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341:早い者勝ち
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「ガイライ様!どうして!!」
「お前こそ、どうした?
ん?ワイプ!お前!引き抜いたな!カップたちは?」
「もちろん一緒ですよ。いま、里に帰っていますよ。」
「里?マトグラーサだったな?移動か!
そこまで話はできていたのか?いつ?」
「さっきですよ?ナソニール領の仕事を首になったので。」
「ツイミ!軍部に来いといっただろ?カップたちも面倒みると!」
「ダメですよ?ガイライ殿?早い者勝ちです。
それに、モウはあなたの部下になるのなら移動と呼び寄せは教えない。
わたしの配下だからですよ?」
「・・・ムカつく。」
「ガイライ、気付くのが遅い。」
「マティス!お前がいてどうしてこうなった!」
「ワイプが死にかけた。だからだ。
まずは座れ。首が痛い。」
私たちは3人はこたつに入っている。
ツイミも動こうとしない。
見上げながら話している。
ワイプが気に入ってしまったからだ。
甘い!
おこたにはやっぱりみかんとお茶だよ?と、
緑茶とキトロスの実だけを置いている。
種もだ。
どうやら、ツイミはガイライから声を掛けてもらっていたようだ。
どうしようもなくなったら、軍部に行ける。
カップたちのことも頼める。
だからできるギリギリまで踏ん張っていたのだろう。
カップたちに目を付けていたのだろうな。
「靴は脱げよ?」
「・・・。ん?」
「めくるな!寒い!」
「はー、ほんとこれいいですね。家にも欲しいですね。」
「ええ、マトグラーサの家にも欲しい。」
「この熱源はセサミナ案件だ。明日会うんだ、聞いてみろ。
この台は作れるだろう?」
「これの布?ですか?これは?」
「なんでもいい。これは羽毛だ、アヒルの。」
「はー、なるほど。この軽さがいいですよね。」
「羽毛はトックスで扱ってる。」
「トックスさん!作ってもらいましょうかね。」
「金は払えよ?」
「もちろん。」
話ながら、ガイライに緑茶とキトロスをだす。
黙って、食べている。
むさい、むさすぎる。
「それで?明日いらっしゃると聞いていたんですが?」
「ああ、ツイミも移動ができるのか?そうか、なら話してもいいか。
モウが認めたということだからな。
マトグラーサが糸を売り出した。」
「一般向けではないでしょうに。」
「もちろん、極秘、各院向けだ。一般には出さない。
当たり前だ、対人1回分、5万リングだ。
副作用なし、砂漠石も小さなものだ。
昔の蜘蛛の糸の効果をほとんどのものが知っている。
他に気が行けば効果がなくなると。しかし、気付かれず使われればそれまでだ。
マティス、お前がいい例だ。
使い方はお任せしますと、各院の責任においてお使いくださいだと。」
「・・・・どこが買いましたが?」
「どこがではない、資産院以外みな買った。
軍部もだ。買わざるを得ない。次の会わずの月の日に手に入る。」
「ちょっと、戻ります。」
オートでは荷が重すぎる。
どちらにしろ、買う予算はないはず。
「で?死にかけたというのは?
マティス、省くな、最初からだ。
箇条でいい。」
私も説明がへただと言われるから仕方がない。
最初というのはそもそもどこだ?
ああ、ガイライと別れたところからでいいか。
「・・・モウのかわいらしさ、美しさは省いていい、十分わかっている。」
「砂漠石は砕けるのか?」
「泣いたのか?・・・許せんな。」
ツイミの話になる。
「どこまで話す?」
「すべて。」
耳の話から、ツイミの話、そこからゴミ処理場の話。
ワイプが痛みを受け入れた状態、
何もかも受け入れる状態の人間を食べるから、
そこから作り出した糸も同じ作用をする。
偶然できた糸を販売するまでに増やしたのか。
蜘蛛が人を引きずり出し、食べていく姿はまさに、G案件だ。
あの5人はそのあと吐き出した蜘蛛の糸を石を使って集めていた。
糞尿が必要なのではない、におい消しの為だ。
外部に漏れても、もとはゴミ処理場、だれも疑問が湧かない。
あの合わさりの月の日の砂漠の死体ではダメなんだろう。
いや、もしかして半分はこちらに来ていたのかもしれない。
「ツイミ?どこまで知っていた?」
「ワイプ様にもお話しました。あの施設は閉鎖状態。
ただ、マトグラーサが今後領内に建設するというので
何回か見学に来ていました。
その時はスホーム様がご案内していましたので。」
「スホームはどこまで知っている?」
「知らないだろう?
知っていれば、自分も同じように蜘蛛の糸を作り出すだろう。」
「そうだろうな。しかし、屋敷で働く人間は減っている。それは?」
「給金がでません。出ても、半分以下です。
会合ではそんな報告はしていません。ええ、報告書はわたしが。
他で働き口があればそこに移っています。安い給金しか出せないので、
カプたちを呼んだんです。
突然いなくなる従者もいました。嫌気がさしたんだろうと。」
「なにをしているか知らないが、従者は差し出している、か。」
ツイミは顔色が悪くなっている。
そりゃそうだろ。
蜘蛛にくわれたかもしれないんだ。
いや、食われている。
「ワイプの蜘蛛、それが特別なのか?」
「わからん。ワイプはなんとか意思の疎通ができる。
愛しい人は、慣れてくれば、馬と同じぐらい話が分かるだろうな。」
「モウが言っていた、リグナ。懐かしい名前だ。
軍馬だ。私と何度も戦場に出ている。お前も知っているはずだ。
だが、年齢を重ねたので、マトグラーサに引き取られた。
・・・対馬の蜘蛛の糸は5000リングだ。
馬を操れれば、戦局は変わる。」
「・・・あの中に埋まっているのはなにかだ。
人だとわかるものもあったが、馬と言われれば馬だ。
生きてるとは言わない。ただ、鼓動はあった。」
ツイミが部屋から出ていく。便所だろう。
「戻りました。?ツイミは?」
「話を聞いて便所だ。」
「あー。話はどこまで?」
「あれは、馬か人か、対馬は5000リング。オートは?」
「泣きつかれました。とにかく、買う必要はない。
今は幸いに予算がない。笑って、金がないと言えばいい。」
「そうか。」
「ワイプの蜘蛛というのは?」
「ああ、そこに。今は寝てるんじゃないんですか?」
「なにを食べさせている?」
「最近はカンランと砂漠石ですね。」
「それを食べて作り出した糸に操りの糸が寄ってきたと?」
「ええ。たまたまかはわかりませんが。
しかし、これが公になれば、操りの糸の価値はなくなりますよ?」
「マトグラーサは知っているのだろうか?」
「対抗策は同時に調べるものですが、どうでしょうね。
砂漠に蜘蛛がいることは誰も知らない。知っていたとしても、
砂漠は閉鎖だ。弾丸のこともありますし」
「ワイプがあの大会の蜘蛛を確保していることは皆が知っていることだ。
狙われるぞ?」
「困りましたね。」
「困っていないだろ?いいな、ワイプ?二度目はない。愛しい人を泣かすな。」
「ええ、だから困るんですよ。」
ツイミがさらに顔色を悪くして戻ってきた。
「大丈夫じゃなさそうですね。」
「申し訳ない。・・・最近立て続けにわたしの兄弟が亡くなりました。
ええ、そうです。晩餐会に出ていない、弟たちです。
葬儀の手配はいつもスホーム様、スホームが行っていました。
地方に出向き、戻ると、なくなったとだけ。
永くはもたないと言われていたので、なにも疑問に思いません。
やはり父親なので、そっと葬儀を行っているのだと。
それが、ここ3年で立て続けです。離れで育った弟たちはもういません。
その母親たちも。母親も娘です。戻る実家はここだというのに。
姪たちも戻っている話は聞きません。
月々の手当てもまともに出ないのです、
息子、娘が亡くなれば、ここにいることもない。
スホームは見捨てられたんだと、笑っていたのです。
それが違うかもしれない!!」
「・・・売られたんでしょうね。」
「・・・・。」
「燃やして来ましょうかね。すぐには再建できないでしょう。
再建したとしても、本当のゴミ処理場だ。
湿地に捨てることはすでにできないんですから。
新しく作って閉鎖状態はできないでしょ?」
「それはいいが、匂いが広がる。風にのってコットワッツに来る。
愛しい人が、家から出なくなり、ずっと私の匂いを嗅いでるぞ?
・・・?
いいな!すぐ燃やそう!」
「・・・ダメですね。匂いが出ない方法を考えないと。」
「じゃーん!頑張ってる野郎どもに差し入れですよ!!
うわ、ちょっとむさいね。
え?ツイミさん顔色悪い?
まじない言ってみな?効くから。
ちちんぷいぷい、すっきりしゃっきりーって。」
「え?言うのですか?それを?」
「そそ、一緒にね」
『「ちちんぷいぷい、すっきりしゃっきりー」』
「どう?」
「うわ!すごい!」
「そうかそうか。それはよかった。これを食べればもっと元気になるよ?
スペシャルチョコパフェ!」
「愛しい人!それも最初に食べたかった!」
「うふふふ。これはわたしが食べさせてあげるよ。」
「!!素晴らしい!」
「とにかく食べよう。ああ、あの3人には早い。お酒たっぷり使ったから。
お酒なしは明日ね。はい、食べよう。」
深いグラスにアイス、クリーム、リンゴチップ。
そこに、モモ、ウリ、リンゴの実ととのり、ちょこれいとがかかっている。
白と茶色いものだ。キトロスの皮も彩りに。もちろん甘味だ。
それを長めのスプーンで食べる。
私の横に座った愛しい人があーんと食べさせてくれる。
2人だけなら押し倒していた。
彼女だけを見て味わった。
なぜなら他の3人は、声も上げずに泣いていたからだ。
むさくるしい。
「燃やすの?」
「そうです。やはりよろしくないとわかったので。こっそりと。
しかし、ゴミ処理場だったんで、匂いが広がる。なにか方法ありませんかね?」
「んー。ぼこんと海に捨てる?ちょっと、大きすぎるか。常識外だね。
ああ、植えた茶葉を緑の石で最大に成長してもらって、
もったいないけど、それごと燃やす?
建物の外壁は海に捨てる。イリアスの東の海に。」
「緑の石?」
「うん、そういうのがあると思ってくれれば。」
「そうですか。しかし、あなたに負担がかかりすぎますね。」
「そうだ。師匠だからといって武と関係ないことに弟子を使うな。」
「そうですよね。では、石使いとして雇いましょう。どうです?」
「おいくら万円?」
「へ?」
「いかほどで?」
「300リング」
「すごい!どうマティス?」
「・・・私はまったく稼げていないな。情けない。」
「え?2人でだよ?建材の移動は2人でするんだよ。
あの海を知ってるのはわたしたちだけだからね。
あそこは漁場にもなってなかったし、岩場ができれば魚も増えるよ?
いいんじゃないかな?」
「2人でか。ならいいな。ワイプ!感謝しろ!」
「ええ、もちろん。」
「・・・でも、あの中に2人の気配以外の人がいたよ?
20人ぐらい?あの人たちは?
あと、虫もいるでしょ?」
「その20人は軍部で預かります。」
「虫は?たぶん蜘蛛だ。ね?蜘蛛ちゃんそうでしょ?
砂漠に帰ってもらってもいい?そう、じゃ、よかった。
・・・・蜘蛛ちゃんは?ふふふ。うん。わかった。」
「なんと?」
「砂漠に戻してくれればいいって。あと蜘蛛ちゃんは
もっとうまいものを食べたいから帰らないって。」
「わかりました。蜘蛛の移動はわたしがしましょう。」
「軍部に戻ります。受け入れ場所を確保してきますから。
モウ、また呼んでください。」
「うん。」
「ツイミはどうします?ここで待っていてもいいですよ?」
「いえ、ご一緒に。」
ゴミ処理場に移動すると、馬車が1台止まっていた。
慌てて、小さな膜を張り隠匿もかける。
3頭の馬で引いてきたのか、2頭が外される。
あの5人だ。
ん、リグナだ。
あとは?ツイミさんが乗っていた馬だ。
「ツイミさんの馬でしょ?あれ?」
「そうです。どうしてここに?
!!!!ワイプ様!」
「ええ。」
「?」
その2頭が中に入れられる。
「マティス!ダメだ。殺される。呼ぶよ!」
「まだ駄目だ。あの5人が帰ってからだ。」
「なにいってんの!死んじゃう!」
「大丈夫だ。ほんとうだ。すぐには死なない。」
「モウ、我慢して。」
「・・・・。」
「馬に言ってやれ、助けるから抵抗するなと。じっとしてろと。」
(リグナ!モウだよ!今外。助けるから、我慢して)
(うん。大丈夫。抵抗しないで、じっとして、隣の子も聞こえる?)
(大丈夫、恐怖もない、痛みもない)
(うん、うん。そのまま倒れていい。うん。じっとして)
(ツイミさんもいるよ。そう。うん。寝てていい)
(うん、リグナ、リグナ、うん、寝てていいんだ)
(うん、おやすみ)
「師匠!」
「待ちなさい。先にガイライ殿を。」
(ガイライ!呼ぶよ!)
(え?どうぞ)
『ガイライ、ここに』
「ガイライ!リグナが!」
「リグナ?どこに?」
「中に入れられた。たぶん、気絶してる。5人が出るまで待てって!」
「・・・モウ、落ち着いて。」
「愛しい人、おいで。」
「マティス!」
マティスにしがみつく。
早く、早く。
「マティス、あの5人、殺しちゃおう。」
「だめです。今はダメです。」
「じゃ、後で?」
「あとで、きっちり。わたしが始末しますから。」
「・・・うん。」
「もう少し。」
「ツイミさん、あの馬なんて名前?」
「ナルガです。」
「モウ、呼んで!」
膜を外し、2頭を呼ぶ。
『リグナ、ナルガ、ここに』
腹を刺されたか、血がどくどく流れている。
『リグナ、ナルガ、優秀なる馬よ。
血は止まり、痛みもない。美しき体に。
筋肉、神経、骨、すべて元通り。力みなぎる体に戻れ』
糞?泥だらけの体もきれいになった。
傷もふさがっただろう。
『風よ、ここにある糸を紡いでおくれ』
よこでマティスが糸を集める。糸か。
2頭の馬が嘶きとともに起き上がる。
少しの泉の水をだす。
「がんばったね。これ、ちょっとだけだけど、飲んで。
うん、ちょっとだけ。
あとは、おいしい水。うん。これね。
たくさん飲んで。うふふふ。もう!いま死に掛けたんだよ?」
こんなうまい水が飲めるのなら死んでもいいんだってさ。
「師匠?ここって馬を殺すところ?」
「そうですね。処分場ですね。」
「2頭とも元気なのに?なにかしたの?」
聞けば、ツイミさんが辞めて、怒り心頭の領主が
ツイミさんがかわいがってた馬を売ったそうだ。
リグナはここに連れていく馬は、
二度と戻ってこないのを知っていたので毎回暴れたそうだ。
そうしたら、自分が連れていかれる立場になっていたと笑っていた。
「笑い事じゃないよ!」
うまい茶葉を食べたしもういいかな、と。
「あれ、3番だよ?もっとおいしいのあるの!
食の祭りに来るって約束してたのに!」」
「リグナ。」
リグナが嘶く。
「ああ、聞こえるよ。久しぶりだ。よかった会えて。」
ちょっと!人と馬ってなんかいい!
ツイミさんとナルガもいい!
いやいあや、そんなことよりも。
「マティス、師匠?
傷は結構深かった。あれでどうして死なないって言いきれたの?」
「糸ですよ、死なないっていう力が働くんです。」
「・・・師匠も?あれ、やられてすぐじゃなかったの?」
「だいぶたってますね。ああ、どれくらいかはわかりません。」
「・・・どうして呼ばなかったの!」
「マティス君にも言われたんですが、呼ぶことも考えられないんですよ。
ただ、血が流れているな、冷たいな、ということだけ。
そしたら、懐炉があったかくて、朝ごはんのことを思い出したんですよ。
それを作ってくれる、かわいい弟子たちもね。
しかし、思い出すだけで、呼ぶことが出来なかった。
それに気付いてくれたんですね。本当に感謝してますよ?」
「・・・わたしより、朝ごはんを思い出したんですね?」
「ああ、そうですね。ふふふ。おいしいものとモウは同じですよ。」
「おいしいものができたら必ず食べてもらいます。
今度こんなことがあっても大丈夫なように。」
「愛しい人、大丈夫だ。2度目はない。」
「うふふふ。さすが、マティスだ。うん、マティスも心配だものね。
弟子夫婦は師匠を守らないとね。」
「・・・。」
「へ?」
「さ、人を先に移動しましょう。ここに呼びます。
おそらくひどい匂いです。モウ?
きれいにだけしてもらえますか?」
「わかりました。」
『生きていける人間、ここに』
20人ほどがドサドサと来る。
『きれいに。しばし眠れ』
『風よ、ここにある糸を紡いでおくれ』
「罪びと?」
「わかりませんね。ガイライ殿?」
「ええ。向こうでニックが待機しています。」
「モウ、わたしの掛け声で目覚めるようにできますか。」
「ああ、そのほうがいいね。」
『眠れ、深く。憂いなく眠り、ニバーセル軍部隊長ガイライの声で目覚めよ』
「多分これでいいと思う。名乗りを上げて、声を掛けたら起きるよ」
「ありがとうございます。」
『王都、軍部、ニックの元へ』
20人が消えていく。
ガイライも移動した。
あとは師匠が蜘蛛を移動。
これはわたしは見ていない。マティスの背中にへばりついている。
ツイミさんの
「ひひゃっ!!」
という声で十分だ。
マティスにカンランを出してもらっていた。
蜘蛛ちゃんを介して蜘蛛たちと取引をしているのか?
うー、蜘蛛使いワイプだ。
あとは建物の外壁、石積みを
みなで分担して解体。戻ってきたガイライもだ。
移動は基礎体力に左右されることが分かった。
ツイミさんは、ほぼ役立たずだった。
そしてイリアス東の海へ移動。
この時点で匂いが外にでるので、砂漠石の膜で覆う。
緑の石で、茶葉に最大限に成長してもらう。申し訳ない。
しかし恐ろしく成長。刈るからあの大きさなんだ。
煙抜きの孔と、空気孔を開けて、火をつけた。
ツイミさんが膝をついている。
体力の限界か?
違うな、祈っている。
・・・ああ。
砂漠石の膜ごと燃える。
お茶の匂いが立ち込め、
あっという間に燃え尽きた。
「これ、ここにあるもの、全て海に送れますか?
地面の土ごと。」
「・・・ええ、目で見えているので。」
「お願いします。」
『燃え尽きし者たちよ 月沈む海に還ろう
母なる海に身を委ね 永き旅路に旅立とう
そなたたちは自由な旅人 次の輪廻を待てばいい
なにも憂うな なにも嘆くな
ただ、こころ安らかに つとめ上げたのだ
なにも憂うな なにも嘆くな
送りしものが宣言しよう
そなたたちはつとめ上げたのだ 憂いなく旅立ったのだ』
スッと黒い塊は消えていった。
後には抉れた土のみ。
「モウ?」
「・・・・。」
「愛しい人、おいで。」
「うん。」
「先に宿に帰る。」
涙は出なかった。
「お前こそ、どうした?
ん?ワイプ!お前!引き抜いたな!カップたちは?」
「もちろん一緒ですよ。いま、里に帰っていますよ。」
「里?マトグラーサだったな?移動か!
そこまで話はできていたのか?いつ?」
「さっきですよ?ナソニール領の仕事を首になったので。」
「ツイミ!軍部に来いといっただろ?カップたちも面倒みると!」
「ダメですよ?ガイライ殿?早い者勝ちです。
それに、モウはあなたの部下になるのなら移動と呼び寄せは教えない。
わたしの配下だからですよ?」
「・・・ムカつく。」
「ガイライ、気付くのが遅い。」
「マティス!お前がいてどうしてこうなった!」
「ワイプが死にかけた。だからだ。
まずは座れ。首が痛い。」
私たちは3人はこたつに入っている。
ツイミも動こうとしない。
見上げながら話している。
ワイプが気に入ってしまったからだ。
甘い!
おこたにはやっぱりみかんとお茶だよ?と、
緑茶とキトロスの実だけを置いている。
種もだ。
どうやら、ツイミはガイライから声を掛けてもらっていたようだ。
どうしようもなくなったら、軍部に行ける。
カップたちのことも頼める。
だからできるギリギリまで踏ん張っていたのだろう。
カップたちに目を付けていたのだろうな。
「靴は脱げよ?」
「・・・。ん?」
「めくるな!寒い!」
「はー、ほんとこれいいですね。家にも欲しいですね。」
「ええ、マトグラーサの家にも欲しい。」
「この熱源はセサミナ案件だ。明日会うんだ、聞いてみろ。
この台は作れるだろう?」
「これの布?ですか?これは?」
「なんでもいい。これは羽毛だ、アヒルの。」
「はー、なるほど。この軽さがいいですよね。」
「羽毛はトックスで扱ってる。」
「トックスさん!作ってもらいましょうかね。」
「金は払えよ?」
「もちろん。」
話ながら、ガイライに緑茶とキトロスをだす。
黙って、食べている。
むさい、むさすぎる。
「それで?明日いらっしゃると聞いていたんですが?」
「ああ、ツイミも移動ができるのか?そうか、なら話してもいいか。
モウが認めたということだからな。
マトグラーサが糸を売り出した。」
「一般向けではないでしょうに。」
「もちろん、極秘、各院向けだ。一般には出さない。
当たり前だ、対人1回分、5万リングだ。
副作用なし、砂漠石も小さなものだ。
昔の蜘蛛の糸の効果をほとんどのものが知っている。
他に気が行けば効果がなくなると。しかし、気付かれず使われればそれまでだ。
マティス、お前がいい例だ。
使い方はお任せしますと、各院の責任においてお使いくださいだと。」
「・・・・どこが買いましたが?」
「どこがではない、資産院以外みな買った。
軍部もだ。買わざるを得ない。次の会わずの月の日に手に入る。」
「ちょっと、戻ります。」
オートでは荷が重すぎる。
どちらにしろ、買う予算はないはず。
「で?死にかけたというのは?
マティス、省くな、最初からだ。
箇条でいい。」
私も説明がへただと言われるから仕方がない。
最初というのはそもそもどこだ?
ああ、ガイライと別れたところからでいいか。
「・・・モウのかわいらしさ、美しさは省いていい、十分わかっている。」
「砂漠石は砕けるのか?」
「泣いたのか?・・・許せんな。」
ツイミの話になる。
「どこまで話す?」
「すべて。」
耳の話から、ツイミの話、そこからゴミ処理場の話。
ワイプが痛みを受け入れた状態、
何もかも受け入れる状態の人間を食べるから、
そこから作り出した糸も同じ作用をする。
偶然できた糸を販売するまでに増やしたのか。
蜘蛛が人を引きずり出し、食べていく姿はまさに、G案件だ。
あの5人はそのあと吐き出した蜘蛛の糸を石を使って集めていた。
糞尿が必要なのではない、におい消しの為だ。
外部に漏れても、もとはゴミ処理場、だれも疑問が湧かない。
あの合わさりの月の日の砂漠の死体ではダメなんだろう。
いや、もしかして半分はこちらに来ていたのかもしれない。
「ツイミ?どこまで知っていた?」
「ワイプ様にもお話しました。あの施設は閉鎖状態。
ただ、マトグラーサが今後領内に建設するというので
何回か見学に来ていました。
その時はスホーム様がご案内していましたので。」
「スホームはどこまで知っている?」
「知らないだろう?
知っていれば、自分も同じように蜘蛛の糸を作り出すだろう。」
「そうだろうな。しかし、屋敷で働く人間は減っている。それは?」
「給金がでません。出ても、半分以下です。
会合ではそんな報告はしていません。ええ、報告書はわたしが。
他で働き口があればそこに移っています。安い給金しか出せないので、
カプたちを呼んだんです。
突然いなくなる従者もいました。嫌気がさしたんだろうと。」
「なにをしているか知らないが、従者は差し出している、か。」
ツイミは顔色が悪くなっている。
そりゃそうだろ。
蜘蛛にくわれたかもしれないんだ。
いや、食われている。
「ワイプの蜘蛛、それが特別なのか?」
「わからん。ワイプはなんとか意思の疎通ができる。
愛しい人は、慣れてくれば、馬と同じぐらい話が分かるだろうな。」
「モウが言っていた、リグナ。懐かしい名前だ。
軍馬だ。私と何度も戦場に出ている。お前も知っているはずだ。
だが、年齢を重ねたので、マトグラーサに引き取られた。
・・・対馬の蜘蛛の糸は5000リングだ。
馬を操れれば、戦局は変わる。」
「・・・あの中に埋まっているのはなにかだ。
人だとわかるものもあったが、馬と言われれば馬だ。
生きてるとは言わない。ただ、鼓動はあった。」
ツイミが部屋から出ていく。便所だろう。
「戻りました。?ツイミは?」
「話を聞いて便所だ。」
「あー。話はどこまで?」
「あれは、馬か人か、対馬は5000リング。オートは?」
「泣きつかれました。とにかく、買う必要はない。
今は幸いに予算がない。笑って、金がないと言えばいい。」
「そうか。」
「ワイプの蜘蛛というのは?」
「ああ、そこに。今は寝てるんじゃないんですか?」
「なにを食べさせている?」
「最近はカンランと砂漠石ですね。」
「それを食べて作り出した糸に操りの糸が寄ってきたと?」
「ええ。たまたまかはわかりませんが。
しかし、これが公になれば、操りの糸の価値はなくなりますよ?」
「マトグラーサは知っているのだろうか?」
「対抗策は同時に調べるものですが、どうでしょうね。
砂漠に蜘蛛がいることは誰も知らない。知っていたとしても、
砂漠は閉鎖だ。弾丸のこともありますし」
「ワイプがあの大会の蜘蛛を確保していることは皆が知っていることだ。
狙われるぞ?」
「困りましたね。」
「困っていないだろ?いいな、ワイプ?二度目はない。愛しい人を泣かすな。」
「ええ、だから困るんですよ。」
ツイミがさらに顔色を悪くして戻ってきた。
「大丈夫じゃなさそうですね。」
「申し訳ない。・・・最近立て続けにわたしの兄弟が亡くなりました。
ええ、そうです。晩餐会に出ていない、弟たちです。
葬儀の手配はいつもスホーム様、スホームが行っていました。
地方に出向き、戻ると、なくなったとだけ。
永くはもたないと言われていたので、なにも疑問に思いません。
やはり父親なので、そっと葬儀を行っているのだと。
それが、ここ3年で立て続けです。離れで育った弟たちはもういません。
その母親たちも。母親も娘です。戻る実家はここだというのに。
姪たちも戻っている話は聞きません。
月々の手当てもまともに出ないのです、
息子、娘が亡くなれば、ここにいることもない。
スホームは見捨てられたんだと、笑っていたのです。
それが違うかもしれない!!」
「・・・売られたんでしょうね。」
「・・・・。」
「燃やして来ましょうかね。すぐには再建できないでしょう。
再建したとしても、本当のゴミ処理場だ。
湿地に捨てることはすでにできないんですから。
新しく作って閉鎖状態はできないでしょ?」
「それはいいが、匂いが広がる。風にのってコットワッツに来る。
愛しい人が、家から出なくなり、ずっと私の匂いを嗅いでるぞ?
・・・?
いいな!すぐ燃やそう!」
「・・・ダメですね。匂いが出ない方法を考えないと。」
「じゃーん!頑張ってる野郎どもに差し入れですよ!!
うわ、ちょっとむさいね。
え?ツイミさん顔色悪い?
まじない言ってみな?効くから。
ちちんぷいぷい、すっきりしゃっきりーって。」
「え?言うのですか?それを?」
「そそ、一緒にね」
『「ちちんぷいぷい、すっきりしゃっきりー」』
「どう?」
「うわ!すごい!」
「そうかそうか。それはよかった。これを食べればもっと元気になるよ?
スペシャルチョコパフェ!」
「愛しい人!それも最初に食べたかった!」
「うふふふ。これはわたしが食べさせてあげるよ。」
「!!素晴らしい!」
「とにかく食べよう。ああ、あの3人には早い。お酒たっぷり使ったから。
お酒なしは明日ね。はい、食べよう。」
深いグラスにアイス、クリーム、リンゴチップ。
そこに、モモ、ウリ、リンゴの実ととのり、ちょこれいとがかかっている。
白と茶色いものだ。キトロスの皮も彩りに。もちろん甘味だ。
それを長めのスプーンで食べる。
私の横に座った愛しい人があーんと食べさせてくれる。
2人だけなら押し倒していた。
彼女だけを見て味わった。
なぜなら他の3人は、声も上げずに泣いていたからだ。
むさくるしい。
「燃やすの?」
「そうです。やはりよろしくないとわかったので。こっそりと。
しかし、ゴミ処理場だったんで、匂いが広がる。なにか方法ありませんかね?」
「んー。ぼこんと海に捨てる?ちょっと、大きすぎるか。常識外だね。
ああ、植えた茶葉を緑の石で最大に成長してもらって、
もったいないけど、それごと燃やす?
建物の外壁は海に捨てる。イリアスの東の海に。」
「緑の石?」
「うん、そういうのがあると思ってくれれば。」
「そうですか。しかし、あなたに負担がかかりすぎますね。」
「そうだ。師匠だからといって武と関係ないことに弟子を使うな。」
「そうですよね。では、石使いとして雇いましょう。どうです?」
「おいくら万円?」
「へ?」
「いかほどで?」
「300リング」
「すごい!どうマティス?」
「・・・私はまったく稼げていないな。情けない。」
「え?2人でだよ?建材の移動は2人でするんだよ。
あの海を知ってるのはわたしたちだけだからね。
あそこは漁場にもなってなかったし、岩場ができれば魚も増えるよ?
いいんじゃないかな?」
「2人でか。ならいいな。ワイプ!感謝しろ!」
「ええ、もちろん。」
「・・・でも、あの中に2人の気配以外の人がいたよ?
20人ぐらい?あの人たちは?
あと、虫もいるでしょ?」
「その20人は軍部で預かります。」
「虫は?たぶん蜘蛛だ。ね?蜘蛛ちゃんそうでしょ?
砂漠に帰ってもらってもいい?そう、じゃ、よかった。
・・・・蜘蛛ちゃんは?ふふふ。うん。わかった。」
「なんと?」
「砂漠に戻してくれればいいって。あと蜘蛛ちゃんは
もっとうまいものを食べたいから帰らないって。」
「わかりました。蜘蛛の移動はわたしがしましょう。」
「軍部に戻ります。受け入れ場所を確保してきますから。
モウ、また呼んでください。」
「うん。」
「ツイミはどうします?ここで待っていてもいいですよ?」
「いえ、ご一緒に。」
ゴミ処理場に移動すると、馬車が1台止まっていた。
慌てて、小さな膜を張り隠匿もかける。
3頭の馬で引いてきたのか、2頭が外される。
あの5人だ。
ん、リグナだ。
あとは?ツイミさんが乗っていた馬だ。
「ツイミさんの馬でしょ?あれ?」
「そうです。どうしてここに?
!!!!ワイプ様!」
「ええ。」
「?」
その2頭が中に入れられる。
「マティス!ダメだ。殺される。呼ぶよ!」
「まだ駄目だ。あの5人が帰ってからだ。」
「なにいってんの!死んじゃう!」
「大丈夫だ。ほんとうだ。すぐには死なない。」
「モウ、我慢して。」
「・・・・。」
「馬に言ってやれ、助けるから抵抗するなと。じっとしてろと。」
(リグナ!モウだよ!今外。助けるから、我慢して)
(うん。大丈夫。抵抗しないで、じっとして、隣の子も聞こえる?)
(大丈夫、恐怖もない、痛みもない)
(うん、うん。そのまま倒れていい。うん。じっとして)
(ツイミさんもいるよ。そう。うん。寝てていい)
(うん、リグナ、リグナ、うん、寝てていいんだ)
(うん、おやすみ)
「師匠!」
「待ちなさい。先にガイライ殿を。」
(ガイライ!呼ぶよ!)
(え?どうぞ)
『ガイライ、ここに』
「ガイライ!リグナが!」
「リグナ?どこに?」
「中に入れられた。たぶん、気絶してる。5人が出るまで待てって!」
「・・・モウ、落ち着いて。」
「愛しい人、おいで。」
「マティス!」
マティスにしがみつく。
早く、早く。
「マティス、あの5人、殺しちゃおう。」
「だめです。今はダメです。」
「じゃ、後で?」
「あとで、きっちり。わたしが始末しますから。」
「・・・うん。」
「もう少し。」
「ツイミさん、あの馬なんて名前?」
「ナルガです。」
「モウ、呼んで!」
膜を外し、2頭を呼ぶ。
『リグナ、ナルガ、ここに』
腹を刺されたか、血がどくどく流れている。
『リグナ、ナルガ、優秀なる馬よ。
血は止まり、痛みもない。美しき体に。
筋肉、神経、骨、すべて元通り。力みなぎる体に戻れ』
糞?泥だらけの体もきれいになった。
傷もふさがっただろう。
『風よ、ここにある糸を紡いでおくれ』
よこでマティスが糸を集める。糸か。
2頭の馬が嘶きとともに起き上がる。
少しの泉の水をだす。
「がんばったね。これ、ちょっとだけだけど、飲んで。
うん、ちょっとだけ。
あとは、おいしい水。うん。これね。
たくさん飲んで。うふふふ。もう!いま死に掛けたんだよ?」
こんなうまい水が飲めるのなら死んでもいいんだってさ。
「師匠?ここって馬を殺すところ?」
「そうですね。処分場ですね。」
「2頭とも元気なのに?なにかしたの?」
聞けば、ツイミさんが辞めて、怒り心頭の領主が
ツイミさんがかわいがってた馬を売ったそうだ。
リグナはここに連れていく馬は、
二度と戻ってこないのを知っていたので毎回暴れたそうだ。
そうしたら、自分が連れていかれる立場になっていたと笑っていた。
「笑い事じゃないよ!」
うまい茶葉を食べたしもういいかな、と。
「あれ、3番だよ?もっとおいしいのあるの!
食の祭りに来るって約束してたのに!」」
「リグナ。」
リグナが嘶く。
「ああ、聞こえるよ。久しぶりだ。よかった会えて。」
ちょっと!人と馬ってなんかいい!
ツイミさんとナルガもいい!
いやいあや、そんなことよりも。
「マティス、師匠?
傷は結構深かった。あれでどうして死なないって言いきれたの?」
「糸ですよ、死なないっていう力が働くんです。」
「・・・師匠も?あれ、やられてすぐじゃなかったの?」
「だいぶたってますね。ああ、どれくらいかはわかりません。」
「・・・どうして呼ばなかったの!」
「マティス君にも言われたんですが、呼ぶことも考えられないんですよ。
ただ、血が流れているな、冷たいな、ということだけ。
そしたら、懐炉があったかくて、朝ごはんのことを思い出したんですよ。
それを作ってくれる、かわいい弟子たちもね。
しかし、思い出すだけで、呼ぶことが出来なかった。
それに気付いてくれたんですね。本当に感謝してますよ?」
「・・・わたしより、朝ごはんを思い出したんですね?」
「ああ、そうですね。ふふふ。おいしいものとモウは同じですよ。」
「おいしいものができたら必ず食べてもらいます。
今度こんなことがあっても大丈夫なように。」
「愛しい人、大丈夫だ。2度目はない。」
「うふふふ。さすが、マティスだ。うん、マティスも心配だものね。
弟子夫婦は師匠を守らないとね。」
「・・・。」
「へ?」
「さ、人を先に移動しましょう。ここに呼びます。
おそらくひどい匂いです。モウ?
きれいにだけしてもらえますか?」
「わかりました。」
『生きていける人間、ここに』
20人ほどがドサドサと来る。
『きれいに。しばし眠れ』
『風よ、ここにある糸を紡いでおくれ』
「罪びと?」
「わかりませんね。ガイライ殿?」
「ええ。向こうでニックが待機しています。」
「モウ、わたしの掛け声で目覚めるようにできますか。」
「ああ、そのほうがいいね。」
『眠れ、深く。憂いなく眠り、ニバーセル軍部隊長ガイライの声で目覚めよ』
「多分これでいいと思う。名乗りを上げて、声を掛けたら起きるよ」
「ありがとうございます。」
『王都、軍部、ニックの元へ』
20人が消えていく。
ガイライも移動した。
あとは師匠が蜘蛛を移動。
これはわたしは見ていない。マティスの背中にへばりついている。
ツイミさんの
「ひひゃっ!!」
という声で十分だ。
マティスにカンランを出してもらっていた。
蜘蛛ちゃんを介して蜘蛛たちと取引をしているのか?
うー、蜘蛛使いワイプだ。
あとは建物の外壁、石積みを
みなで分担して解体。戻ってきたガイライもだ。
移動は基礎体力に左右されることが分かった。
ツイミさんは、ほぼ役立たずだった。
そしてイリアス東の海へ移動。
この時点で匂いが外にでるので、砂漠石の膜で覆う。
緑の石で、茶葉に最大限に成長してもらう。申し訳ない。
しかし恐ろしく成長。刈るからあの大きさなんだ。
煙抜きの孔と、空気孔を開けて、火をつけた。
ツイミさんが膝をついている。
体力の限界か?
違うな、祈っている。
・・・ああ。
砂漠石の膜ごと燃える。
お茶の匂いが立ち込め、
あっという間に燃え尽きた。
「これ、ここにあるもの、全て海に送れますか?
地面の土ごと。」
「・・・ええ、目で見えているので。」
「お願いします。」
『燃え尽きし者たちよ 月沈む海に還ろう
母なる海に身を委ね 永き旅路に旅立とう
そなたたちは自由な旅人 次の輪廻を待てばいい
なにも憂うな なにも嘆くな
ただ、こころ安らかに つとめ上げたのだ
なにも憂うな なにも嘆くな
送りしものが宣言しよう
そなたたちはつとめ上げたのだ 憂いなく旅立ったのだ』
スッと黒い塊は消えていった。
後には抉れた土のみ。
「モウ?」
「・・・・。」
「愛しい人、おいで。」
「うん。」
「先に宿に帰る。」
涙は出なかった。
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