いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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433:別荘地

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「ああ、青か。青ね。青の刺繍ね。
丁寧だ。かなりの刺手だな、これ。?一人で刺したんだな?」

ぶつぶつ言いながら布を眺めている。

「ドロインだよな?これ?まだ生きてるんだ。」

やっぱり!女たらし伝説、トックス版なんだ。
布を仕入れる先でなじみの女がいる!!
港、港に女がいる海の男だ!!
布の産地にいるんだ。

それより見たらわかるものなの?刺繍って?

「よくわかったね!まだ生きてる?
まだまだ生きるっていうほうがぴったりだよ?」
「ああ、だろうな。若いころ世話になった。
あれだろ?別荘地で宿やってるだろ?」
「それはかなり前だよ。宿はもうやってない。
でも、尋ねていったら喜ぶとおもうよ。
やはり年なんだ。刺繍はできるがあとはなかなかね。」
「そうか。尋ねてみるよ。ああ、道は覚えている。
貴族に合わないようにな。」

結局ここでは布は買わなかった。
お店の人はこれから届けに行くという。
表通りと裏道があるそうで、届は表通りを通っていいいそうだ。

ありがとうと礼だけ言うと、
別荘地に向かう。

「トックスさん?買わなくていいの?」
「あれを見た後だとな。旦那?あの白い布に、
あの刺繍を施したらいいと思わないか?」
「!!!!トックス!!さすがだ!」
「だろ?で、あの刺手のばーさん。かなりの年だ。
まだ生きてることに驚きだよ。
早くしないと明日にでも死ぬかもしれない。急ごう。」
「え?そんな高齢な方に刺繍を依頼するの?
え?雨の日に着る奴だよね?時間あるの?」
「だから急ぐんだよ。」


・・・鬼と言われませんか?


とにかくマティスとトックスさんが、
競歩の選手のように移動していく。
なんでそんなにウキウキなの?






馬車が通れるだけの狭い道を進んでいく。
向こうから馬車が来たら、どちらかが脇道に入らないといけない。

こすれた跡がすべての壁についてあった。
脇から見える表通りはとても煌びやかで、
明るさが違うとまで思ってしまう。

ここの道が暗いのだ。


京都の町屋のように奥が広いのだろうか、
敷地に入っていくと、広い中庭に出た。

おお!なんとなくスペインぽい!!
パティオ!!

「ドロイン!生きてるって噂だが本当か?」
「トックスおじさん、死んでたら返事できんよ?」
「いや、する。死んでいてもするんだよ。」

「トックスだね?ちょっと早いよ!
あと2日で死ぬ予定だったんだよ。
なんてこった!計画は中止だ。」

どんな計画で、それは中止にできるのか?

奥から出てきたのは、
まさしく、まだまだ生きるという表現がぴったりのおばあさんだった。
コロンとした小さなおばあさん。
だけど、人類滅亡の最後までご存命のような。

「早いか?だったら2日後に来ようか?
あんたが石になってから来ることにしよう。
ティス!モウ!帰るぞ!」
「なんて愛想のない男だろう!
やって来たあんたがわたしの石を見て泣き崩れる計画だったのに!!」

ロミオとジュリエット計画?

「それは残念だな。
俺ももう少しゆっくりしてくればよかった。
それに、ここに来たのは仕入れだ。
あんたが作った青刺繍のドレスを作りに来たわけではないよ。」
「?刺繍の上がりと同時にこちらに呼ぶという話だろ?
それで来たんじゃないのかい?できたのが昨日だったから、
最初からこっちに来てたんだろ?
あんたがドレスを作るという条件で刺したんだ。」
「それはおかしな話だな。相手が言ったのか?」
「そうだよ。足腰はガタが来てるが頭と手は若い時より良く動く。
いつだ?2月ほど前だ。
ニバーセルで武の大会の後、慰労会があたんだろ?
そのときの青のドレスが評判で。そうさ、あんたが作ったと。
それ以上のドレスを着たいとさ。
ニバーセル国スダウト侯の娘と聞いた。
まわりまわって、わたしに依頼が来たんだよ。
この国から持ち出すことはできないことを承知でね。
ああ、とにかくお入り。後ろの2人は?」
「俺の甥だ。ティスとモウだ。」
「「初めまして。」」
「訳ありだね。それはいいさ。あー、足が痛い。
座っても痛い。歳だ、痩せろ、というのはここでは禁句だよ?」
「わかってる。いいな?2人とも。
自分が一番よく知ってるってことだから。」
「はー、ほんと愛想も何もないね。」

そう言いながらもトックスさんは差し出された手を取り、
中にエスコートする。
もう、流れるようなしぐさ。

「見習うべきところがあるな。」
「ね、ものすごいく自然だ。」
「・・・。」
「いや、いまはいいよ。お兄ちゃん。」
「見抜かれてるぞ?」
「だよね。」


部屋の中に入ると、
大きなテーブルと椅子があるだけ。

外からの光が入って明るいが、
木の椅子はお尻も腰も痛いだろう。
ソファーとかはないようだ。

クッション2枚と竹で簡単に組んだ足置きをだす。

「これ、お尻と足元に。」
立ち上がる時だけ気を付けてください。」
「おや?ふふふ。背がね、いつの間にか縮んだんだよ。
椅子も足が届きもしない。
なるほど、台を置けばいいんだね。あははは!ああ。楽だね。」

母さんが喜んでくれたように笑ってくれた。

「お茶も入れてもらおうか。
あんた、トックスはダメだね?あんたたちは?」
「紅茶とコーヒー持ってきています。どちらがいいですか?
コムのお茶も。おすすめは緑のお茶ですね。
米を油で揚げた菓子に合います。」
「なんて素敵なんだろう。台所を使って。
そうだね。選べないから、少しずつもらおうか。」
「わかりました。」

紅茶とコーヒー、コム茶と緑茶。
それぞれにあうお茶菓子。

カップは、いろいろだけど。
冷めないように、ティーコージーをつくろう。
真綿を使えばいいだろうか。

「あまり時間を置くと紅茶は渋みが出るぞ?」
「そうだった。んー。順番だね。
コーヒー、紅茶、コム茶、緑茶。
紅茶を入れて、蒸らしてる間に、コーヒーとラスク。
食べ終わったら、紅茶でクッキー。
一息ついたら、コム茶で、乾燥果物。
で、最後はお茶とおかき。」
「腹がそれだけで膨れるな。」
「うそん。別だよ、別腹、別腹。」

─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘

「いい子たちだね。」
「甥っ子たちだとしてくれ。あいつらのおかげでな、
今仕事が楽しくて仕方がないんだ。
昔以上にだ。」
「ああ、ほんと計画は中止で良かったよ。
泣き顔よりその顔の方がいい。」
「はは!泣かないだろうよ。」
「あっそ。それにしても、いい時に来てくれた。
あんたがドレスを作るというから刺したんだが。
どこで話が変わったのか?」
「ごねたな?依頼を受けるときに、俺が作るならいいといったか?」
「よくわかるね。違う手が作るとするだろう?
素晴らしい布だ。もちろん青いドレス以上のものができる。
当然だろ?じゃ、素晴らしいのは布かそれを作った服飾屋か?
残念ながら名声は服飾屋に行くだろ?
ああ、着てる本人は関係ないよ。
だったら同じ作り手、そして素晴らしいドレス。
そうなると素晴らしいのは?布だよ、わたしが刺した刺繍生地だ。」
「それを相手に?」
「言わないよ?そう持っていったがね。ははは!」
「しかし、俺が引き受けないこともあるだろ?」
「その時は、刺繍布に恐れをなして逃げたと。」
「あー。」

─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘


「お待たせしました。」
「ああ、コーヒーだね。いい香りだ。
あんたたちも座りな。」
「失礼します。」

コーヒーを並べ、真ん中にティポットを置く。
それぞれのコップも。
洗い物が大変だ。

「まずはコーヒーを。
この蜜はお好みで。
乳も使わせてもらいます。それもお好みで。
お茶請けはパンに蜜を塗ったものです。」
「おいしいわ。甘いのは、いくらでも入るからよくないけどね。」
「でも頭を使うときは甘いものが必要だそうですよ?
からだを動かすときは、お肉とか食べるでしょ?
頭を使うときは甘いものだそうです。」
「いいこと聞いたよ。なら仕方がないね。」
「ええ。仕方がないのです。」
「「・・・。」」

マティスとトックスさんが黙ってしまう。
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