いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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417:入山料

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まだまだ、1日12時間。
この時期はどうしても体のリズムが狂う。

「2日で1日だと思えばいい。私たちも自然とそう思っているから。」

ガイライもそう言ってたな。
へたに1日って考えるから焦るのか、なるほど。

山越えには靴から違う。

アイゼンをつけるそうだ。
「雪山?じゃないよね?なんで?」
「滑る。私も超えたことはないんだがな。
そう聞いている。」
「どこで買うの?」
「麓の村で売ってるだろう。超えはしないが山には入るからな。」


ピクトを王都を素通りし、
皆が石狩りに集まった街、ロンとは違う道を進む。

荷物は一番コンパクト。タンス級ではないが、重い。
自身に荷重はかかっているが、
荷物も持てるようにしないとな、というわけだ。
肩に食い込む。これは肩がこるに違いない。


半分でいつもなら休憩するが、
月が昇るまで進んでいく。これで、6時間。
そこで1時間休憩して、月が沈むまで、5時間。
ご飯と睡眠といろいろ。これが丸一日、12時間。

また月が沈んでから出発。
なかなかに調子がいい。やはり睡眠だ。

朝は外で食べることにしている。
コーンスープとローストビーフのホットサンド。
鉄板で作りましたよ。
飲み物は甘いカフェオレだ。


リーン、リーン、リーン

「誰だろ?」
「3回はワイプだ。」
「いつの間にそんな約束事を?」
「1回がセサミナ、2回がガイライだ。」
「おお!」

「ワイプか?」

リン

会話してるよ、すごいね。
「あ、わたしにもつなげてよ?2人っきりで話したいならいいけど。」
「・・・繋げる。」

(ワイプ?なんだ?)
(師匠!おはようございます!)
(ああ、モウ、元気そうだ。よかった)
(ライガーんちに行ってきたんですか?)
(ええ。ちょっと呼んでもらえます?話がしにくい)
(・・・・。)

マティスが嫌がるので、
わたしが呼びました。

『ワイプ師匠!わたしのそばに来て!』

「うわ!」

ほんとに傍だった。
マティスとくっついていたからその間だ。

「愛しい人!呼ぶのはいいが、
目視できるぎりぎりの距離のところで呼びように!!」
「モウ、そうしてください。これを理由に死にたくはない。」
「はい、了解しました。」


3人で朝ごはんです。

「チーズがいいですね。これがぴざ?」
「違いますよ。パンを挟んで焼いてるんです。」
「ピザはお前の家の冷凍庫に入れている。
焼けば食えるから、カップにしてもらえ。まだあればな。」
「・・・おそらくないですね。
あなた家に来たんですか?」
「クーに糸のことで相談に。連れていったんだな?」
「ええ。これと言っておいしいものがなかったんで、
がっかりしてましたよ。」
「それはかわいそうに。」
「・・・ほんと、態度が違いますよね。」
「じゃ、ライガーはいまルカリアに一人?」
「いえ、カップ達の誰かが交代で付いています。
密偵だと先に紹介してますから、問題ないですよ。」
「なんか揉めました?」
「わたしがいてそんなことはありませんよ。
褒めちぎっておきましたよ。軍部での訓練にも参加したとして、
ガイライ殿からも戻り次第また参加してほしいと言っているとね。
ルポイド、軍部、これらに気に入られてた人物をどうこうはしないでしょう。
当分ね。」
「さすがですね!師匠!」
「ルポイドとガイライの力だ。」
「もちろんそうですよ?そんなことより、モウ、あなた何をやったんですか?
ニッケのミフェルが探していますよ?」
「アガッターさんは?」
「アガッター?ああ、妹ですね?中央サロンの顔役だ。
そっちは何も?アガッターに何かしたんですね?」
「何もしてませんよ?商品を売ってもないし、買ってもない。
何もしていない。」
「時間系列箇条で。フエルトナの櫓宿を出たところから。」


「10人?クスナの兄は?いなかったと。
首輪は?ええ、預かります。
「土?変わったものに興味を持ちますね?」
「炭火焼き?エビと肉?いいですね!近いうちに行きますよ。」
「塩袋。あ、これが?ありがとうございます。」
「お茶の味はいいですよ。デルサトール産でしょうね。」

ざっと説明をして塩を魚袋、塩袋の方がいいな、
それに入れて渡す。
そうだ、湿地組にも持っていってあげよう。
これを使って料理をごちそうしてもらおうかな?

「マティス君はその間なにを?」
「笑いをこらえていた。」
「はーーー。なるほど、わたしもその場にいれば笑いますね。
あのアガッターの話を聞かずに、商品を見せるだけ見せて帰ってくるとは。」
「見せても買わないこともあるでしょ?」
「もちろん。その場合はすべてタダで手に入れてますよ。
難癖つけてね。」
「あ!じゃ、撤収して正解ですね!マティス!正解だったよ!」
「偉いぞ!愛しい人!!」
「うふふふふ。」
「器屋はあの店ですよね?ちょっと見ておきましょう。」
「それはお願いします。お店に迷惑が掛かったらどうしようもない。」
「ええ。手紙を出したのは良かったですね。
向こうも商人だ。どう思おうと仕事はするでしょう。」
「うん、そうだと思う。」
「では、どうしてミフィルが探しているのかが分かりませんね。」
「んー、アガッターさんと同じような考えなら、
こっちにある瓶の処分を求めるとか?
自分のところだけの商品にしたいからとか。
ちら見せしたものはトックス製だと考えるでしょ?
気にいたんなら直接買えばいいしね。
お気に入りだと言ってくれたんだけどね、わたしたちのこと。」
「ミフェルが?」
「うん。アガッターさんに紹介してくれる時にね。」
「アガッターからの接触なら受けなくていいですよ。
ミフェルなら話を聞くくらいならいいでしょう。」
「そうですか?じゃ、そうします。気が向いたら。」
「ふふふ。ええ、それでいいですよ。
ああ、クスナのほうは、報告書が面白い。
日記のようなんですが、あなたが面白く聞かせてくれる話のようで、
最後はわらってしまいます。」
「わかります!話が上手ですよね!オチがあるのがいい。
あのレタン村の姐さんとチーズ屋の娘さんのやり取りが面白かった。」
「なんですそれ?」

女の闘いの話を教えてあげる。

「なるほど。彼女は強い?マティス君?」
「ずいぶん鍛錬はしていないな。昔は、といったところか。
見抜く力はあったかもしれん。
あの村はご老人たちもよく人を見る。
良い嫁だと愛しい人をほめてくれた。」
「そんなこと話してたの?楽しそうに話していたのはわかってたけど。」
「いい話ですね。わかりました。
では戻りますよ。お土産は?塩だけ?」

「厚かましいぞ!!」

そう言いながら、ピザを渡していた。
ここから麓の村まで一気に走ることになった。
月が昇る前には着くように。



「なんて村?」
「知らないな。」
「そっか。どうしよう?どうして山越えするか決めておいた方がいい?
行商はおかしいようね?人がいないところに行くんだもの。」
「そうなるか。兄弟で修行だというか?」
「お!ティス兄さん!それだ!!」
「かわいいな!!」
「兄さん!じゃれたらおかしいって!」
「わかった。2人きりの時だけだ。」
「ん?2人きりの時でも兄さん?好き好き大好き!わたしのマティス!
じゃなくていいの?」
「それは悩むな!!」
「うん、十分悩んでください。どっちでもいいから。
じゃ、とりあえず、今から兄さんね。」
「ああ、わかった。私の可愛い弟よ。」
「くふふふふ。」

胸を押さえ、ラルトルガで買ってもらったダボっとした男物を着る。
髪はくくっても、男の人もそうだから問題ない。
肌が化粧水を使ったせいかさらに艶プルになっているので、
油と砂で肌を汚した。
マティスが猛抗議だ。
「どうして!」
「いや、ばれたら問題でしょ?
あの娘2も近づいて確認したし。たぶん、肌を見たんじゃないかなって。」
「うー、うー。」
「お風呂入った時にティス兄さんが洗ってくれるからいいんだよ、今は。」
「そうだな!」


村の入口には一人だけ。
剣の素振りをしている。

「行商か?」
「いや、違う。修行の旅をしているものだ。
この山を越えようと思う。その準備をしたいんだ。」
「この時期にか?すぐ月が昇るぞ?」
「山越えするものはいるんだな?」
「それはいるさ、ただ、超えずにみな戻ってくるけどな。」
「それはますます挑戦しないとな!」
「無理するなよ?」

自称修行者が年に何人かいるようだ。
ただ、もっと日が長い時期。
会わずの月の前々日が多いらしい。
うまくいけば半日、18時間で峰に。
そこで半日耐えれば、次の日の半日でナルーザに入ることが出来る。

「お兄さんも超えたことあるんですか?」
「ん?ないな!なぜなら山越えせずとも修業はできるし、
ナルーザ側には何もない!間抜けがすることなんだよ!山越えは!」
「間抜け兄弟だね!兄さん!」
「そうなるな、弟よ。」
「・・・止めないけどよ、ダメだと思ったら、
ありったけの砂漠石を光らせて転がり下りてこい。
それで、1割は助かる。」
「残りは?」
「光が途中で消える。知らん。」

なかなかにハードだ。
マティスが笑っている。

「兄さん、楽しい?」
「ん?鍛練と実戦ができるからな。」

アイゼンを買う。
かなり長い。余計にこけそう。
1つ10リング。
1つですよ?だから4つで40リング。
ぼっただ!!


この村、ウダーで一泊。
宿泊費は食事つき20リング。しかも、風呂無し。
で、入山料、30リング。

そこまで払っても超えたければどうぞというわけだ。

「ちなみに行商か一般の旅人だと?」
「3リングだな。」
「・・・。」
「あはははは!やめとくか?だったら3リングでいいぞ?」

守衛兼村長兼、宿屋の主人が言う。
「いえ、山越えです。」
「ほう!男は一度言ったら変えてはいけないからな!
しかし、引き際を間違えるのは恥ずかしいことだぞ?
戻ってくれば、入山料は返してやるからな!」

なるほど、そういうシステムなんだ。
食事は肉だ。

「まず、蛇だ。トリヘビじゃなくて、モクヘビな。
身もうまいし、皮も売れる。が、毒持ちだ。
噛まれたら、転がり落ちてこい。
毒が身体中に回って薄まるから。」

え?逆じゃないの?


「次が、熊だな。これは毛皮が売れる。
肉もうまい。特にうまいにはどこか知ってるか?」
「右手?」
「ん?よく知ってるな!右ってわけじゃなくて、手で穴蜜を掘るからな!」
「穴蜜?」
「甘い蜜がでる穴があるんだ。土蜂の巣なんだがな。
蜜がしみ込んだ手がうまい、らしい。」

蜂!虫!却下です。

しかし、らしいなんだ、それらしき肉はあるのに。

「これは足だな。それでもうまい。
手は取れたら王都行きだから食べたことがない。」
「果実とかは?甘い実とか、辛いのとか?」
「ん?知らんな。自分で食べて確認しろ。
第一、そんなのは食べない。
蛇と熊が取れればそれを王都で売る。
そこで、うまいものを買えばいい。
王都はいろんなものがそろってるぞ?寄らなかったのか?」
「寄ってないな。合わさりの月の日のあと3日間はすごい祭りだとは聞いたが?」
「ああ。皆、石狩りに参加して、王都で金をすべて使って帰ってくる。
次のひとつ月の日まで、何もせず過ごすものばかりだ。」
「食べていけないだろ?」
「そんなもんはどうとでもなるよ。
それこそそこら辺の草でも食ってな。畑も荒れ放題だ。
子供がいれば、子供のためにと、こんなことにもならなかったが、
今は子供も石狩りに参加する。だからダメだな。」
「お兄さんは?」
「俺は村長だ。ここを離れるわけにはいかない。
こうやって、宿屋で儲けてるさ!
あはははははは!!!」
「・・・・。」



あぶく銭感覚でパッと使うのはいいけど、
これはダメだね。






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