いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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263:干物

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「愛しい人?どうする?今日はこのまま寝ておくか?」
「んー?」
「もうすぐ月が沈む。」
「じゃ、起きないと。」
「あと5ふんか?」
「んー、うん、抱っこして?それで5分。ゆらゆらして?」
「こう?」

寝起きの彼女はかわいい。
今日の希望はゆらゆらだ。

彼女を腹の上に乗せ、抱きしめ、ゆらゆら腰を振る。
落ちないように、ゆっくりと。

「うふふふふふ。重い?」
「重さなぞないな。」
「んー、起きた。よいしょっと。」

そのまま私の上にまたがり、彼女は口づけを落とす。
満足そうにわらうのがかわいい。

「シャワー浴びてくる。マティスは?」
「私は先に浴びたよ。やきうどん?それを作っておこう。」
「うん、固めに茹でて、バターとお醤油で炒めてね。すぐに手伝うから。」


彼女のつくったうどんを湯がき、サボテン、赤菜、脂身が多い肉と一緒に
乳酪とオショーユと炒める。
何とも言えない香が漂う。
おこのみやきを作る平たい鉄板で焼く。

「あー、いい匂い。朝から贅沢だ!
鰹節が欲しい!」
「前にも言ってたな。魚を乾燥させたものか?」
「うん、干物でもないのよね。すごく手間がかかってたと思う。
素人じゃできないね。煮て燻して乾燥させてカビを付けるんだったかな?
で発酵だったかな?
それを鉋で削るの。んー、そもそもあの魚じゃないとおもうし、
カビ、微生物がわからん。
ダメもとで作ってみようかな?
干物はできそうだしね。魚の切り身って買ってたっけ?」
「切り身ではないが、ドーガーとコンブを取った時に
数匹の魚は取ってあるな。それで試してみるか?」
「うん。あ、でも、ここではなくて外でしよう。
お魚は捌ける?」
「ああ、大抵のものは捌ける。軍では新人の仕事だ。」
「おお!素晴らしい。じゃ、お願いしようかな?
捌くのはまだ抵抗がある。」
「ああ、お前がすることはない。何だったら、私だけでするぞ?
ドーガーも顔色を悪くしていた。」
「いや、それはダメだ。よこで、腰を持って手伝う!」
「ああ、あの手伝いな。あれはいいな。では手伝いをお願いしよう。」
「アイアイアサー」


やきうどんはうまかった。
卵をのせてくれというので、のせれば更にだ。

まずは暖かい格好をして準備。
毛皮まではいかないのでタロスの一番暖かいものを着込んでもらう。
何を着ても彼女はかわいい。

またしても扉が開かないので、上に移動。
同じように扉君が埋まってる。

しかし、蜘蛛は出てこなかった。
月が昇る間際が活動時間なのだろうか?

「とりあえず、半分まで進もう。」
「月が無いけど方向はわかるの?」
「そうか、コットワッツと違うからな。方向は・・・わからん。」
「あはははは!今現在進行系で遭難してる!」

笑いながら言うことではないんだがな。
なぜかものすごく喜んでいる。

「夜に進むしかないか。」
「方位磁石とかないの?てか磁石ってしってる?鉄にくっつくの奴。磁鉄鉱。」
「じってこう?慈石のことか?」
「じせき?たぶんそれ。あれって糸で吊るしたら一定の方向を示さない?」
「いや、知らない。鉄鉱山で同じように出るなとしか知らないな。」
「そうか。ここにもあるかな?」

『磁性を有する磁鉄鉱。ここにいるなら姿を見せておくれ!』


砂がサラサラと動き、きれいな八面体が3つほど現れる。

「海峡石の黒?きれいだね。」

鉱山で出てもこれは避けられる。
しかもこんなに整った塊ではない。
鉄分を含んでいるようだが、溶けないのだ。
なのに鉄にくっつくので邪魔もの扱いだ。


「おお!くっつくね。磁石磁石。
てか、強力だね。それで、こうね、ひもを付けて、あ、ちょっと布で巻いて、砂の上を引っ張ると。」

ひもをくくりつけ、それを絹地で巻き砂の上を引っ張て行く。

「ほら、これが砂鉄。」

引き揚げた磁石に、小さな黒い砂がついている。
不思議だ。

「それで?それがどうやったら方向が分かるんだ?」
「ああ、また話がそれたね。えーと。それは月が昇らないと結局どっち向いてるかわからないから、
今日はここで過ごそう。
へたに動いて、ルカリアかマトグラーサのほうに移動しちゃうのも
良くないしね。
うん。今日は蜘蛛の観察と、影の観察、魚の干物づくりだ。
あ、影!ほんとだ。黒衣と薄衣。なるほど、濃いのと薄いのね。
んー、光源がよっぽど大きいということかな?ずっとこの大きさだよね?
日が傾くわけではないし。へー。
・・・知ってる?影縫いって?」
「知らない。」

「うふふふ!」

あ、この笑い方はろくなことがない。

「忍法!影縫い!!」

彼女は飛び上がると、足元に以前作った武器を打ち込んできた。


「影を縫った!お前は動けない!」

え?動けない?
言霊?
違う。

「あれ?ほんとに動けない?言霊は使ってないよ?」

彼女は足元の武器を拭く。

「なんだ?今のは?にんぽう?かげぬい?」
「あー、こっちはこう、わたしが言ったことがほんとになるからね、
無意識に言霊になったのかな?
こう、忍びという職業があってね、その方たちが使う技。
影縫いは暗示なのよ。むかしは影にも自分の魂があるって思ってたから
動けないって言われれば動けない。言霊とはちょっとちがう。」
「やはりお前の世界は不思議だな。」
「んー昔のはなしと作り物の話があるから、影縫いは作り物の話だとおもうよ。
でも、ちょっと実験。」

もう一度私の前に座り込み、サクリと武器を刺す。
薄衣に刺さると動けない。何も言ってなくてもだ。
彼女の武器に力があるからなのかと思ったが、私のナイフでやっても動けなかった。

「この砂漠だけだと考えた方がいいだろう。
こんなことで動けなくなるもなら、砂トカゲも狩り放題だ。
戦場でも、皆が飛び道具を使うだろう。銃ではなく、弓矢をな。」
「そうか。ここだけにしかないもの?
蜘蛛?あー、操りの糸関係?細かい糸が砂にあるとか?
で、マティスの武器も私の武器も砂漠石。
鉄で作ってやってみようか?」

鉄ではダメだった。
ここの砂地と砂漠石の武具。
月明かりの下では薄衣はでない。月が沈んだときだけか。

「んー、月明かりの場合は後で確かめよう。
で、砂ももらっていこう。もちろん、蜘蛛無しで。」
「砂をどうする?」
「ん?砂をばらまいたところに極悪人が立ったら、
それこそ”忍法影縫い”が使えるよ。
しかも、原理はわからないはず。これぞ忍法!ニンニン!」
「なるほど。その、にんにんというのは?」
「あははは!聞かないで!そういうものだと思ってて!!」

かわいく照れているからいいだろう。




蜘蛛は観察するが、近くに来られるのは嫌だと、
支柱を建て板状した砂漠石を敷いていく。その上に台所を作った。
寒くないように砂漠石の膜で覆う。


「なんか、お間抜けなことしてるなーってちょっとだけ思うんだけど
気のせいだと思っていてもいい?」
「もちろん、気のせいだ。」
「うん。」

かわいらしくうなずく。それだけで、今日のこの作業は必要なものだ。


魚の解体にでた血は砂漠に落としてはいけないという。
「なぜ?」
「んー、なんか、砂漠で動物の解体で血を砂に吸わせちゃだめって
なんかでみたような?穢れだからか、血まで利用するかは忘れたけど。
それに、もし、それに蜘蛛が寄ってきたら、この砂漠滅びるよ?」

それはダメだ。
廻りがどうなってもいいが、それをした後、彼女は落ち込むであろう。
それが問題だ。

「わかった。汚れはまとめて後で捨てよう。
魚の皮も使えるだろう。地面に敷けば休憩するときに使えるだろう。」
「おお!そうれはいい考えだ!
じゃ、お手伝いするよ~。」


彼女が後ろから抱き着き、作業の様子を見ては、
うーとかいいながら私の背中に顔を押し当て。
匂いを嗅いでいる。
素晴らしい手伝いだ。

血と内臓、皮と分け、さっと水で洗う。
汚れたものは専用の袋に入れた。

「切り身だね。うん。これはいいね。
ちょっと小麦粉はたいてバターで焼くとおいしいかも。
それは後で食べよう。ちょっと棚を作って干しておこうかな。
んー、タロスの木の枝もらっていい?」
「ああ、かまわない。切ったほうが木にとってもいいからな。」

植物園をそのまま砂地に広げる。
小さな森のようだ。

同じようなものを横に作り、呪いの森の植物園も作っている。

「水はどうしようか?
 砂漠石か、海峡石か、泉の水か。
マティスの植物園はいま海峡石なんだよね。
とりあえず、おんなじ海峡石にしようかな。」

『植物たちにおいしいお水を出しておくれ』


上に浮かせて水を撒いている。
すぷりんくらあ方式だといっていた。



タロスの木から枝を切り、簡単に格子状態に組む。
この上に魚の切り身を並べていく。

「うん、なんか違うというのだけはわかる。
ああ、塩を振っておこうか。うん。」

なにか一人で納得はしている。
かわいい。今日はなかなかに良い日だ。


「さ、マティス。水も勝手に止まるし、風は吹かないでしょ?
月が昇るまで、ここいらを散歩しよう。
目印があるから迷子にもならない。
飛ぶよ!それで鍛錬だ。空中戦だよ!」
「それは面白い!」


愛しい人はいつも私を楽しませる。
なんてかわいいんだ。







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