いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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224:すき焼き

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目が覚めると、お布団の中でした。

倒れた後のあらましも教えてもらいました。

「彼、ガイライは最後に所属していた部隊長だ。
ニックと同じでかわいがってもらっていた。鍛錬のほうで。
拳術を使うとは知らなかったな。耳も聞こえないというのも知らない。
南の遠征の前にわたしは除隊したから。」
「じゃ、かなり前だね。それからじゃない?拳術は。」
「そうか。」
「うふふふ、ほんとにモテ期だね。どうする?」
「本心なら倒すまでだ。余程声が聞こえたのがうれしかたんだろう。
一度なくし、それが戻ったら、2度と失いたくない気持ちはわかるからな。」
「そうだね、悪いことしたな。でも、たぶんすぐ直るよ、あれ?」
「お前の言霊でか?」
「ううん。大きな石に耳が治るようには願ってたんだって。」
「それで、治らなかたんだろう?」
「いや、頼み方が悪い。耳は治ってるよ。」
「ではなぜ聞こえない?」
「耳がよくても耳栓したら聞こえないのといっしょ。耳垢が詰まってるんだよ。」
「それだけで?」
「うん。そういうのあるのよ。綿棒作ったでしょ?
あれでさ、耳を掃除するときに気を付ないといけないのは
垢を奥に押しやってしまうことなのね。
耳かきも気を付けないと。
だからきっと、耳が聞こえるようにって小指のさきより小さな石に願ったら、
それと同じぐらいの耳垢が出て来るんじゃない?」

とにかく、わたし以外はみな本選に出ることになった。
お祝いです。すき焼きです。

「おかしいです!姉さんが出れないなんて!」
「そうだな、奥さんすごかったぜ?
俺の廻りは大盛り上がりだった。抗議しに行こうっていうものもいたぞ?」
と、トックスさん。
「ははは!もう十分だよ。今度はセサミンの横で着飾って応援するよ?
営業!営業!」
「姉さん!さすがです!!」
「では私も出ない!横にいる!」
「いや、マティス、そもそもこれはマティスの剣技が見たくて始まったことだからね?
見せてよ?応援させて?」
「うむ、わかった。しかし、セサミナと2人だろ?良からぬものが近づいたらどうする?」
「ああ、大丈夫ですよ。わたし、棄権してきましたから。」
「え?師匠?どうして?」
「いや、十分でしょう?あの5人は完全にわたしの手足になりましたし、
別に武の一番を目指しているわけでもない。ガイライ殿が残っていれば出ましたけど
我が弟子モウが倒しましたしね。あの試合中、なにか会話していました?」
「さすが師匠です!わかりましたか?」
「間がおかしかったですよ?」
「ええ、傍にいてほしいと。マティスの半身だと断ったんですが、
ならば奪うまでだと。モテ期ですよ!」
「姉さん!兄さんは落ち着いて!!」
「セサミナ、お前が落ち着け。」
「え?兄さんが普通だ。」
「本心ではないからな。ほら、その本人が来たぞ。ドーガー、迎えに行ってやれ。
屋上に連れてくればいい。」
「いいの?」
「ここまでこれたのなら害はないのだろう。」
「そうか。お嬢も来てないしね。いっしょにご飯を食べよう。」


「お連れしました。」
「セサミナ殿、ご無沙汰しております。
 ルグも、ドーガーも腕をあげたな。お前たちを推薦したものとして鼻が高い。」
「ええ、ルグとドーガーはわたし、いえ、コットワッツにとってかけがえのないものとなりました。
良き者たちを推薦していただけました。感謝しております。」

へー、推薦されてコットワッツに来たんだね。

「マティスか、息災のようだ。先程の試合時のことは他言無用に願いたい。
それを頼みに来た。」
「どうぞ、顔をあげてください。改めて妻を紹介させてください。
モウ、こちらに。
私の妻、モウです。モウ、こちらは仮入隊時に世話になった部隊長、ガイライ殿だ。挨拶を。」
「妻のモウです。先ほどはありがとうございました。拳術の奥深さをさらに知ることが出来ました。」

ガイライさんはやはり言葉が分からないのだろう。
悲しい顔をして軽く横に首を振った。

「ガイライ殿。」

師匠が声をかける。気配でわかるのか、師匠の方を見る。

「モウはわたしの棒術の弟子でもあるのですよ。
拳術は不得手なので、あなたと手合わせできたことはさらなる武の向上となるでしょう。」
「ワイプ。そうか、ワイプがそういうのなら、それはよかった。しかし、失格となったと聞く。
これはわたしの方から異議を申し立てれるがいかがする?」

首を振って断っておく。

「そうか。」

「ガイライ殿、これを。」

マティスが小さな砂漠石を渡す。
「?」
「妻、モウが言っている。治せではなく、聞こえるように石に頼めと。」
「!!なにを!!」
(マティスの言うとおりに、耳が聞こえるようにお願いします、と。)

わたしの顔をみて、また悲しそうな顔をする。
(さ、はやく。それで、みなでご飯を食べましょう。はやくしないと師匠とドーガーが暴れます。)
決してわたしがはやく食べたいからではない。

『耳が、耳が聞こえるようにお願いします。』

コン、コン、と、耳から石が落ちる。数十年級の耳垢。見たいけど、ばっちい。

「あ、あ、あ、あ、、、」

廻りをみて、音を確かめているようだ。
タロスの木のざわめき、24時間ぷくぷくいっているジャグジー。
先にテーブルついて一杯やってるトックスさんが2杯目を入れようとする音。

「数日は平衡感覚が乱れると思いますが、すぐになれますよ?」

そう声を掛けると、抱き付いてきた。
それを許すマティスではない。

すぐにトランポリンまで吹っ飛ばす。
そこに沈んで、声をあげて泣いている。
え?ちょっと頭打ったんじゃない?

「マティス?」
「大丈夫だ、落ち着くまでほっておけ。さ、飯にしよう。
説明がいるのだろう?」
「そうそう、今日はね、お祝いだからすき焼きね。
お肉だけど、焼肉とはちょっと違う。うちではお祝いの食べもなんだ。
説明するよ。」

すき焼きの食べ方を説明する。うちは関西風。
脂身を溶かし、お肉を焼き、砂糖、お醤油、日本酒をいれ、
野菜、赤菜と呼ばれる白菜をいれ、卵をにつけてどうぞ。

草原サイの一番おいしところの薄切り。うまい!!
お豆腐がないのが残念。







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