いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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186:鶏館

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砂糖芋はうまく焼けたようで、
かなりの繊維質だが、バターをのせてみる。おいしー。
コーヒーではなくお茶だ。
卵黄とラム酒とを混ぜで、もう一度即席で作った窯の中で焼いてみよう。

「茶店ってないの?食堂ではなく、こういうコーヒーとか軽食とか
甘味だけを出すお店なんだけど。」
「ないですね。店ということ売るということですよね?
家で飲めばいいので、そんなことは誰もしません。プリンも
食堂の一品です。」
「そうかー。でもさ、プリンとか、このお芋とか、フルーツタルトとかだったら
お金出しても食べたくならない?飲み物も。
コーヒーとか紅茶とか選べて。あ、紅茶だ!紅茶はどこで売ってるの?」
「王都で売っていますよ?しかし、そうですね。
姉さんの作ってくれた甘味でしたら、外で金を出してもいいですね。」
「でしょ?アイスもさ、いろんな味でだすの。フルーツを混ぜるのね。
木苺とか、あまり水っぽくないもの。」
「その話!うちの妹にしてもいいですか?」
「?いいよー。女の子は甘いもの好きだからね。なに、お店するの?」
「次の雨の日に結婚します。相手は最近まで館で厨房を担当していました。
店を出す為に今はやめて、準備はしていますが、今食堂をやっても
はじめは客は来るでしょうが、なにか新しいものがないとやっていけません。
味はいいですが、みな、似たり寄ったりです。すでになじみの店がある。
新参の店はなかなか続かないのです。しかし、甘味だけを専門に出すなんて!」
「ドーガー、それはお前が行きたいだけだろう?」
「そ、それもありますが!」
「あははは、良いんじゃない?でも、きっと同じような店はすぐにできるよ?
食堂より単価が安いから大変だよ?何かに特化できればいいね。
プリンがおいしいとか、タルトがおいしいとか、飲み物が選べるとかね。」
「では、妹に話をしても?」
「もちろんいいよ?わたしがどうのいうことじゃない。
クッキーもフルーツタルトも教えてあげればいい。
ただし、わたしに直接聞きたいとか、教えてほしいとかはダメだ。
食べ物関連に隠匿を掛けるのもダメ。もちろん、自分が考えたものならいいよ?
それを守ってくれればいいよ。あのフルーツタルトは見た目もよかった。売れるよ?」
「はい!」
「セサミン、いいよね?」
「はい、かまいません。プリンにクッキー、タルトですか?それにこの芋。
売れそうですね。
ドーガー、これらのことにうつつをぬかすなよ?」
「はい!もちろん!」
「ドーガーは昆布も押さえないとね。」
「そうです!そちらの方が優先です!」
「コットワッツの産業がまた増える。そうだ、姉さん?先ほどの話というのは?」
「そうだ、その話だ!産業だよ!産業!!ここでする話じゃないな。
 セサミンはコットワッツでとれる鉱物、一式呼び寄せておいて。
いい石から悪い石まで少しずつ。」
「?はい、わかりました。」

遠くで蹄の音がするとマティスが言う。
師匠かな?
ほかにも人がいるというので、慌ててマスクと面布を付ける。

「ちょっと!どうなってるんですか!!」

師匠が馬車に乗ってやってきた。
スーとホーではない。
幌もない荷車だ。荷車に2人乗っている。


「移動はできないし、仕事は押し付けられるし!
あ!館がない!なのに何ですかこのくつろぎ空間は!
それに甘い匂いもします!何ですかこれは!」

そうか、館の中に移動となると、収納しているから
生きたものは入れないんだ。
焼け落ちた張りぼての前で、ちょっとしたガーデンカフェのようになっている。

「ワイプ様、先に仕事とそのあと紹介してください。」

荷車に乗っていた男2人がそう促す。
「あ?うるさい!ああ、しかし、こちらが先ですね。わかりました。」
うわ、師匠ってば柄が悪い。

「コットワッツ領、領主セサミナ殿、これは資産院からの正式な許可書です。
王、並び王族も覆すことはできません。資産を管理しているのは資産院ですから。
ここの区画はコットワッツ領が望むまでお使いください。
区画内の森もご自由に。
なお、ここに建築物を建てるのに、資材搬入は認められません。
ここの森の木々を切るなり、王都内で調達してください。
資材が王都門を通ることはできません。
今後、コットワッツ領の逗留地はこの区画と定められました。
それ以外は認められません。
以上です。受領の署名を。」

考えたね。土地と森を使ってもいいけど、
資材はここで賄えと。だれも売ってくれないだろうな。
で、オート君にいったルグが作る鶏小屋を想像したんだろうな。
そこに今後コットワッツの領主は滞在すると。
仕方がないな、この館は鶏館と名づけよう。

「これで、よろしいか?」
「はい、確かに。こちらは控えです。石の契約なくとも
資産院ある限り守られましょう。」
「了解した。」
「はい、仕事は終わりです。あなたたち、これをダート院長に。
もう帰っていいですよ。帰りは1人で帰ります。迎えもいりません。早く戻りなさい。」
「ワイプ様!ここまで送ったら紹介してくれる約束です!」
「ああ、そうでした。赤い塊殿、申し訳ないが紹介させてください。
この2人はわたしの配下です。武の祭りに5000リングを届けに来た2人です。
コットワッツの護衛に赤い塊殿がいると聞いてどうしてもと。よろしいか?」
『かまいませんが、5000リングではないでしょう?
3857リングですよ?
 1、2枚の誤差はありえましょうか、
それでも資産院が用意したとすればいささかずさんでは?
資産院の質が落ちたといわれても仕方がないでしょうね。
ああ、失礼、そのことは済んだこと。
改めてまして、護衛を生業としております、赤い塊と呼ばれている者でございます。
こちらは夫でやはり赤い塊と呼ばれております。以後お見知りおきを。』

マティスと並んで礼を取る。
リングのことはちょっとあれだけど、一応言っておく。

 「ああ、これは筋肉の方なので数字には弱い。その差額はあとで、持ってきましょう。
 ほらもういいいだろ?帰れ!!」

そうか、資産院は筋肉と数字、両方の馬鹿とがいるんだ。
差額がもらえるなら、紅茶を買っていこう!

「ワイプ様!うるさい!
いやー、赤い塊殿、お目に書かれて光栄です。
そのご主人にもお会いできるなんて!
我々が広場を出た後に演武を披露されたとか!その方ですよね?
ぜひ見たかった!いや、最初の手合わせを見れただけでも
自慢なんですよ!そうしてこうしてご挨拶ができた!
わたし、ワイプ様配下のダナフとこっちは同じく配下のサーナルです。」
「サーナルです!わたしたちも高原の民出身です!高原の民として鼻が高いです!」

あ、地元人がいた。

『そうですか。あの時は確かに高原の民と同じような服をまとっていましたが、
我らは違うのです。しかし、あの装束は我ら一族では一般的なもの。
遠い昔に同じ民だったかもしれませんね。
そう思うと、こうしてお話しできたこと、うれしく思います。』

一応にっこりしておく。

「そうですね!きっと同じなんですよ!!」
「さ!もういいだろ!帰れ!」
「なんですか!ワイプ様!
最近ご機嫌なのは赤い塊と知り合いになれたからなんでしょ?
わたしたちもお強い方と知り合いになりたいし、その秘訣も知りたい!
できれば手合わせしたいのに!独り占めしないでください!
ん?それだけじゃないですね?さっきからのこの甘い匂い!
食道楽でコットワッツに行きたがっていたのは知ってますよ!
我々を返した後、なにか食べる気ですね!ひどい!!」
「なにをいってる!そんなんだから役職もつかないんだ!
ほら!ダート院長も待ってるだろ!帰れ!」
「!わかりましたよ。」

師匠の配下だから暗部あがりなんだろうか?
しかし、そんなに邪険にしなくても。

『甘いものが苦手でなければ、これ、お持ちください。内緒ですよ?』
出来上がったスイートポテトを2つ、布に包んで渡す。

「赤い塊殿!それはなんですか!わたしは食べてない!
こいつらにやることはない!」
「まだ、有りますから!」
「ならいいです。ほら帰れ!それは2人だけで食べろよ?
ほかの奴らに見つかっても知らんからな!」
「やった!ありがとうございます。あ、あたたかい!」
「早く帰ろう!」

あっという間に帰っていった。
「ワイプの配下なのか?」
「ええ、暗部解体後に強ければ資産院に入れると信じて鍛えて来たそうで、
数字の方は弱いです。
それでも、暗部と同じような仕事を法に違反しない程度にしていますので
必要なんですよ。
ここに来たオートはあれは数字に強いわけでも体が強いわけでもない
ダートと同類です。」
「なるほど。ほら、ルグ!ガツン言ってやれ!」
「え?そんな!」
「ん?なんですか?ルグ殿?また、手合わせですか?いいですよ?」
「いや、いいです、何でもありません!」
「そうですか?では、その甘いものをいただきながら、
館がなくなった話を聞きましょうか?」









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