いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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始まる試合。
向こうは剣でルグは槍だ。

「モウ殿わかりますか?
ルグの呼吸は動きとは連動していない。どう動こうが一定の呼吸ですよ。
彼も天才型ですね。」
「なるほど。」
「当たり前だ。いくら人手不足でも実力のないものが筆頭になれるわけがない。
セサミナ、良かったな。」
「はい!」

ルグが上に飛ぶのをここぞとばかり下から狙うが、
それは空中で身動きが取れない場合だ。
ルグは方向、角度を難なく変える。

利き腕を叩き落とし、腹部に裏先を叩きこんだ。

『ルグ、見事!!』

軽く型を披露し、
10リングを手にこちらに戻ってきた。

「ルグ、よくやった!」
「なかなかのものだぞ。」
「はい、ありがとうございます。セサミナ様、マティス様。」


「しかしなぜ、あいつの足元に私が転がったら愛しい人の顔が見ものなんだ?」
「さぁ?大爆笑するからじゃない?」
「ああ、そういうことか。愛しい人の笑顔はかわいいからな。」

「「「「・・・・」」」」

「さすが、コットワッツ筆頭ルグ殿だ。
マティス殿は彼の師になるのだな?素晴らしい。
では、マティス殿、よろしくお願いいたします。」



ああ、失敗した。
マティスがかっこいい。なのに芋ジャー。
どう見ても、運動会の演技に見える。
しかも髪もくくったまま。ピンクで。

「セサミン?」
「はい、姉さん。」
「衣装って大事だね。」
「え?動きやすそうですよ?」
「うん、これ以上動きやすいのはないと思うよ。マッパ以外。」
「マッパ、裸ですか?うーん、男の場合安定感がなくなるのでは?」
「あー、そうね、そうだね。」

せめて高原の民の衣装がいい。
できればトックスさんの服がいい。

「セサミン?あのさ、これが終わったら、帰るよね?」
「ええ、その予定です。テンたちをティータイに戻してから
トックスの店に行く予定です。」
「そうか。わたしたちはさ、このまま北に向かう予定なんだ。
えーと、イリアス?そこに。」
「はい。ニック殿を訪ねるのですね。」
「その前に、師匠の家を作らなきゃいけない。」
「はい。」
「お土産も買いに行きたい。」
「はい。どうしました?」
「うーん、師匠?」
「なんです?」
「これ、マティスが勝ちますよね?」
「ええ、もちろん。」
「次はわたしと勝負ーっていうのあるかな?できれば剣術で。」
「あるでしょう。ほら、向こうで、2番副隊長が見てますから。
彼は剣を使います。
ちなみにルカリは3番です。ずーっと離れての4番がブラナダです。」
「マティスが勝って、その2番さんがわたしも!ってなったら、明日に持ち越してもらえないかな?」
「?受けること前提なんですか?なぜと聞いても?」
「マティスがかっこいい。ますます惚れる!!」
「はぁ。」
「けど、服が、服が嫌だ!!もっとかっこいいのがいい!!」


あ、勝負ありだ。

「はぁ、はぁ、さすがです。追いつくのが精一杯でした。」
「いや、褒めたくはないがさすがニックの教え子といったところだな。
しかし少し体重が重いか?もしくは槍があっていないかだな。
昔のままの槍の長さ、重さか?それを選んだ時の体重に戻すか、
その体系に合った槍にするべきだな。」
「!ありがとうございます!!」

相手が礼を言ってるよ。

「愛しい人、どうだった?」
「うん、マティス、惚れるというのに限度はない!かっこよかった。なのに!なのに!」
「ん?」
「兄さん。姉さんはこの服がお気に召さないようです。」
「そうか?動きやすかったぞ?」
「うん、わかってる。わかってる。」
「?」

「セサミナ殿!」

師匠が言う2番副隊長が来た。どうでる?

「素晴らしかった。我々だけで見るのがもったいないぐらいです。
どうですか?大技場で皆に見てもらうというのは。
コットワッツで行われた武の祭りと、ラルトルガでの御前試合。
そんな武の競技をここ王都で開催したいと話をきいてからずっと思っていたのですよ。
ルグとドーガーも素晴らしかったそうだが、ワイプ殿の弟子の2人も素晴らしかったとか。
マティス殿の仮入隊時代のお話も聞いております。
20歳前でニバーセルにマティスありと言わしめた本人がここにいるんだ。
後世に残る武の大会になるでしょう。
いかがですか?」

(そこまで大げさなものはいやだな。)
(どうしますか?モウ殿?あなたが了承すればマティス君は2つ返事ですよ)
(なぜ2人で話が進んでいるんだ?何のはなしだ?)
(姉さん、すぐには返事できないし、ちょっと休憩したいっていいますから)


「カラーム殿、お久しぶりですね。
いつこちらにお戻りで?」
「ええ、セサミナ殿、先ほどです。ルカリの試合が始まる少し前です。
よかった、試合を見ることが出来て。
それで、今の話はどうですか?」
「ははは、カラーム殿も戻られたばかりなら、少し休憩をしましょう。
すぐにお答えできる内容ではありませんしね。」
 「それもそうですね。ところで、うちの隊長を見ないのですが。
こんな催しは一番前でいつもは観戦してると思うのですが。」
「ああ、ブラナダ殿に聞いてみてください。では。」


休憩と言っても鍛練場の端のベンチに座るだけだ。

「で?どういうことだ?」
「ああ、すごまないでください。モウ殿の希望なんですよ。
えーと、要約すれば、マティス君の剣技をかっこいい服を着た状態で見たい、と。
そうですね?」
「はい、師匠、そうです。」
「?では着替えて来ようか?それで、あの男は剣を使うようだから
ちょうどいいぞ?」
「どうせなら、トックスさんに作ってもらった服がいい。」
「作ってもらうのか?」
「意匠を作ってもらえれば、それで作れる。
でも、また御前試合みたいな大げさは困る。
コットワッツに帰るのが遅れるし、トックスさんにお願いしているローブも気になる。
マティスが頼んだドレスもきっともう作ってる。あの人はプロだ。
そこにまた仕事依頼するのはあまりにもひどい。ブラックな依頼主になっちゃう。
でも、でも、これが終わたら北に行くでしょ?
こんな華やかなところでかっこいいマティスを見る機会はないと思う。
芋ジャーでなければこんな思いはしなかったのに。せめて紺色!!」
「姉さん?コットワッツに戻るの遅れても大丈夫ですよ。
3日以上かかるのが一瞬なんですから。
トックスさんも商売です。きっと受けてくれますよ。
それに、コットワッツの印象をよくするのも仕事の一つでしょ?わたしはかまいませんよ?
そこで、兄さんの考えたドレスとコットワッツの宝飾類を付けた姉さんがいてくれれば
それもいい営業になる。」
「マティスどうしよう?」
「お前のしたいように。お前の望む通りに。」
「マティスは?マティスはどう思う?」
「私か?そうだな、服のことはどうでもいいが、剣は交えてみたいな。」
「師匠?どう思います?」
「面白そうですよ。ただ、明日にすると、うちの暗部あがりも1番副隊長も帰ってくる。
そうなると、ラルトルガのように総当たりになるかもしれません。」
「負けるってこと?」
「それはないでしょう。再びニバーセルにマティスありとなるだけです。」
「目立つってことか。」
「ま、逆にそこまで目立ってしまえば、変に絡むものもいなくなるでしょう。」
「奥方様はなにを戸惑っているのですか?」
「そうですよ。わたしもマティス様の剣技が見たい。」
「こう、ながされて、とかだったら、しゃーないかってなるけど、
今回は向うが言ってきたにせよ、
積極的参加になるのよ。そこが怖い、参加すれば後にひけない。
わたしは責任を持ったことがない。今まで一度も。
生まれてから一度もだ。
向こうでは母親がいた。仕事先の上司も。
独立してからも受けた仕事だけをすればよかった。
責任は元受けにある。
ここではマティスがいる。
セサミンも、ルグもドーガーも。
師匠も。
マティスはわたしの夫で、
セサミンは権力者で、
師匠はわたしの保護者だ。
わたしは守られてるのよ。ものすごく。
なのに、芋ジャーの色が悪いから服着替えて試合が見たいってなにそれ?でしょ?
わたしのわがままで、
もしも、万が一マティスが傷ついたらどうする?
セサミンに迷惑を掛けたら?師匠の名に傷がついたら?
責任もてない。重圧感がつらい。なにこのプレッシャーは?」
「ははは、姉さん、責任なんてないですよ。やるべきことをやればいいんだから。」
「そうですよ?なんでも楽しまなくてはいけません。」
「愛しい人?お前が気に悩むことなんぞない。
体を動かしきってないからだ。何だったらお前も参加すればいい。
対戦経験は必要だ。セサミナ、参加すると。できれば大々的に。」
「はい、兄さん!」

セサミンが向こうを見ると、2番さんが飛んできた。
しかし、体が重い。?

「マティス、わたしの服重い?」
「ああ、そのままだな。動くと気にならないがじっとしていると重く感じるか?」
「・・・はい、重いです。」
「モウ殿、そういうときはこう、座らずに腰を浮かべておくのですよ。鍛錬ですよ。」
「師匠も、マティスも重さはそのまま?」
「そうだぞ?」
「そのままですね。」
「そうかー、こののしかかる様なような重さはほんとの重さなんだね。
もう!早く外して!!」

はー、肩すっきり。

そしてニバーセルの武の大会。
少年誌のように大事になりました。
2日後です。

軍部主催なので、希望すれば王都軍採用、かなりの上位のポジションがもらえます。
賞品もでます。それは当日発表。
その後慰労会もあります。上位者は強制参加。
王族、貴族は正装で。
婚活も兼ねる。

これが各領主に通達されると、みなさん大騒ぎだ。
酒では失敗したが、今度は武だ。
筆頭も当然連れてきている。

とにかく、そういうことになり、
芋ジャー軍団は鶏館に帰ることになりました。



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