いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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181:伝令

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「れーい!れーい!ご準備を!」
「れーい!れーい!ご準備を!」



誰かが、ドアを叩いてる。うるさい。そして床が冷たい?

え?

皆でお昼寝?
動けないのはなんで?マティス!腰を抱えるな!

一番近いドーガーに蹴りを入れる。

「!」
「ドーガー!誰か来てる!返事!」

「れーい!れーい!ご準備を!」

ドーガーは素早く起きると、
「承知!」
そう返事した。
それだけでいいんだ。


「みんな起きて!ドーガー起こして!!」
「セサミナ様!ルグさん!ワイプ様も!!」
「起きないの?マティス!ティス!!どうして!!」

「ドーガー!気を放つから!セサミンだけ守って!」
「はい!」
ドーガーが、セサミンを抱えて後ろに後退。

『起きろ!!』


言霊と、Gを目の前にしたときの殺気を放つ。


ルグがセサミンを抱えているドーガーを視線の先でとらえると、彼らの前で前竪の構えを取る。
問題だったのはマティスと師匠だ。
わたしを後ろにかばうと、わたしの周りに気をめぐらす。
師匠が競技場でルグとドーガーを守ったものと同じ。
そのまま、前にでて師匠と組み合う。お互いが殺気の相手だと思ったのだろうか?
一打ち後、また後退した。

「はぁぁぁー」
わたしのため息でみな我に返る。

「ああ、愛しい人、大丈夫か?いま、いま、おぞましい殺気を感じたんだ!
大丈夫か?何ともない?」

マティスがわたしの体をさすりながら泣きそうに言う。
おぞましいってあんさん。

「皆無事ですね?はー、驚きました。ほら、まだ鳥肌が立ってます。」
「セサミナ様!震えているじゃないですか!ドーガーも!何があった!!」
「だ、大丈夫です。セサミナ様?強く抱えすぎましたか?どこか痛いところは?」
「ああ、大丈夫だ。皆も無事?ああ、恐ろしい。」

えー、なんか納得いかない。

「なんなんだ?ショートコントか何かか?
みんなお酒飲んで、寝ちゃったのたぶん。で、あれなに?ドーガー?」
「ああ、そうです。伝令が来ました。謁見の時間です。
次に呼びに来るまでに準備しないと。」
「え?そんな頃合いなのか?酒を飲んだところまでは覚えている、そこから?」
「そうなの!で、伝令?が呼びに来てドアを叩くからその音で目が覚めたの。
近くのドーガーに蹴り入れたらドーガーだけ起きてくれたのよ!
マティスも起きないんだもの。
それで、殺気を放ったの。そのおぞましい殺気はわたしの殺気!!」
「あれは、モウ殿?あなた、どんな世界に生きてきたんですか!
ええ、ここではないとは薄々感じていますよ、しかしそんなことはいい。
あんな気を放たないと生きていけない世界なんて!」
師匠が絶句している。
マティスは泣いてるよ。
「ああ、愛しい人、あの歌よりもひどいのだな。ああ、よかった、ここに来てくれて。
大丈夫だ、大丈夫だから。」
みなも涙ぐんでる。

「そのはなしは今はいい。ほら、セサミン、準備しないと。”きれいに”はしたから。
服だけ着替えて!ルグたちもいくんでしょ?赤い塊は?」
「皆です。会合に出るものすべてです。」
「会合も出ていいの?」
「後ろに控えているだけですが、全員ですね。」
「師匠は?」
「わたしもですね。各院の院長と副院長がでます。面倒なんですよねー。」
「ふーん、会合前にいつも?」
「そうです。」
「なら、そこで、なんか、石の力使ってるね。会合に反対しないように。
セサミン?あんたあんまり会合に出てないでしょう?」
「!そうです。前回の振舞いを見てからは出ていません。
決定事項は早馬で来ますし。その反論も文章で送っています。
なので、何も決まらない。今回は資産譲渡と変動のことがあるので仕方がなくです。」
「モウ殿!それはわたしにもですか?
そんなことはない!力を使われて気付かないなんて!!」
「師匠!だから2回に分けてる。よくある話だ。」
「そんな・・・」
「それと、ドーガー?あんたまた欲望に生きたね?」
「!!」
「どういうことだ?」
ルグが気を膨らます。ちょっとルグは短気だね。
『ルーグ!』
「は!」
「ドーガー?いったんさい。」
「・・あのだいこんおろし?あれをいれておいしくなるのなら、澄まし汁を入れたら
さらにおいしくなるかと思って移動させました。」
「はー、それで効果が薄まったんだね。ま、結果はよかった。
あの状態で一人だとどうしようもなかったものね。ありがとう。」
「!いえ、勝手をしました。申し訳ありません。」
「いや、まさか、あんなことになるなんて。一斉に飲むのはダメだったね。
いつもみたいに師匠に先に呑んでもらえばようかった。」
「ははは、それはかまわないですけど。
あれはうまいとかの次元じゃないですね。」
「んー、やっぱり量も関係してるかな?それは後で検証だ 。
もう、マティス!大丈夫だから。あんな殺気、故郷ならみな持ってる感情だから。」
「そんな!」
マティスが背中から離れない。

セサミンは顔色が悪い。
そりゃそうだ。謁見、会合とでればどうなるか分かったものではない。

「セサミン?大丈夫だよ?おまじない、教えてあげる。」

『ちちんぷいぷい、痛いの痛いの飛んでいけ!』

すっと、空気がきれいになった気がした。
うむ、使えますな。

「ちちんぷい?」
「そう、ちちんぷいぷい!なんかまずいっておもえばそう唱えなさい。
ここ一番のおまじない。」


「れーい!れーい!出迎えでございますー!」
「あ、わたしはいったん院に戻ります。あ、これは取り壊し許可書です。」
「ありがとうございます。あとで、お風呂入りに来てくださいね。」
「わかりました。」

師匠は素早く移動。
わたしたちも準備万端、ではないので、
もの陰に隠れて、大丈夫だからとマティスにキスだけしておいた。
うちの嫁はほんとにこまった奴だ。











またしても彼女が怖いことを言う。
しかし、妖精の唾液はそれこそ、唾棄すべきものだが、
彼女のものなら、それだけで素晴らしいものでは?

これが全否定というものか?

結局4番目に挑むことになったが、
彼女が赤根を削っていく。
その赤い汁を酒の入ったコップに少しずつ垂らす。
ドーガーがいらぬことをしているな。
まずはこれで試せばいいのに。

呑込んだ瞬間に、体の力が抜ける。
目の前の彼女が崩れるのをどうにか受け止めてそのまま
意識が遠くなっていった。


おぞましい!
その言葉しか言いようがない。ここまでの恨みと殺気を受けたことはない。
引き裂かんとするような強い力。それでいて冷酷。

彼女だけは守らなくては。
気をまとわせ、後ろに下げる。正面から違う殺気が襲ってくる。
貴様か!!

「はぁぁぁー」

彼女だ。
殺気が無くなっている。

「ああ、愛しい人、大丈夫か?いま、いま、おぞましい殺気を感じたんだ!
大丈夫か?何ともない?」


彼女が放った殺気だという。
さすがのワイプも驚いていた。よっぽどでないとあそこまで恨みを抱けない。
故郷のものは皆持っている感情。どれだけ殺伐とした世界なんだ。
そんな一面もあったなんて。みなも涙ぐんでいる。ワイプもだ。
彼女を守らなくては。

皆をまもるまじないを彼女が教えている。
彼女を守るのは?私だ。
なのに出かける前にすべてを守る口づけを彼女がくれた。




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