いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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443:森

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清々しい朝です。

1名以外は。

「ドーガー?今から緊張してどうするの?」
「そ、そうなんですが。」
「先に、商品の納品?」
「ええ、そうです。金額も決まってますから、
確認していただいて、もらうだけです。」
「その後は?」
「それが終われば、わたしの仕事はおわりです。
あ、街を案内する約束ですよね?」
「いや、いいよ。ペリフロとはどこで合流するの?」
「え?ああ、城内に住んでいると聞いているので、
呼んでもらおうかと。」
「一応、わたしたちの身バレはしてるよ?
家具の引き取りに来たということになるけど、きっと歓待してくれるよ?
ドーガーもね。その時にあの2人もきっといる。
わたしがお気に入りだということを向こうは知ってるから。
それが終わってから?」
「ああ、そうか、そうなりますね。
それは一種の仕事ですから。それが終わって。」
「それが終わるのは遅くなる。親御さんを待たすの?」
「ああ、そうか。あ!明日休んでもらうというのは?」
「だから、そんな急に休めないでしょ?
だから、前もって知らせておかないといけないんだよ。
親御さんが長期で不在だったらどうする?」
「ああ、どうしよう。」
「ドーガー?イスナ殿に相談しろ。何もかも正直に話てな。
あの御仁ならきっとうまく取り計らってくれる。」
「マティス様!はい!そうします!」
「マティスは優しいね。」
「はやく話が済んだ方が椅子の具合を確かめられるからな。」
「ああ。」


樹の国と言われるだけのことはある。
針葉樹とも広葉樹ともわからない巨木が見えてくる。
これが境のようだ。
良く見ると、境界石が根の凸凹に沿うように並んでいる。
左手にはさらに鬱蒼とした森。
これが管理をまかされている森。
国境の森。
香木がある、その森。

「厳重だな。」
「コットワッツよりも長く領主の血が続くそうですよ。
元々、独立国です。それがニバーセルに吸収された形ですね。」
「そうなのか?」
「ははは!マティスは歴史はダメだな。
たぶん剣の稽古で勉強していない。」
「まさしくな。ドーガー?お前は?」
「お傍付きとなる為にはそこらへんは押さえて置かないといけませんから。
といっても一般的なことだけですよ?
特に、ボルタオネは情報管理が徹底しています。
香木の関係だとセサミナ様はおっしゃっていました。」
「ルポイドは香木で有名だ。
でも、ここは?領主関係、王族関係しかしらないよね?」
「そこまで秘密というわけでもないですよ。
その加減がうまいんだと思います。なにもかも隠せば、
暴こうとする者もいますが、ある程度知っていれば、それ以上は。」
「なるほどね。向こうもマティスの顔は知らなくても
砂漠の民になった。そうなったと聞いたと言ってたね。
情報を集めるのもうまいようだ。
こちらから連絡しなくても、
ドーガーが嫁取りに来たのは知ってるのかもしれないね。」
「ドーガー?お前の相手だろう。
あの2人はいいとこのお嬢さんなんだろうな?
お前にだけ殺気が向けられる。
テンたちと向こうで待っていよう。」
「朝ごはんにしよう!」
「行ってまいります。」
「殺すな?あとが面倒だぞ?」
「はい!」

ドーガーが荷馬車から飛び出す。

不審者が現れた!

そんなテロップが出そうだ。

わたしたちは少し外れたところにある空き地に待機することにした。
テンたちには今日はカンランだ。

「なにがいいい?」
「クレープにしよう。おかずクレープ。」
「?」
「薄ーいホットケーキ?小麦焼き!
マティスが作ってくれたの、小麦と水だけでしょ?
それに乳と卵と砂糖ね、で、ちょっとの塩。
それにハムとか、チーズとまいて食べよう。
フライパン君と赤石君がいれば大丈夫!
わたし作るよ!」


浅いフライパンを作り、油、ごま油をなじます。
タネは砂糖は少な目。
最初は失敗したが、後は大丈夫。

「生クリームとか、果物とかアイスを入れると
デザート、甘味になるよ?
でも、朝ごはんだからね。好きな具材を好きなように巻こう。」

30枚ほど。
生ハム、チーズ、鳥の照り焼き、ローストビーフ、サボテンの千切り。
マヨもお好みで。茹でたエビもある。シーチキンとポテトサラダも。
焼いている間にマティスが用意してくれている。
豪華だ!
今度手巻きずしをしてもいいな!!海苔をもっと作らねば!

「これはいいな。」
「ちょっと甘い?お菓子っぽいけどね。
マティスの小麦焼きも好きなんだ。もうちょっと分厚いしね。
食べ応えがあるから。」
「これもいいぞ?」
「そう?甘いのもまた作るね。」
「ああ。楽しみだ。」




「終わりました!!」
「お疲れさま~。どうでしたか手ごたえは?」
「恨まれているというのがヒシヒシと。」
「おお!それは面白いね。
でも、誰の差し金かってことだね。
もしかしたら、ペリフロの2人かもよ?」
「ど、どうして!」
「わたしたちを嫁にするのなら、
これから差し向ける猛者をすべてお倒しなさい!
弱い男なぞ、生きる価値なぞない!みたいな?」
「!!!ならば!ならば、すべてを倒すまで!!」
「あははは!そりゃそうだ。うん、がんばれー。さ、たべよ。
すきなもの巻いて食べてね。」

一人10枚。あっという間です。
照り焼きとチーズ、サボテンがおいしかった。


朝なのにお昼寝会場。
6人か。
誰の手かな?

境界沿いにそびえたつ木々の中に入ると、
ガラッと雰囲気が変わる。明るいのだ。

さらに進むと門があった。
閉まってますがな。

馬から降りて声をあげる。

「コットワッツ領、ドーガーと申す!
イスナ殿に取次ぎ願いたい。
商品の納品と、並びに、
個人的なことで数日滞在させていただきたい。」

一つの領国、半分以上の森。
この街が領主が住む街。
コットワッツの言うところのティータイだ。
厳重ですね。

門の前で一通りのことを宣言する。
わたしたちもだ。

「砂漠の民、ティス。
ドーガー殿の従者だ。」
「同じく砂漠の民、モウ。
ドーガー殿の従者です。」


それにほかの人たちはいない。
行商とか街の人たちの出入りは?
いきなり館?街はこの後ろ?
他に道があるのか?
誘導されたか?


厳かに門が開く。
ん?檜の香となに?

マティスが指示を出す。

(2人とも膜を!)
(はい)
(テンたちは?)
(茶葉を)

「テンたち。お茶葉。飲み込まないで。
できるだけゆっくり口に入れていて。
ここに入れておくから。すこしずつね。」

鞍の隙間に茶葉を差し込む。
厩に着いたら膜を張ろう。



「ようこそ!ボルタオネへ!
ご案内します。」

リーン

(セサミナ?)
(兄さん!イスナ殿からの返事がおかしい!)
(どういうこと!)
(姉さん!あの後すぐにトリヘビを出しました。
昨日の月が昇る頃には届いています。返事は先ほど。
この間隔はおかしくはないのですが、
お互いが最後に秘密の言葉を入れます。
そういう取り決めになってました。それがない。文字はイスナ殿の物です)
(今、迎えに立ってる男、イスナ殿によく似てる。だれだ?)
(少し太り気味だったら、弟にあたるマーロ殿です、ドーガーは?)
(セサミナ様?あれは違います。かなり痩せている)
(他に兄弟は?)
(いないはずです)
(ドーガー聞け)


「お久しぶりでございます。以前ご挨拶をさせてもらったと記憶しております。
マーロ様?」
「ああ、違いますよ。よく似ていると言われますが、
わたしは、カーチと申します。
マーロの兄、イスナのすぐ下の弟です。」
「そうでしたか。失礼いたしました。
そのかなり御痩せになったなとは思ったのですが。」
「あはははは!マーロは良く食べますからね。
いま、遠方に出ています。なので、わたしが案内を。
イスナが待っておりますよ。」
「ありがとうございます。
それで、先にこの赤馬たちを預けたいのですが。」
「ああ、こちらにお任せください。」

(テン!暴れて!)

ヒヒーーーン!!


「ちょっと昨日から機嫌が悪くて。なので、わたしが。
いえ、静かなところに行けば落ち着くかと。
ここに来る途中もちょっと無理をしまして。」
「そうですか。
我が国の黒馬もすぐに暴れるんですよ。
では、こちらに。」


カーチと名乗ったイスナさんの弟は、他の者を呼び、
厩に案内してくれた。
自分はいかない。

なんだか爬虫類のようだ。
ふと、そんな印象をもってしまった。
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