いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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362:値切る

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柘榴、ここではプニカをごっそり頂いて、
ついでに、入り口廻りもきれいにしておく。
これで文句もないだろう。


タンスの背負子が出入り口にひっかかったのは内緒だ。
カニ歩きで通った。


街は小奇麗な感じがする。
石畳の街道で、幅が広い。大きな馬車が行き来している。が街の人は少ない。
皆が紡績所で働いているからだと、
宿の場所を教えてくれたおばさんが教えてくれた。


「一泊したい。」
「5日分で前払いだ。。」
「ん?じゃ、5日泊まると言えば?」
「・・・10日分前払いだ。」
「なるほど。」
「1日2リング5日で10リングだ。」
「では、これで。」
「・・・・。」

ごねるのはそっちの方じゃないのかと一瞬思ったが、商売だ。
難癖つけて返ってこないんだろうな。


「どうした?」
「え?」
「?案内はないのか?ではどの部屋だ?」
「え?」

(なんだ?)
(なんだろうね?ああ、心付けがないから?)
(なに?)
(料金とは別にお世話になります、
よろしくねって意味で宿代の1割ぐらいを渡すの)
(不思議だな)
(その世話した人のお小遣いになるし、
帰るときにその土地のお土産を買って持たせてくれるところもあったよ
その宿でいろいろ。受け取らなかったりね)
(では、1リングでいいのか?)
(うん、いいんじゃない。あ、裸で渡すのは失礼だから、この紙に包んで)


「あの、お世話になります。」

こういうときなんて言っていいのか困るね。

「あははは!なんだ、知ってるんじゃないか?じゃ、これはお蚕様にな。」
「へ?それはご主人にですよ?」
「へ?」

3人で首を傾げた。

「まてまて、お前たちはここの地は初めて?で?どこの人?
砂漠かー。コットワッツ寄り?じゃー、知らないな。
旅なれた感じがしたんだけどな。
なんかおかしいと思ったよ。」
「すまない、ご主人。我ら砂漠の民、よく人から世間知らずと言われている。
どうしたらいいか教えてもらえるか?」
「はー、仕方がねーなー。」


要はここはお蚕様を敬っている。
それはもう宗教的に。
宿代は値切るのが当然。
それを見越して、宿の主人も吹っ掛けるし、客も値切る。
普通は1日1リング。5日分と言われたら、
その時にこれはお蚕様にといえば、そこで交渉成立。
1銅貨もあれば十分。
言われたまま金を出し、尚且つ、自分に宿代とは別に金を出すとは、
大金持ちでもしない、とのこと。

「じゃ、ここに入るとき金取られただろ?へ?そのまま5リング?
あーあー。それも値切るんだ。その金は帰ってこないぞ?
大半がそのときの守衛に、1銅貨ほどがお蚕様だ。1銀貨でも多い。」

なるほど。じゃ、あの守衛はほくほくで遊びに行ったんだな。

「仕方がない。勉強代だな。では宿代は?」
「もう、1リングでいいよ。で、これはお蚕様にな。」
「いえ、それはご主人に。その中からご主人の方から寄付してください。
何も知らないものからの寄付よりも
ご主人からの寄付の方がそのお蚕様も喜ばれるでしょう。」
「いくら入ってんだ?おいおい、1リング!わかった!
じゃ、部屋に案内するよ!
と!その大きな荷物は自分でな。一番大きな部屋に案内するよ!」

買い物をするときは値切って、1銅貨をお蚕様にというのが
ここでの買い物の仕方だそうだ。

「フレシアではすべて?」
「そうだな。ああ、領主館のある街は王都からの客が来るから
ふっけたり値切ったりはしないな。もとから値段は高いがな。
フレシアの人間は値切れると当然思っているぞ?
だからあんたたちも商売するならそれを見越して金額を言えばいい。」

確か、フレシアの領主はダイヤの飾りを欲しがっていた。
まさか値切れると思ってるんじゃないだろうな。
これはセサミン報告案件だ。

案内してもらった部屋は、なるほど大きい。
背負子を置いてもゆったりしている。


「ここで物を買うのも売るのも難しいね。
わたし、値切るとかダメなんだ。
正規の金額で売り買いしたいんだよ。」
「ああ。愛しい人はそうだろうな。本当に仕入れるわけではないからな。
街をぐるっと見るだけでいいだろう。」
「食事は?」
「ここはなにがあるのかな?宿屋の主人に聞こう。
聞けば教えてくれるさ。」
「そうだね。親切だったもんね。じゃ、ちょっと柘榴を見てみようかな。」

袋から取り出し、表面を洗う。
「切るのか?」
「んー、これうまく切らないと、汁が飛ぶんよ。
いくらみたいに中に入ってると思うんだけどね。」
「しかし、これは嫌な感じがするぞ?毒?」
「皮にあるってきいたことあるよ?腹下し。でも実は大丈夫。」

十字に切り込みを入れて、水を張った桶の中で割ってみる。
皮は結構分厚い。
ぽろん、ぽろんと実が水に沈む。サクランボの大きさだ。きれいだ。

「これ、やわらかいね。そら、熟したら真っ赤になるよ。
食べていい?」
「まて!私が先に食べるから!」
「あ、ひとくちでね。つぶれると血の海だ。」
「血の海・・・。また、怖いことを。」
「ああ、あんまり海っていう表現は使わないのね。えーとね。」
「いや、意味は分かるから。ああ、実は大丈夫だな。毒はない。」
「ね?じゃ、あーん。」
「んー、あーん。」
「どう?」

口の中でプチっとつぶしたのだろう。
しゃくっと音がする。種かな。

「うまいぞ?」
「ほんと?あ、口明けて?」
「ん?」
「あはははは!こわいー!」
「え?」
「あ、まって!ん!あ、中の種か?うん。甘い。おいしいね。ほら?」

口を開けて見せる。真っ赤なのだ。
「うわ!青い口も驚いたが、赤いほうは怖いな。」
「あはははは!」
血糊に使えそうだ。

しかし、これはどうしようかな。
甘いから砂糖で煮なくてもいい。しかし、柔らかすぎる。
湯出てみようか?

樹石があればすぐにお湯を沸かせる。
携帯コンロだ。便利!ルグがコーヒーを入れてくれた時は
砂漠石を使っていたが、樹石でも十分だ。

小さなコンロ、小さな鍋。
水から湯がく、沸騰したところに入れる。どっちがいい?


「おお!沸騰したお湯に入れて、浮いてきたら水に開けて冷やす。
うん、白玉団子のようだ。」
「団子?お餅か?」
「そうそう、そんなようなもの。ああ、白玉粉作ろうかな。
もっと粘り気のあるお米ってないかな?」
「端の村の米よりも?」
「そう。ここでもお米作ってるかな?」
「私が軍で食べたのは東、ナルーザでだ。あるんじゃないか?」



湯がいたものは冷蔵庫で冷やす。
また違う食感になるかもしれない。



「ご主人、食事をしたいんだ。
ここの名物はなんだ?それとどういう風に交渉すればいいか教えてほしい。」
「はー、仕方がねーなー。」


ここの名物は鳥。
おすすめは鳥の米詰め。なかに米が入っている。
マティスが作ってくれたものだ!楽しみ!
街道の端にある店、エスワがおすすめ。
紡績工場で働いている者たちが店で混む前に行った方がいいとのこと。
交渉は注文して、いくらだと聞く。
おそらく、1銀貨だというから、これはお蚕様にと1銅貨を渡す。
それはそれはと、お蚕様のおかげですね、5銅貨でいいですよ、となる。
要は倍の金額を言うから、1銅貨を出して半額に、これが普通のやり取り。
宿屋のビヤンの紹介だと言えば、おまけしてくれるだろう、とのこと。



月が昇るには早い時間。
行商相手の商売が多いのだろうか、問屋街のようだ。
馬車が乗りつけ、品物を買っていくのだろうな。
馬が結構いる。駱駝馬だ。
エスワの店の前には、
水飲み場もあって、柘榴の木もあり、
繋がれている駱駝馬が、落ちている実を一口で食べていた。

「皮ごと食べて大丈夫?」

馬に聞いてみる。
快便になるんだと。ああ、やっぱり。
人にはきついから駄目だと言われた。
赤いうんちにならないの?と聞けば、怖いといわれた。馬にまで。


「あはははは!ああ、怖いな。それは!」
マティスも笑う。

「なんだ?うちの馬になにしてる?」
「いえ、赤い実を食べていたのでおいしいのかと。」
「ああ、それは人が食べたらダメだぞ?腹を下す。」
「え?そうなんですか?皮を?」
「そうだ。うまそうだろ?子供のころかじったんだ。
そしたら1日中便所の中だ。」
「それは、うん、大変でしたね。」
「ま、そいうことだ。しかし、食堂の前でそんな話は困るよ!」
 「あ、すいません。食べに来たんです。今いいですか?」
「なんだ!客か!いいぜ!いまはすいてる、さ、中に。」


宿屋のご主人に教えてもらった通りのやり取りをする。
がんばってやってみた。
「じゃ、5銅貨、2人分で1銀貨だな。」
「はー、よかった。」
「ん?なにが?」
「わたしたち、砂漠の民で、ここの街の値段の交渉のやり方知らなかたんです。
そしたら、宿屋のビヤンさんが教えてくれて。
ここもビヤンさん紹介で来ました。
鳥の米詰めがおすすめだって。」
「なんだ!ビアンの紹介か!先に言えよ!
なにか一品おまけしような!」
「うれしいです。あの、お酒は?」
「もちろんあるよ?おすすめを持て来よう。
ああ、値段の交渉はいいよ。ちゃんとつけるから。」
「ありがとうございます。」


楽しみだ。
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