いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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257:緑の絨毯

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「戻るのか?」
「うん、こっそりだけど。館の区画の裏が森だったでしょ?
どこの領土でもないんだって!知ってた?」
「ああ、呪いの森って言われてる。早い話が、そこには金になる資源がないんだ。
調査に出向くだけ損をする。まさに呪いだ。」
「でもさ、コク、あの黒い馬ね、コクはさ香木見つけて来たよ?
それに、北って、その方向でしょ?その森抜けてマトグラーサの砂漠抜けて、
イリアスに行こう。そうすれば人に会うことも少ないしね。
マトグラーサの人もルカリアの人にも会いたくないしね。」
「なるほど、確かに王都から森を抜け、砂漠を進めば街を通らずイリアスだ。」
「ね?食料は十分でしょ?ここからだと徒歩でどれくらい?」
「徒歩か。そうだな、10日ぐらいか、もう少しか。会わずの月の日はまだ砂漠だな。
マトグラーサの砂漠は大きい。コットワッツよりもな。」
「そうか。じゃ、また星が見られるね。」
「ああ、そうだ。楽しみだな。」



まずは、鶏館の場所まで移動する。
館より小さい、しかし、しっかりした師匠の家が奥に建っている。
その周りはこの区画の森。
コクが散歩したのはこの奥、なにかほかにあればいいな。
扉君を出して、砂漠の民の服に着替える。
上着はトックスさんが作ってくれた緑に染めた砂トカゲの襟の服だ。


「なにもないと思うぞ?あれば王都の管轄になっている。
香木はただ見つけられなかたんだろう。
見つけられるのはあの黒馬だけだとも聞いた。
セサミナの話ではボルタオネの森林管理は香木管理も入ってるそうだ。
かなり前から取れなくなったようだがな。
それが王都の裏の森に有ったことをしったら、さぞかし驚くだろう。
ただ、香木のことはワイプもガイライも知らなかったようだ。
王都、領国領主、管轄のボルタオネのみだけの話なんだろうな。」
「そうだね、だからコクは黙っとけっていったんだ。
そんな話はきっといろいろあるんだよ。
知らないで済むんならそれに越したことはない。
香木、伽羅や白檀は高価なんだよ、詳しくは知らないけど。
でも、いい匂いだよね。あとで炙ってみよう。」
「危ないのでは?」
「んー、今の時点でマティスはいやな感じしないでしょう?
言霊でなんか制御しておけば大丈夫なんじゃないかな、たぶん。」
「ははは!たぶんか!そうだな、それはまたあとでやってみよう。」

そんな話をしながら区画の森のはずれまで来る。
一応、敷石がぐるりと囲っているが、2mほどの土道ががあり、
その先はまた樹の種類が違う
森がある。

「どう?いやな感じする?」
「いや、なにも。」
「うん、わたしも。逆になんかありそうでわくわくするね。」
「そうか?」
「うん、なんかあるね、たぶん!」
「ははは!たぶんか!」



森に進んでいくと、うん、森ではなく林。
もちろん、道はない。コクが通ったあともない。
あの大きさなら、こう、枝がバキバキなってもおかしくないと思うのだが。

膝より低い草があり、ゆったりと樹が大きく伸びている。
葉ははるか上空に合って、
薄暗いが、草が育つだけの光は届いている。
それに、湿度が高い。

「コクが通った道が残ってると思たんだけどね。」
マティスとは手をつないで歩いている。
「ああ、ここはすぐに元に戻る。ほら」

マティスに促され振り返ると、踏んできた草はもう起き上がっている。

「おお!なに、この草が強いの?」
「しらん。」
「ほんと、研究しないよね、ここの人は。
ちょっと取っていこうか。マティスの植物園とは別にモウの不思議植物園を作ろう。」
「別にいっしょでもいいぞ?」
「いや、もしかしたら爆発的に増える植物かもしれないし、
植物同士で相性が悪いかもしれない。
ドームを作ってそこで観察してみるよ。もし、なんかまずかったらそのドームごと、
ここに返せばいい。」

しかし、この下に生えている草、数種類と大きなまっすぐな樹しかない。
んー、ほんと何もない。コクはどこから見つけてきたんだろう?
でも、きっとこの樹が変化して香木になったんだよね。
もっとセサミンに聞いとけばよかった。


静かだ。
2人が歩く音しかしない。
ザク、ザク、ザク。

「何もないね。」
「そうだな。」
「でも、むあんって湿気てるよね。
ここも雨の日しか、雨は降らないの?」
「この大陸ではどこも同じだ。北は雨ではなく雪が降るがな。」
「じゃ、このジメジメした感じは雨が降ったからじゃないんだ。
地面もさ、ぐじゅって湿ってるけど、これ、前回の雨の日に降った雨を
ずっと保ってる訳じゃないでしょ?
どこかに水脈があるのかな?」
「それはどこかにあると思うぞ?タロスの家にも井戸が合っただろ?
雨は降らないが、井戸が枯れることはない。」
「そうか。やっぱりどこかに水脈があるんだね。
あ!倒木がある。ちょっと休憩にしよう。」

半分土にのめり込んでいる木に腰かける。
緑の絨毯の中でコーヒーブレイク。

「ここは虫も動物もいないね。ちょっと生態系的におかしいけど、
だから資源がないって判断してるのかな?」
「どうだろうな?ここで香木が取れるとわかれば
すぐにでも領土となるだろう。未開の土地は先に申請すれば領土となる。
そうなると土地の大きさで18か国での負担金が増える。
何もなければ申請するだけ損だからな。」
「18ヵ国での負担金?」
「そうだ、硬貨を作ったり、南への遠征費用だったり。
基本的には砂漠は領土にはならない。皆のものだ。
接している領国のものだな。
今から縦断する砂漠はコットワッツの砂漠と同じぐらいだがニバーセルの領土ではない。
イリアスとジットカーフにも接している。が、ほとんどがマトグラーサとルカリアだな。
ジットカーフとイリアス側には深い渓谷があるから。」
「そうか。じゃ、この森抜けて、渓谷超えて、イリアスに入ろう。」
「渓谷を超える?そうか、飛べるものな。そこも未開の土地だ。
誰も入ったことはないんじゃないかな?」
「おお!冒険だね。んじゃ、ここの植物群を採取しよう。」

といっても、倒木を含めた範囲を砂漠石の膜で囲って収納するだけだ。
一応植物たちに聞いてみるが、ここから出たことがないし、他の植物?なにそれおいしいの?状態だった。
なにか双方にまずいことがあれば、ここに戻すと約束をしたが、
いまいちわかっていないようだった。香木のはなしも聞いたが、
あまりよくわからない。そもそも動く何かを感じるのは久しぶりだといわれた。
じゃ、黒い馬は?と聞けば、そういえば見たような?という師匠よりもひどい記憶力だ。

10畳ほどの範囲を収納。土も一緒。
なんか、ここだけ茶色い地面がむき出しなのが、申し訳ない気がした。
「愛しい人!」

マティスが抱きかかえて空に浮く。2Mほどだ。
「え?」

下を見れば茶色と緑の境界がゆっくりだが内へと進んでいく。
早送りの成長記録のようだ。

「うわー、これはすごい。植物も生き物なんだけど、動物みたい。
ん?そもそもこれは植物?定義がわからんね。」
「私も初めて見た。」
「これ、砂漠に植えたらいっぺんに緑になるんじゃないの?
あー、でもそうか、この世界は砂漠が必要だから、
この植物群は外に出しちゃだめだ。コットワッツの砂漠も同じだよね?」
「いや、綿花を植えるし、そこで草原サイが食べる植物も植えるつもりなはずだ。
砂漠石が取れないのなら砂漠である必要はない。」
「そうか、でも、その開発が進んだら砂漠石は取れなくなる?600年かけて
砂漠石はできるんでしょ?」
「なにも全部を綿畑にするわけではないからな。」
「そうか、そうだね。あー、これの植物群、どうしようか?
とりあえず、砂漠に出たら拡がるか実験しよう。」
「おそらく無理だろう。それで広がるならとっくに砂漠はなくなっている。」
「あ、そうか。ここの湿った土がいるのか。
じゃ、もう少し土を取っておこう。
倒木のところはまだ広がってないからね。ん?固い?
砂漠石でスコップ作っていい?あ、ん?これ、木片?匂いは?あ、するね!!」

土に埋まっている倒木が樹脂化して香木となったのだろうか?
その木片を持ち上げると、土からきれいな水が湧き出してきた。

「おお!まさしく天然水!スーとホーが喜びそう!
これ飲めるかな?」
「嫌な感じはしないな。」

湧き出る水はあっという間に小さな泉を作ってしまった。

「飲んでみたいけど、妖精のお酒で失敗してるからね。
嫌な感じはしなくとも、寝てしまったら怖いしね。
マティスが飲んで寝てしまったらどうしていいかわかんないし、
逆じゃマティスがなにをするかわかんないしね。」
「ワイプだな、あいつに飲ませばいい。死んでもそれは仕方がないことだ。」
「ほんと、マティスは師匠大好きっ子だね。」
「なぜそうなる?」
「ん?うふふふ、いいから!といって、師匠に来てもらう?
持っていく?さっき別れたとこだからね。それはちょっとね。
ここを覚えておいてまた今度?でも、今飲みたいな。」
「愛しい人はこういうことにはどん欲だな。」
「もちろん!ちょっとわたしが飲んでみる!
で、もし寝ちゃったりしたら、とりあえずガイライんとこ連れていって?
師匠のところだとセサミンがいてるから心配かけちゃうしね。
で、死んじゃったら、うーん、ごめん。」
「死ぬのか?死を覚悟して飲まないといけないのか?」
「いやいや、例えばよ。そんな感じはしないよ。わたしもわかるから。」
「ああ、もし、死んだら私も飲むだけの話だ。」
「うふふふ。じゃ、飲むね。」


手に掬って飲んでみる。ああ、冷たい。おいしい。
今まで飲んだ水の中で一番だ。
日本で売りだしたら売り上げNO1だ。

「はー、おいしい。うん、大丈夫。
うちのお水に決定!っていうぐらいおいしい。」

わたしを後ろから抱えていたマティスも掬って飲んでいる。

「ああ、ほんとうだ。うまいな。」
「ね?汲んでいこう。セサミンに渡した水筒と同じ型があるから。
水を飲むときはここから飲もう。」

どんどん水を移動していく。
際限がないので、もういいだろうというぐらい。

「これ、この泉とつなげればよかったね。
そしたらいつでも飲める。」
「しかし、ここの植物群は成長速度が速い。すぐにでもなくなるんじゃないか?」

そうマティスが話している間に水は引き、緑の絨毯が出来上がっていく。

「ああ、自然は強いね。一瞬だったね。
香木を見つけたご褒美か、自然に湧く水を取りつくした盗人か。
んー、大事に飲みます!」
「あははは!それでいいとおもうぞ?」
「うん。しかし、ここの人はほんと調べないね。なんだろ?
あるがまま受け入れている。うん、それはいいことだと思う。
ここで香木が取れることを知ったら、香木の作り方を知ったら、
ここのこの景色はなくなるし、香木の価値も下がる。
ここの植物群も枯れるかもしれない。」
「私たち2人が知っただけだ。これを商売にするわけでもあるまい?」
「うん。よりよく、よりおいしいものを!これで行こう。」
「ああ。このまま進むか?」
「そうだね。月が昇る前に砂漠にでる?
ああ、ここも会わずの月の日はまたちがった様子になるかもしれないね。
そのときはここも身に来ようね。ほんと、移動ができてよかった。」


ザクザク進んでいく。同じような景色が広がるだけだった。
ただ、所々で倒木があり、あれがまた香木になるのだろう。

森を抜けるとそこは砂漠。
まさに砂漠だった。




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