いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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123:資産院のワイプ

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もう月が沈んだという。
さっき寝たばかりな気がするが、目覚めはすっきりしている。
体がここにあってきたんだろう。
今日から合わさり月まで、8時間ごとに月が昇り、沈む。

「合わさりの月の日には北の国に入ってるんでしょ?
ラーゼム草原から北の国までどれくらい?」
「1日だな。」
「んー、じゃ、ラーゼムには何日いられるの?」
「1日?」
「んー、ラーゼムは牛乳とメーウーの毛とブラシの材料と
チーズ各種仕入れたいから、1日で大丈夫かな?」
「そうか、そうだな。できるだけ進んで、疲れたら、食料がなくなったら休もうか?
 月明かりもあるし、この辺は盗賊も野獣も少ない。」
「ん、そうしよう。じゃ、ご飯炊いておにぎりも作っておくね。」
「そうだな、ちょっと手軽な料理も作っておこう。」
「唐揚げつくって!鶏肉っぽいのあったでしょ?油と!」

作りながら疑問に思ったことを聞いた。
「あの資産院のひと、最初は気付かなかったの?」
「ああ、顔をみて似てるとはおもったが、まさかとおもった。」
「だいぶ雰囲気が違ってたんだね。」
「・・・・髪がえらく後退していた。」
「あー、、、いくつなの?」
「私より5つ上だったと思う。」
「あー、、、いろいろ苦労したんじゃないかな?」
「そうなんだろう。」

ちょっとしんみりした。

「けどさ、騎士団時代の人にしてみれば、マティスはそのままかもしれないね?
どう?そのころと自分は変わっている?」
「どうだろうか?背格好は変わらないが、筋肉はついたか、顔は変わらないが、
ますます父上に似てきたとセサミナはいったがな。年齢を重ねたということだろう。
気を付けないといけないな。だが、そのころは領主の息子とという括りだ。
砂漠の民になっているとはだれも思うまい。」
「そうだね。逆に砂漠の民になってるマティスに気付くということは、
そうなってる事情も知ってるということかな。その、3番目の兄さんの一族は
まだこだわってるのかな?しつこくない?」
「わからないな。そもそもセサミナに言われるまで気付かなかったからな。」
「ははは、そうだね。ま、どーとでもなるでしょ。」



半分になって、ようやく外に出る。
「まずは王都との分かれ道まで進もう。
そこで森が終わっている。何もないところを進むんだ。
景色に飽きたら飛んでもいいしな。」
「そうか、そうしよう。街道沿いでは食材はなさそうだしね。」

一応お昼ご飯と晩御飯は背負子に詰めて進む。
手ぶらだと、昨日みたいに誰かに見られていたらまずいからだ。
もちろん浮かせてるので重くはない。


大きな木、大きな草、大きな虫!
虫よけを焚きながら進む。
途中、食べられそうな植物もなく、
へたに歌を歌うとまずくなりそうなので、九九の復唱をしながら進んだ。
マティスは完全に覚えていて、逆にわたしが間違えてしまった。
6×7=42と6×8=48を昔からよく間違えるのだ。

「きー!!間違えた!悔しい!」
「ははは、自慢じゃないが、私は記憶力はいいほうなんだ。」
「そうだね、よくものを知ってるしね。いやさ、言いわけじゃないけど、こういう計算をさ、
自動でできるような機械があるのね。あ、仕組みはわかんないよ。3+3=って
ボタンを押すと6って数字が出るような機械。それを使ってたから暗算は苦手というか、遅い。
わたし全然数字に強くないんだ。そろばんも足し算しかできなかったしね。それも1から10まで。」
「お前の話に出てくる機械だな。そろばんとは?」
「こうー、木に球がくっついていて、上下にして数字が分かるみたいな?
ここにもあるんじゃないのかな?名前はそろばんではないと思うけど。
そこら辺の木の枝と、木の実で作って見せるよ」

そんな話をしながら、サクサク進んでいく。
街道の分かれ道に出た。東に進めば王都で、西に行くと草原。
王都行きのほうが整備されている。
西の方は森を抜けるのだろう、向こうに明るい光が見える。
とりあえず、ここで休憩。トイレを交代で済ませ、
また良さげな倒木にすわり、今日はおにぎりと卵焼きと唐揚げでお昼ご飯。

「これはうまいな。揚げたてはもちろんだが、冷めてもおいしいな。
そのまま収納すればいいのにと思ったが、このおにぎりに合う。」
「うん、こういうのは冷めたほうがおいしいの。でもさ、ビールには揚げたてだね。
あつあつと、きんきんに冷えたビール。どう?」
「それだ!!」
あははは、定番の組み合わせはやはり最強なのだ。

休憩しながら、そろばんを作ってみる。加工はお願いできるから簡単だ。
「ほら、こんなの、見たことない?」
「んー、ないな。見ていたら覚えているが、私が算術の授業をさぼっていたので見てないかもしれない。」
「あー、あるかも。こうね、1,2、3で、ないから上の5を下ろして2を戻すみたいな。」
「ほー、面白いな。」
「これで、掛け算も割り算もできるらしい。わたしはこの足し算しかできない。
しかも1から10を足して55にするのでいっぱい。」
「1から10?」
「そう、1から順番に足していくと55になるの。やってみ?」
マティスが苦戦苦闘している。
そもそも滑りが悪いし、不格好だし、手が大きいから、なかなか55にならない。
もう、55にしますゲームになっている。
「なった!できた!・・・!馬車だ。」
立ち上がったマティスが遠くを見ている。
馬車?曲がりくねってるから見えない。
と思っているうちに最初に見た馬車以上の速さで近づいてきた。
マティスが背にかばう。

(ワイプだ)
(え?戻ってきたの?なんで?)
(ばれたとは思わない、資産院が私を探す理由もない)


「どうどう、えらいぞ、よくやった。あとで、たっぷりの水をやるからな。」
馬2頭をねぎらいながら降りてきた。
「いやー、間に合った、間に合った!
分かれ道で追いつけるとはわたしも運がいい。」

(追いつける?)
(ティス!ティス!今はティスだよ?怯えて!)

「あ、あの、昨日のかたですよね?あの、なにか?」
「あ、よかった、覚えていてくれてたんですね。
わたし、自己紹介してませんでしたね。
王都、資産院のワイプと言います。
わたしはなかなか興味のないことは覚えられないので、
あなたがたもそうだったらどうしようかと。」

(うわ、自分でゆっちゃってるよ、この人)

「いえ、食事を持ってないとおっしゃていたので
覚えていますし、昨日のことですし。」
「そう、それですよ!昨日のパン!中の卵!卵ですよね?肉?もうまかった!
すぐに食べてしまったので、中身がうまいということしかわからない!
仕方がなく、今度は甘いパンを食べました。これがまた!
気づいたらなくなっていました。
最後にガム。甘いがすっきりした味でした。それでも噛んでいけば味はなくなる。
泣く泣く、口から出し、一緒にもらった紙に包もうとしたら、雑貨屋サバスとありました。
なるほど、ここで買えるのだなと。まずは安心して仕事に向かったのです。
ちょっと馬を飛ばしてね。領主館での仕事を今までになく最速ですませました。
そこで、今回こちらに来た、まぁ、本来の用事済まそうと場所をきいたのです。
しってますか?はんばあぐ。それを食べに来たんですよ!
そしたら、領主殿がそれはもう店を閉めたと。王都で店を出すそうだとね。
がっかりしました。わたしが来た意味がない。それでも、王都に戻れば食べれるのだから良しとして、
雑貨屋サバスのことを聞ききました。なんでも最初はそこではんばあぐを出していたとか。
領主殿もそこで買った、ん?名前はわすれましたが愛用しているといってましたよ。
あの店はいいですね。
飴も数種類あり、ガムもあの味以外も置いてありましたよ。
買えるだけ買いました。ほんとは全部買い占めたかたんですが。
ほかのお客さんもいたので
遠慮しましたよ。ああ、大人なのでね。それで、あの固いパン!
名を覚えていなかったんですが、
そこの主人に説明すると、あれはうまいなとわかったくれたんですよ!
そこから、飲み物は何が合うかなどに話が広がり意気投合したんですが、
どこにも売ってないというんです。
自分ももらったものだった、と。なんてことだ!!
それで、あのパンに挟んだ食べ物のことも聞いたんです。
そんなのは知らないというではないですか!
世界が終わったようでした。
そうしましたら、その主人、サバス殿というのですが、
俺の飴を気に入ったんなら悪人じゃないんだろう、
だから教えてやると。
そのパンをくれた人がそれを作った人で、そのパンにはさんだものもつくたんだろう、とね。
わたしはなるほどと思いました。その考えは思いつかなかった。
涙を流して感謝しましたよ。
そしていまから馬を飛ばせば追いつくとおもい、礼を言って出ると
彼から伝言が、えーと、できるだけ短い言葉にしてもらったんですが、ああ、
”ガム成功雑貨順調”だったかな?
それで、昨日のパンとパンのお菓子わけてもらえますか?」

「長い!!」
「あははははは!!!」

あー、おかしい、そうか、ガムが成功して雑貨も順調なんだ、よかった。
愛用しているというのは耳かきかな?


「モウ!笑うな!」
「だって、ティス!あのザバスさんと意気投合して長話をするぐらいなんだよ?
よっぽど気に入ってくれたんだよ。で、悪い人ではないんでしょ?」
「そうなんだが。ワイプ、様?あれは日持ちもしませんので、あれが最後だったんです。」

ワイプさんが崩れるように地面に横たわった。
え?ショックで?
馬が驚いてか嘶いた。

「おい!!おい!!しかたないな。」

マティスが抱きかかえ、倒木にもたれ掛けさせる。
馬たちはわたしが慰めにいった。

「大丈夫、大丈夫。ちょと疲れたみたいだね、あんたたちのご主人は?
え?違うの?ああ!そうだよね、水も出さずに倒れるなってことだよね!
あははは!手厳しいね!
えーっと、桶はあるの?あ、ここね。水、入れるよ?味のこのみある?
冷たいのとか?山の湧き水系とか海洋深層水とか?ああ、冷たい湧き水系?
なかなかの通だね!じゃ、これね。どう?」

砂漠石から水を出した。
馬二頭は我先に飲んでいる。
気に入ったようで、もう一杯ずつ出しておいた。

「ティスどう?」
「空腹で倒れただけだ。さんどいっちがないのは本当だからな。
わるいが、おにぎりはまだあるな?唐揚げと卵焼きと、だしてやってくれ。」
「ははは、ああ、冷たいタオルはまずいか、布に水含ませたのがいいかな。
これ、充ててあげて。
おにぎりと卵焼きと唐揚げ。これ、まずくない?」
「このまま放って置くほうがまずい。」
「そうだね。じゃ、これね。飲み物は水でいい?一応おいしいけど、ぬるい水。
お馬さんたちより待遇悪いけど。」
「かまわんさ。
ワイプ様、ワイプ様、とりあえずこれを飲んでください。
それで、昨日のは有りませんが、こちらをお食べください。」
「・・・みず、あ、おいしい。・・・・」

そこからは早食い選手権だった。
最初に出した分はあっという間になくなり両脇に2人が待機して
水を出し、おにぎり、唐揚げ、卵焼き、
わんこそばのように補充していった。ストックがなくなるまで。

「ああ、おいしかった。マティス君、ありがとう生き返ったよ。」

マティスがわたしを抱えて飛びずさり、
気を全開にした。





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