかりますね、あの気持ち。」
どこかに行っていたドーガーもうん、うんと頷いている。
怖いな、チョコレート。
コンテナは実際には重くて持ちあがれないし、開きもしない。
無理に開けようとするとくっつく仕様。
泥棒ホイホイだ。
しかし、お醤油が手に入ったのは素晴らしい。
同じものができたということは際限もなくできるということだ。
ソヤがつくるソース。まさしくソイソース!
トウモロコシの醤油焼が売れるよ!
みたらし団子も作ろう。これ、あったかスイーツ。
それから醤油ラーメンも!!
すき焼きも広めちゃうよ?
焼鳥も焼肉にも!!!
お醤油万歳!
─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘
「おい!」
「なんだよ?」
俺はソヤ。
マトグラーサとイリアスの国境沿いの村。
何もない平原で主に豆を育てている。
近くにある湖は小さい海で、塩の岩が簡単に手に入る。
それを売るか、豆を売るか、
大人は皆、マトグラーサの中心サーマーサか、
王都まで出稼ぎに行く。
子供は背丈が大人ぐらいになればみんな独立。
自分で畑を開拓して食べていく。
俺の親は出稼ぎに行ったまま戻らず。
別に珍しくもない。周りはほとんど同じようなものだ。
この村の唯一いいところは、なぜかサーマーサの話や、
王都での話が聞こえてくる。大半はろくでもない話だ。
砂漠で働けば大金持ちだとか、塩の岩が出るとか、
糞を盗む奴がいるとか、リンゴの根っこは食えるとか、
ニバーセルの端の砂漠で砂が舞い上がったという話も聞いた。
嘘かほんとかわからないそんな話だ。
爺どもが言うには、、
イリアスに向かう途中に零れ落ちた話だろうと。
ここはイリアスの向かう道も通っているからだ。
そんな嘘かほんとかわからない話にみんなつられて村を出ていく。
戻ってくるのは半分だ。
そして口をそろえて言う。
外に出るもんじゃないって。
しかし、戻って来ていない奴もいる。
死んだか金持になったかだ。
俺だって、金持になったら戻ってこない。
今はまだ早い。準備はしている。
薄暗い、噂話ばかりする戻り組の大人たち。
出ていく人をあざ笑う人たち。
だから金持になっても、成功しても戻ってこないんだよ!
からだが大人になって3年目。
発酵させたものを王都で売ることが出来るらしいと話が出た。
往復で10日ほどか?
蓄えはある。今の時期は畑は育つのを待つばかりだ。
いっちょ行ってみるか?
どうせなら大きな樽で持っていこう。
発酵じゃないのか?酒?
王都に付けば、これは違うと言われた。
酒を求めているそうだ。
なんだよそれ!
しかし、これで帰るわけにもいかないから、
誰かに売りつけよう。
しかし、なんで、こんなに黒くなって、ビシャビシャなんだ?
ちょっと水が出てるから、酒と言えば酒と思うかな?
「からい!!」
「オエ!!」
「どうしてくれるんだ!!!」
味見をした男たちが次々文句を言う。
仕方がない。俺だっていうよ。
眼をつぶって鼻をヒクヒクさせた女がやって来た。
口元を布で覆っている。どこの部族だ?
後ろにはちょっと近寄りがたい男どもを引き連れていた。
俺を子供扱いせずに丁寧に聞いていく。
後ろの男が女に保存食だと教えていた。
女はそれでもニコニコと味見をさせろという。
男が目で言うとおりにと圧をかける。こえーな。
呑んだらまた怒鳴るのだろうか?
舐めるだけにしとけと注意はしておこう。
小指に付けたのか、それを舐めていた。
「ビンゴ!!!」
女がものすごく大きな雄たけびを上げた。
全部買うというし、
年齢を聞かれ10だと答えると、
親はどこだというし。
「うん、そうだよ?どうしたのこのねーちゃん?」
ご祝儀で5リング!!すごい!
荷車なんて帰りには邪魔になるだけだ。
金をもらうとマトグラーサの人間に盗られないように、
とっとと村に帰ることにした。
これで、欲しかった本が買える。
出るときは皆が笑っていたが、どうだ!
2リングって言ってもそれはないなって自分でも思ったのに!
5銀貨は欲しいなって。それの10倍だ!
村の連中には内緒だ。ダメだったって言っておこう。
笑い者になっても構わない。
しまった!あのねーちゃんたちはどこの人だったんだろう?
あのねーちゃんがえらいんじゃいよな?
その後ろの人間がえらい奴だ。
買うのはコットワッツの連中だけだといっていたか?
次の会合にも来るのかな?
その時も持っていけば買ってくれるかな?
ちょっと同じように作っておこうか?
あれは絶対に気に入ったんだ。
豆はそれこそ腐らせるほどあるんだから。
「次の会合で特産品を売ってもいいって話、聞いたか?」
「いや?次っていつだよ?」
「合わさりの後だろ?」
「だったらすぐにでも出ないと間に合わないな。」
「行くだろ?」
「どうしようかな?」
「え?行かないのか?」
俺が畑を離れたら残ってる豆は盗まれる。
この前の時も豆は出来ていないのに、
苗ごと取られた。
根付くわけないのに。
今回は収穫時期だ。
黒水は出来てる。
豆の塩漬けもほとんど作った。
王都に行くということは残りの豆を捨てるってことだ。
「考えとくよ。」
ニヤニヤとその話を持て来た奴は、
ろくに働きもしない、外にもいかない。
いろんな奴に声を掛けて、どこかに連れていってる。
外の仕事を紹介しているらしい。
誰も戻ってこないから、死んでるか、成功しているかだ。
俺はみんな死んでいると思っている。
1日考えて王都に行くことにした。
残った豆はそんなに大きくは育っていない。
畑の栄養分もそろそろなくなっている。
大幅に改良しないといけない。どちらにしろ金が要るんだ。
ダメならそのままどこかほかの領地に行ってみるのもいい。
あのコットワッツはいま仕事が豊富に仕事があるらしい。
ねーちゃんを見つけて頼んでもいいな。
いなけりゃ、それでもいい。
出発の準備をしなきゃ。
前回同様、サーマーサで王都に出発する一行に付いていく。
付いてくなら働けと言われた。
それぐらい簡単なことだ。
飯の支度も率先してする。少しずつちょろまかしてもわからないからな。
俺の荷車を見て、俺を指さして皆が笑う。
自分の荷を引いているのは俺だけだ。
もっと人が集まっていると思ったのに。
「ダメだ!ここはマトグラーサの銃関連製品を展示販売する場所だ。
領国公認の品だけだ?」
「あ?そんなこと道中でも言ってなかっただろ!」
「知らんよ。勝手についてきて、勝手に手伝ってたんだろ?
道中野盗に襲われなかたんだ、
こっちは金を請求してもいいくらいなんだぞ?ははははは!!」
くっそ!また話が違うじゃないか!
・・・ああ、俺が悪い。ほかの人に確かめなかった。
あいつだけの話を聞いて判断したんだ。ちくしょう!!
村に帰ってもきっと畑の豆は取られて、家もなくなってるかもしれない。
どうする?
「おい、あれが赤い塊か?」
「護衛の女だろう?男か?」
「服装は男と揃いだが、見ろよ、胸とケツを見れば女だ、いい女!」
「男が剣のマティスか?ほんとか?強いって感じは全くしないぞ?」
「そんなの何十年も前の話だ。前の武の大会も途中で棄権したらしい。」
「なんだ。昔の話なんだな。」
荷車を引きながら場所を探しているとそんな声が聞こえた。
どこ?あ!!
「ねーちゃん!」
見つけた!今度は口を隠してないが目を隠している。
ほんとにどこの部族なんだ?
目元は隠しているが笑っているのがよくわかる。
「おお!お久!元気?今回も会合に?」
「うん、手伝いだよ。今回は特産品を売れるんだろ?」
「うーん。マトグラーサはあれだね。
どうも連絡の伝達がうまくいかないようだね。」
「へ?」
「うん、へだよ。セサミナ様!」
セサミナ。
コットワッツの領主だ。
剣のマティスの弟。つまり剣のマティスは領主の兄。
それぐらいは知ってるさ。
で、このねーちゃんは剣のマティスの奥さん。
こっちに来る間に散々聞いた。
コットワッツの景気のいい話。
それ以上に妬みの話。
なんで素直にすごいって思わないんだろう?
ねーちゃんは自分のことをおばちゃんって呼ぶ。
で、俺のことを少年と呼んだ。
名前を名乗るのはよっぽどだ。
そう呼ばれたいと思ったんだ。
ねーちゃんの声で名を呼ばれる。
なんだかうれしい。
黒い水も作ったというと、すぐに、全部買うと言ってくれた。
やったよ!!
前回より半分ぐらいだ。2?3は行くか?
横のセサミナと話をしている。
主なんだな。後ろの男、旦那が廻りの気配を探ってる。
俺はそういうのが分かるんだ。
弟と嫁さんに害がないが探ってる。
なにが何十年も前の話だ。
横の男になにか指示を出してるな。声も出さずに。
「へー、ねーちゃんの雇主?そっちは?」
「この人はわたしの夫ですよ。」
「ああ、だとおもったよ。」
「少年!これをやろう。」
懐から?だと思うんだが、そこから小さな袋を出してきた。
甘い匂いがする。
え?これが代金?それは困る。
またしても5リング!
しかも、見張りをするだけでさらに5リング!
で、合計10リング!!すげえ!!
しかも、男がくれたものがうまい。甘いんだ。うわー。
え?10リング?20リング?
断るの?
え?
これより?
俺は自分で言うのもなんだが、この年で一人で生活しているせいか、
余り食い物には興味はない。
満たされればいい。
甘いものは好きだが。
男がくれたものは甘かった。
口の中でホロホロと溶けて、乳の味がする。
今度は20リングの誘いがあっても、
断れと、その代わりのおいしいものだというものを
口に入れられた。
え?それなに?
「!!!!!!!!!うーーーーーーーーーー!!!!」
ヌっと口の中で解ける。
噛んでみると甘さ?甘さではない甘さが広がる。
うまい?甘い?わからないけど、うまい!!
ねーちゃんだけが作れるらしい。
これ以上の条件が出されたら仕方がないが、頑張って見張りをしてくれという。
もちろんだ。任せてくれ。
ああ、溶けてなくなる。
唾までもうまい。
いい条件が出たら、目の前に見てから考えろと。
そうだ、口約束はダメだ。
考えるんだ。
暴力を振るわれたら呼べと。
我が声に応えろ!いでよ!モウ!マティス!
剣のマティスを呼び捨てで呼ぶのか!
赤い塊のモウも!
いいな!かっこいい!!
2人が名前で呼んでくれたのもうれしい。
我が名はソヤ!
我が声に応えろ!いでよ!モウ!マティス!
駆けつけてくれるのかな?
怖いけど、そうなったら遠慮なく呼んでしまおう。
─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘
(ドーガー、悪いがマトグラーサの荷を運んできた者たちを見てきてくれ)
(注意点は?)
(こいつをタダで使うために同行したのか、これすらも仕込んでいるのか)
(わかりました)
お醤油を作った少年が声を掛けてきた。
前回は口元を、今回は目元を隠しているのだが、
彼女だとわかるらしい。
当然だな。
私は彼女の夫だとわかるのだな。
よし、よし。クッキーをやろう。
またお醤油を作り、うまく彼女がいれば売れると踏んだようだ。
彼女は大喜び。
セサミナもこちらに囲い込もうとしている。
マトグラーサの一団と一緒に来たようだが、信用できるか?
彼からは悪意は感じないが、知らずに利用されているのかもしれん。
ドーガーに探りに行かせた。
チョコを口入れれば、ツイミ兄弟や、ドーガーのよう反応だ。
いや、それ以上か。
箱をよじ登り、見張りの気をまき散らしている。
ほう!気を操るか。無意識だ。これはいい。
ガイライとニックが喜びそうだ。
(どうだった?)
(いいようにこき使われたようですね。
帰りもうまく言い含めて雑用を押し付けようとしています)
(間抜けだな。セサミナは連れて帰るつもりだ)
(お醤油のためですか?)
(それもあるが、気を使えるようだ。わかるか?)
(え?マティス様のじゃないんですか?)
(私はなにもしていない。近寄りがたいだろ?)
(ええ)
(無意識というのがいいな。ドーガー?鍛錬しろよ?)
(うー、精進します)
彼女が心から楽しんでいる。
遠慮して少しずつしか使えなかったからな。
私も楽しみだ。
「どうかな?これね、作れるのはわたしだけなの。
頑張ってくれたらもっと特別なものねみんなで食べよう。
でもね、ものすごくいい条件を言って来るかもしれない。
その時は考えて?で、その物を目の前に見てから。
口約束はダメだよ?ね?
自分で考えたのならいいからね。
そうだね、わたしなら、ものすごくいい条件ならそっちを選ぶね。
だって、それを提示できなかったわたしがへたを売ったってことだから。
そこは気にしないで?」
口を押え、うん、うん、と頷き、
コットワッツのコンテナの上に登って、仁王立ちをしてくれた。
「無理はしないでね!暴力に出られたら、呼んで!ソヤ!
我が声に応えろ!いでよ!モウ!
ってね。」
「呼ばれる方だな?マティスでもいいぞ!ソヤ。」
「わ、わかった!!」
「初めてのチョコレート!!ああ、わかりますね、あの気持ち。」
どこかに行っていたドーガーもうん、うんと頷いている。
怖いな、チョコレート。
コンテナは実際には重くて持ちあがれないし、開きもしない。
無理に開けようとするとくっつく仕様。
泥棒ホイホイだ。
しかし、お醤油が手に入ったのは素晴らしい。
同じものができたということは際限もなくできるということだ。
ソヤがつくるソース。まさしくソイソース!
トウモロコシの醤油焼が売れるよ!
みたらし団子も作ろう。これ、あったかスイーツ。
それから醤油ラーメンも!!
すき焼きも広めちゃうよ?
焼鳥も焼肉にも!!!
お醤油万歳!
─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘
「おい!」
「なんだよ?」
俺はソヤ。
マトグラーサとイリアスの国境沿いの村。
何もない平原で主に豆を育てている。
近くにある湖は小さい海で、塩の岩が簡単に手に入る。
それを売るか、豆を売るか、
大人は皆、マトグラーサの中心サーマーサか、
王都まで出稼ぎに行く。
子供は背丈が大人ぐらいになればみんな独立。
自分で畑を開拓して食べていく。
俺の親は出稼ぎに行ったまま戻らず。
別に珍しくもない。周りはほとんど同じようなものだ。
この村の唯一いいところは、なぜかサーマーサの話や、
王都での話が聞こえてくる。大半はろくでもない話だ。
砂漠で働けば大金持ちだとか、塩の岩が出るとか、
糞を盗む奴がいるとか、リンゴの根っこは食えるとか、
ニバーセルの端の砂漠で砂が舞い上がったという話も聞いた。
嘘かほんとかわからないそんな話だ。
爺どもが言うには、、
イリアスに向かう途中に零れ落ちた話だろうと。
ここはイリアスの向かう道も通っているからだ。
そんな嘘かほんとかわからない話にみんなつられて村を出ていく。
戻ってくるのは半分だ。
そして口をそろえて言う。
外に出るもんじゃないって。
しかし、戻って来ていない奴もいる。
死んだか金持になったかだ。
俺だって、金持になったら戻ってこない。
今はまだ早い。準備はしている。
薄暗い、噂話ばかりする戻り組の大人たち。
出ていく人をあざ笑う人たち。
だから金持になっても、成功しても戻ってこないんだよ!
からだが大人になって3年目。
発酵させたものを王都で売ることが出来るらしいと話が出た。
往復で10日ほどか?
蓄えはある。今の時期は畑は育つのを待つばかりだ。
いっちょ行ってみるか?
どうせなら大きな樽で持っていこう。
発酵じゃないのか?酒?
王都に付けば、これは違うと言われた。
酒を求めているそうだ。
なんだよそれ!
しかし、これで帰るわけにもいかないから、
誰かに売りつけよう。
しかし、なんで、こんなに黒くなって、ビシャビシャなんだ?
ちょっと水が出てるから、酒と言えば酒と思うかな?
「からい!!」
「オエ!!」
「どうしてくれるんだ!!!」
味見をした男たちが次々文句を言う。
仕方がない。俺だっていうよ。
眼をつぶって鼻をヒクヒクさせた女がやって来た。
口元を布で覆っている。どこの部族だ?
後ろにはちょっと近寄りがたい男どもを引き連れていた。
俺を子供扱いせずに丁寧に聞いていく。
後ろの男が女に保存食だと教えていた。
女はそれでもニコニコと味見をさせろという。
男が目で言うとおりにと圧をかける。こえーな。
呑んだらまた怒鳴るのだろうか?
舐めるだけにしとけと注意はしておこう。
小指に付けたのか、それを舐めていた。
「ビンゴ!!!」
女がものすごく大きな雄たけびを上げた。
全部買うというし、
年齢を聞かれ10だと答えると、
親はどこだというし。
「うん、そうだよ?どうしたのこのねーちゃん?」
ご祝儀で5リング!!すごい!
荷車なんて帰りには邪魔になるだけだ。
金をもらうとマトグラーサの人間に盗られないように、
とっとと村に帰ることにした。
これで、欲しかった本が買える。
出るときは皆が笑っていたが、どうだ!
2リングって言ってもそれはないなって自分でも思ったのに!
5銀貨は欲しいなって。それの10倍だ!
村の連中には内緒だ。ダメだったって言っておこう。
笑い者になっても構わない。
しまった!あのねーちゃんたちはどこの人だったんだろう?
あのねーちゃんがえらいんじゃいよな?
その後ろの人間がえらい奴だ。
買うのはコットワッツの連中だけだといっていたか?
次の会合にも来るのかな?
その時も持っていけば買ってくれるかな?
ちょっと同じように作っておこうか?
あれは絶対に気に入ったんだ。
豆はそれこそ腐らせるほどあるんだから。
「次の会合で特産品を売ってもいいって話、聞いたか?」
「いや?次っていつだよ?」
「合わさりの後だろ?」
「だったらすぐにでも出ないと間に合わないな。」
「行くだろ?」
「どうしようかな?」
「え?行かないのか?」
俺が畑を離れたら残ってる豆は盗まれる。
この前の時も豆は出来ていないのに、
苗ごと取られた。
根付くわけないのに。
今回は収穫時期だ。
黒水は出来てる。
豆の塩漬けもほとんど作った。
王都に行くということは残りの豆を捨てるってことだ。
「考えとくよ。」
ニヤニヤとその話を持て来た奴は、
ろくに働きもしない、外にもいかない。
いろんな奴に声を掛けて、どこかに連れていってる。
外の仕事を紹介しているらしい。
誰も戻ってこないから、死んでるか、成功しているかだ。
俺はみんな死んでいると思っている。
1日考えて王都に行くことにした。
残った豆はそんなに大きくは育っていない。
畑の栄養分もそろそろなくなっている。
大幅に改良しないといけない。どちらにしろ金が要るんだ。
ダメならそのままどこかほかの領地に行ってみるのもいい。
あのコットワッツはいま仕事が豊富に仕事があるらしい。
ねーちゃんを見つけて頼んでもいいな。
いなけりゃ、それでもいい。
出発の準備をしなきゃ。
前回同様、サーマーサで王都に出発する一行に付いていく。
付いてくなら働けと言われた。
それぐらい簡単なことだ。
飯の支度も率先してする。少しずつちょろまかしてもわからないからな。
俺の荷車を見て、俺を指さして皆が笑う。
自分の荷を引いているのは俺だけだ。
もっと人が集まっていると思ったのに。
「ダメだ!ここはマトグラーサの銃関連製品を展示販売する場所だ。
領国公認の品だけだ?」
「あ?そんなこと道中でも言ってなかっただろ!」
「知らんよ。勝手についてきて、勝手に手伝ってたんだろ?
道中野盗に襲われなかたんだ、
こっちは金を請求してもいいくらいなんだぞ?ははははは!!」
くっそ!また話が違うじゃないか!
・・・ああ、俺が悪い。ほかの人に確かめなかった。
あいつだけの話を聞いて判断したんだ。ちくしょう!!
村に帰ってもきっと畑の豆は取られて、家もなくなってるかもしれない。
どうする?
「おい、あれが赤い塊か?」
「護衛の女だろう?男か?」
「服装は男と揃いだが、見ろよ、胸とケツを見れば女だ、いい女!」
「男が剣のマティスか?ほんとか?強いって感じは全くしないぞ?」
「そんなの何十年も前の話だ。前の武の大会も途中で棄権したらしい。」
「なんだ。昔の話なんだな。」
荷車を引きながら場所を探しているとそんな声が聞こえた。
どこ?あ!!
「ねーちゃん!」
見つけた!今度は口を隠してないが目を隠している。
ほんとにどこの部族なんだ?
目元は隠しているが笑っているのがよくわかる。
「おお!お久!元気?今回も会合に?」
「うん、手伝いだよ。今回は特産品を売れるんだろ?」
「うーん。マトグラーサはあれだね。
どうも連絡の伝達がうまくいかないようだね。」
「へ?」
「うん、へだよ。セサミナ様!」
セサミナ。
コットワッツの領主だ。
剣のマティスの弟。つまり剣のマティスは領主の兄。
それぐらいは知ってるさ。
で、このねーちゃんは剣のマティスの奥さん。
こっちに来る間に散々聞いた。
コットワッツの景気のいい話。
それ以上に妬みの話。
なんで素直にすごいって思わないんだろう?
ねーちゃんは自分のことをおばちゃんって呼ぶ。
で、俺のことを少年と呼んだ。
名前を名乗るのはよっぽどだ。
そう呼ばれたいと思ったんだ。
ねーちゃんの声で名を呼ばれる。
なんだかうれしい。
黒い水も作ったというと、すぐに、全部買うと言ってくれた。
やったよ!!
前回より半分ぐらいだ。2?3は行くか?
横のセサミナと話をしている。
主なんだな。後ろの男、旦那が廻りの気配を探ってる。
俺はそういうのが分かるんだ。
弟と嫁さんに害がないが探ってる。
なにが何十年も前の話だ。
横の男になにか指示を出してるな。声も出さずに。
「へー、ねーちゃんの雇主?そっちは?」
「この人はわたしの夫ですよ。」
「ああ、だとおもったよ。」
「少年!これをやろう。」
懐から?だと思うんだが、そこから小さな袋を出してきた。
甘い匂いがする。
え?これが代金?それは困る。
またしても5リング!
しかも、見張りをするだけでさらに5リング!
で、合計10リング!!すげえ!!
しかも、男がくれたものがうまい。甘いんだ。うわー。
え?10リング?20リング?
断るの?
え?
これより?
俺は自分で言うのもなんだが、この年で一人で生活しているせいか、
余り食い物には興味はない。
満たされればいい。
甘いものは好きだが。
男がくれたものは甘かった。
口の中でホロホロと溶けて、乳の味がする。
今度は20リングの誘いがあっても、
断れと、その代わりのおいしいものだというものを
口に入れられた。
え?それなに?
「!!!!!!!!!うーーーーーーーーーー!!!!」
ヌっと口の中で解ける。
噛んでみると甘さ?甘さではない甘さが広がる。
うまい?甘い?わからないけど、うまい!!
ねーちゃんだけが作れるらしい。
これ以上の条件が出されたら仕方がないが、頑張って見張りをしてくれという。
もちろんだ。任せてくれ。
ああ、溶けてなくなる。
唾までもうまい。
いい条件が出たら、目の前に見てから考えろと。
そうだ、口約束はダメだ。
考えるんだ。
暴力を振るわれたら呼べと。
我が声に応えろ!いでよ!モウ!マティス!
剣のマティスを呼び捨てで呼ぶのか!
赤い塊のモウも!
いいな!かっこいい!!
2人が名前で呼んでくれたのもうれしい。
我が名はソヤ!
我が声に応えろ!いでよ!モウ!マティス!
駆けつけてくれるのかな?
怖いけど、そうなったら遠慮なく呼んでしまおう。
─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘
(ドーガー、悪いがマトグラーサの荷を運んできた者たちを見てきてくれ)
(注意点は?)
(こいつをタダで使うために同行したのか、これすらも仕込んでいるのか)
(わかりました)
お醤油を作った少年が声を掛けてきた。
前回は口元を、今回は目元を隠しているのだが、
彼女だとわかるらしい。
当然だな。
私は彼女の夫だとわかるのだな。
よし、よし。クッキーをやろう。
またお醤油を作り、うまく彼女がいれば売れると踏んだようだ。
彼女は大喜び。
セサミナもこちらに囲い込もうとしている。
マトグラーサの一団と一緒に来たようだが、信用できるか?
彼からは悪意は感じないが、知らずに利用されているのかもしれん。
ドーガーに探りに行かせた。
チョコを口入れれば、ツイミ兄弟や、ドーガーのよう反応だ。
いや、それ以上か。
箱をよじ登り、見張りの気をまき散らしている。
ほう!気を操るか。無意識だ。これはいい。
ガイライとニックが喜びそうだ。
(どうだった?)
(いいようにこき使われたようですね。
帰りもうまく言い含めて雑用を押し付けようとしています)
(間抜けだな。セサミナは連れて帰るつもりだ)
(お醤油のためですか?)
(それもあるが、気を使えるようだ。わかるか?)
(え?マティス様のじゃないんですか?)
(私はなにもしていない。近寄りがたいだろ?)
(ええ)
(無意識というのがいいな。ドーガー?鍛錬しろよ?)
(うー、精進します)
彼女が心から楽しんでいる。
遠慮して少しずつしか使えなかったからな。
私も楽しみだ。
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魔界建築家 井原 ”はじまお外伝”
どたぬき
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ある日乗っていた飛行機が事故にあり、死んだはずの井原は名もない世界に神によって召喚された。現代を生きていた井原は、そこで神に”ダンジョンマスター”になって欲しいと懇願された。自身も建物を建てたい思いもあり、二つ返事で頷いた…。そんなダンジョンマスターの”はじまお”本編とは全くテイストの違う”普通のダンジョンマスター物”です。タグは書いていくうちに足していきます。
なろうさんに、これの本編である”はじまりのまおう”があります。そちらも一緒にご覧ください。こちらもあちらも、一日一話を目標に書いています。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
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ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
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剣も魔法も使えないユウにできるのは、
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やさしい異世界孤児院ファンタジー。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
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アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
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そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
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机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
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水無月宗八は意識を取り戻した。
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